昭和43年
年次経済報告
国際化のなかの日本経済
昭和43年7月23日
経済企画庁
(1) 昭和42年度の財政―ポリシーミックスによる景気調整機能の発揮
昭和42年度のわが国経済は,前半は41年度の景気上昇基調を受けて,予想を上回る拡大をつづけた。このような設備投資を中心とした国内需要の急速な拡大に,海外景気の低迷もあつて,国際収支は年初来赤字基調で推移したため,42年9月から財政,金融両面からの本格的な景気調整措置が発動され,年度後半から43年度にかけて,わが国経済は景気調整過程を歩むこととなつた。
このような経済情勢の中で,財政はどのような動きを示したであろうか。
42年度予算は,前年度の速やかな景気上昇を背景に,景気に対して中立的なものとするという方針のもとに編成された。一方,衆議院選挙実施にともない,4~5月の2ヵ月について暫定予算が組まれたため,財政支出が出遅れ,年度はじめの財政は景気に対して抑制的に作用した。しかしながら,設備投資を中心とした民間需要の増大はめざましく,国際収支も悪化基調を続けた。これに対して政府は,7月に,景気上昇にともなう税収増等を背景に,国債・政保債を減額し,公債発行量の弾力的,機動的な調整を行なうこととした。さらに,9月1日から実施された金融面からの引締め措置に呼応して9月5日,財政面からは執行繰延べが決定され,繰延額は公共事業関係費を中心に,国・地方あわせて3,112億円にのぼつた。この従来になく大規模かつ,機動的な財政政策の実施は,本格的なポリシー・ミックスの展開として高く評価されよう。
もつとも,実体経済の増勢基調は根強く,このような財政金融両面からの措置にもかかわらず,景気は上昇をつづけた。しかし,このような景気の拡大傾向も,1月の公定歩合再引上げ後は調整措置の浸透とともに落着きをみせ,海外景気の好転もあつて国際収支はいちじるしい改善をみせた。しかし,国際経済環境は通貨不安などからいぜんとして注意を要し,また国内需要も根強い上昇基調を含んでいるとみられる。このような経済情勢のもとで,43年度予算は極力その規模の圧縮に努めるとともに,総合予算主義の建前をとり財政硬直化問題打開への第1歩を踏み出すこととした。
以下,景気動向との関連から42年度財政の推移をみていこう。
42年度の経済は,年度当初には政府の経済見通しにみられるように,41年度にひきつづく景気上昇の年であると考えられた。このため,41年度には景気上昇に大きく寄与した財政は,42年度には民間需要の盛り上がりを背景に中立的立場にしりぞくことが要請された。しかし,一方,資源配分面では,ひきつづき根強い財政需要に応えていくことが必要であつた。このような要請のもとで編成された42年度予算の特色は,どのようなものであつたであろうか。
まず,第1にあげられるのが財政規模の圧縮である( 第7-2表 )。景気に対する中立性を堅持するために,一般会計当初予算は4兆9,509億円にとどめられ,前年度当初予算にくらべ14.8%増(石炭対策特別会計への振替分476億円を含む実質規模では15.9%増)と,前年度の増加率(17.9%)を下回つた。なかでも景気刺激効果の大きい公共事業費は14.3%増と,前年度(18.9%)にくらべ,かなり抑制された。一方,財政投融資計画も2兆3,884億円で,前年度にくらべ17.8%の増加と最近5年間で最低の伸びとなつた。このように圧縮が図られた結果,GNPベースでみると政府の財貨サービス購入は12.8%の増加にとどまり,経済見通しによる成長率13.4%を下回る中立的なものと見込まれた。
第2の特色として,国債発行額が8,000億円に抑えられ,国債依存度(予算規模に対する割合)は前年度の16.9%から16.1%へとやや低下したことがあげられよう。また42年度から本格的な減債制度が確立された。
まず,一般会計歳入予算(当初)で,第1に注目されるのは租税及び印紙収入に前年度(当初)にくらべ19.0%増(前年度は2.7%の減少)と高い伸びが見込まれたことである。これは景気の上昇を反映して,法人所得の増加にともなう法人税の増加をはじめとして,各税目とも順調な伸びが予想されたためである。税目別構成比をみると,40,41年度と所得税を下回つていた法人税が,わずかではあるが所得税を上回ることとなつた。
第2に,このような税収増の見込みから,国債発行額は8,000億円に抑えられた。しかし,その規模は前年度を700億円上回るものであり,国債依存度も低下したとはいえ,ひきつづきかなり高水準であつた。
第3に,税制改正による減税額( 第7-3表 )は初年度803億円で従来にくらべその規模は小さいが所得税減税を中心とする重点的減税が行なわれた。
さらに,42年度の税制改正で,法人税延納利子税率の公定歩合スライド制が採用され,税制面からの景気調整機能補完のための配慮がなされた。
一方,財政投融資計画の原資見込( 第7-4表 )は前年度(当初)に対して3,611億円,17.8%の増加となつた。その特色として公募債借入金によるもの,とくに政保債が対前年度比27.5%増と大幅に増加したことがあげられる。また,簡保資金の伸びも大きく,これらのウエイトの大幅な上昇が見込まれた。
42年度一般会計歳出予算は,全体的に増加率を抑制したが,なかでも公共事業関係費の伸び率の低下が大きかつた( 第7-5表 )。これは民間需要の台頭にともない景気の過熱化を防ぐために,最も有効需要創出効果の大きいものの圧縮を図つたためである。もつとも,その内容をみてみると,災害復旧事業費が9.8%減となつている一方で,重点施策の一つである住宅対策費や,生活環境施設整備費など国民生活に直結したものは前年度にくらべ3割以上の増加とひきつづき重点がおかれ,景気調整のために社会資本の充実が遅延しないようにとの配慮が加えられていることが特微的である。
なお,各経費とも伸びが鈍化している中で国債費が大幅に増加していることが目立つているが,これは国債の利払いおよび42年度から本格的に確立された国債償還基金への繰入れの増加などによるものであつた。
一方,財政投融資計画の内容をみると( 第7-6表 ),景気に対する配慮から全体の伸びが低く抑えられている中で,中小企業金融機関(中小公庫,国民公庫,商工中金)の融資枠増大等による「中小企業」の増加,東名道,中央道建設促進のための3公団への投入増による「道路」の増加,輸出入銀行の貸付規模の大幅拡大等による「輸出振興」の増加がめだつているほか,「住宅」にもひきつづき大量の資金が投入されることとなつた。
つぎに支出の実行面をみてみよう。まず,42年度においては総選挙実施にともない4~5月の2ヵ月間について暫定予算が編成されたが,このことはどのような影響を及ぼしたであろうか。
いま,一般会計の支出状況を進捗率(予算現額に対する支出割合)でみると( 第7-7表 ),第1四半期はかなり低くなつており,支出額では支出促進がなされた前年同期を下回つている。また,建設受注統計でみても,年度当初には国,地方両者からの受注がかなり落ち込んでいることがわかる( 第7-1図 )。
このように暫定予算の編成は年度間の事業計画の決定,契約締結手続などの面から財政支出とくに資本支出が出遅れるという現象をもたらし,その結果,上期中の総需要の加速化をチェックするという効果をもたらしたものとみられる。
すでにみたように42年度予算は景気に対して極力中立的な立場を堅持するものとしていたが,民間設備投資,個人消費を中心に国内経済の根強い拡大がつづき,国際収支は年初来,赤字基調で推移した。すでに6月に国債の市中引受予定分のうち200億円の運用部引受への振替えが決定されたが,さらに政府は7月25日に国債700億円,政保債500億円(額面額)の減額を決定した。その効果としては,景気に対する警戒的態度が早期に明らかにされたこと,さもなければ歳出増加要因となる可能性のある自然増収を国債減額にあてることによつて財政支出の増大が抑制されたことなどがあげられよう。もつとも国債,政保債の減額は金融面では緩和要因との見方もあるが,これは8月にはじまつた日銀のポジション指導強化によつて金融面からも警戒措置がとられたことに注意する必要がある。
さらに,9月1日の公定歩合1厘引上げにつづいて,9月5日,財政の執行繰延べが決定され,繰延べ額は公共事業関係費を中心に総額3,112億円にのぼった。その内訳は,国が2,202億円(一般・特別会計739億円+政府関係機関595億円+財政投融資1,502億円-重複額634億円),地方が910億円であつた。
今回の財政面からの景気調整措置の特色の第1は,そのタイミングが金融政策と歩調をあわせて実行されたことである。これまでにも3回(29年6月,32年6月,36年9月),財政支出の繰延べなど景気の抑制措置がとられたが,いずれも金融政策発動後数ヵ月を経てからであつた。第2に,その規模と金融政策とのバランスである。規模がこれまでになく大きいことから有効需要に及ぼす影響も,従来のように金融政策中心の場合には主として民間投資が抑制されるのに対し,今回は民間投資と政府投資の双方が抑制されることになる( 第7-8表 参照)。第3に,地方財政に約3分の1とかなりの役割が期待されていることである。41年度における政府の財貨サービス購入を中央,地方にわけてみると,地方のウエイトが50%と半分を占めている。このため,地方財政が資源配分のみでなく景気調整の役割をも積極的に果たすことが必要とされたのである。第4に,税制面からも公定歩合にスライドして法人税の延納利子税率が引上げられ調整措置ヘ共同歩調がとられたことである。
つぎに繰延べの効果についてみると,その規模は42年度下期のGNP増加見込額(3兆円)の約1割に達するものであつた。なお,国民所得統計上の政府の財貨サービス購入としては民間に対する融資や用地費が除かれるので約2,400億円とみられる。さらに,これには例年ある繰越分も含まれているのでこれを除いた景気調整措置としての繰越分は半分程度と推定されるが,乗数効果を考慮すれば,かなりの影響を及ぼすことになる( 第7-8表 参照)。
すでにみたように公共事業関係費などの資本支出は暫定予算の影響からかなり出遅れ,そのままでは秋口以降反動的に急増する可能性があつたが,繰延べ措置によりかなり抑制されたものとみられる( 第7-2図 )。このため,年度上期は1割留保などで出遅れた40年度をも下回つたものとなつている( 第7-9表 )。
いま4~12月における政府の収支を国民所得統計で前年同期とくらべてみると( 第7-3図 ),①固定資本形成の伸びが8.9%とかなり低いこと,②政府総支出の伸び率14.4%に対し資金不足は9.0%の増大にとどまり資金不足幅が相対的に低下していることなどの景気抑制要因があつた反面,③米の豊作により食管の支払いが大幅に増加したこと(在庫品増加),などが目立つている。
そこで政府の資金過不足をすう勢的な推移とくらべてみると( 第7-4図 ),財政は相対的に第1四半期は抑制的であつたが,第2,第3四半期は食管の支払い増もあつて拡張的に作用したものとみられる。
42年度の一般会計租税及び印紙収入額は当初,前年度決算に対して13.1%の増加(関税から分離された原重油関税を加えたもの)が見込まれた。しかし,経済が予想を上回つて拡大したため,法人税を中心に当初見込みを大幅に上回り,43年4月末現在で21.8%の増加となつている。
これを税目別にみると( 第7-5図 ),所得税は源泉・申告ともに好調で,当初はもちろん補正後予算における見込みをも上回つた。法人税は企業収益の好調を反映して当初予算にくらべ大幅な増加をみせたが景気調整措置の浸透もあつて補正後予算での見込みには達しなかつた。その他,物品税,関税,印紙収入など大部分の税目が好調に推移した。このため歳入予算(補正後)中租税及び印紙収入の占める割合は前年度の75%から79%へと増大した。
このような好調な税収の動きを反映して,地方財政の収支状況も好転をみせている。いま,地方公共団体と密接な関係にある地方銀行について,地方公共団体向け貸出と地方債保有額を加えたものと地方公共団体からの預金との比率をみると( 第7-6図 ),40年度まで悪化を続けたが,41,42年度と好転してきている。これには,国税三税の好調による地方交付税交付金の増加と地方税の好伸による面が大きいとみられる。
42年度財政の特色の一つは,すでに述べたように,歳入面において景気情勢に即応した措置がとられたことがあげられる。
その第1は,国債発行量の弾力的調整で43年3月までに当初の市中引受予定額から1,900億円の減額が行なわれた。また,経済情勢に応じて国債等の発行条件が改定されたことも公社債市場育成のための大きな前進であった。いま国債の消化状況をみると,年度当初より金融市場の引締まりを反映して消化環境はきびしさを増し,証券会社引受分に8月にはじめて1.6億円の募集残が生じ,その後4億円強の水準が続いたが,43年1月には7.5億円に達した。そして,1月末に引締め措置の長期化が予想される経済金融情勢および公社債市場の状態を考慮し,発行価格の改定(額面100円につき国債50銭,政保債40銭の引下げ)が決定された。同時に個人消化を促進するという観点から国債について50万円を限度とする特別非課税制度の実施が決定された。
第2に法人税延納利子税率の公定歩合スライド制があげられる。これをややくわしくみると,法人税は決算後2ヵ月以内に納めるべきものであるが,日歩2銭の延納利子税を払うことによつて,税額の50%はさらに3ヵ月の延納が認められている。このため従来は金融引締め下に延納率が上昇し,引締め効果が減殺されるという現象が生じた( 第7-7図 )。このため42年度の税制改正において,金融政策の効果を補完するために公定歩合1厘の変動に対して延納利子税率は2厘の幅で変動することとされた。その結果,42年9月の公定歩合引上げとともに延納利子税率は2銭2厘となり,また43年1月の再引上げ後は2銭4厘となつている。今回の景気調整措置発動時点においては,金融緩和が約2年にわたつて続いたため,大法人の即納率は90%をこえる水準に達していた。このため延納率を上昇させて資金繰りをつける余地は従来にくらべ大きかつたわけである。しかし,延納利子税率が貸出金利(全国銀行約定平均)を大きく上回つている状態では,企業はコスト面から延納に対して消極的となり,また,延納した場合には相対的に重い金利負担が企業活動に抑制的に作用するものとみられる。今回,9月の引締め以降,延納率が上昇はしているものの従来の引締め期にくらべまだ低いことには,企業の資金繰りにまだ余裕があることに加え,利子税率の公定歩合スライド制も影響しているものと思われる。
42年度においても年度途中に,人事院勧告,生産者米価引上げと買入れ数量の増加,羽越水害などの補正要因が発生し,12月に補正予算が編成された。
その内容をみると,歳出追加額は食管繰入れ(1,180億円),給与改善費(545億円)などを中心に3,014億円にのぼり,既定経費の節減など(489億円)を除いた実質規模では2,525億円の増加となつた。このほか国債減額(690億円)にともない財源振替が必要であつた。一方,歳入面では,法人税(1,290億円),所得税(854億円)を中心とする租税及び印紙収入で2,901億円,税外収入で153億円の増加が見込まれた。
今回の補正予算の特色としては,その規模が義務的経費の増大によつてこれまでになく大きく,当初予算に対する比率でみても5.1%とかなり高いこと,国債減額にともなう財源振替がなされたこと,既定経費の節減が292億円と大幅であつたこと,などがあげられよう。
また財政投融資計画においても年度間2回の改訂によつて1,278億円が追加され,最終計画は2兆5,162億円となつた。その主なものは,中小企業年末金融対策として中小金融三機関の貸付規模拡大(1,060億円)のための追加(635億円),輸出船舶増加,経済協力進展にともなう輸銀資金の追加(250億円),国鉄の給与改善にともない不足する財源の補てん(165億円)などであつた。
42年度の財政収支は当初食管会計の1,110億円の散超を中心に320億円の散超がみこまれていた。しかし実績では( 第7-8図 )752億円の揚超と前年度にひきつづき揚超となつたが,その揚超幅は大きく縮小している。
当初見込みは当初予算にもとづいているため,その後の執行繰延べ,郵貯,保険などの受入れと運用部の融資の時間的ズレ,などの変化が見込みと実績の差をもたらしたものとみられる。
しかし,前年度にくらべ揚超幅が大きく減少した要因としては,租税の6,480億円の揚超増をはじめ,郵貯(1,323億円),保険(649億円)などで大幅な揚超増があつた反面,①食管が42年産米の大豊作にともなう政府買入数量の増加(41年度804万トン,42年度989万トン)および生産者米価引上げ(9.2%)により2,620億円の散超増となつたこと,②地方交付税交付金が国税三税の対前年度増収から1,452億円の散超増となつたこと,③一般会計諸払が予算の増大から散超増となつたこと,④国鉄が過年度分の支払増に加えて債券発行期が4月以降にズレたことにより大幅散超増となつたこと,⑤政保債減額にともなう肩代わり融資等により運用部が1,020億円の散超増となつたこと,などがあげられる。なお,公共事業関係費は403億円の散超増にとどまつた。
これを期別にみてみると,4~6月期には暫定予算や前年度の支出促進の影響もあつて大幅な揚超増となつたが,10~12月期には米代金の支払により大幅な散超増となつた。また43年1~3月期も基調的には揚勢が強かつたが年度末近くになつて出遅れていた公共事業関係費や一般会計諸払いの支出が促進されたことから(総論 第15図 参照),前年同期並みの散超となつた。
なお,資金運用部の資金状況をみたのが 第7-11表 である。
43年度のわが国経済は二つの問題に直面している。短期的には,42年度において経済の予想を上回る拡大を反映して大幅な赤字を記録した国際収支の均衡を回復することであり,長期的には,資本自由化,労働力不足の進行という内外環境の変化のなかで,高能率,高福祉の経済社会を実現していくため経済全体の一層の効率化を図ることである。
このため,43年度予算の編成にあたつては,規模の圧縮,公債依存度の引き下げ,総合予算主義の採用などが基本方針とされたが,その特色はどのようにあらわれているであろうか。
第1に,財政規模についてみると,43年度一般会計予算は5兆8,185億円で前年度(補正後)にくらべて6,151億円,11.8%の増加で,増加率では最近10年間において39年度の9.3%につぐ低い伸びに抑えられた。また,財政投融資計画は2兆6,990億円で前年度(当初)にくらべ3,100億円,13.0%増と,これも最近10年間で最低の伸びにとどまつている。一方,地方財政計画は5兆6,051億円で前年に対し8,337億円,17.5%増となつている。
このように財政規模の圧縮が図られた結果,中央・地方を通ずる政府の財貨サービス購入は42年度からの繰越分を含めて9兆5,500億円で,前年度(実績見込み)にくらべ11.7%の増加にとどまり,なかでも有効需要創出効果の大きい資本支出の伸び率は一般会計公共事業関係費が前年度(補正後)比4.7%増と低水準に抑えられたこともあつて前年度(実績見込み)の16.8%増から9.9%増へ低下するものと見込まれている。
第2に,公債の規模についてみてみよう。財源調達面からの景気調整機能を十分発揮していくためには,不況期には国債を発行する一方,好況期にはこれを削減することが必要不可欠である。このため,43年度における国債発行は6,400億円に削減され,一般会計の国債依存度は10.9%に低下した。これは41,42年度当初の16.9%,16.1%を大幅に下回ることはもとより,実績(41年度は決算,42年度は補正後対比)の14.9%,13.6%にくらべてもかなり低いものとなつている。
第3にこれまで毎年恒例的に補正予算が編成されてきたが,補正予算においては他の予算項目とのバランスがとりにくく適正な配分が困難であり,それとともにたとえば税収増が多額にのぼる好況時には大規模な補正予算が組まれて自動的な景気調整機能が減殺される危険性があること,また,年度途中に多額の税収増が得られるかどうか不確実であること,などからこのような慣行を排除していくことが望ましい。このため,43年度においては総合予算主義の建前をとり,公務員の給与改定等に備えて予備費の充実を図る一方,食管繰入れについては年度の途中において米価の改定等事情の変化があつてもこれによつて補正財源を必要としない方式の確立を期することとされている。
第4に,総合予算主義の採用のほかにも財政の硬直化傾向を是正しその体質を改善するため種々の方策が講じられた。たとえば,行政機構の効率化を図るため各省庁の1局削減が行なわれる一方,公庫・公団の新設はいつさい行なわれなかつた。また,国鉄・電電などにおいて受益者負担の拡充を図り,安易に財政に依存することのないようにされた。そのほか,財源公開方式による復活折衝,既定経費の再検討なども予算編成のいつそうの合理化,効率化に資するものであつたといえよう。
第5に,歳入面においては税負担の調整合理化が図られた。まず,所得税について,それが累進構造であるため所得の上昇にともなう限界的な税負担のまた,増加がいちじるしく,消費者物価が43年度にも4.8%上昇するものと見込まれその結果税負担が実質的に増大する( 第7-9図 )ことなどから,43年度の税制改正においては,まず中小所得者の負担の軽減を図るため,所得税を中心とする減税が行なわれることとなつた。他方,従量税であるため税負担が相対的に低下してきている酒税について税率を調整するなど間接税等の増徴により歳入の充足が図られた( 第7-10図 )。今後,財政の硬直化打開の諸方策を検討するに際しては歳出面はもとより歳入面においても租税特別措置の硬直化,既得権化等の問題を再検討していくことが必要であろう。
なお,43年度においても予算の成立が国会審議の関係から3月末までに見込めなくなつたため,4月1日から16日までの16日間について暫定予算(一般会計の歳出規模4,390億円)が編成された。
42年秋以来財政硬直化問題が各方面で議論されてきたが,財政の本来の機能である配分と安定の役割を十分発揮していくためには硬直化打開が不可欠の条件である。43年度においては総合予算主義の採用など体質改善のため第1歩が踏み出されたものの,その根本的解決策はなお今後に残されている。今後,米価,医療保険,国と地方の行財政のあり方などの問題について国民一人一人が国民経済的視野に立つて論議を尽し,早急に新しい制度を打ち立てていくことが必要である。
一方,財政の景気に及ばす影響は年度間の規模のみでなく,その実行がどのようなタイミングでなされるかによつても大きく違つてくる。42年度においては財政の執行繰延べ,公債発行額の削減などその弾力的運用がなされたが,43年度においても,とくに微妙な内外情勢にかんがみ,国際収支の推移と国内経済の動向とを注視しながら,機に応じて,財政投融資計画の運用,公共事業等の施行時期,国債および政保債のの発行等を調整し,金融政策の適切な発動と相まつて,フィスカル・ポリシーの弾力的な運営を行なつていくことが必要である。