昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

6. 農林水産業

(1) 農  業

昭和43年度は日本の農業に大きな転換が訪れた年であつた。

日本経済が記録的景気上昇をつづけているなかで,農業経済は,農村市場の拡大や労働力の提供等を通じてそれなりの役割を果たしている。43年に限つてみても,そこにはいくつかの特徴がみうけられる。農業生産は,史上最高の豊作といわれた42年を上回る高い生産水準であつた。とくに,ほとんどの農産物にわたつて生産が上昇したのが特徴的である。この結果,従来ともすれば農産物の輸入急増が国際収支悪化に一役買つていたが,43年はきわめて落ち着いていた。また一方で,豊作の結果が,価格上昇を鈍化させたり価格の低落を招いた。このことは農業所得の伸び鈍化の要因にも結びついている。

豊作の影響を一番うけているのは米である。2年つづきの豊作と消費の停滞による米在庫の累積は,数々の波紋をなげかけている。しかもそれは,単に米の分野にとどまらず農業全体に及んでいる。

米問題の根は深く,農業の近代化は前途多難であるが,それでも現状を改革する方向や新しい胎動が出てきている。以下43年度の農業を概観しながらこうした点にふれてみたい。

(一) 高かつた生産水準と鈍化した輸入の伸び

① 2年つづきの豊作

43年の農業生産は前年比で,42年の9.0%増には及ばなかつたが,3.1%増加した。42年は,史上空前の豊作といわれた年であり,その意味ではひきつづき高い生産水準を示したともいえる。また,32年から43年までは年率3.6%の伸びとなつている( 第6-1表 )。

このように高い生産水準を維持したのは,米が2年つづきの豊作となつたことが大きく寄与している。米の生産は,水陸稲合計で42年1,445.3万トン,43年1,444.9万トンとほとんど同じ生産量であつた。米の生産は41年以前の10年間ほぼ1,200~1,300万トンであつた。したがつて,2年にわたり1,450万に近い生産がつづいたことは,平年作でも1,350万トンとみられるなど米生産が新しい生産力段階を画したことを示したともいえよう。

第6-1表 農業生産の推移

それでは,なぜこのような高い生産がつづいているのであろうか。もとより天候に恵まれたこともあるがまず第1に米生産の相対的有利性があげられる。米の1日当たり労働報酬は,みかんについで有利となつており製造業と比較しても決して遜色ないものである。そして,何といつても全国的に耕作できることや比較的省力管理で生産が可能なのが強みである。農家が強い生産意欲をもつのは当然であろう。

第2は,過去の土地改良などの生産基盤に対する投資が,技術水準の高位平準化と結びついて,高い生産水準を維持していることである。このような2年つづきの豊作は,あとでのべるように米の需給関係を一気に緩和させ,種々の問題を発生させるに至つた。

42年から43年にかけて,大きく生産が伸びたものにみかんと野菜がある。天候の良かつたことが共通している。みかんは,42年のかんばつによる不作の反動もあつて45%も急増した。みかんの増産は,連年造園面積が増加し生産能力化してきたことが大きく寄与している。野菜は,作付面積の増加もあつて42年3.6%,43年8.3%と増加しているが,なかでも葉茎菜類の生産増が大きかつた。

43年でとくに目立つたものに牛乳生産の増加がある。牛乳の生産は,40年以降停滞気味であつたが,不足払制度が軌道にのるにつれ,飼養頭数は着実に増加し生産が急増している。すなわち生乳生産は,41年5.8,42年4.6%のあと43年は12.6%と増加している。最近では,飲用乳消費の伸びが思わしくなく生産と消費がバランスを欠いている。

ほとんどの農産物が生産増となつたなかで,豚肉生産は前年比5.0%減少している。これは周期性を含んだ40年,41年にわたる価格低迷の反動であり,従来になく生産の回復が遅れている。

以上のように,農業生産はそろつて順調であり,あとでふれるように農産物輸入に対して抑制的に働いた。しかし,価格上昇が鈍化したという面で,生産者にとつてはつらい年でもあつた。

② 落着いていた農産物の輸入

43年の農産物輸入(農林省分類)は前年比2.3%の増加に止まつた。総輸入の伸び11.4%より小さく,また総輸入に占める割合も前年の20.2%から18.5%に低下した。35~41年の農産物輸入が年率17.0%の増加であつたことを考えると42年の3.9%にひきつづいて輸入の伸びが鈍化している( 第6-2表 )。

この内容をみると,肉類,砂糖等は増加したが,米,小麦,飼料用穀類,乳製品等が減少したためこれを相殺した結果である。

輸入の伸びが鈍化した主要囚は次の3点である。第1は,1967年の世界的な豊作を反映して,輸入価格が低下したことである。これには対前年比10%も低下した飼料用穀類をはじめ大豆,小麦等がある。第2は,前にふれた国内生産の増加によるものである。代表的なものは米で,前年の輸入量51万トンから,27万トンに減少した。第3は,原料農産物などにみられた在庫調整による輸入の減少ないし停滞である。例えば乳製品がそうである。

このように43年は42年につづいて農産物輸入が落ち着いた訳であるが,その要因には一時的なものも多い。

第6-2表 農産物輸入対前年増減率

(二) 上昇鈍化の農産物価格(生産者段階)

43年度の農産物価格は,前年度比1.9%の上昇にとどまつた。( 第6-3表 )40年度~42年度の年率8.2%の上昇からみて異常に低いといえる。またこれは34年度来の低さでもある。米麦を除いても下がり気味であつた。

このように,43年度は価格上昇が鈍化しているが,価格のうごきには大きくわけて三つの特徴がみられる。第1は,米の価格上昇が鈍つたことである。米の価格(自由売を含む)は,対前年度上昇率が,42年度の9.0%から,43年度には6.2%へと低下している。36~42年度の上昇率が,年率9.8%に及んでいたことを考えると,きわめて大きな変化ということができる。43年産生産者米価は,玄米150kg当たり20,672円で,前年比5.9%の引上げに止まり,これが大きく影響した。ではどうして生産者米価の引上げが例年になく低く決定されたのであろうか。それは前年の42年産米が空前の大豊作となり,需給事情が緩和されたのを背景に生産性の上昇などが反映された結果である。生産者米価の上昇が低かつたとはいえ,43年産米がひきつづき豊作となつた結果,あとでふれるように種々の問題を派生させている。

第6-3表 農産物生産者価格のうごき

第2は,生産の増加が価格低下に直結したものである。野菜の価格は前年度比15.3%と大きく下落している。このような値下がりは,34年度の7.5%下落以来でありかつ下落幅も大きかつた。野菜価格は,年によつて異なるが年々上昇をつづけ,消費者物価上昇の要因にもなつていた。価格下落の原因は,年間を通じて天候に恵まれ産地の生産が順調であつたことによる。とくに,春キャベツは作付増もあつて安値をつづけたし,秋冬野菜は暖冬異変により成育が進み暴落気味であつた。そのほか,果菜類のように年間を通して供給が可能になつているものがあるることも見逃せない要素である。

果物の価格は,前年度比14.1%も下落した。これはウエイトのもつとも大きいみかんが豊作となり価格が値下りしたからである。リンゴは消費が伸びなやみ価格が低迷した。

まゆ価格も前年度にくらべ13.2%下がつている。まゆ価格は40年以降急騰をつづけ,42年まで実に6割の上昇となつていた。年々の所得増による絹製品に対する根強い需要がその原因である。43年の生産が前年比5.7%増のわりに下落幅が大きいのは,市場要因による反動とみられる。

第3の特徴は,生産不足が価格上昇を招いたもので,肉類なかでも豚肉の高騰が目立つた。直接の原因は零細規模の農家が飼養をやめたこともあつて豚の飼養頭数が減少したことである。そのほかにも,畜産振興事業団の手持在庫の枯渇,緊急輸入が外国産地の価格高騰等により適切に行なえなかつたこともあげられよう。今後も消費需要が強いだけに,価格対策とあいまつた安定的供給をはかることがのぞまれよう。

以上みてきたように,43年度の農産物の生産者価格は,近来になく低い上昇率であつた。けれども,近年上昇の目立つていた野菜,果実等の生鮮食料品は値下がりし,消費者物価の上昇をいく分緩和している。しかし,消費者米価は4年連続引き上げられ,需要の盛んな肉類は供給が対応できないでいる。

米は,需給関係と価格政策が均衡を欠き,あとでのべるような問題を招いた。豚肉価格は,安定帯価格がありながらその中に収まつていない。農産物の価格制度は,ややもすれば硬直的に運用される恐れをもつている。また,それだけでは価格安定を機能させ得ない弱点ももつている。43年度は,こうした農産物価格制度の機能が一定の限界を示した年でもあつた。

(三) 農家人口の流出基調つづく

非農業部門での好況がつづくなかで,労働関係では,賃金の上昇と人手不足,求人難がつづいているが,このような影響は農業関係にもあらわれている。43年度の農家の兼業収入は,前年度比14.2%増となつておりひきつづき上昇している。また,農家の就職転出も従来どおりの水準にある。

農家世帯員の就職による他産業への転出は,農家就業動向調査によると,38年の93万人をピークに年々減少をたどつている。最近では41年81万人,42年はやや横ばい気味で82万人となつたが,43年は79万人で前年よりも3万人減少した。絶対数でみるかぎり,農家世帯員の流出はたしかに年を追つて減少をつづけている。これは供給源が小さくなつて来たことと農業所得と他産業の賃金格差が縮少したことによるものとみられる。けれども,流出率(勤務者を除く15歳以上の年度始め人口に対する流出者の比率)でみると,4.7~4.8%と毎年コンスタントな推移を示している。農家世帯員の他産業への流出基調は依然として高いといえる。流出者の年齢構成をみると19歳以下の若年労働力が70%以上と圧倒的多数を占めており,年々学卒者の比重が高まつている。( 第6-4表 )

43年の特徴は,通勤型の就職が増加したことで,割合も42年の54.9%から43年には57.0%へと高まつた。これは人手不足によつて,企業が農村部深くまで求人していることにも原因している。たとえば,鹿島地区(茨城県),水島地区(岡山県)などにみられるし,また地域によつては,農村労働力を求めて中小企業が地方に進出している例も見うけられる。

第6-4表 農家世帯員の他産業への流出者(就職者)

それに関連して,女子の流出が増えている。43年には流出者のうち男子50.2%,女子49.8%とほとんど差がなくなつた。女子の流出型態では通勤型が60%に達している。年齢別には20歳以上の高齢者がふえており,農村女子の非農業部門への労働力化が進んでいる。

以上のように,農家世帯員の流出は,型態・質をかえながらもいぜんとして高い基調にある。今後も,非農業部門からの強い吸引力に加えて,農業内部の排出要因もあり,このような傾向はつづくであろう。

(四) 農家所得は増加

① 農外所得への依存度増す

43年度の農家所得は,42年度の103万円から109万円へと引きつづき増加した。伸び率では前年度比6.3%となつており,42年度の19.5%の伸びにくらべ低くなつている。もつとも42年度は農業所得が「豊作下の価格上昇」に恵まれ異常に高かつたことなどを考慮すれば,その水準はかなり高いものとみられる( 第6-5表 )。

第6-5表 農家経済の主要指標(全国,1戸当り平均)

43年度の農家所得で目につくのは,農業所得の伸びがきわめて低いことである。43年度は,対前年度比2.5%増であつたから42年度の23.4%からは大きなダウンである。この原因は,農産物価格上昇の鈍化,農業経営費の上昇等によつている。従来から農業所得の増加は,価格上昇にかなり依拠していただけにその影響は大きい。これからは,益々労働生産性の向上による所得増加への道が追求されなければならない。

43年度の農外所得は,対前年度比10%増であつた。一見低く見えるが,費用項目の変更もあつたので12%に近い伸びと予測されほぼ従来どおりの増加基調と思われる。最近のいちじるしい農家所得の増加は,兼業による農外所得の増加が大きく寄与している。43年度は農業所得が伸びなかつたこともあつて,寄与率は実に80%に達した。

このように,農外所得が引続き高いのは,前述の通勤型態での流出の高まりに加えて,一般産業での賃金が14%以上も上昇しているからである。

② 高い消費水準と活発な住宅投資

農家の消費水準は依然として高く,住宅投資はさらに活発である。43年度の農家家計支出は,前年度比10.3%増である。これは,41年度11.0%,42年度17.4%の伸びにくらべ低くなつている。しかし,支出項目の変更を折り込めば12%前後の増加と推計される。したがつて,42年度の高さを例外とすれば過去の伸びにくらべ,それほど低下していないとみられる。

このように,農家の消費活動はひきつづき活発であり,耐久消費財等の一部には都市勤労者とくらべほとんど同じ程度の普及率を示しているものもある。自動車に例をとれば,総保有台数では,勤労者を上回つており,個人業主と比肩するまでになつている( 第6-6図 )。

交通網の整備,情報手段の発達,兼業化等の影響によつて,今では,都市と農村の生活様式や意識の差が急速になくなりつつある。

農家の投資活動で特に目につくのは住宅投資である。農林中央金庫の調査によると,43年の農協の住宅貸付金は,前年比で54.5%の増加となつている。また,融資残高では約3,000億円と推定している。農家の住宅投資がきわめて活発であることの例である。

(五) 顕在化した食管制度の問題

① 古米在庫の増加と食管赤字

食管制度が戦後の食糧需給の安定に果たした役割は大きい。しかし,40年代に入つてからはむしろ食管制度のもつ問題点が顕在化してきた。42,43年と2年つづきの豊作によつて米の需給は大幅に緩和した。

政府の買上量は急激に増加し43年はついに1,000万トンを超えた。これは,豊作による生産増と政府売渡しの有利さに起因している。一方,政府の売渡実績は,670万トン(精米)程度にとどまつている。理由は,米の総消費量が頭打ちとなつているからである。この結果,政府の古米在庫は増加し,44年10月末には,政府操作量の約10ヵ月分にあたる約570万トン程度にも達すると見込まれている。かつてない膨大な在庫である。これからどうやつて需給を均衡させるかが大きな問題になつてきた。

第6-6図 所得階層別自動車保有台数

食管赤字の増大も問題である。生産者米価は連年上昇をたどつた。一方,政府売渡価格は,消費者への配慮もあつて,それ程上昇しておらず,結局,米価体系のゆがみを生むことになつた。すなわちコスト逆ざや,売買逆ざや,末端逆ざやという異常な体系がそうである。

コスト逆ざやの拡大によつて,食管赤字が増大している( 第6-7図 )。一般会計からの食管繰入れ額は,44年度予算で2,970億の巨額に達している。これは,一般会計に占める割合で4.4%にあたる。とくに,農林関係予算の39%を占めており,農業政策の弾力性がそこなわれている。

第6-7図 米価の体系(玄米150kg当り円)

② 米政策の転換

こうした事態を解消するために,現在米政策の転換が進められている。さしあたり需給を均衡させねばならない。作付転喚,新規開田の抑制等の努力がそうである。作付転換といつても,米の有利性を考えると簡単には進まないであろう。他の農産物を含めた総合政策が望まれる。

44年産生産者米価は据置かれることになつた。この理由は,米価算定にあたつて需給事情を考慮して限界反収農家を平均反収農家に半歩近づけたからである。米価の据置きは33年以来であり与える影響は大きい。

農家の所得に対してはもちろんであるが,その一方で①米生産にとつて抑制的に働き,他農産物との相対的有利性を縮小させ作付転換をやり易くすること,②物価上昇ムードに水をさす効果が期待されること,③価格決定にあたつて需給事情が考慮されたこと,④今後の自主流通米の発展にも影響をあたえるなどがあげられる。

また,44年産米から適用される自主流通米に関心と期待が寄せられている。自主流通米は固定的であつた食管制度に新風を吹きこみ,消費者の意向がある程度反映されるなど,その効果はかなり大きいであろう。勿論これだけで,食管問題のすべてが解決される訳ではなく,今後も米管理改善の方向を求めなければならない。

「作付転換」「米価の据置」「自主流通米」は単に米政策の転換にとどまらず,農政の転換をも意味していよう。米は大部分の農家が作つており,農業総産出額の46%を占めている。米に代わるものを用意しなければならない。それは,需要構造の変化に合せて,農業の体質を改善することである。43年度はこれを改めて提起した年であつた。

日本農業の近代化が遅れているのはその零細性である。結果として価格の上昇。米の過剰などかずかずの矛盾が表面化した。本報告でのべたごとく,日本農業の近代化は至上命題であり,規模拡大はそのための必要条件である。田植機,刈取機の出現による機械化体系の完成によつて,近代化へ大きく歩もうとしている。これからの政策は,こうした新しい芽を生かしつつ,農地価格対策などを含めた農地の流動化政策を一層はかり,さらに離農問題等転換への環境を用意する必要がある。

43年から44年にかけて日本の農業はひとつの節を通過した。米政策の転換がそれである。そうした意味で,44年は戦後農政史に一時期を画する年になるであろう。

(2) 林  業

(一) 木材需給

昭和43年の用材需要は前年にくらべ数量で581万立方m,伸び率で6.8%増加し9,176万立方mとなつた。

43年のわが国経済は,8月までの金融引締措置の下でなお拡大の傾向をつづけ,設備投資は27.0%,住宅投資31.0%,パルプ生産10.1%とそれぞれかなりの伸びを示す等,木材需要基盤の拡大,関連産業の生産活動の増大がみられ,これに伴つて木材需要もひきつづいて増加した。

用途別にみると,製材用,パルプ用,合板用はそれぞれ増加し,その他用は減少を示している。さらに製材用についてその内訳をみると,建築用,土木建設用,木箱仕組板こんぽう用等は増加しているが,家具建具用,造船車輌用等は減少しており,建築,建設事業等の旺盛な伸びとともに各用途部門における代替材の進出が漸次大きくなつていることを示している。

供給面においては,国産材供給量は用材総量で7.2%の減少を示した。

これは主として資源的制約,とくに人工林については戦前の造林停滞期の影響で幼齢林の多い資源構成となつていること,あるいは林道開設の遅れ等による生産基盤の未整備,経営規模の零細性,労働力不足等がその原因と考えられるが,外材のいちじるしい進出もその一因とみることができよう。

一方,外材供給量はひきつづき増大して対前年比28.9%増の4,279万立方mとなり,用材総供給量に占める比率は46.6%に達した。

つぎに,木材輸入についてみると,輸入量の伸び率の最も高いのは木材チップの135.7%,ついで製材28.1%,素材17.9%となつており,また針葉樹素材の伸びは31.4%ときわめて大きく素材輸入量の半ばをこえる52.2%を占めるに至つたが,ラワン材を主体とする広葉樹素材は6.2%の伸びにとどまつている。

第6-8表 木材需給の推移

なお,アメリカにおいて,43年10月地元木材加工産業の保護を理由として連邦有林の丸太輸出規制に関する法律が制定され,また,米国内の住宅需要増大等による産地価格の上昇があつたことと,さらに,わが国の需給事情等を反映して44年に入り米材の輸入は横這いとなり,反面,ラワン材は増加の気配をみせている。

(二) 木材価格の動向

43年の木材価格は3月まで上昇をつづけていたが,4~6月にかけて下落を示した後7月から再び上昇し,さらに44年に入り3月以降は弱含みの傾向となつている。年度を通じてみると日銀卸売物価指数(木材,同製品)で対前年度上昇率は5.2%となつたが,41,42年度の対前年度上昇率10.5%,10.3%に比べるとかなり鈍化した傾向を示している。さらに,43年度平均指数129.6に対し42年度末の指数が128.5であることからみても,43年度の木材価格はかなり落着いた動向で推移したものといえよう。

43年の木材需給事情は,国産材生産の停滞にもかかわらず,外材輸入の増大によつて在荷増の傾向となり,これが比較的落着いた価格動向を示した要因とみることができよう。また,年度内の価格の変動は主として季節的要因によるものであるが,44年に入つてからの価格上昇については,米材の産地価格の上昇等の情勢による影響が大きいものとみられ,43年度の木材価格の動向は外材事情の影響を強く受けて推移したものといえよう。

従来,国産材が木材価格形成の主体であり,価格上昇の中心となつていたが,外材シエアの増大,外材の量産方式,商社の国内流通への進出の動き,さらに消費の大型化等による加工,流通上の変化によつて,木材価格形成に与える外材の影響はますます強くなる傾向を示している。

つぎに主要な国産材であるヒノキ,スギと代表的な外材である米ツガについてその最近の価格動向を検討してみるとつぎのとおりである。

卸売物価指数の対前年同月比の動向は,43年に入つていずれも上昇率は鈍化してきているが,ヒノキの上昇率が最も高くスギがこれにつぎ,米ツガが最も安定した動きを示している。これはヒノキ,スギの国産材,とくに高級建築材としてのヒノキに対するし好性の強さや,ヒノキの代替材のないこと等によるものと考えられる。

第6-9図 G.N.P,木材需要量および木材卸売物価指数の対前年比伸び率の推移

第6-10図 ヒノキ,スギ,米ツガの素材および正角の卸売物価指数の推移

第6-11図 ヒノキ,スギ,米ツガの卸売物価指数対前年同月比の推移

第6-12図 ヒノキ,スギと米ツガとの価格比の推移

しかしながら,スギについては外材によつてその需要分野の代替がかなり進んでおり,最近,その価格動向に変化の傾向をみせつつある。

すなわち,米ツガとの価格差の推移をみると,ヒノキについても価格差拡大傾向の鈍化がみられるが,スギについてはむしろ縮小の傾向が強くあらわれている。

もちろん,スギと米ツガについてはし好性とともに品質差の問題もあり,また,米ツガの産地における価格,需給事情との関連もあつて,この価格差縮小傾向の今後について予測することは因難であるが,外材によつて代替される傾向の強い国産材の価洛のうける影響は,外材依存度の高まりとともに今後ますます大きくなるものと考えられよう。

(三) 製材の加工および流通

建築用を主体とした製材需要の増加に伴つて,製材業の設備,規模はひきつづき増大している。

すなわち,製材工場数は前年に比べ1.1%の増加,また,製材用動力は総出力数で7.7%,一工場当り出力数では6.7%の増加を示した。出力規模別でみると,22.5kW未満の階層では減少を示しているが,それ以上の階層ではいずれも増加を示し,規模の大きい階層ほど増加率が高い。また,工場入荷素材の国産材,外材別でみると,製材用素材として外材を入荷した工場数は全体の60.6%に達し,前年の52.4%からさらに増加しており,工場数の増加率も「外材のみ」の工場がもつとも高く,「国産材と外材」がこれにつぎ「国産材のみ」は減少を示している。また工場入荷素材中の外材の占める比率も,前年の36.4%から43.8%に増加している。

これらは製材工場の近代化の進展とともに外材依存度のいちじるしい高まりを示している。しかしながら,反面,製材用として入荷された輸入素材のうち米材が45.4%を占めている現状と米国における丸太輸出規制措置,あるいは他の素材輸出国における製品輸出促進の動向等を考えるとき,製材業の今後には検討すべき多くの問題が存在しているといえよう。

一方,製材の流通面においても外材シエアの増大に伴つてかなりの変化をみせつつある。すなわち,外国企業を含めた大手企業の国内流通部門への進出の気運がみられており,これら大資本の進出が木材流通機構にきわめて大きな影響を与えることが予想される。

第6-13表 製材用動力の出力階層別工場数

第6-14表 製材用素材入荷の組合せ推移

さらに,製材業の国産材主体の内陸部資源立地型から外材主体の臨海大消費市場立地型への移行と量産方式への転換,あるいは住宅産業の台頭等による流通,消費の大型化,さらに交通網の整備による流通圏の拡大等は,流通機構の変化とともに木材流通事情を大きく変えつつあるものと考えられる。

(四) 林業における当面の課題

木材需要は主として建築部門や紙パルプ部門の需要を中心に増大しているが,反面,国産材生産は停滞をつづけており,これらを背景として外材の輸入はいちじるしく増加している。木材需給および木材価格の安定のためには,当面外材に依存せざるを得ない現状から,外材輸入の適正円滑化をはかるとともに,国内林業生産の増大と生産性の向上をはかることが林業における重要な課題であることはいうまでもない。

このため,森林計画制度の推進,造林事業の促進,あるいは林道網の拡充整備や資本装備の充実等の生産基盤の強化,林業労働力の確保をはかる等の国内生産対策,さらに植物防疫,港湾設備等の受入れ体制の整備,開発輸入の促進等,多くの施策の推進が必要である。

とくに,近年における拡大造林の停滞,薪炭材需要の減少,木材チップの輸入依存傾向等からみて,里山再開発等を中心とした低質広葉樹材の積極的な利用を促進すべきであろう。

また,国土保全や国民の保健休養等の森林の公益的機能に対する要請は,産業の発展,都市への人口の集中等によつてますます高まつており,森林のもつこれらの機能の維持増大を積極的にはかることが必要である。

さらに,木材の加工,流通面においては,外材シエアの拡大に伴う大きな情勢の変化があらわれており,住宅産業の発展,労働力不足,流通圏の拡大等の動向に対応した積極的な近代化,合理化の促進が必要であろう。

(3) 水産業

(一) 漁業生産の動向

昭和43年の漁業生産量(捕鯨業を除く。)は,855万トンで,これまでの最高であつた前年の785万トンにくらべ,さらに,数量で70万トン,比率で9%増加し,史上はじめて800万トンの大台を記録した。これは,主として,すけそうだら,さば,いか等のいちじるしい豊漁によるもので,さんまはひきつづき不漁であつた。

43年の漁業生産の動向を部門別にみると,つぎのとおりである。海面漁業は,796万トンで前年より10%増加したが,このうち,遠洋漁業は,282万トンで前年より17%の大幅な増加を示している。これは,主として,近年いちじるしい増加傾向を示している北洋母船式底びき網,北洋トロールの飛躍的な伸びによるものである。沖合漁業は,318万トンで前年より12%増え,はじめて300万トン台に達した。これは,主として,さばまき網,いか釣が前年にひきつづき大幅に増加したためである。治岸漁業は196万トンで前年より2%減少したが,これは主として,定置網,採貝採草等の不振によるものである。

第6-15表 漁業生産量の推移

浅海養殖業は,46万トンで前年より3%減少したが,これは主として,異常気象によるのりの不作によるものである。

なお,捕鯨業の捕獲頭数は,国際規制の強化により,しろながす換算では,2,683頭と前年より3%減少したが,実頭数では規制対象外の南氷洋みんくと近海まつこうくじらの増加により21,586頭と前年より2%増加した。

つぎに,漁業経営体の動向をみると,42年の経営体数は,沿岸漁業21万8千,沖合遠洋漁業9千,計22万8千(対前年1.6%増)で,全体としては,近年ほぼ横ばいの傾向を保つている。しかし,その内部では,しだいに構造変化が進み,沿岸漁業では,無動力船と,定置網,地びき網の減少が,小型動力船と浅海養殖の増加によつて補なわれ,経営体数に大きな変化はみられないが,沖合遠洋漁業では,漁船の大型化,経営規模の拡大とともに経営体数が増加している。

また,漁業就業者は,近年,高齢化,女子化の傾向を示しながら一貫して減少しており,42年には59万3千人とついに60万人の大台を割ることとなつた。

(二) 水産物輸出入の動向

最近における水産物貿易は,経済の成長とともに年々拡大傾向にあるが,漁業生産の不安定,発展途上国の進出,国内需要の増大等により輸出が伸びなやんでいるのに対し,輸入はいちじるしく増大している。

すなわち,最近10ヵ年間の動向をみると,43年の輸出額が33年にくらべて58%しか伸びていないのに対し,輸入額は21.5倍という急増を示している。また,わが国の総輸出額のうち,水産物輸出入額のしめる割合は,輸出が33年の7.7%から,38年の5.2%,43年の2.7%へと縮少傾向にあるのに対し,輸入は0.3%から0.9%,1.5%へと増大傾向をたどつている。

水産物の輸出は,42年に一時減少したが,43年には,水産かん詰の大幅な伸びにより351百万ドル(1,262億円)となり,ほぼ41年の水準にもどつた。主要品目の動向をみると,水産かん・びん詰は欧米向けの高級魚かん詰,東南アジア向けの多獲性魚かん詰ともに近年一貫して増加しているが,原料供給が円滑なさばかん詰の最近の伸びが目立つている。生鮮冷凍水産物は,欧米向けのまぐろが減少傾向にあるが,米国向けのめかじきがいちじるしく伸びて,これを補ない,塩干水産物は,東南アジア向けのさめひれ,するめを中心に増加している。しかし,41~42年にかけて生産過剰および品質低下による価格不安から不振に転じた真珠の輸出は,43年にも低迷がつづき,魚油および海獣油は,鯨油の減産により大幅に減少している。

水産物の輸入は,近年えびを主体とする高級魚介類と畜産飼料向けの魚粉を中心に急速に伸び,43年には前年より4.6%増加して,200百万ドル(721億円)の大台に達し,世界の主要水産物輸入国に数えられることとなつた。主要品目の動向をみると,輸入額の60%をしめる生鮮冷凍水産物は,主体をなすえびが,前年の大量輸入による在庫の増大から,やや,減少したが,かつお,まぐろ,いか,さけ,ます,ぶり等が大幅に増加して,前年をやや上回つた。塩干水産物は,寒天原草が減少したが,だが,干のり,さけ・ますの卵の増加により前年を14.3%上回る大幅な伸びを示している。その他の水産物は,真珠核原料の貝殻が減少したが,魚粉が増加して,ほぼ前年並みであつた。主要品目について,その主要輸入先をみると,えびはメキシコ,タイ,香港,魚粉はペルー,南アフリカ,ソ連,干のりは韓国,さけ・ますの卵はアメリカ,カナダ,えび,いか以外の甲殻類,軟体動物(たこ)はスペイン,韓国となつている。

第6-16表 水産物輸出入の推移

(三) 水産物価格の動向

水産物の生産地価格は,40年以降多獲性魚の豊漁により,上昇傾向が鈍化しており,40年基準の生産地市場価格指数でみると,43年は,まぐろ,あじ等の大幅な値上りがあつたが,さば,すけそうだらの値下りにより,全体としては,前年にくらべ,4.7%上昇して123.2となつている。すなわち,38,39年にかけては,全般的な漁業生産の不振から,対前年比10~14%のかなり大幅な上昇を示したが,40年には,多獲性魚,底ものの豊漁によりほぼ横ばいとなつた。41年には,高級魚,多獲性魚ともに減産したため,11.6%とふたたび大きく上昇したが,42年には,すけそうだら,するめいかの豊漁により5.5%の上昇にとどまつている。

なお,生産地市場の年間総平均価格は,42年に1キログラム当り65円であつたが,43年には,単価の安いすけそうだら,さばの大豊漁により7.7%値下りして60円となつた。

つぎに,消費地市場価格を,40年基準の6大都市中央卸売市場価格指数でみると,43年は,総合129.1,生鮮品132.1,冷凍品121.1となり,それぞれ前年を5.6%,5.2%,5.8%上回つているが,入荷量の増大もあつて,これらはいずれも前年の上昇率にくらべると大幅に低下している。一方,入荷量の動きをみると,生鮮品が停滞しているのに対し,冷凍品は,遠洋漁業の発達,コールド・チェーンの整備等により着実に伸びている。なお,入荷の増大にもかかわらず冷凍品の価格上昇が比較的大きいのが注目されるが,これは需要の高度化,多様化にともない,まぐろ,さけ,もんごういか等の高級魚介類の割合が大きくなるなど,入荷する魚種の構成が変化しているためである。

水産物の小売価格は,近年堅調な上昇を続けているが,40年基準の全国消費者物価指数でみると,43年の生鮮魚介類は130.1と前年より13.8%のかなり大幅な上昇を示しており,消費者物価上昇の要因ともなつている。これは,基本的には生活水準の向上にともなつて生鮮魚介類の需要が高度化,多様化しつつ増大しているのに,供給が対応しえないという需給の不均衡の拡大によるものであるが,このほか,とくに魚介類は鮮度保持のため,保冷急送を要し,小売店が零細なうえ,店頭における調理サービスを要するなどのため,小売価格にしめる流通経費の割合が大きく,しかも,最近この流通経費が,資材,賃金等の上昇とともに大幅に値上りしていることにもよる。

第6-17表 水産物の入荷量,価格,価格指数の推移

(四) 水産業をめぐる新段階

最近における水産業をめぐる環境は,生産,流通,経営の各面にわたつて一段ときびしさを増しており,長期的見通しのもとに総合的な対策を推進する必要にせまられている。

第6-18表 現在,わが国が加盟している国際漁業条約等


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