昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


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10. 労  働

(1) 昭和43年度の雇用,労働市場,賃金

昭和43年度には,生産のひきつづく増勢のなかで,製造業の常用雇用が前年度を上まわる伸びを見せ,求人の増加,求職の減少から労働力需給はいちだんとひつ迫の度合をつよめた。また,企業収益の好調や春季賃上げの高額化もあつて賃金は大幅な上昇を示した。

(一) 労働力人口,就業者の動向

昭和30年代の終りに年180万人以上の増加をみせていた生産年齢人口は,40年代に入るとしだいに増勢が鈍り,43年度の増加数は前年度の増加を下まわる118万人であつた。労働力人口の増加数は,生産年齢人口の増勢鈍化にもかかわらず40年代に入つて年間90万人台を維持してきたが,43年度には年間71万人に落ちた。農林業就業者は前年度を若干上まわる減少をみせたものの,非農林業就業者の増加数は111万人と42年度の125万人を下まわつた。とくに非農林業雇用者の増加は84万人(増加率2.8%)と,41年度の103万人(3.6%),42年度の88万人(3.0%)を下まわり,その伸びはここ10年間でもつとも小さいものであつた。

このなかで,製造業雇用の増加は26万人(増加率2.4%)と42年度の59万人(5.8%)を下まわつたものの,41年度にくらべれば大きかつた。

(二) 製造業常用雇用の増勢つづく

毎月勤労統計による製造業常用雇用(規模30人以上)の伸び率は,42年の2.1%につづき43年は2.8%(42年度2.5%,43年度2.8%)と40年代に入つてもつとも高い伸びを示した。その伸び率は岩戸景気における雇用の増加率(34年11.1%,35年15.9%,36年12.4%)にくらべればはるかに小さいものではあつたが,設備投資の増加や耐久消費財の生産好調を反映して,輸送機械の8.2%,電機の7.3%をはじめとして,金属機械関連産業の大部分が4~5%の高い伸びを示した。一方,軽工業の雇用の伸びはおおむね小幅にとどまり,また規模別にみると小規模事業所の入職超過は小幅であつた。なお常用雇用の伸び率は製造業のほか,建設業でも11.0%と前年を上まわつて高かつたが,その他の産業では前年の伸びを下まつた。

第10-1表 主要労働関係指標の推移

第10-2表 労働力人口の増加

なお,43年の製造業労働時間は,総実労働時間が前年比0,5%の減少,所定外労働時間は横ばいであつた(43年度ではそれぞれ1.2%減,1.7%減)。所定外労働時間を規模別にみると,大規模事業所では前年なみの高水準を維持したのに対し,小規模事業所では減少した。また所定内労働時間はいずれの規模でも減少の度合いを強めた( 第10-3図 )。

(三) 高水準の求人と労働需給のひつ迫

43年3月学卒者に対する求人は中学卒で前年比13.3%増,高校卒で42.7%増と大幅に増加した。一方,求職は中学卒で前年比10.9%減とひきつづいて減少となり,高校卒もこれまでの増加傾向から減少過程に入り,1.8%減となつたため,求人倍率は中学卒,高校卒とも4.4倍とこれまでの最高を記録した。44年3月卒については3月末現在で求人倍率は中学卒4.9倍,高校卒5.7倍とさらに高まつている。

第10-3図 製造業,規模別月間労働時間の推移

また,学卒以外の一般労働需給についてみると,求人は41年度28.1%増,42年度23.9%増と大幅に増加したあと43年度にも5.6%の増加をみた。これに対して求職は減少をつづけ,43年度には4.0%の減少となつた。このため,求人倍率は,43年度を通じて高水準に推移し,44年1~3月期において1.21倍と求人超過の基調がつづいている。

年齢別には若年齢層の求人倍率は 第10-4表 にみるように年々高まつており,最近は中高年齢層についても求人超過になつている。しかし50歳以上の高年齢者については求人倍率は依然として低い。それにしても最近企業が若年齢層の不足から求人の対象を中高年齢層にまで拡大し,あるいは転換していることが読みとれる。

第10-4表 求人倍率の推移

なお不足労働力の水準については,職業安定業務統計による月間有効求人数(学卒を除く)はフローとしての不足労働力を示す指標とみられるが,43年には月平均125万人で前年の116万人を上まわつており,またストックとしての不足労働力としては労働省の技能労働力需給状況調査による技能労働者の不足が43年6月1日現在で184万人と前年の157万人を上まわつている。

こうした労働需給のひつ迫を反映して,労働力調査による失業率は43年度は1.1%と前年度より0.1ポイント低下,また失業保険受給率も2.5%と前年度を0.2ポイント下まわつた。

(四) 賃金の大幅な上昇

43年度の賃金は,労働市場のひつ迫,企業収益の好調,春季賃上げの高額化などを背景として,いちだんと増勢を強めた。

第10-5表 技能労働者の不足状況

毎月勤労統計による全産業現金給総額の43年の上昇率は14.2%(実質8.5%)で,前年の12.1%を上まわり,28年の15.3%につぐ大幅なものであつた。また定期給与も12.9%増と前年を上回る大幅な上昇を示した。(年度では現金給与総額が13.8%,定期給与が12.8%でほぼ28年度なみの上昇率であつた。)

賃金の動向を4半期別にみると, 第10-6図 のように上昇率は42年から43年にかけてしだいに強まり,現金給与総額で15%,定期給与では13%をこえたが,44年に入つてやや鈍化している。過去の景気局面と比較してみると,岩戸景気においても現金給与総額で14%,定期給与で13%に達する賃金上昇がみられたが,引締め後半年以内に増勢が鈍化したのに対して,今回は引締め1年後もなお増勢がつづいた。

43年3月学卒者に対する初任給は,労働力需給のひつ迫を反映して中学卒男子で前年比15.0%増,高校卒男子で15.8%増といずれも前年の上昇率(ともに10.0%)を大きく上回つた。

第10-6図 賃金上昇の推移

また,春季賃上げ状況をみると,43年には春季賃金交渉への参加人員が702万人(春季共闘582万人)に増大し,主要企業の賃上げ額は5,213円,賃上率は13.5%,中小企業では4,272円,14.6%と大幅であつた。主要企業の賃上げ額は,36年の2,000円台,39年の3,000円台が42年には4,000円台,43年には5,000円台(44年には6,000円台)と大幅になつてきており,43年の賃上率は岩戸景気の36年の13.8%につぐ高い伸び率であり,また中小企業の賃上率も37年以来最高の伸びであた。

ところで最近の賃金上昇の内容をみると,現金給与総額の上昇は,定期給与と特別給与の両者とも大きくなつている。定期給与はさらに所定内給与(基準内賃金)と所定外給与(超過勤務給)に分けられるが,最近の賃金上昇はこの三つの部分がいずれも大きく伸びたことによつてもたらされた(本報告 第29表 )。もつとも43年については,残業が頭うちになつたため,超過勤務給の上昇率は41,42年にくらべるとやや鈍つている。賃金上昇に対するそれぞれの寄与率を推計すると,大規模事業所では43年の賃金上昇の半分強が所定内給与,3分の1が特別給与の上昇によつてもたらされ,中小規模事業所では3分の2が所定内給与,4分の1が特別給与の上昇によるものであつた( 第10-7図 ),また最近の特徴としては,所定外給与の上昇のうち,残業時間の増加による分は少なくなり,所定内給与の上昇が所定外給与にはねかえる部分が大きくなつてきたこと,特別給与の上昇による分が大きくなつてきたことがあげられる。特別給与についてみると,43年の上昇率は全産業で18.1%,製造業では23.2%(夏季20.7%,年末24.5%)という大きなものであつた。特別給与の増加が企業収益の動向と高い相関関係にあることは 第10-8図 および本報告第31図にみられるとおりである。息の長い経済の拡大と企業の増収増益の連続が43年のボーナス支給をこれまで以上に大きなものとした背景には,労働力需給のひつ迫や春季賃上げの高額化などから所定内給与の上昇が前述のようにしだいに顕著になつてきて,超過勤務給や特別給与,さらには退職金などへのその影響を考慮して企業が賃金をボーナスの面で積極的に支給するという行動をとつていることも考えられる。

第10-7図 給与項目別 賃金上昇寄与率(推計)

第10-8図 企業収益とボーナス

なお,本報告第1部にのべてあるように,30年代後半には,賃金上昇率がいちじるしく大きかつたのは中小企業や若年齢層であつたが,40年代に入ると賃金上昇は労働者の各層に及び,大企業でも若年労働者や中途採用者,さらには中高年齢層や職員層の賃金上昇率が大きくなつて,各層の賃金上昇率がそろう傾向が出てきて規模別賃金格差の縮小傾向には停滞がみられたが,43年以降,労働力不足の進行と企業収益の好調などから中小企業の賃金が伸びてきたため再び縮小の動きをみせている(本報告 137図参照 )。

また業種別に賃金上昇率をみると,42年には賃金水準の高い業種で賃金上昇率が大きいという傾向がみられたのに対して,43年には賃金水準の低い業種で賃金上昇率が大きいという傾向にかわつている( 第10-9図 )。

(五) 労働生産性のいちじるしい上昇

製造業の労働生産性は42年の16.5%の上昇につづき,43年には14.3%上昇した。とくに機械工業では旺盛な民間設備投資と乗用車,家庭用電気機器を中心とした耐久消費財の活発な内外需要を反映して前年比20.2%の大幅上昇となつた。部門別には一般機械27.9%,電気機械26.9%,輸送機械(鉄鋼車輌,船舶を除く)12.9%,精密機械10.7%といずれも前年水準を大きく上まわつた。42年から43年にかけては,これらの労働集約的な業種で景気調整下にもかかわらず労働投入量の拡大をともなう労働生産性の顕著な上昇がみられた。しかし鉄鋼業(10.9%)や繊維工業(7.7%)では労働生産性の上昇は小さかつた( 第10-10表 )。

第10-9図 製造業業種別賃金上昇率(現金給与総額)

第10-10表 労働生産性の推移

(2) 最近の就業構造変化の特徴

就業構造基本調査によると昭和43年の有業人口は4,900万人に達し,15歳以上人口の64%を占めている。このうち雇用者は3,053万人,自営業主は1,000万人,家族従業者848万人である。経済成長にともなつて雇用労働者がふえ,業主や家族従業者が農林業を中心にして減つていく過程は就業構造の近代化,高度化の過程とみられるが,最近の就業構造には,三次産業での雇用者の増加や非農林業の業主,家族従業者を中心とした零細部門就業者の増加といつた注目に値する変化がみられる。以下,就業構造基本調査の結果を中心としてこうした最近の変化の待徴を述べ,生産性が低いとみられる零細分野で就業者がふえてきた要因について若干の分析を試みた。

(一) 一次産業就業者の減少

昭和43年の農林業部門の有業者数は1,027万人で有業人口の21%にあたる。10年前の34年には1,487万人でその割合は36%であつた。漁業・水産養殖業を含めた一人産業部門の有業者の割合は31年の42%からしだいに低下して37年には30%,43年には22%になつている。これに対して二次,三次部門の就業者は30年代を通じてしだいにその比重を高め,43年には二次部門が34%,三次部門が44%に達している。非一次部門の就業者の増大が雇用労働者の増加によるところが大きかつたことはいうまでもない。この10年間の就業構造の変化は,部門別の有業者の比重とその順位の変化に端的に示されている。

(図表)

(二) 製造業就業者の比重低下

二次産業部門の就業者が全体として比重を高めるなかで,この部門の中心となる製造業の就業者の比重は30年代後半から横ばいないし低下気味に推移している。製造業部門の有業者数は34年806万人,37年1,028万人,40年1,123万人,43年1,261万人とふえてきているが,非農林業有業者中に占めるその割合は37年33.7%,40年33.4%,43年32.5%となつており,二次産業のなかの建設業や三次産業の卸小売業,サービス業の有業者の比重が期を追つて高まつているのにくらべると相対的に比重が低下していることは否めない。37年から43年にかけての非農林業の有業者増加に対する寄与率でみると28%と7大産業中もつとも大きいものの,有業者の伸び率は他産業にくらべると小さかつた( 第10-11表 )。

30年代以降の製造業有業者の増加を4期にわけて,就業形態別,規模別にみたのが 第10-12表 である。この表からは34年から27年にかけて3割をこえる大幅な伸びをみせた雇用者の増加率がその後かなり鈍り,40~43年には37~40年を上まわつたものの伸び率は小幅であつたこと,30年代の後半から業主や家族従業者の伸び率が大きくなつてきたこと,製造業の有業者増加に対して雇用者の寄与する割合がしだいに小さくなつて40~43年には3分の2に落ちていることが読みとれる。

(三) 三次産業就業者の増大

30年代以降着実にその比重を高めているのが三次産業の就業者である。とくに卸小売業とサービス業部門の成長が大きく,43年には非農林業有業者のちようど4割をこの2部門で占めている。この部門は業主や家族従業者も多いが,雇用者だけをとつても非農林有業者の26%と,製造業雇用者の28%に匹敵する比重を持つに至つている。なお金融保険不動産業も比重は小さいものの大きく伸びてきている。分類に難点はあるが,三次部門を生産に関連するサービス,消費に関連するサービス,社会的サービスの三部門に分け有業者の増加率と三次産業内部での比重の変化をみると 第10-13表 のようになつており,最近は消費関連サービスでの伸びが目立つている点が注目される。

第10-11表 非農林業有業者の増加

第10-12表 就業形態,規模別有業者の増加

第10-13表 部門別三次産業有業者の増加

(四) 零細部門就業者の増加

就業構造変化にみられる最近のもう一つの特徴は,非農林業の業主,家族従業者を中心に,零細部門の就業がふえていることである。業主,家族従業者の伸び率がもつとも大きいのは製造業で,雇用者の伸び率を大きく上まわり,卸小売業やサービス業でも40年代に入つてその伸びが高まつている。37年から43年にかけて製造業の業主は53%,同じく家族従業者は44%,卸小売業の家族従業者は39%,サービス業の家族従業者は43%ふえている。自営業主のふえ方は業種によつて様相が異なり,製造業では経営規模1~4人という零細業主の伸びが62%,そのうち規模1人のいわゆる1人業主(内職を含む)が84%というように零細性が強いが,卸小売業では1~4人は4%増,5~9人が47%,10人以上が39%,サービス業では1~4人27%,5~9人45%,10人以上43%というように大規模化の動きがみられる。卸小売業の1人業主は20%減少している。

第10-14表 北伊勢鋳物工業における工場数の推移

製造業の零細業主がふえていることに関連して,事業所統計調査で事業所数の増加をみると,38年から41年にかけて従業者規模1~4人の事業所数は1万5千(4.9%),5~9人は1万7千(12.5%)ふえているが, 第10-14表 は地方産業において零細化がすすんでいる一つの例である。

このような動きのなかで,雇用労働者を含めた零細部門の就業者の伸び率は30年代の後半からしだいに大きくなつてきている。非農林業有業者のうち,経営規模1~4人の業主と雇用者および家族従業者を合わせたものの増加は37年から43年にかけて26.9%であつたが,同じ期間の非農林業有業者総数の増加率も26.9%であつた。このため非農林業有業者中に占める上記の部門の比重は37年,43年とも26%と変つていない。

経済成長にともなつて就業者のうちの非農林業業主や家族従業者の割合が小さくなつていくことは本報告 第168図 にみられるとおりであるが,1950年代末ごろから1960年代にかけて1人当たり国民所得が1,000ドルの段階に入つたヨーロッパ諸国についてみると, 第10-15図 のように非農林業,家族従業者は減少ないし横ばいを示している。日本についてみると,雇用の伸びは国際的にもいちじるしいものであつた反面,非農林業の業主や家族従業者がふえてきていること,就業者1,000人当たりのその割合が156人(40年国勢調査)と国際的にみても高いことなど特異な点が目立つている。

第10-15図 ヨーロッパ各国と日本の非農林業雇用者と業主,家族従業者の動き

(五) 零細部門就業者増加の要因

自営業主がふえていることに関連して注目されるのは,業主所得の動向である。43年の年間平均業主所得は製造業業主が59.5万円,卸小売業業主が74.1万円,サービス業業主が65.2万円で,製造業雇用者の平均所得53.4万円を上回つている。 第10-16表 は男子の仕事を主とする者についての業主所得と雇用所得の格差の推移であるが,その格差は最近しだいに開いてきている。本報告 第167表 にみらかれるように,42年から43年にけて非農林業の雇用者から非農林業の業主,家族従業者への流入が大きくふえたことは,こうした動きと無関係ではあるまい。零細業主についても,その所得水準は低いものの,30年代後半以降の所得の上昇率はかなり大きくなつている( 第10-17表 )。

非農林業の零細業主(経営規模1~4人,仕事が主である者)の伸び率を地域別にみると,零細業主がふえているのは関東,近畿,東海などであるが,こうした地域は非農林業業主所得と雇用者所得(規模30人以上)との格差が大きく開いている地域である( 第10-18図 ),雇用者所得との格差が小さい九州や東北,四国,山陰などでは零細業主よりも雇用者の伸び率の方が大きい。なお,零細業主がふえている地域のうち6大都市(東京都区部,横浜市,名古屋市,京都市,大阪市,神戸市)についてみると,伸び率は余り大きくなく,零細業主がふえているのは都市周辺部であることが推定される。

第10-16表 自営業主所得の雇用者所得に対する格差

もう一つ注目されるのは,製造業を中心とした女子の業主化の動きである。前出 第10-11表 にみられるように,37年から43年にかけて製造の女子業主(内職を含む)165%増加し,非農林業有業者増加に対する寄与率も7%とかなり大きい。製造業業主のうち女子の割合は,37年の21%から40年の23%,43年の36%と高まつてきている。女子の業主の多くは仕事を従とする者であり,製造業の仕事を従とする女子業主の増加は40年から43年にかけての製造業業主増加の実に69%を占めている。女子業主の所得は仕事を従とする者については詳細なデータが得られないが仕事を主とする者についても年間平均30万円に満たず,とくに1人業主については19万円と低く,女子業主の増加は製造業の平均業主所得を低める働らきをしている(前出 第10-17表 )。

第10-17表 規模別業主所得とその上昇率

第10-18図 非農林業零細業主の増加と対雇用者所得格差

就業構造の近代化および最近の労働力不足に関連して,零細部門の雇用労働者の動向が問題になる。非農林業の業主,家族従業者がふえていることともに規模1~4人といつた零細経営部門の雇用者がふえていることは本報告 第166表 にみられるとおりである。製造業雇用者についてみると前出 第10-12表 のように40年から43年にかけて1~4人規模雇用者の増加は45%と大きい。5~29人規模の増加も9%と500人以上規模の伸び率と同じである。有業者増加に対する30人未満の雇用者の寄与の割合は5分の1をこえる。消費需要の増大と業主所得の上昇は,雇用者から非農林業業主への労働力の流入を促すとともに,零細部門での雇用者の増加をも促したとみられる。前出 第10-12表 では製造業大規模部門での雇用の増加率が鈍つてきたことともに30~99人といつた零細層よりやや上の部門での雇用増加率がもつとも低くなつていることが注目されよう。規模5~29人,30~99人といつた小規模経営での労働力不足がいちじるしく大きいことは,前出 第10-5表 にみられるとおりであるが,それは新規学卒者の採用難と賃金の上昇に,こうした零細部門への労働力の流出がくわわつて,雇用が伸びなやんでいるためと思われる。零細部門雇用者の増加の背景には小規模経営の階層分化があるとみられるが,中小企業金融公庫の調査でみると製造業では従業員100人未満のところで規模縮小する企業の割合がふえている( 第10-7図 )。

また最近の雇用者の年齢構成をみると,中高年齢層の比重がしだいに高まつてきているが,とくに大企業の中高年齢労働者の動向は零細部門就業者の増加の一つの要因とみられる。 第10-20表 にみられるように,大企業部門の雇用者から小零細部門へ転職した者の割合は10年前とくらべてかなりふえているが,このなかには中高年齢者が多いとみられる。

零細部門就業者は,このように,消費需要の増大や労働力不足にともなつて企業が対応策の一つとして下請化の動きを強めるなかで,業主所得が上昇し雇用者所得との格差が拡大していくのに応じて雇用者のうち習熟的な技能を持ち,若干の貸金をたくわえた者が業主として独立したり,主婦の内職がふえたり,老齢者がふえるというかたちでふえてきた。零細部門就業者の増加は,30年代以降の急速な雇用の拡大と労働力不足の高まりにともなつて生じた現象であり,そのことが労働力不足をいつそう激しいものにする面ももつている。しかしそれは先進国の経験に照らしてみて,二重構造の解消過程で生じた過渡的な現象であるとみられる。

第10-19表 従業員数の変化からみた企業の階層分化

第10-20表 非農林業,業主,家族従業者,雇用者の労働力供給源


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