昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


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7. 財  政

(1) 昭和43年度の財政―弾力的運用と体質改善への第一歩

43年度財政は,景気情勢の変化に対応して弾力的に運用されるとともに,体質改善への第一歩をふみ出した。

わが国経済は,43年度中も根強い拡大をつづけ,これまでに岩戸景気を上回る長期の上昇を記録した。こうした中で43年度予算は金融引締め政策とあいまつて,景気抑制機能を重視して編成された。その結果,一般会計予算が前年度(補正後)に対して11.8%増と,最近10年間においては39年度につぐ低い伸び率におさえられるなど,財政規模の抑制がはかられるとともに,公債発行額の削減が行なわれた。また,その執行にあたっては,上期中は抑制的な態度がとられた。しかし,国際収支が43年度に入つてから急速に改善に向かつたことから,43年8月に公定歩合が1厘引下げられるなど,金融緩和措置がとられるとともに,財政面においても漸次その支出が進捗していつた。

44年度予算は,わが国経済の拡大基調が続く一方,国際経済の先行きについては,通貨問題等不安定要因をかかえていること,消費者物価が根強い上昇基調をたどつていることなどから,財政面から景気を刺激することのないよう,財政規模を適度なものにとどめることとされた。

一方,財政の資源配分機能と景気調整機能を高めるため,硬直化を打開し,体質を改善するために,43年度予算では種々の方策とともに総合予算主義がとられた。結果的には,国内産米の予想を上回る増大や,自然増収にともなう地方交付税の増額などを中心に補正予算が組まれることになつたが,総合予算主義は硬直化した制度慣行に対する真剣な考慮をうながすこととなり,44年度予算においては,生産者・消費者両米価の据置きが決められたほか,公務員定員の5%削減計画(43-45年度)の進展,補助金の整理合理化,国鉄の再建計画の推進などがはかられ,硬直化打開も徐々に進展をみせている。

以下,43年度財政の動きと44年度予算の性格についてみてみよう。

第7-1表 43年度における財政関係主要事項

(2) 43年度予算の性格―硬直化の打開と景気抑制

(一) 当初予算の特色―総合予算主義の採用

43年度の財政にはひきつづく景気の拡大の中で景気抑制的な役割が要請された。しかし,43年度予算の編成にあたつては,昨年の年次経済報告にも述べたように制度・慣行の硬直化にもとづく義務的経費の累増からその規模の抑制が困難なことが明らかとなつた。また毎年度,公務員給与と食管繰入れを中心に恒例的に行なわれてきた補正予算の慣行についても,経費間の財源配分の公平が失なわれること,また多額の自然増収が生じるような景気上昇期においてさらに歳出を増加することによつて景気を刺激することは望ましくない等の問題もあり再検討が求められた。このようなことは財政による景気調整を困難にすると同時に適正な資源配分を損うものである。

第7-2表 一般会計歳入予算の推移

このような問題を背景に編成された43年度予算はどのような特色をもつていたであろうか。まず第1は後述のように景気に対して抑制的とするため,規模の圧縮が図られたことである。第2には,補正予算の慣行を排除し,経費間のバランスをとるために,総合予算主義がとられたことである。このため従来の補正要因であつた公務員給与の改定と食管繰入れについては,前者は予備費の増額,後者は生産者米価がひきあげられる等の事情があつても補正財源を必要としないような方策により対処することとした。

第3には公債依存度が引下げられ景気に対して抑制的とされると共に,将来の国債費の増加による財政の硬直化を防いだ。第4に租税負担の調整合理化が図られ,所得税および住民税の減税をする一方で,酒税の税率調整とたばこ小売定価の改定を行なうこととし,結果的には実質減税はゼロとなつた。第5として既定経費の整理更新,国家公務員の定員の5%削減,各省庁の部局の整理統合など行・財政の効率化をすすめる方策がとられた。

(二) 歳入予算―公債依存度の低下

43年度歳入予算の特色は( 第7-2表 ),第1に財政運営の節度を示すととに長期的な財政体質の改善に資するため,公債依存度の引下げが図られたことである。すなわち公債金収入は6400億円と前年度(当初)にくらべ1,600億円圧縮されている。この結果公債依存度(当初)は41年度16.9%,42年度16.1%のあと10.9%に低下している。

第2に,租税及び印紙収入は前年度(補正後)に対し6,026億円,14.7%(42年度は5,040億円,15.2%)の増加が見込まれたが,財政の規模の抑制や公債発行額の圧縮が図られたこともあつて,一般会計歳入予算に占める租税及び印紙収入額は80.7%となり,3年ぶりに80%台を回復することとなつた。

第3に,税制改正においては( 第7-3表 )税負担の調整合理化の観点から所得や物価水準の上昇と強い累進構造から負担が累増する所得税について,課税最低限の引上げを中心に,1,050億円(初年度)の減税を行なう一方,従量課税であるため,負担が相対的に低下してきている酒税や専売納付金については,税率の調整,たばこ小売定価の改定を行なうこととした。

また,租税特別措置については輸出の振興,技術開発の促進,中小企業の構造改善等当面緊要な施策に資するためにその拡充を図る一方,価格変動準備金の積立率の引下げ等既存の措置について整理縮減を図ることとした結果,増減収差額はゼロとなつている。

以上の結果,実質減税額はゼロとなつた。これは景気情勢にも即応した税制改正であつたといえよう。

一方,財政投融資計画の原資見込みは 第7-4表 のとおりであり,全体の規模は前年度(当初)に対して3,016億円,13.0%の増加となつている。

第7-3表 43,44年度の税制改正による増減収額

第7-4表 財政投融資の原資

その特色としては第1に財政資金(産投・運用部・簡保)が2兆1,267億円と前年度に対して4,461億円,26.5%と大幅に増加していることである。とくに郵便貯金の好調から資金運用部資金の伸びが著しい。

第2に,ここ数年ウエイトを高めてきた公募債借入金等の民間資金は,5,723億円と1,355億円,19.1%の減少が見込まれていることである。とくに40年度2,270億円,41年度4,000億円,42年度5,100億円と急速に増加してきた政府保証債は,金融情勢を考慮して3,600億円と1,500億円の大幅な圧縮が図られている。

(三) 歳出予算―規模の抑制

43年度予算は前述のように景気調整の観点から規模の抑制が第一とされた。一般会計歳出予算は5兆8,185億円で前年度(補正後)比11.8%増と最近10年間では39年度の9.3%に次ぐ低い伸びに抑えられた。また,財政投融資計画は2兆6,990億円で前年度比13.0%増と,これも近年にない低い伸びとなつた。一方,地方財政計画は17.5%増と高い伸びを示している。

これらをあわせた国民所得ベースの政府の財貨サービス購入でみても,9兆5,500億円,前年度比11.7%増になるものと見込まれ,政府経済見通しによるGNP成長率12.1%を下回り,抑制的な規模であつたといえよう( 第7-5表 )。

次に主要経費別にその特徴をみよう( 第7-6表 )。

まず,景気刺激効果の大きい公共事業関係費は,立遅れのめだつている生活環境施設整備費,住宅対策費等に重点がおかれているが,全体としの規模は前年度比4.7%増にとどめられた。これは景気に対する配慮からであるが,本報告で述べられているような社会資本の立遅れに対して問題を残したといえよう。

また,硬直化打開との関連では,第1に食管会計への繰入れが2,464億円とほぼ前年度なみであり,総合予算主義の建前から年度途中における米価改定等事情の変更に対しても補正財源を必要としない方式を確立することとした。

第2に年度途中の公務員給与の改定に備え予備費を前年度の530億円から1,200億円へと大幅に増加している。

第3に,非効率な補助金等の整理合理化が行なわれ150億円の経費節減が図られた。

第7-5表 国民経済と財政規模

第7-6表 主要経費別予算の推移

第7-7表 財政投融資の使途別分類

こうした中で国債費が国債の累増から前年度の2倍近くに著増していることがめだつている。

一方,財政投融資計画の内訳をみると( 第7-7表 ),規模が抑制されている中で,住宅,生活環境整備,中小企業,輸出振興等に重点がおかれている。

(3) 43年度財政の実行―弾力的な支出状況

(一) 財政支出―上期抑制的な支出

まず,財政支出がどのように行なわれたかをみてみよう。すでに本報告第1部でみたように,一般会計では,第1四半期は暫定予算で出遅れた前年度をわずかに上回つているが第2四半期には落ちこみが目立つている。しかし,第3四半期に入ると,かなりの進捗を示すようになつている。また,公共事業関係費(一般会計公共事業関係費と道路・治水・港湾・土地各特別会計の合計額)は上期中は前年度を下まわつているが,下期にはかなり進捗している(第7-8図)。上期中政府支出が抑制的となつたのは,年度当初16日間の暫定予算(一般会計で4,391億円,年度予算額の7.5%,うち公共事業関係費は102億円,同1.0%)が組まれたこともあるが主として金融引締め政策とあいまつて,財政面から景気を刺激することのないよう慎重な態度がとられたためである。下期に入ると国際収支が黒字を続けていることから漸次支出は進捗していつた。

第7-8図 公共事業関係費支出状況(四半期別)

第7-9図 政府在庫増の推移

一方,地方財政についてみると,全体としての規模が拡大していること,地方税収入が好調であることなどから,年度当初から支出が進捗している。

このような財政支出の動きは経済に対してどのような影響を与えたであろうか。すでに本報告第1部でみたように,上期中はやや抑制的に働いたといえるが,第3四半期に入ると経常購入や固定資本形成がややふえるとともに,政府在庫が国内産米の買入れを中心に大幅にふえたため,やや拡張的に働いたといえよう。ただ43年度全体として財政の規模が低目におさえられたため,景気に対して,とくに刺激的に働いたとはいえないであろう。

このように43年度財政は,中央財政を中心に景気情勢に対応した弾力的な運用がなされてきたといえよう。しかしその中で地方財政や食管在庫などやや異なる動きがみられた。地方財政については,3,000以上の団体の集合であり,しかもその行政サービスが住民生活に密着したものであることから弾力的運用になじみにくい点もあるが,本報告第2部でのべたように,財源の年度間調整を行なうことにより,財政規模の変動を小さくし,景気に対して安定的なものにすることなど検討の余地があろう。

また,食管在庫を中心に,このところ政府財貨サービス購入にしめる政府在庫の比重が高まっている( 第7-9図 )。44年度においては,生産者米価の据置き決定,自主流通米の導入などにより政府在庫増もある程度抑制されると考えられるが,景気調整政策の及びにくい分野であるだけに,今後の経済運営にあたってはこの面をも考慮した慎重な配慮がのぞまれよう。

(二) 税収―岩戸景気以来の高い伸び

43年度の一般会計租税及び印紙収入額は,当初,前年度決算額に対して14.8%の増加が見込まれた。しかし,経済の予想を越えた拡大を反映して所得税,法人税を中心に当初見込みを大幅に上回り,実績見込額(本年5月末現在)は4兆9,239億円,20.3%の増加となり,岩戸景気時以来の高い伸びとなつている( 第7-10図 )。もつとも,補正後予算における見込み4兆9,384億円と比べると約145億円の税収不足となつている。

このように全体として税収が好調に推移したなかで,個々の税目についてみると,その伸びには差が目立つている( 第7-11図① )。所得税は源泉・申告ともに好調で当初予算における見込みを上回つた。そのうち源泉所得税は,給与,配当等の伸びを反映して補正後予算における見込みをも上回り25.5%増と岩戸景気以来の高い伸びとなつた。一方申告所得税は補正後見込みには達しなかつたものの24.0%増と前年度(25.1%増)に引きつづき高い伸びとなつた。法人税は前年度の26.8%増にはおよばなかつたものの企業収益の好調持続を反映して21.7%増となり,当初はもちろん補正後見込みをも上回つた。物品税は,3C商品を中心とした耐久消費材の売行き好調と税率調整の影響もあつて当初はもちろん補正後見込みをも上回り34.3%増と岩戸景気時をしのぐ高い伸びとなつている。

第7-10図 租税及び印紙収入の推移(対前年度増減率)

第7-11図 主要税目の収入状況

一方酒税や印紙収入の伸びは当初見込み,補正後見込みを大幅に下回つているのが目立つている。このうち酒税については,税率引上げや天候不良などの影響もあつて,ビール・清酒を中心に消費量が伸び悩んだことから当初見込み(22.2%増)を下回り12.1%増にとどまつたものである。

つぎに,地方税収入(道府県税)についてみると( 第7-11図② )43年4月~44年3月の収入済額は,前年同期比21.1%増(43年度から新設された自動車取得税を除く)と前年度(決算ベースで24.1%増)に引きつづき好調であつた。なかでも法人県民税・法人事業税・自動車税の高い伸びが目立つている。

このように好調な税収を背景として国債発行額の調整が弾力的に行なわれたことも43年度財政の一つの特色であつた。43年度の国債発行額はすでに述べたように,当初で6,400億円(額面では6,500億円)とされたが,11月になつて多額の自然増収が見込まれることになつたのを背景に,今後の財政金融政策を慎重に運営することを明らかにするため,1,000億円(額面)の減額を行なつた。また,2月の補正予算では11月の減額分を含めて合計1,623億円(手取りベース)減額することとし,結局年度間では1,780億円(手取りベース)の減額が行なわれた。

年度間を通じての発行額は収入金で4,620億円(うち市中分4,375億円)となり公債依存度は7.8%(補正後予算規模に対する割合)に低下した。なお法人税の即納率は(半年決算の大法人の場合,季節修正値, 第7-12図 )43年1月の引締め強化後まもなく,延納利子税率が2銭4厘と市中金利よりかなり高かつたにもかかわらず低下に転じ,43年度第1四半期には引締め開始直前に比べて10%ポイント程度低下した。その後,5月ごろから上昇に転じたが,秋以降企業金融が引締り気味となつたことを反映して横這いとなつている。

第7-12図 即納率の推移

(三) 財政資金対民間収支―好況下の大幅散超

43年度の財政資金対民間収支は,当初,外為では670億円の揚超と見込まれたが,一般会計と運用部の散超を中心に総収支じりは200億円の散超が見込まれた。しかし実績では租税収入は好調だつたものの,国際収支の好調を反映して外為が4,434億円の大幅散超となつたのをはじめとして,食管も米の政府買入量が当初見込み(805万トン)を大幅に上回り1,004万トンとなつたことなどから前年度にひきつづき大幅散超となつたため,総収支じりとして前年度の揚超とは様変りに3,478億円の散超となつた。

四半期別に窓口収支をみると( 第7-13表 ),4~6月には前年度のように暫定予算で支出が遅れるという特殊事情がなかつたため,一般会計が揚超減となり,総収支では1,549億円の散超増となつた。7~9月以降は国際収支の好調から外為が一貫して大幅散超をつづけた。このため7~9月には公共事業費を中心に支出が抑制的であつたにもかかわらず揚超減となり,10~12月は外為に加えて食管が米買入量の増大から大幅散超となつたため総収支で1兆1,061億円の記録的散超となった。ただ1~3月は好況を反映した税収増により前年度に比べ揚超増となつている。

第7-13表 昭和43年度の財政資金対民間収支

第7-14図 財政資金対民間収支の推移

こうした財政資金対民間収支の動きをやや長期的にみると( 第7-14図 ),30年代前半から半ばにかけては好況期には租税収入の増加による一般会計の揚超増と,国際収支の悪化による揚超増を主因に,大幅揚超になるのに対し,不況期には租税の増加率の低下,好況期に発生した剰余金の使用による一般会計の散超および国際収支の黒字を主因に散超となるというように推移してきた。ところが昭和38年度から米の政府買入価格と売渡し価格が逆ザヤとなつたこと,米の需給関係がくずれて政府在庫が増加したことなどから食管会計の散超幅はしだいに拡大してきた( 第7-15図 )。また,今回の好況期には,租税は従来のように大幅な増加となつたが国債減額が行なわれ,また国際収支は従来と異なり黒字基調をつづけた。この結果,総収支でも好況下であるにもかかわらず大幅な散超傾向をつづけている。

また,財政規模の拡大に伴い,主として租税収入や食管,地方交付税交付金の支払いを中心として財政収支尻の季節変動が大きくなり( 第7-16図 ),この金融市場への影響が日銀の市場調節を難かしくさせており,これに対する方策が必要とされている。

第7-15図 食管会計の収支(窓口収支)

第7-16図 財政資金対民間収支の季節変動

(四) 補正予算―食管赤字の増加

43年度予算においてはすでに述べたように総合予算主義を採用し,年度途中での補正をないという態度をとつてきたわけであるが,2月に入つて補正予算が組まれることになつた。これは①米買入量の予想(当初見込805万トン)をこえた大幅増加(1,004万トン)に伴う食管赤字の増加(370億円),②国民健康保険の療養費の増加に伴う助成費の増加(174億円),③国税三税の増加に伴う地方交付税交付金の増加(736億円),計1,280億円の歳出追加を内容とするものである。

一方歳入面では租税及び印紙収入2,405億円,税外収入205億円,計2,610億円の増収が見込まれたがそのうち,1,623億円を国債の減額に充て,残り987億円と既定経費の節減分293億円,計1,280億円を歳出の追加に充てるものとされ,この結果実質規模は987億円となつた。

(4) 44年度予算―体質改善の進展

44年度予算は,内外均衡を達しつつ持続的成長をはかるとともに,43年度にひきつづいて財政の体質改善をすすめること,および物価の安定,社会保障の充実,社会資本の整備等のために重点的に財源を配分しつつ国民負担の軽減をはかることなどを基本方針として編成された。以下にその具体的な内容をみてみよう。

まず第1は,財政面から景気を刺激することのないよう,財政規模が適度なものにとどめられたことである。一般会計予算規模は,6兆7,395億円で,前年度(補正後)に対しては,13.9%増にとどめられた。また財政投融資計画は3兆770億円で前年度(当初)に対して14.0%増となつた。これらはいずれも30年度以来の平均伸び率を下まわるものとなつている。一方,地方財政計画は6兆6,397億円,18.5%増と前年度につづいて高い伸びを示した。

これを経済におよぼす影響という点からみると,中央,地方を含めた政府財貨サービス購入は10兆9,500億円,前年度比12.3%の増加と予想され,34年度以来の低い伸び率となつている。とくに,景気刺激効果の大きい資本支出は,10.4%の増加にとどまつている。44年度の名目GNP成長率が14.4%と見こまれることから,財政の国民経済におよぼす影響は刺激的なものにはなつていないといえよう。

第2は公債依存度の引下げである。公債依存度の問題は,景気調整,財政体質の改善の両面から重要であるが,44年度の公債発行額は4,900億円で,43年度当初予算の6,400億円に対して1,500億円の減額となつており,公債依存度は43年度の10.9%から7.2%に低下した。今後も好況期に税の自然増収があればできるだけ公債の減額に向けることが必要であろう。

第3は,総合予算主義がひきつづき採用されるとともに歳出内容の合理化がはかられたことである。43年度は,米の買入量の予想を上回る増大を中心に補正予算を組まざるをえなくなつたが,44年度も総合予算主義を堅持し,補正要因の解消に努めることとされた。そのため,公務員給与費については,7月から5%引上げるための所要額をあらかじめ給与費に組み込み,不足する場合は予備費をもつて対処することとし,食管繰入れについては,生産者,消費者両米価をすえおくとともに,170万トンの自主流通米を認め,米の買入量を750万トンに見込んでいる。

また,417件におよぶ補助金の整理合理化,公務員の5%削減計画の進展など歳出内容の合理化がはかられるとともに,国鉄については,再建10ヵ年計画にもとづき,国鉄自身の合理化,受益者負担の拡充,財政援助の3つの柱により再建をはかつていくこととなつた。

第7-17図 所得および住民税の課税最低限の推移

第4は,所得税,住民税の減税による国民負担の軽減である。43年7月の「長期税制のあり方についての答申」にもとづき,所得税については1,503億円(初年度)と戦後最高の減税が行なわれ,課税最低限の引上げ,給与所得控除の適用範囲の拡大のほか,32年度以来はじめての本格的な税率の緩和が行なわれた。この結果,夫婦および子供3人の給与所得者の課税最低限は83万円から93万円に引上げられている。また,住民税についても,給与所得控除の引上げを中心に714億円の減税が行なわれ,課税最低限は53万円から62万円に引上げられたが,所得税のそれに比べるとかなり低い状態にある( 第7-17図 )。

第5は,財源の重点的配分である。物価安定に資するために,財政規模抑制により総需要を刺激しないようにするとともに,国鉄を除き公共料金の引上げを抑制することとし,とくに米価については,生産者・消費者米価をすえおくこととしている。また,各般の物価安定対策についても前年度にひきつづき,その拡充をはかつている。社会資本の整備については,災害復旧等を除く一般公共事業関係費が前年度比15.3%増と比較的高い伸び率となつているなど,規模の抑制に配慮するなかで,公共投資には極力考慮が払われている。とくに住宅対策には財政投融資計画とともに重点がおかれている。また社会福祉費,社会保険費を中心に,社会保障関係費が,前年度比16.1%増となつている。このほか輸出振興と経済協力の推進,総合農政の展開等にも重点的な財源配分が行なわれている。

(5) おわりに―44年度財政の課題

44年度財政の課題は,まず前年度以来進められている体質改善の一層の進展をはかることである。すでにみたように43年度においては補正予算の編成を余儀なくされ,また44年度予算の義務的経費の増加は,7,000億円近く,それだけで予算は11.8%の増加となつている。これは硬直化した制度慣行の根本的解決が容易ならざるものであることを示すものである。44年度においては,生産者米価の据置きが11年ぶりに実現するなど硬直化打開もようやく進展しはじめているが,今後も一層真剣な努力が必要である。また,社会資本の充実など,財政の果たすべき役割は今後ますます重要なものとなる。景気調整の観点から金融政策とあいまつてポリシーミックスの実効を期すると共に資源配分機能を十分に働かせるためには,支出政策においても,また租税政策においても手段の整備をはかりその活用がはかられなければならない。それと同時に財政の国民経済に占める地位の上昇にともなつて,支出面での一層の効率化と負担の公平な配分とがますます重要になつてこよう。


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