昭和43年

年次経済報告

国際化のなかの日本経済

昭和43年7月23日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

4. 中小企業

(1) 42年度の概況

41年の景気回復期,42年前半の好況期において中小企業の生産,売上げ活動も活発な動きをみせ,企業の収益率は35~6年につぐ高水準を示した。この間,中小企業の販売条件はそれまでの悪化がとまりやや改善の方向に向かつた。これと同時に金融機関の貸出増加などもあつて,中小企業の資金ぐり難はかなり薄らいだ。しかしながら42年9月の景気調整策の実施をさかいに中小企業向け貸出はにぶり,借入金利も上昇に転じた。また,中小企業の販売条件はふたたび悪化の傾向をみせはじめ,資金ぐり難を訴えるものがふえだした。前々回(36~7年),前回(39~40年)の景気調整期にくらべると,今回の景気調整策が中小企業に与えている影響は相対的に軽微であるが,41年春に小康を保ち,その後の好況期において増加した企業の整理倒産件数は42年度下期から43年度にかけてひきつづき増加傾向をたどつている。このように42年度の前半と後半とでは中小企業の動きには変化が認められるが,これと同時に中小企業をめぐる内外の環境は大きく変容を示しはじめている。そこで以下42年度を中心とする中小企業の動向と,直面する問題についてみよう。

(2) 鈍化した生産活動

41年度の景気上昇局面で回復した中小製造業の生産,売上げ活動は,42年度には上期から下期にうつるにしたがつて,その増勢はしだいに鈍化の方向をたどりだした。この間の動きを日銀調べ「中小企業短期経済観測」でみると, 第4-1図 に示すように,中小企業(製造業)の生産は40年秋を底に急速に回復傾向をたどり,42年1~3月には前年同期を24%上回つたが,42年度に入ると4~6月以降生産の増勢は低下を示しはじめ,引締め開始2四半期後の43年1~3月には18%増へと下がつた。今回の景気調整過程でも前回と同様に中小企業の生産の増勢テンポは大企業よりはやく下がり,このため42年度の生産は前年度比19%増と,大企業の23%増を下回つた。

第4-1図 中小企業,大企業の生産動向(製造業)

一方,卸売業と小売業の販売動向を通産省調べ「商業動態統計季報」でみると, 第4-2図 のごとく,卸売業の販売額は40年後半からふえ41年度には前年度比26%増,ついで42年度も27%増と増加した。とくに42年度には鉱物・金属材料,機械器具などの販売増加が目立つた。一方,小売業(百貨店を除く)の売上げは卸売業にややおくれて41年後半から増勢に転じ,42年度の販売額は前年度比15%増と41年度の10%増を上回つた。業種別には飲・食料品,織物・衣服などに比較して家具・じゆう器の売上げ増加がいちじるしかつた。卸売業と小売業の動きを対比すると,卸売業は景気変動にかなり左右され今回の景気調整においても43年1~3月には売上げの増勢は低下を示したが,これとは逆に小売業では旺盛な個人消費需要に支えられて景気調整下においてもふえつづけた点が特徴的であつた。

第4-1表 製造業,卸小売業の生産,販売額の推移

第4-2図 卸売業,小売業の売上げ動向

このように42年度の中小企業の生産,売上げ活動は下期の景気調整過程で小売業はしりあがりに活発化したが,これとは対照的に中小製造業の増勢はかなり鈍化を示した。ここでさらに中小製造業について業種別,規模別,業態別にその動きをみてみよう。

第4-3図 は前回の不況期(39~40年)から41~2年の好況期,さらにその後の引締め期における中小製造業の売上高の推移を業種別,業態別,規模別にみたものであるが,これによると,40年の不況期に不振の度合の大きかつた重工業関連中小企業の売上高は41年に入ると急速に立ち直り41年12月には前年同月を34%上回つた。その後,売上げの増勢は漸次鈍化したが,42年度下期においても増加率は軽工業関連中小企業をかなり上回つている。重工業関連中小企業のなかでは,ミシン,双眼鏡,クリスマス用電球など軽機械の一部業種が輸出の不振から生産活動は低迷をつづけたが,設備投資需要の増大に支えられた産業機械,建設機械,工作機械などの独立中小メーカーは景気調整後もフル稼動をつづけ年度間を通じて高水準の生産を続けた。また,自動車,造船,重電,家電などの下請中小メーカーでも親企業から受注は引締め後も衰えをみせず活発な動きを示した。これら業種の下請である銑鉄鋳物,ダイキャスト,機械加工,板金加工,部品組立などの下請中小企業では1次下請ばかりでなく2次層以下の下請でも増産におわれ,景気調整後の生産活動もひきつづいて活発であつた。

第4-3図 中小企業(製造業)の売上高推移

このような重工業関連中小企業に対して軽工業関連中小企業も41~2年の景気上昇局面で売上高はかなり増加を示したが,42年度下期になるにしたがつて売上げの増勢はかなり鈍化した。42年度の軽工業関連中小企業の動きを業種別にみると,重工業関連中小企業以上に明暗があつた。たとえば建設需要,設備投資需要に支えられたコンクリート2次製品,石膏ボート合板,工業用ゴム製品や,旺盛な消費需要に支えられた家具,金属洋食器,軽金属日用品,ガラス製品などではいずれも好調な動きを示した。また輸出の増加したビニールカバン,ゴムはきもの,洋傘などいずれも順調な動きを示した。しかしながら輸出雑貨のなかでは陶磁器,がん具,造花,真珠などが低迷ないし不振を示した。また繊維では合繊織物を除いて綿スフ織物,毛織物,絹人絹織物や既製服,メリヤスなどの2次製品を含めていずれも42年度の生産は停滞のうちに推移した。42年々央以降,綿糸,生糸などの高騰の影響をうけて綿織物,絹織物などの中小機屋の採算悪化が目立ち,このため産地によつては一斉休業による操短を行なつたところもあらわれ,繊維産業の不振は43年度に入つてもつづいている。

こうした中小製造業の動きを業態別および規模別にみてみると,同じく 第4-3図 に示すように,特徴的なことは,1つには42年度下期の景気調整過程のなかで下請中小企業の売上げは独立中小企業ほどいちじるしい増勢鈍化を示していないことである。下請中小企業は40年なかばに深刻な不況に見舞われたが,その後いちじるしい回復をとげ,42年度間を通じて親企業からの受注増加がつづいた。とくに金属,機械関係の下請でそれは顕著であつたが,親企業自体の生産能力不足や下請を活用しようとする親企業の意図がつよく働いたことが下請中小企業の好調な原因であつた。いま1つは小規模企業ほど42年下期における売上げの増勢鈍化が目立つたことである。小規模企業では景気の回復がおくれ,しかも景気後退期には相対的にはやく悪化するため好況期間が短かいというパターンは今回の景気調整過程でもまつたく同じであつた。

(3) 再び悪化を示す中小企業の経営

(一) 決済条件と資金ぐり

前述のように42年度の中小企業(製造業)の生産,売上げ活動は月をおつて増勢鈍化の方向をたどつたが,中小企業の経営も再び悪化の方向を示しはじめた。たとえば, 第4-2表 にみるように景況の「悪い」とするものは41年の景気回復初期(41年3月)から景気上昇局面(42年3月)にかけて減少したものの,景気調整実施半年後の43年3月には再び「悪い」とするものがかなりふえた。すでに生産,売上げの動きのなかでみたように,景況も軽工業関連中小企業,独立中小企業,小規模企業ほど悪化を示すものが多くなつている( 第4-2表 参照)。こうした景況の悪化のなかで,中小企業の販売条件も悪化を示しはじめた。41~2年の景気上昇期には販売条件はかなり好転を示したが,42年10~12月以降再び悪化を示しはじめ,引締めの影響は販売条件の悪化というかたちでおよんできた。ただ売掛期間,現金入金比率は引締め後それほどきわだつた変化を示していないが,受取手形サイトは再び長期化傾向をみせはじめた。こうしたなかで中小企業の購買条件は引締め後ほとんど変化をみせず,このため販売条件と購買条件の差,つまり売掛期間と買掛期間,現金入金比率と同支払比率,受取手形サイトと支払手形サイトなどのひらき(与信超過幅)は今回の引締め過程でもわずかにひろがつた。ただ前回(39~40年)の引締め期に比較するとその変化はかなり小幅であるが,このことは1つには中小企業の販売条件,すなわち売掛期間,受取手形サイトなどがすでに長期化しているため極端に悪化させることがむずかしくなつていること,第2には銑鉄鋳物,機械加工などの下請の例にみるように需要の大幅な拡大のなかで,下請中小企業の立場が相対的に有利になり,従来のような親企業の一方的なシワ寄せが困難になつたこと,第3は自動車,家庭電器の下請のように,一方で製品価格の切下げないしは品質向上の要請をうけ,それとの交換で販売条件が据置かれるというものもあつた。もつとも下請代金支払遅延等防止法にもとづく公正取引委員会による親企業に対する勧告件数は40年度の208件から41年度には313件にふえ,ついで42年度には464件へと増加しており,親企業の下請企業に対するシワ寄せがへつたわけではない。( 第4-4表 参照)

第4-2表 中小企業の景況(製造業)

第4-3表 中小企業(製造業)の決済条件推移

こうした中小企業の決済条件の変化に対して景気調整策の実施のなかで大きく変わつたのは中小企業の借入れ状況であつた。中小企業(製造業)の借入れ難易感をみると 第4-4図 に示すように今回の場合も前回とまつたく同様に引締めをさかいに借入れ難はひろがり,短期資金,長期資金ともに借入れ難を訴えるものが増加した。とくに設備資金,長期運転資金などの長期資金の借入れ難が目立つようになつた。こうした借入れ難の増大と,比較的活発であつた生産活動とがかさなりあい中小企業の資金ぐりも漸次窮屈化の方向をたどりだした。もつとも前回の引締め期にくらべると中小企業の資金ぐり難は一部の企業を除いて相対的には,ひつ迫感はかなり薄かつた。

第4-4表 下請代金支払遅延等防止法にもとづく処理状況

第4-4図 中小企業(製造業)の借入れ難易と資金ぐり

他方,42年度における中小企業向け貸出(残高増減額)をみると,4~6月4,458億円増,7~9月9,655億円増,10~12月1兆1,160億円増,43年度1~3月2,972億円増となつているが,前年同期比でみると,4~6月46.3%増のあと,7~9月,10~12月ともに前年同期と同水準にまで落ち込み,さらに43年1~3月には35.5%減と大幅に減少した。この間,大企業向け貸出もその増勢は期をおつて鈍化を示したが,いぜん前年同期を上回り,中小企業向け貸出とは対照的な動きを示した。前回の景気調整過程と比較すると中小企業向け貸出の低下は引締め後2四半期目(43年1~3月)の時点ではそれほどいちじるしくなかつた。これは貸出増加額規制の対象となつた都市銀行を含む全国銀行の中小企業向け貸出は今回の引締め期にも前回と同様にかなり減少を示したが,相互銀行,信用金庫,信用組合などの民間系中小企業専門金融機関や,補完的な役割を果している商工中金,中小公庫,国民公庫などの政府系中小企業専門金融機関の貸出は引締め実施後もそれほど減少を示さなかつたためであつた。とくに前回の引締め期にコールレートの大幅な上昇のなかでコールによる資金運用をはかつた民間系中小企業専門金融機関は,今回の引締め期にはそれほどコールレートが高騰を示さなかつたことや,41~2年の金融緩和期に全国銀行との貸出競争を行ない引締め後も優良中小企業の確保につとめたことが目立つた( 第4-5図 参照)。

このような引締めによる貸出の減少のなかで中小企業に対する貸出金利もしだいに上昇をみせた。42年9~10月には一部中小企業で金利が引上げられ,ついで43年1月に入つてほとんどの中小企業の金利が引上げられた。当庁調べによれば中小企業(製造業)の単名手形借入金利は42年6月の日歩2銭2厘7毛から43年3月には2銭2厘9毛へと0.9%あがり,また手形割引金利もこの間2銭2厘8毛から2銭3厘1毛へと1.3%上昇した。

第4-5図 中小企業向け貸出残高の推移

第4-5表 中小企業,大企業向け貸出(残高増減額)

(二) 収益率と財務比率

41~2年の景気回復期から好況期にかけて売上げの増大した中小企業(製造業)は,収益率も上昇した。大蔵省調べ「法人企業統計季報」によれば,中小企業(資本金200~5,000万円未満,製造業)の42年上期(1~6月)の売上高は前年同期比34%増,下期(7~12月)24%増と上昇を示し,売上高純利益率は 第4-6表 にみるように42年上期には5.4%と36年上期に匹敵する水準に回復した。42年下期には4.4%と低下したが,前年同期の4.1%を上回り,年以降もつとも高い水準を示した。42年下期には売上高の増勢は鈍化し,売上高純利益率も低下をみせたが,42年々間平均でみると売上高の前年比増加率は29%増と,41年の28%増を上回つた。この間,売上高純利益率も40年の3.2%から41年には4.0%となり,ついで42年には4.9%へと高まり,36年の4.9%と同水準の高い利益率を示した。このように売上高純利益率が回復し,総資本回転率が41年の1.76回/年から42年には1.80回/年へと上昇した結果,総資本収益率は40年の5.4%から41年に7.0%へと高まつたあと,42年にはさらに8.8%へと上昇した。

第4-6表 中小企業,大企業の収益率の推移(製造業)

第4-7表 中小企業,大企業の売上高構成比と人件費比率(製造業)

第4-8表 財務比率の変化(製造業)

以上のように42年の中小企業の収益率下期には低下を示したものの年間では,41年を上回る高収益をあげた。いま,売上高純利益率の上昇が売上原価,一般管理販売費,人件費などとどのような関係にあつたかをみてみると 第4-7表 に示すように,売上高に対する売上原価の割合は大企業とは逆に中小企業では41年の77.6%から42年には78.0%へと上昇したが,逆に一般管理販売費比率はこの間低下し,このため売上高営業利益率は41年の6.3%から42年には6.9%へと高まつた。この背景には中小企業の人件費,減価償却費の伸びを上回る売上げの増加によつて,人件費比率,減価償却費比率がいずれも相対的に低下したことが働いている。このほか利子割引料を含む営業外費用比率(対売上高)の低下も利益率を引上げるプラス要因になつた。

一方,このような42年における収益率の回復のなかで,中小企業の財務諸比率も 第4-8表 にみるようにわずかではあるが改善した。収益率の向上によつて現金・預金が増加し,決済条件の悪化が小幅にとどまつたことなどから当座比率や流動比率が大企業とは逆に41年にくらべて上昇し短期の支払い能力はわずかながらも高まつた。また中小企業の自己資本比率は大企業の自己資本比率を下回つているが,傾向的に悪化をたどる大企業とは対照的にこのところほとんど横ばい状態を示している。これは借入金や買入債務が増加したにもかかわらず,収益の増大により自己資本も増加したためであつた。さらに固定比率,固定長期適合比率なども41年にひきつづいて低下し,資本の固定化度合はさがり,長期資金の面で若干ながらゆとりを示した。もつともこのような中小企業の財務比率には改善のあとがみられるが,これとは逆に負債比率,借入金対自己資本比率は40年から41年にかけて低下したあと42年には再び上昇を示し,大企業の同比率をさらに上回るなど無視できない面も残されており,42年の好況のなかで中小企業の財務内容がすべての点にわたつて改善されたわけではなかつた。

(三) 設備投資の動き

42年度下期の景気調整策の実施で中小企業をめぐる金融情勢はしだいに変化を示しはじめたが,こうしたなかで中小企業の設備投資活動は根強い投資意欲を示す大企業とは対照的に下期になるにしたがつて沈静化の傾向をつよめていつた。中小企業の設備投資の動きを「法人企業統計季報」でみると, 第4-6図 に示すように前回(39年)の引締め期にも急速に減少し,中小製造業では40年10~12月,中小卸・小売業では40年1~3月にはいずれも前年同期にくらべて2割減にまで落ち込み,沈滞の度合は前々回(37年)の引締め期を上回るものであつた。しかしながらその後の景気回復にともなつて再び中小企業の設備投資は大企業よりはやく,しかも大企業以上のテンポで増勢を示した。極度に沈静したあとの反動増という面もあるが,投資の増勢は33年,38年に匹敵するほどの勢で高まつた。40年なかばから41年にかけての金融の大幅な緩和のなかで,中小企業の投資意欲は盛り上がつたが,この要因となつたのは需要の急増によつて中小企業の生産能力の不足が目立ちはじめたことや,賃金上昇に対応するための労働から資本への代替投資,さらには福利厚生施設などの人手不足対策などであつた。

第4-6図 設備投資の推移(前年同期比増減率)

第4-9表 設備投資動向(有形固定資産新設備)

第4-10表 中小企業(製造業)の設備投資動向

このように41年に急増傾向をたどりだした中小企業の設備投資は,中小製造業では42年に入つて増勢テンポは鈍りはじめ,また中小卸・小売業では41年なかば以降その増勢は鈍化を示した。もつとも年間の設備投資動向を法人企業の有形固定資産新設額でみると, 第4-9表 のごとく,中小卸・小売業では41年に前年比42%増のあと,42年には3.5%の微増となつているが,中小製造業では41年の33%増につづいて,42年も前年比39%増とふえている。

42年の中小企業の設備投資は中小製造業と中小卸・小売業とでは対照的な動きを示している点が特徴的であつたが,活発な投資活動を示した中小製造業も景気調整策の実施で42年下期の増勢はかなり鈍化をみせ,この傾向は43年度に入つてもつづいている。当庁調べによれば中小企業(製造業,従業者数10~299人)の設備投資は42年度に前年度比32%増となつたあと,43年度には8%増と,その増加率はかなり低下する見込みである。42~3年度の特徴点をあげると,規模別には42年度において中規模クラスの30~99人層の伸びが相対的にやや高かつたが,43年度においては小規模企業ほど増加率が小さい。業種別にみると42年度と同様に43年度も軽工業関連中小企業が,重工業関連中小企業の伸び率をわずかに上回つているが,両者とも増勢は鈍化している。業態別には,独立中小企業にくらべて下請中小企業の投資意欲が43年度にはかなり沈静している。また投資の目的をみると, 第4-11表 にみるように,41,42年度にかなり高かつた生産能力の拡充を目的としたものは43年度には下がり,かわつて合理化投資がふえる傾向にある。また新製品の生産,福利厚生施設に対するものも42年度にひきつづいて力が注がれている。規模別にみると,生産能力拡充の意欲は上位クラスの100~299人層でいぜん高い点が目立ち,また福利厚生施設に対する投資は規模の大きいほど積極的である。業種別には軽工業関連中小企業では生産能力の拡充より合理化に対する意欲がつよく,また業態別には独立中小企業にくらべて下請中小企業では生産能力の拡充を目的とする投資の意欲がひきつづいてつよい。

第4-11表 中小企業(製造業)の設備投資の目的

(4) 整理倒産の増大

以上みてきたように中小企業の42年の生産,売上げ活動は下期に鈍化傾向を示したが中小企業の収益率はかなりの高水準を保つた。しかし,他方では企業の整理倒産は中小企業を中心にふえつづけ,43年に入つても増加している。全国銀行協会連合会調べによると,銀行取引停止処分者件数(資本金100万円以上)は41年には前年比8.9%増の11,058件(月平均921件)であつたものが,42年には前年比23.7%増の13,683件(月平均1,140件)へと増加した。43年1~6月には前年同期比増加率は10.1%増と低下したが月平均件数では1,178件と高水準を示している。一方,東京商工興信所調べによる整理倒産件数は43年1~6月には前年同期比57.0%増の994件(月平均),帝国興信所調べでは同じく32.0%増の881件にのぼつている。

第4-12表 銀行取引停止処分者件数

第4-13表 資本金別銀行取引停止処分者発生比率

第4-14表 総資本収益率別にみた企業数の分布(構成比)

これまでの銀行取引停止処分者件数および整理倒産件数の動きをみると,39年なかば以降急増したあと,41年々初から年央にかけて,やや小康状態を示したが,再び41年秋ごろからふえだした。全法人数に対する倒産件数の割合である発生比率をみても, 第4-13表 に示すように40年から41年にかけて低下したあと,42年には再び高まつている。

42年および43年1~6月の銀行取引停止処分について規模別,業種別,原因別にその動きをみてみると, 第4-12表 のようになつている。規模別には資本金100~1,000万円クラスが9割以上を占め圧倒的に多く,42年の件数の増加率はもつとも高かつたが,43年1~6月には資本金1,000~5,000万円クラスのものが急増している。こうしたこともあつて負債総額は42年の前年比18.8%増(3,620億円,月平均301億円)から43年1~6月には前年同期比68.3%増(月平均429億円)へと大幅に増加した。業種別には製造業が多いが,42年および43年1~6月における増加率でみると,卸売業,建設業などの増加が目立つている。また原因別には,売上げ不振や融通手形の操作禍などによるものが多いが,増加率でみると,売上げ不振,売上金回収困難などによるものよりも関連企業倒産の波及,コスト高・人手不足・採算悪化などによるものが42年につづいて43年に入つてもふえつづけている。

最近の企業の倒産の動きをみると,41年のはじめから年央にかけてやや小康状態を示したが,好・不況に関係なく増加をつづけている。41年から42年にかけての好況局面でも売上金回収難におち入り,またこの間における金融の緩和期においても金融機関により選別の強化をうけ,融通手形の操作あるいは高利金融に依存し,ついに倒産という事態に追いこまれたものがかなり存在した。こうした背景にはきびしい企業相互間の販売競争や,人手不足にともなう賃金の上昇,合理化不足などによるコストの上昇が中小企業の経営をたえずおびやかしている。たしかに41~2年の好況期に中小企業の収益率は回復を示したが,企業間格差は拡大の方向をたどりはじめている。たとえば総資本収益率別にみた企業数の分布をみると 第4-14表 に示すように景気回復にともなつて高収益企業(8%以上)は増加したが,その反面,低収益企業(4%未満)はひきつづいて多く存在しており,しかも大企業の分布にくらべて中小企業では高収益企業と低収益企業との分布の差がいちじるしい。近代化を進めたものと近代化に立ち達れたもの,需要構造の変化のなかでそれに対応したものとそうでないものなど,中小企業相互間の格差は拡大してきた。企業倒産はある面では企業の優劣格差の顕在化という側面をもつているといえよう。

(5) 直面する問題

中小企業をめぐる諸情勢はきびしさをましてきた。景気調整の定着化により生産,売上げの増勢は43年に入つて鈍化の傾向をつよめ,またふたたび借入れ難により資金ぐりはひつ迫の方向をたどりだしている。こうした景気動向のなかで,中小企業の求人難は相変らず深刻化している。経営上の問題点をみても人手不足,それにともなう人件費上昇を訴えるものが多い( 第4-15表 )。また外国製品の流入による販売競争や,海外市場における開発途上国製品との競合がはげしさを加えてきた。さらには資本の自由化による外資系企業の進出に対処する大企業の販売強化や下請に対する品質の向上,コスト切下げの要請など中小企業に直接,間接に影響をおよぼしはじめている。

第4-15表 中小企業の当面の経営上の問題点(製造業)

このような情勢のなかで,中小企業が健全な発展をはかるためには,労働節約的な機械・設備の導入,品質,デザインの改良による製品の高級化,近代的経営管理方式の積極的な導入,専門化のほか,投資効率を高めるための協業化,共同化など近代化をより積極的に進めることが大切であろう。


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