昭和43年
年次経済報告
国際化のなかの日本経済
昭和43年7月23日
経済企画庁
ア 貨物 昭和42年度の国内貨物輸送は,経済の拡大を反映して, 第5-1表 のとおり大幅な伸びを示した。とりわけトラツクは,トンキロのシエアで41年度に鉄道を抜き,いぜんとして高い伸びを示している。
輸送機関別にみるとき,まず内航海運は,石油製品,鉄鋼,砂利等の大宗貨物の増加が著しく,全体として順調な増加を示し,船種別には小型鋼船のシエアが拡大している。これに対して,船腹量(9月末現在)は船舶整備公団を中心とする木船,老朽船のスクラップ・アンド・ビルドが進んだため,271万総トンと前年より20万総トン減少し,船腹過剰の状態はかなり改善されてきた。トラックは,営業用(トンキロの対前年度比21.0%増),自家用(同27.4%増)とも高い伸びで,営業用では,鉄鋼,木材,機械の堅調が目立ち,自家用では,鉄鋼,機械,砂利類などが大きく伸びている。こうした傾向は,主として設備投資の増勢を反映したものといえよう。トラックの登録台数(年度末現在)は65万台(19.1%)増加して404万台に達している。
国鉄はうちつづく不振からようやく立ち直つて,運賃計算トン数の制度改正を考慮に入れれば実質上過去の最高を記録した。品目別では,鉄鋼,機械工業品などの重化学工業品の伸びがいちじるしく,これについて雑貨,繊維なども増加している。これは物資別適合輸送やコンテナ化(コンテナ保有数は対前年60%増で年度末現在15,924個)の推進による輸送費の低減,42年4月から運転を開始した地域間急行列車(年度末現在34本)による貨物到着日時の明確化などの方策が効果をあげはじめたためといえよう。
イ 旅客 昭和42年度の国内旅客輸送は,個人消費支出の伸びを反映して, 第5-1表 のとおり順調な増加をみせた。とくに人キロ増加の寄与率でみると,乗用車が49.8%とほぼなかばを占めている。
鉄道の定期旅客は全体として近年その伸び率が低下しているが,大都市交通を担当する国鉄の関東支社,関西支社や大手私鉄においてはいぜんとして高い増加が続いている。鉄道の定期外旅客は,41年度は運賃値上げの影響でやや減少したが,42年度は各種の旅客誘致策も実を結んで,春秋には若干の回復を示した。しかしピークである8月の実績が停滞していることは,需要の波動に対する輸送力の余裕が少いことを示している。
自動車旅客の伸びの大部分を占めるものは,自家用乗用車であつた。その登録台数(年度末現在)が310万台と前年度より79万台(34.0%)の増加であつたのにくらべ人キロの伸び率が40.9%と高かつたことは,好況期には利用度が高まる傾向を示したものである。なお,輸送実績の統計には含まれていないが,軽四輪乗用車の伸びが42年度には目覚ましく,届出台数は30万台(56.8%)増加して82万台となつた。わが国の自動車台数(登録および届出台数)は42年度には1千万台を突破したが,ライトバンおよび2輪車を含めて旅客用車両はその半数に達し,モータリゼーションが従来のトラック中心から欧米型の乗用車中心へと変つてきたことがうかがえる。一方,乗合バス輸送の伸びは停滞し,人口の減少しつつある山間部では路線の維持も困難になつてきている。
航空は,事故の影響などから40,41年度には伸び悩んだが,42年度には,東京―札幌間など幹線を中心に高い伸びをみせた。
道路,鉄道,港湾および空港等の交通関係社会資本は近年,その整備が促進され,投資額も 第5-2表 にみられるようにいちじるしく増加したが,依然としてその相対的不足は解消されていない。
道路の現状はこれを国内の主要な道路網をなす一般国道および主要地方道の改良率,舖装率についてみると,自動車交通に支障のない改良済区間はそれぞれ70.6%,53.9%,舗装区間はそれぞれ67.6%,36.3%であり,その整備水準は低い(42年3月末現在)。大都市においても街路の整備や都市高速道路の建設が進められているが,いぜんとして交通渋滞が各所にみられる。
42年度からあらたに第5次道路整備5ヵ年計画(総額6兆6,000億円)が発足したが,この計画の概要はつぎのとおりである。
1.高速自動車国道は中央,東名,東北,中国,九州,北陸の各道や緊急を要する区間の建設を促進し,延長910km(現在336km)とする。
首都高速道路は124km(現在47km),阪神高速道路は110km(現在26km)とする。
2.一般国道は,おおむね整備を完了して改良率88.5%,舗装率92.9%とするとともに,バイパスの建設や拡幅などにとくに力を入れる。主要地方道は改良率,舗装率ともに60%台とする。
国鉄は,ひつ迫した輸送の現状を打開し,通勤輸送の改善,幹線輸送力の増強,保安対策の強化を主とする第3次長期計画(40~46年度,総額2兆9,720億円)を実施しており,42年度中には複線化239km,電化412kmが完成した。しかし幹線で複線化,電化をせまられている区間は約2,000km以上あり,幹線における輸送力のひつ迫はいちじるしい。
大都市における通勤通学輸送についても国鉄の線路増設,車両の増備等のほか鉄道建設公団による都市交通線の建設,地下高速鉄道網の整備,大手私鉄の輸送力増強計画の実施等が行なわれてきたが,混雑は依然として解消されていない。
港湾についてみると,港湾取扱貨物量の増加と船舶の大型化に対して港湾施設の立ち遅れが目立つている。41年と36年の対比でみると,全国の港湾取扱貨物量は1.80倍,入港船舶総トン数は1.61倍で,41年度末と36年度末の係留施設総延長の増加1.38倍をはるかに上まわつている。このため,係留施設等の港湾施設の増強,港域外航路の整備,大都市圏における港湾の広域的な整備等を重点とする港湾整備5ヵ年計画(43~47年度,総額1兆300億円)が43年3月閣議了解された。
なお,42年度には,東京,横浜,大阪,神戸の各港においてコンテナ埠頭を含む外貿定期船埠頭を建設管理する京浜,阪神の両外貿埠頭公団が設立された。
空港についてみると,航空需要はいちじるしく増加する傾向にあり,航空機の大型化,高速化,運航回数の増加が見込まれるので,滑走路の新設,延長,エプロンの新設,運行の安全と定期性を確保するための保安施設の整備を内容とする空港整備5ヵ年計画(42~46年度総額1,150億円,新東京国際空港を除く。)が42年3月閣議了解された。
また,東京国際空港は近い将来,行きづまりが予想されるため,現在成田市の三里塚を中心とする地区に新空港の建設が進められている。
大都市における公衆路面交通機関は,道路渋滞による運行速度の低下や地下鉄整備の進捗等により輸送需要が減少し,その経営は困難になりつつある。東京都についてみると,都電の1日当り輸送人員は,戦後の最高であつた30年度の175万人から41年度には114万人へと低下している。また,都バスについても,1日当り輸送人員は,38年度の109万人をピークにして,41年度には97万人へと低下している。このため東京都は,人件費の増大と相まつてその経営は年々悪化し,巨額の赤字を累積することとなつたため,42年7月,都電廃止を含む企業の合理化,運賃の引上げなどを骨子とする東京都交通事業再建計画を策定し,その実施にふみ出した。横浜,名古屋,京都,大阪,神戸,北九州の大都市においても同様の現象により交通事業再建計画が実施されている。
以上のような公衆路面交通機関の輸送需要減少の傾向に対して,大都市圏における国鉄,私鉄,地下鉄に対する輸送需要は,年率6%程度で増大しており,しかもこれら輸送機関における最混雑1時間当りの混雑度は200~300%にも達している。この輸送需要に対処し,また,混雑緩和を図るため,国鉄では,前述の第3次長期計画において,総投資額の約18%を通勤対策に重点的に充当しており,第2次5ヵ年計画(36年度~40年度)の約6%に比べ大幅に増加されている。私鉄では,42年度を初年度とする5ヵ年計画を策定し,新線建設,都心乗入れ,複々線化などの輸送力増強および運転保安の強化を行なうこととしている。地下鉄については,都市交通審議会の答申に基づき着々と新線建設が行なわれているが,さらに同審議会は,東京およびその周辺における地下鉄網の計画の改訂についての中間答申を43年4月に行なつた。このような既設路線の増強および新線建設投資には膨大な資金を必要とするため,その調達が大きな問題となつている。
以上のような大都市交通の問題に対し,昭和42年9月,臨時物価対策閣僚協議会は,東京都などの公営交通事業および都内乗入れ9社の乗合バスの運賃改訂を了承するに当つて,抜本的な大都市交通対策について検討を命じた。これをうけて,物価担当官会議は,都市交通部会を設けて検討した結果,43年3月,大都市交通問題は,基本的には人口,産業の急激な都市集中に根ざしているもので,単に交通の面からのみでは解決できない問題であり,政府全体として総合的な都市政策を進めていかなければならないとするとともに,具体的な交通混雑緩和策を折り込んだ報告を行なつた。また,運輸省および建設省では,それぞれ,運輸経済懇談会および土地問題懇談会を開催して,総合的な都市政策の一環として大都市交通問題および土地問題を検討するなど新しい動きがみられた。
40年度から国鉄は前述の第3次長期計画を遂行中であるが,その財政は,輸送構造の変化による収入の伸び悩み,人件費の増嵩,第3次長期計画遂行に伴う資本費の増加のために,40年度は1,230億円,41年度は運賃改訂が行なわれたにもかかわらず601億円,42年度は1,147億円(補正後予算額)の赤字を計上し,42年度末には約1兆7,000億円の累積債務をかかえるまでに悪化している。そこで,とくに緊急を要する通勤輸送改善の資金の一部を確保するため,43年4月から定期旅客運賃が改訂された(通勤,通学1か月定期の引上げ率はそれぞれ37.2%,40.9%で,年間増収見込額は約300億円)。しかし,赤字を運賃料金で補なうとすれば周期的な値上げを余儀なくされるおそれがあり,これは物価対策の見地からも重要な問題であるため,物価安定推進会議は公共料金安定化について審議した結果,経営再建特別委員会を設置して企業内外の問題を含めた国鉄財政再建方策を樹立すべき旨を43年4月に提案した。これをうけて,43年5月から運輸省において国鉄財政再建推進会議が開催され,道路輸送,内航海運,航空等の輸送手段を含む総合的な交通体系のうちにおける国鉄輸送のあり方,国鉄経営の刷新,将来における国鉄輸送のあり方と開発利益の吸収および国鉄財政基盤の確立について抜本的な対策の検討を開始した。
立ち遅れた物的流通部門の近代化は,流通経費の節減等国民経済の発展に及ぼす効果は大きい。最近物的流通近代化の必要性は認識の度が深まり,個々にその効果を現わしはじめている。物資の形状と性質に適合した効率のよい流通方式として,サイロ倉庫と粉粒体専用貨車との結合による穀物などのばら保管輸送,自動車,石炭,石油,セメント等の専用の船舶,車輌による輸送が積極的に進められている。荷役費,包装費の節減を目的とするユニット・ロード・システムとして,国鉄のコンテナ輸送網(42年度末取扱駅数137)はほぼ全国主要都市間にわたつて形成され,内航海運においてもコンテナ専用船の開発が進められており,パレットについては,製紙,印刷,出版業界,ビールその他飲料品関係業界等では一貫パレチゼイションが相当普及してきている。ターミナル施設については,43年2月東大阪トラックターミナル,6月京浜トラックターミナルが開業し,倉庫,卸センター等関連施設の機能と連けいをもつ流通センターの実現に一歩踏みだした。
今後の物資流通の量的拡大と質的変化に対処し,流通の生産性を向上するためには,専用輸送方式と協同一貫輸送方式に適合した輸送,保管,荷役,包装の均衡のとれた近代化が不可欠である。
42年の世界の海運市況をみると,6月にぼつ発した中東動乱に伴うスエズ運河閉鎖のため欧州向け石油が希望峰回りとなり,タンカーの船腹需給がひつ迫し,油送船運賃指数(ノールウェージャン・シッピング・ニューズ)は,年間平均で前年の61.9から113.7へ,これにつれて不定期船運賃指数(英国海運会議所)も年間平均で前年の113.5から120.5へと上昇した( 第5-1図 )。
42年のわが国の貿易量は,輸出25百万トン(対前年比0.4%増),輸入285百万トン(同24.0%増)であつて,輸出は前年(6.3%増)に比べ停滞したが,輸入は前年(15.3%増)を大幅に上回る伸びを示した。
一方,わが国の外航船腹量は,39年度からはじまつた船腹拡充計画の進捗により42年6月末で1,302万総トン(世界第5位)に達し,前年に比べて224万総トン,20.8%の増加となり,世界商船船腹量の対前年伸び率6.4%を大幅に上回つている。
これらの大量船腹拡充の結果,邦船の輸出積取比率は前年の37.0%から37.4%ヘ,輸入積取比率は45.9%から47.0%へと上昇した。
42年の海運国際収支は,積取比率が輸出,輸入とも若干改善されたにもかかわらず,油送船運賃の急騰による外国船スポットものへの支払い増と大幅な輸入量増加による支払い増のため前年より208百万ドル悪化して798百万ドルの赤字となつた( 第5-3表 )。
42年度の海運業の収支状況(整備計画提出済み41社)をみると,総収入は5,179億円,償却前利益は995億円となり,前年にくらべてそれぞれ14.4%,10.4%と増加した。再建整備発足当時巨額に達していた減価償却不足額(662億円)および元本約定延滞額(934億円)は,43年3月末にはそれぞれ4億円(前年3月末46億円),47億円(前年同149億円)と順調に減少しており,すでに償却不足を解消した企業は37社,約定延滞を解消した企業は28社に達し,その他の企業も再建整備の目標期限である44年5月末までには,それぞれ解消できる見通しにある。
なお,計画造船に係る開銀融資に対する政府の新規利子補給契約の締結期間は,42年度限りであつたが,さらに1年継続されることになつた。
日米間定期航路に,42年9月から米国船会社のコンテナ船がはじめて就航し,わが国も43年秋から同航路に6隻のコンテナ船を就航させる予定となつており,わが国をめぐる定期航路も本格的なコンテナ船時代を迎えようとしている。
わが国の海運企業は,再建整備の進捗に伴い,自立体制を確立しつつあるが,自己資本比率は欧米海運企業に比べて低い状態であり,今後引き続き大量船腹建造を推進し,激化する国際競争に対処するには,自己資本の充実等企業体力の強化が大きな課題となつている。このため,42年9月運輸大臣は,「再建整備終了後の海運対策のあり方」について海運造船合理化審議会に諮問し,同審議会は,現在その検討をすすめている。
外航船の船腹拡充は,経済社会発展計画に基づいてすすめられているが,貿易規模は当初計画を上回つており,現行の建造規模では海連国際収支を改善していくことが期待できない情勢となつている。43年4月に開かれた最高輸出会議においても国際収支の均衡回復を図るためには,輸出の振興に加えて貿易外収支改善策の樹立が必要であるとして,外航船の大量建造を軸とした海運国際収支改善の長期的計画の策定が要望されている。
42年のわが国への来訪外客数は,前年比10%増の47.7万人とやや伸び悩んだ。これは,42年は欧米を中心として世界の景気が停滞的で,世界貿易の伸びも漸次鈍化したことによる面が大きいと思われるが,5月の香港暴動,6月の中東動乱等の政情不安による旅行気運の抑制も働いたものと思われる。国別では,わが国への来訪外客数の約半分を占めるアメリカの伸びが平均を下回り,欧州が依然低い伸びであつたのに対し,ベトナム要因等により景気の好調がつづいた韓国,中国などのアジア諸国からの外客の伸びが平均を上回つた。
出国日本人数(沖縄への旅行者を除く。)は,26.8万人で,前年比26%増といぜん高い伸びを示した。これは,国民所得の向上による観光旅行者の増加による面が大きい。行先別では,とくに中国,韓国など近隣諸国向けの伸びがいちじるしい。
そのため,旅行国際収支は, 第5-3表 の通り悪化した。
一方,世界(ICAO加盟諸国)の国際定期航空の輸送人キロは,42年には対前年比15.4%の増であつたが,これは前年が米国航空ストによる低調な伸びであつたためであり,40年以後の年平均伸び率でみると,8.7%程度にすぎず(31~40年の年平均伸び率は14.7%),前述の世界の景気,政治情勢を反映して低調であつたといえる。これに対し,わが国国際定期航空は,対前年比34%増の35億人キロといぜん高い伸びを示し,世界におけるシエアを前年の2.8%から42年には3.3%(世界第8位)へと高めた。路線別では,一部路線の廃止により41年を若干下回つた南回り欧州線を除き,いずれの路線も順調な伸びを示し,とくに太平洋ニューヨーク線,韓国線および沖縄線の伸びがいちじるしい。つぎに,東京国際空港における日航機利用状況をみると,外国人は,前年の23.2%から26.9%ヘ,日本人は,51.6%から53.4%へ,合計で31.0%から34.8%へと上昇した。この日航機利用率は,東京国際空港発着航空機の総便数に占める日航機の比率32.1%をやや上回つている。このような好調な輸送実績により日航の国際線における経常利益は,41年度の48億円から42年度の56億円へと18%の伸びを示した。
以上により,航空国際収支は, 第5-3表 の通りやや好転した。
しかしながら,ジャンボ・ジェット,S.S.T.などの新鋭機材の登場に伴う国際競争の激化に加えて,わが国国際航空のドル箱ともいうべき太平洋線に,明年以降,米国航空企業のうち,既に運航を行なつている2社は新たな路線を獲得し,新しく2社が1進出することがほぼ確実視されており,今後のわが国国際航空を取りまく環境は益々厳しくなると思われる。
42年度の国内通信は,各通信サービス間の増加率の格差が著しく( 第5-2図 ),データ通信などの新たなサービスの出現と相まつて,ここ10数年来徐々に進行して来た通信需要の構造変化をさらにおしすすめる結果になつた。 第5-4表 に見るように,電話および加入電信のシエアが拡大しているのに対し,他のサービス,とくに郵便および電報のそれは,いずれも減少している。これは経済の大型化に伴い,需要者の要求が迅速性ないし即時性に重きをおくようになつたとことを示しているといえよう。また放送については,量的な拡大がほぼ限界に達したのに対し,テレビのカラー化の進行,UHF帯の導入と民放テレビ番組系統の複数化など質的な転換期にさしかかつたことが注目される。
郵便については,通常郵便9,830百万通(対前年度比102.6%),小包郵便156百万個(同106.8%)と,ともに増加率が前年度なみにとどまり,とくに通常郵便の2年続きの不振が目立つた。通常郵便の種別では,第1種0.5%増,第2種3.8%増,第3種5.0%増,第4種5.7%増で,第1種がきわだつて不振であつた。なお,第1種中の定形郵便物の割合は,87%と前年度の86%に比べて微増にとどまつたが,郵便物の規格化がこの線に定着するかどうかをいうのは尚早であろう。小包は6.8%増と前年度の6.0%増をわずかに上回つた。
電信電話については,42年度をもつて「電信電話拡充第3次5ヵ年計画」が終了した。この間に電話の加入数は約2.1倍に増加して989万加入に達した。その結果内線電話や公衆電話を含めた総電話機数では約1,491万個で英国を抜いて世界第2位となつている。しかし普及率においては100人当り13.0個で世界第16位(42年1月現在),市内ダイヤル化率でも同じく第16位であり,まだ欧米諸国には及ばない。また最近の電話需給状況をみると 第5-3図 のとおりで,新規申込数が架設数を上回り, 充足率 は,34~37%で積滞数が年々増加してきている。とくに人口急増地区における需要のひつ迫が著しい。
なお,41年度以来問題となつていた電話料金については,43年5月に設備料の引上げが行なわれ,単独加入については3万円となつた。
電報は,電話および加入電信の普及,サービスの向上等によつて,通数は漸減の傾向にあり,42年度の総通数は約7,767万通で,最も通数の多かつた38年度の9,461万通と比べ約15%低下してきている。
加入電信は,その普及とサービス対象地域の拡大により利用度数の伸びが大であり,42年度利用度数は約4,289万回で,5年間で約5.2倍に増加している。
公社の専用線サービスについては,42年度総回線数は約15万回線に達し,5年間で約52%の伸びを示している。とくに最近は諸企業や官公庁において事務量と情報量の増大に対処するため専用線によるデータ伝送を行ない,事務の合理化,各種情報の迅速な処理を図ろうという傾向が強く出てきており,今後も専用線の需要は大幅に増加するであろう。
新規サービスとしては,電電公社が提供するポケットベルサービスとデータ通信サービスがあげられる。
とくにデータ通信は,たとえば,国鉄の座席予約システム(みどりの窓口)のように,単に企業経営の合理化にとどまらず,サービスの向上という点で国民生活に大きな利便をもたらすもので,このようなところから,急速に需要が高まつている。電電公社がデータ通信サービスを提供するものとしては,43年7月に運用開始する予定の地方銀行協会むけの為替交換システムなど未だ一,二の例をみるにすぎないが,公社が提供する専用回線により,自社内の情報処理を行なう自営システムは,次々に実現しつつある。このような高度の情報処理システムの実用化には,電子計算機(ハードウェア)と並んでその利用技術(ソフトウェア)の研究開発が不可欠であり,これを目的として,42年10月財団法人日本情報処理開発センターが設立された。
放送については,NHKの受信契約甲(テレビおよびラジオ)が42年度末2,027万件と2,000万件をこえたが,増加率は5.3%と前年度(5.6%)をさらに下回わり,テレビの普及が飽和に近づきつつあることを物語つている。これに対し,カラーテレビの普及は,42年2月末の1,000世帯当り16台から43年2月末の同54台へと増加し,カラー番組時間数(NHK)も1日平均4時間24分から7時間30分へと大幅に増えた。さらに,43年度は,1日10時間のカラー放送を予定するなどテレビのカラー化の傾向はいちだんと強まつた。これに伴い,カラーと白黒との放送コストに差があるところから,43年4月からNHK受信料(契約甲)がカラー白黒の2本建(それぞれ月額465円,315円)となつた。
なお,テレビの番組系統数は,とくに民放について,大都市およびその周辺とその他の地方との格差が大きかつたが,これを是正するために,今までのVHF帯のみでは周波数に余裕がないので,新たにこれより周波数の高いUHF帯を使用して番組系統の増加が図られた。
一方,ラジオは,42年度末NHK受信契約乙(ラジオのみ)をみると,212万件であるが,42年7月の放送法改正により,ラジオだけでテレビをもたない聴取者は,NHKと受信契約を結ばなくてもよいこととなり,42年度限りでこの契約はすべて解除された。
国内通信施設の現状をみると,まず郵便は,42年度末の郵便局数19,861局(簡易郵便局3,086局を含む。),うち集配局5,699局である。郵便局舎の改善は,42年度中新増改築面積510,654平方メートルが行なわれた。
なお,注目されるのは,都内から地方あての大型通常郵便物または小包郵便物を集中的に処理するため,東京に郵便物集中処理局2局(計37,758平方メートル)が開設されたことである。この局は,全局コンベヤベルト,トウベヤライン,コンテナエレベータなどの局内運搬設備,打鍵式小包区分機を備えている。
機械化,機動化投資としては,郵便物自動選別機8台,自動取揃押印機10台,自動読取区分機2台が製作され,軽4輪車235台,スクーター210台,モーターバイク2,548台が増備された。
公衆電気通信については,38年度から42年度に至る第3次5ヵ年計画で,約1兆8千億円にのぼる投資によつて電話局の建設1,188局,市外回線の増設26.2万回線,加入電話の架設511万個,農村集団自動電話の架設42.1万個,公衆電話の増設15.9万個,加入電信の増設16,700加入,専用線の増設5.1万回線を行なつた。その結果,自動式電話局の数は1,876局で第3次5ヵ年計画がはじまる前の37年度末に比べると約2.6倍となつている。市外回線数は43.4万回線で37年度末に比べて約2.5倍となり,市外ダイヤル化率は37年度末の56.6%から84.4%に向上した。
加入電話は989万加入で37年度末478万加入の約2.1倍に達した。昭和39年度より発足した農村集団自動電話は農林漁業地域の強い需要によつて年々大きな伸びを示し,42年度の架設数は対前年比が1.6倍にも達しており,地域開発の推進に寄与している。
公衆電話は国民生活の近代化に伴い電話使用の機会が高まつたことを反映して設置の要望が強く,42年度末総個数は33万個と5年間で約1.9倍となつている。33万個のうちダイヤルで市外通話がかけられる「自即公衆電話」は3.7万個で11%に過ぎないが,今後大幅に設置されていくことになろう。
加入電信はその機能と操作の簡便性から最近の事務合理化の要求に合致して需要の伸びが著しく,42年度末加入数は2.2万加入,サービス対象地域は266都市にのぼり,5ヵ年間でいずれも約4倍に増加した。今後も中小企業を含めた広い分野で利用の増加が見込まれている。
農林漁業地域における簡便な通信連絡の手段として独自の発達をとげている有線放送電話は,42年度末2,374施設(前年度より86減),316万加入(同10万増)となつた。うち,公社電話と接続しているものは,632施設,87万加入である。この有線放送電話には,制度上,加入区域や公社電話との接続などについて制約があり問題とされていたが,42年10月郵政審議会から,その性格機能にかんがみ,今後もほぼ現行制度を続けることがよい旨の意見が出された。
無線局(放送局を除く。)は,42年度中50,365局が増加し,434,331局となつた。内訳は,固定局10,148局,陸上移動業務111,994局,海上移動業務27,293局,航空移動業務924局,その他283,972局である。また,地下鉄の列車電話などに用いられているいわゆる高周波の通信設備(電力線搬送および誘導無線)は,2,049施設がある。
放送については,42年度中テレビ局331局,ラジオ局7局が開局されて,それぞれ1,845局および623局となつた。この中には,わが国最初の大電力UHFテレビ局であるNHK徳島教育放送局が含まれている。そのほか,民放19局のUHFテレビ局が予備免許を受け,43年秋以降放送開始の予定であり,この結果,静岡等17道府県で民放番組が1系統ずつ増えることになる。また,民放事業者は,15社増えて67社(42年度末)となつた。
郵便事業の課題は,郵便送達速度の向上安定とコスト上昇の抑制であるといえよう。
前者については,すでに39年の深夜伝送便,41年の通常郵便物航空機塔載などの一連の施策がとられているが,今後も,近距離あて郵便物のための自動車輸送の拡充,国鉄の輸送近代化に即応して急行貨物列車利用による拠点間輸送網の整備,電車,気動車による輸送の拡充などが計画されている。
後者については,従来おくれがちであつた郵便作業の機械化が中心となる。東京に機械化を大幅にとりいれた集中処理局が開局されたことは先にふれたが,43年度にもさらに1局(東京南部小包処理局)が開局の予定であり,45年度には大阪に小包処理局を設ける計画である。これらにより,大都市郵便局における局内作業能率の向上と郵便配送の合理化が期待される。
また,区分作業の機械化のために,自動読取区分機が開発された。これは,郵便物に記載された郵便番号を光学的に読みとつて区分するもので,人力の7倍の能率があり,従来全く手のつけられていなかつた区分作業の自動化に一歩を踏み出した点で,画期的な意義を有するものである。さらに,この区分機の導入に必要な郵便番号制度が,43年7月から実施されたが,この郵便番号は,単に機械化の手段というだけでなく,人力による区分をも簡略化し,郵便送達速度の向上とコストの抑制に寄与するものであつて,その成果が期待されている。
公衆電気通信については「申し込んでもつかない電話」の解消と経済社会の要求に即応したサービスの提供が大きな課題であり,この目標達成のために,電電公社は,第3次5ヵ年計画の終了に引続き43年度を初年度とする第4次5ヵ年計画の大綱を策定した。これは,(I)住宅用電話の普及を中心とする加入電話930万個および農村集団自動電話130万個の架設,(II)自即公衆電話を中心に公衆電話15万個の増設,(III)自動式電話局2,300局の建設,市内通話区域の統合拡大1,400局の実施,(IV)市外電話回線40万回線の増設,(V)加入電信3.8万加入の増設,(VI)経済社会活動の高度化に即応した新規サービスとしてデータ通信サービス,画像通信サービス,ポケットベルサービス等の推進,拡大を骨子とするものである。この計画達成には,総額3兆数千億円にのぼる建設資金を必要とするが,電電公社は,28年以来料金が据え置かれている一方,住宅電話の増加に伴う1加入当りの収入の減少が見込まれ,さらに債務償還の増大,電報の赤字などその経理を圧迫する要因をかかえており,この資金調達にはかなりの困難が予想される。
以上みたように,通信関係投資には,かなりみるべきものがあるにもかかわらず,全体としての立ちおくれは否定できず,とくに,電話の供給不足と郵便の合理化投資の立ちおくれが指摘される。
今後は,個々の通信施設の単なる量的な拡充にとどまらず,各サービスの需要の動向を把握し,総合的かつ効率的な通信体系を確立することが必要である。
42年度の国際通信も,国内通信と同様,電話と加入電信の好調と他のサービスの不振とがきわだつた対照をみせた( 第5-5表 )。
まず郵便は,通常郵便が発着合計で前年度比3.8%増(前年度11.0%増)と伸び悩み,小包郵便も同じく5.0%増(同7.0%増)にとどまつた。電報も同じく5.0%増と前年度(7.4%増)を下回つた。
これに対し,電話は,28.5%増と前年度の37.7%増にはおよばぬながらいぜん大幅な増加を示し,加入電信も22.2%増と前年度(19.7%増)を上回つた。
この結果,電報,電話,加入電信の通数度数比は,41年度の73:9:18から42年度69:11:20に変化した。
専用回線は,電信が41回線増の158回線,電話が15回線増の48回線となつた。NHKの海外向け短波放送(ラジオジャパン)は22ヵ国語,18方向,延べ36.5時間(1日平均)であつた。
郵便便数は,発着合計で船便269便(月平均),航空便186便(週平均)であつた。
電気通信施設は,42年度末で短波無線321回線(電信239回線,電話82回線,ただし放送を除く。)海底ケーブル311回線(電信187回線,電話124回線)通信衛星回線29回線である。対地別では米州向け201回線,アジア向け226回線,ヨーロッパ向け106回線であるが,米州向けに比して,アジア,ヨーロッパ向けの回線容量のひつぱくが指摘されている。
この対策として41年度から着工した韓国向けマイクロ波見通し外通信回線(60回線)は,43年6月に運用開始しており,またシベリア経由ヨーロッパ向けの日本海海底同軸ケーブル(120回線)も44年5月開通を目標に工事中である。
衛星通信地上設備は,41年度着工の茨城通信所が連絡回線等を除き,概ね完了したのにつづき,44年にインド洋上に打上げ予定のインテルサット3号衛星用として山口通信所の建設が進行中である。