昭和43年

年次経済報告

国際化のなかの日本経済

昭和43年7月23日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 国際収支

(1) 国際収支

昭和42年度の国際収支は,輸出の停滞,輸入の急増を主因に大幅に悪化し,総合収支は,39~41年度の黒字から一転して535百万ドルの赤字となつた( 第1-1表 )。

今回の国際収支悪化の推移をみると,輸出の鈍化,輸入の増加により貿易収支は41年第1四半期をピークに黒字幅を縮小しており,41年第4四半期にはすでに基礎的収支,総合収支はともに赤字を示していた。さらに42年に入ると海外景気の低迷も加わつて輸出がいちじるしく停滞し,輸入の増大と相まつて貿易収支の黒字幅をいちだんと縮小させた。この結果,国際収支は42年中,期を追つて赤字幅を拡大し,赤字のピークであつた第4四半期には総合収支で月平均11,5百万ドル(経常収入の10.7%)に達した。こうした国際収支の悪化に対処するため42年9月には景気調整策が実施され,43年1月にはさらに金融引締めが強化された。43年にはいると,世界景気の回復と景気調整効果の浸透から,国際収支は急速な改善をみせ,第1四半期には総合収支が均衡し,第2四半期には基礎的収支でも均衡を回復した( 第1-2表 )。

以上のように42年度を通じてみれば,国際収支は大幅な赤字であつたが,こうした国際収支の不均衡は経常収支の悪化によつてもたらされたものであつた。経常収支は40~41年度の10億ドル前後の黒字から一転して313百万ドルの赤字となつた。経常収支の悪化にはスエズ運河閉鎖にともなう運賃高騰の貿易外収支への影響という特殊要因も含まれているが,その主因は内外景気のすれ違いによる輸出の停滞,輸入の急増によつてもたらされた貿易収支の悪化であつた。貿易収支は41年度の2,055百万ドルから1,124百万ドルへと黒字幅を大幅に縮小し,基礎的収支悪化幅の8割近くを寄与したことになる。さらに貿易収支の悪化は運輸収支の赤字幅を拡大するというように輸出入に関連する他の貿易外取引の収支を悪化させるから,貿易収支悪化の実質的な寄与はさらに大きかつたとみることができる。

第1-1表 国際収支

貿易外収支も1,261百万ドルの赤字と前年度にくらべ360百万ドル赤字幅を拡大したが,これは赤字基調にある貨物運賃収支が,貿易収支の悪化,スエズ運河閉鎖の影響で赤字幅を拡大したことが主因である。そのほかでは港湾経費,延払利子などでひきつづき改善がみられたものの,保険,旅行収支や事務所経費,手数料などで赤字幅がさらに拡大し,特に特許権使用料の支払増加が大きかつた。

一方,39年度以来悪化をつづけていた長期資本収支は,741百万ドルの赤字と前年度にくらべ95百万ドルの改善をみた。これは本邦資本面で船舶,機械輸出の順調な増加により延払信用供与が増加し,また借款供与の大幅増加も加わつて流出超幅をひきつづき拡大した一方,外国資本が証券投資の受入れ増や42年末からのインパクトローンの借入増,外債発行に加え,借入金の返済も減少し,3年ぶりの流入超となつたためである。

以上のように基礎的収支が1,054百万ドルと大幅な赤字となつたにもかかわらず,総合収支の赤字は535百万ドルであつたが,これは,民間短期資本収支(金融勘定に属するものを除く)が491百万ドルの大幅な流入超過となつたためである。短期資本流入の主因は,輸入の増加にBCユーザンス利用率上昇が加わつて短期貿易信用が458百万ドルの流入をみたことである。

さらに総合収支が535百万ドルの赤字を記録したにもかかわらず,42年度末の外貨準備は1,963百万ドルで年度間114百万ドルの減少にとどまつた。これは輸入ユーザンスが大幅に増加したほか,ユーロダラーの取入れ増加がみられたためである。このため,41年度に改善した為銀部門の対外ポジションは42年度に再び大幅な悪化をみせた。

第1-1図 1.輸出入の推移(国際収支ベース)

第1-2表 国際収支の推移

このような今回の国際収支悪化の性格をみると,国内景気の急上昇という循環的要因に海外景気の低迷という偶然的要因が重なつたものであり,赤字の規模もピーク時で輸出の13.2%と小さく,輸入を横ばいとすれば,輸出の13.2%の増加で,解消する程度のものだつた。

以上のように42年度を通じてみれば国際収支は大幅な赤字であつたが,43年に入つてからの改善はいちじるしい。景気調整策実施後の国際収支改善テンポをみると,42年第4四半期に総合収支で月平均115百万ドルの赤字でピークに達した後,43年1~3月には17百万ドルの黒字,4~5月には103百万ドルの黒字と急速に改善した。このような急速な改善は輸出の伸長,輸入の落着きによる貿易収支の改善によるものであつた。貿易収支は,42年10~12月の月平均46百万ドルの黒字から43年1~3月には138百万ドル,4~5月には,240百万ドルと急速に黒字幅を拡大した。この要因をみると海外景気の上昇を主因とする輸出の伸長が大きく寄与しており,原材料の減少を中心とした輸入の落ち着きの寄与は今回の場合大きくなかつた。これに対し長期外国資本が大幅に流入したことも国際収支の急速な改善をもたらした要因となつている( 第1-3表 )。

第1-3表 国際収支改善の要因

(2) 輸  出

(一) 42年度の輸出

42年度の輸出(通関額)は10,777百万ドルで,前年度比8.2%増と,これまでのすう勢増加率(35~41年度平均16%)のみでなく,増勢のやや鈍化した前年度の増加率14.2%をも大きく下回つた。四半期別にみると41年中は比較的好調な伸びをつづけたが,42年1~3月から4~6月にかけて減少ないし横ばいとなり,7~9月にやや持ち直したが,10~12月には再び停滞した。しかし,43年にはいると一転してめざましい増勢を示している。

商品別にみると( 第1-4表 ),機械機器が17%増と比較的順調な伸びをみせたほかは軒並みに不振であり,とりわけ,比重の大きい繊維および同製品,金属及び同製品の不振が全体に大きく影響した。主要116品目の増加率を前年度と比較すると( 第1-5表 ),前年度に20%以上増加した商品は47品目もあつたが,42年度は14品目に過ぎず,逆に増加率がマイナスとなつた商品は前年度の24品目から40品目にふえた。それらの中にあつて乗用自動車,テープレコーダーなどはひきつづき高い伸びをみせた。

つぎに仕向地別にみると( 第1-6表 ),先進地域向け,開発途上地域向けいずれも伸び悩んだが,アメリカ向け,EEC向けなどの不振がいちじるしく,41年度にひきつづき,先進地域向けの伸びは開発途上国向けのそれを下回つた。また共産圏向けは前年度比大幅減少となり,輸出の増勢鈍化に大きく寄与した。

これを相手地域の輸入との関係でみると( 第1-7表 ),アメリカ市場では輸入が鈍化した以上にわが国輸出は停滞し,共産圏市場は,輸入が大幅にふえたにもかかわらずわが国輸出は減少した。これとは逆に西欧市場,アフリカ市場などでは輸入が低調だつたわりに,わが国輸出の伸びは大きかつた。なお中近東市場は6月の中東戦争で輸入が減少し,それとともにわが国の輸出も減少した。

このように市場によつて輸入増加率とわが国輸出増加率の比,すなわち輸出弾性値に大きな差が生じたのは,市場ごとに特殊な要因が強く作用したためだつた。たとえば西欧市場やアフリカ市場の輸出弾性値が高かつたのは船舶の引き渡しが集中したためである。またアメリカではわが国の輸出に占める比重の高い繊維,鉄鋼,二輪自動車などの輸入伸び悩みがいちじるしく,これがアメリカの全輸入に与える以上の影響をわが国の対米輸出に与えた。さらに共産圏市場が特に不振だつたのは,ソ連向け船舶輸出の契約中断や日中総合貿易(LT貿易)における二国間均衡主義の行きづまりなど制度的要因のほか,後にのべるような西欧の景気後退による輸出攻勢がこの市場で特に強まつたためだつた。

(二) 42年中輸出停滞の原因

以上みたように42年度の輸出は不振であつたが,時期別にみると42年中の停滞が年度全体にひびいており,43年に入つてからはきわめて好調なので,ここでは42年中の不振とその後の急増とをわけて検討することにしよう。

42年に輸出が停滞した要因は,基本的には,41年後半からの国内需要急増によつて輸出余力が低下してきたところへ,42年にはいつて先進工業国を中心とする世界景気の低迷が重なつたことにあつた。輸出に影響を与える1つの要因である相対価格(日本と他の工業国の輸出価格の比)も42年は不利化したが( 第1-2図 ),長期的にみるとわが国の価格競争上の優位性は失なわれていない。42年の輸出価格上昇にしても本報告第1部1にみたようにコスト上昇によるものではなく,内需旺盛にもとづく一部品目の選別輸出によるものであり,42年10~12月以降すでに低下傾向にあるので,価格競争力の面から,42年の輸出が停滞したとはいえない。ただ国内の卸売物価上昇が輸出余力の減退とあいまつて輸出意欲を低下させ,輸出の停滞をもたらしたことは見逃せない。

輸出余力減退の過程を製造業の生産能力と国内需要の比でみると,本報告第1部 第2図 にみたように41年中急速に低下してきたが42年にはいるとその下げ足は鈍り,7~9月期でほぼ下げ止まり,10~12月には生産能力と国内需要の伸びがほぼバランスするようになつた。これを製造業の製品在庫率でみても同様のことがいえる(40年10~12月から41年10~12月にかけて13.6%低下,このあと43年7~9月までは4.8%の低下にとどまり,10~12月以降上昇)。

第1-4表 商品別輸出通関額

第1-5表 主要商品の輸出動向

第1-6表 仕向地別輸出通関額

第1-7表 地域別輸入とわが国の当該市場別輸出

一方,38年中ごろから伸びを速めていた世界輸入は,41年4~6月以降西ドイツなどの景気後退によつて増勢がやや鈍化したが,42年1~3月までは年率6~8%程度の拡大をつづけていた。しかし41年末ごろから42年前半にかけて欧米先進諸国がほとんど一斉に景気後退に陥つたため,世界輸入も42年4~6月,7~9月と60年代になつてはじめて二期連続の減少をみた。10~12月以後は力強い回復に転じたが,42年の世界輸入増加率は5.2%と40年の8.4%,41年の9.2%を大きく下回つた。

以上みたことから42年に輸出に不利に働らく程度の大きかつたのは国内要因よりもむしろ海外要因であつたと考えられるが,いずれにしても国内の景気上昇,海外の景気後退という内外景気のすれ違いが輸出不振を顕著にしたことは間違いない。この点を過去の輸出不振期とくらべてみてみよう。

第1-2図 輸出価格騰落率国際比較

30年代以降輸出が停滞した時期としては32年第4四半期~33年第3四半期,36年第1四半期~第4四半期,37年第4四半期~38年第2四半期,そして今回の42年第1四半期~42年第4四半期の四回があげられる( 第1-3図 )。内外景気を日本の鉱工業生産とOECDの鉱工業生産によつてあらわし,輸出不振の時期についてそれらを対比してみると( 第1-5図 , 第1-8表 )32年第4四半期~33年第3四半期を除いて,いずれの時期においても内外景気の局面の違いがみられる。ただ本格的な日本の景気上昇期と海外の景気後退期が重なつたのは,今回がはじめてであつた。内外景気がすれ違うと海外需要面と輸出余力面で輸出に不利になるだけでなく,景気後退国で輸出圧力が高まり,わが国と競合する市場においてわが国のシエアを低下させる。今回も 第9表 にみるようにOECD輸出に占めるわが国のシエアは繊維品,化学品,鉄鋼などで低下し,逆に景気後退のいちじるしかつた西ドイツはこれら品目のシエアを高めている。しかし今回は内外景気のすれ違いがいちじるしかつたにもかかわらず,この期間の世界輸入増加率に対する輸出増加率の比率はむしろ前回,前々回を上回つている(第1-8表)。これはテレビ・ラジオや道路走行車両などわが国が近年競争力を強化し,比重を高めている機械の世界需要の伸びが42年もひきつづき高かつたこと( 第1-9表 ),企業の輸出比率が上昇するにつれ,輸出の限界需要的側面が弱まつていること,などによるものであろう。

第1-3図 日本の輸出不振の時期

第1-8表 内外景気の差

第1-4図 鉱工業生産の変動率

(三) 本年における輸出急増の原因

42年9月の景気調整策実施後,10~12月には輸出はまだ伸び悩んだが,43年にはいると1~3月に前期比8.8%増,4,5月平均の対1~3月平均比12.0%増と,おおむね年率40~50%のめざましい伸びを示している。輸出増加の内容を商品類別にみると,金属および同製品,機械機器,食料品などが高い伸びをみせている(本報告第1部 第20表 )。個別商品では自動車,船舶,テープレコーダーなどが昨年にひきつづき好調であるうえ,昨年不振のいちじるしかつた鉄鋼の増勢回復が大きくひびいてきており,また最近新輸出商品として登場した航空機もめざましく伸び,輸出増加にかなり寄与している。仕向地別にみるとアメリカ向けの伸びが大きく,1~5月の前年同期比増加寄与率も46%に達しているほか,他の市場もほぼ順調な伸びを示している。

本年に入つてからのこのような輸出の急増には特殊な要因も含まれている。その第1は10~12月の輸出が実勢を下回り,1~3月にその回復要因が加わつたと推定されることである。たとえば船舶の引き渡しは一部10~12月から1~3月にずれ込んでおり,その他の品目についてもポンドショックなどから輸出が一時遅延されたものと思われる。第2はアメリカ鉄鋼ストの備蓄買いが,鉄鋼輸出の増勢に大きく寄与していることである。1~5月の鉄鋼輸出増加額(前年同期比)137百万ドルのうち対米輸出は110百万ドルを占めており,アメリカの比重(42年は42%)が傾向的に高まつていることを考慮しても,80百万ドル程度は異常な増加分であつた。前回アメリカで鉄鋼ストが予想された40年上期にもわが国の鉄鋼輸出が急増し,その後減少しているので,今回も前回と同様な変動は避けられないであろう。

第1-9表 工業国輸出に占める日本のシェアの変化

第1-5図 世界輸入(除共産圏,日本)の推移

しかし輸出増加の基本的要因は海外景気の回復と輸出余力の上昇にある。

まず海外面をみると,シンクロナイズした先進国の景気後退も,42年中ごろには底をついて回復に転じ,それにともなつて10~12月ごろから輸出も増加基調に入つた(本報告第1部 第18図 )。世界輸入(共産圏,日本を除く)は10~12月前期比3.9%増,1~3月5.4%増と力強い伸びを示し,最近3回の景気調整期の中で今回はもつとも輸出環境に恵まれている( 第1-5図 )。こうした世界輸入の増勢にはアメリカの年率50%をこえる輸入の急増が寄与しているが,欧米先進国の景気上昇は先進一次産品国や開発途上国の輸出に好影響を与え,その輸入力を高めつつある。

つぎに国内面をみると,景気調整策実施前から鉄鋼など一部業種で需給の軟化がみられ,輸出が増加していたが,景気調整策実施後は多くの業種で需給ひつ迫が緩和され,輸出価格も反落傾向を示しはじめた( 第1-6図 )。しかし前回,前々回の景気調整期と比較すると内需はいぜん堅調であり,卸売物価の低下は小幅にとどまつている(本報告第1部 第29図 )。

こうしたことから今回の輸出急増は海外景気の回復に主因があつたとみられるが,海外需要増大の波にうまく乗りえたのは,機械を中心とする重化学工業品の競争力を強めていたためであつた。

第1-6図 業種別輸出価格と製品在庫率

(3) 輸  入

(一) 輸入の増大

昭和42年度の輸入(通関額)は国内経済の急速な拡大にともない,前年度にくらべ2,042百万ドル,20.4%の大幅な増加となつた。

この間の推移を季節修正値でみると,輸入は景気上昇にともなつて41年半ばより増勢を強めていたが,42年にはいつても一かんした増加をつづけ第4四半期まで年率20%強の増加を示した。しかし,43年にはいると景気調整効果の浸透もあつて1~3月前期比2.0%減,4~5月平均1.0%増と落着きを示している。

42年度の輸入増加の内容をみると,金属原料,原油などの素原材料が生産の急増にともない15.8%の増加を示し,輸入増加に対する寄与率も32.2%に達したが,製品原材料も銑鉄,非鉄金属を中心に39.8%増と増勢を高め,寄与率35.4%とさらに大きく,両者を合わせて輸入増加の67%を占めた。また37年以降落着いていた資本財輸入が前年度の増加率を上回つて33.9%増と急増し,寄与率も13.2%へと上昇した。木材も前年にひきつづき34%の大幅な増加で,輸入増加の12.3%を占めた。一方,消費財は非耐久消費財を中心に29.3%増と大幅に増加したが寄与率としては2.8%であり,また食料は,米の豊作等により4.1%増とかなりの落着きを示した( 第1-10表 )。

第1-7図 輸入増加の要因

第1-10表 商品別輸入通関額

第1-8図 今回の景気上昇期における鉱工業生産と素原材料輸入の推移

(二) 輸入急増の要因

今回の景気上昇期において輸入は大幅な増加をみせたが,それは過去の同一局面にくらべ特にいちじるしいものではなかつた。過去においても景気上昇期には輸入弾性値(輸入の増加率と総需要の増加率の比)の上昇がみられたが,今回のその上昇は小幅であつた。輸入の増大には31~32年にみられたような大幅な在庫投資や38年にみられたような食料輸入の急増といつた一時的,偶然的要因が少なく,輸入は景気の上昇後期の急増という典型的なパターンを示したといえる(本報告 第3図 , 第1-7図 )。

輸入増大の第1の要因は,素原材料輸入の増加であつた。素原材料の輸入は,生産の上昇と在庫需要にともなつて増加するが,今回の輸入増加は生産の上昇にほぼ見合つたものであつた。鉱工業生産は,40年末より一かんしたテンポで増加をつづけ,42年に入つてからもその増勢は衰えなかつた。これにともない輸入素原材料消費も急増したが生産とほぼ同じテンポの増加にとどまつた。これは鉄鋼,石油などの輸入関連生産が,鉱工業生産全体を上回る伸びを示し,また素原材料の輸入依存率も上昇したが,素原材料消費原単位の低下が大きかつたためである( 第1-8図 )。

第1-9図 輸入素原材料在庫の推移

第1-10図 製品原材料および鉄くず輸入の推移

さらに輸入素原材料在庫投資が42年度には増加要因とはならなかつたことも素原材料輸入の増加を生産の増加に見合つた程度にとどめた要因であつた。在庫投資は41年度が181百万ドルで前年度にくらべ109百万ドルの増加要因となつたのに対し42年度には136百万ドルの積増しが行なわれたにもかかわらず前年度にくらべれば逆に45百万ドルの輸入減少の要因となつている。

輸入増加の第2の要因は製品原材料輸入の急増であり,これが寄与率としては最も大きなものであつた。製品原材料には銑鉄のように本来国内で生産が可能だが,需要の急増に生産体制が即応できないときに急増するという限界的性格を持つものが多い。今回もこうした限界的性格をもつものが稼働率の上昇,製品在庫率の低下にともなつて急増した( 第1-10図 )。そのうえ,アメリカの産銅ストによる銅の値上りから非鉄金属の価格上昇が大きかつたことも製品原材料輸入の増大に寄与した。

しかし,製品原材料の中にも銑鉄,非鉄金属以外に国内供給の制約や競争力の低下から,傾向的に増加しているものがあり,42年度にはそれらの輸入も急増した。たとえば42年度には需要の増大と供給の制約から繊維品輸入が急増し,なかでも,かつての主要輸出品であつた綿糸ははじめて輸入超過となつた。

その他,石油化学生産の急速な増加にともないナフサ輸入が46.5%と急増した他,重油の増加も大きかつた( 第1-11表 )。

以上のように,42年度の輸入増加には工業用原料の増加が大きく寄与していたが,素原材料,製品原材料ともその変動は安定化してきており,今回の輸入増加を景気上昇期としては特に大幅なものとしなかつた要因となつている。

輸入増加の第3の要因は,資本財輸入の急増であつた。資本財輸入は42年度には33.4%増と前年度の増加率(13.2%)を大きく上回つて増加した。民間設備投資,特に製造業設備投資の沈静を反映して36年をピークに横ばいないし減少に推移していた資本財輸入は,製造業設備投資の増勢とともに増加に転じた( 第1-11図 )。37年以降の資本財輸入が総じて落着きをみせていたなかで,事務用機械,輸送用機器,電気機器等はすう勢的に増加しており,金属加工機械など36~37年をピークに大きく減少した機種と対照的な動きを示していたが,42年度の輸入増加は,民間設備投資の急増にともない,こうした事務用機械,電気機器の大幅な増加がみられたうえに,金属加工機械等ここ数年減少していた機械の輸入も大幅に増加したためいちじるしい増加となつたのである。金属加工機械輸入の内容をみると輸入依存率の高い歯切盤,歯車工作機械などで急増しているほか,依存率の非常に低い旋盤,平削盤などでの急増も目立つている。このように今回の資本財輸入の増加は合理化投資にともなう高性能の機械が中心であつたが,そのうえに機械受注手持月数の上昇にみられるような国内機械メーカーの納期長期化にともなつた輸入増もこれに加わつたものである。

第1-11図 製造業設備投資と資本財輸入の推移

第1-11表 製品原材料輸入の内容

第1-12図 機種別機械輸入の推移(1) 機種別機械輸入の推移(2)

この他,住宅投資の堅調など旺盛な需要に国内供給がともなわず傾向的に大幅な増加を示している木材は,価格の上昇もあつて42年度にも前年にひきつづき34%の大幅な増加を示した。また,近年生活水準の向上にともなつて増加のいちじるしい消費財も非耐久消費財47.7%,耐久消費財20.8%増と大幅に増加した。また,米の輸入減少などによつて食料輸入が大幅に鈍化したなかで,肉類,酪農品などの輸入は,ひきつづきかなりの増加をみせている。

(三) 輸入の落着き

景気調整策実施後の輸入の推移をみると,本報告第1部 第17図 にみられるように,引締め後3ヵ月間増加をつづけた後43年に入つてから減少に転じている。このような輸入の落着きは何によつてもたらされたのであろうか。輸入ピーク時からの輸入減少の内容を前回,前々回と比較してみると本報告 第21表 にみるように前々回(36年9~11月平均―36年12月~37年2月平均)は金属原料,繊維原料など素原材料の減少が大きく,ついで銑鉄などの雑品が大きかつた。これに対して前回(39年5~7月平均―39年8~10月平均)は素原材料は輸入関連生産の堅調によりむしろ増加を示し,銑鉄,化学製品の減少も小幅にとどまつており,輸入減少に最も寄与したのは原材料ではなく食料であつた。これに対して今回は銑鉄,非鉄金属を中心に雑品が28百万ドルと大幅に減少したのが目立ち,また鉄くず,原粗油の減少による素原材料の減少もかなり大きかつた。この点今回は,前々回と似て原材料の圧縮から輸入の落着きが起つているといえる。

このような原材料輸入の落着きはなぜ起つたのであろうか。その第1の要因は生産能力の増大,供給増から供給不足が解消し,銑鉄,非鉄金属など製品原材料輸入が42年11月頃をピークに急減していることである( 第1-10図 )。

第2の要因は,鉱工業生産が43年にはいつてからやや鈍化したが,輸入関連生産がその前から鈍化をみせていることである( 第1-8図 )。

輸入落着きの第3の要因は輸入素原材料の在庫投資の一服である。輸入素原材料在庫は42年前半に積み増しが行われた後,夏から秋にかけて落着いていたが,年末には再び増加に転じて42年第4四半期の輸入急増の要因となつた。しかし,43年にはいると1~3月には落着きをみせている( 第1-9図 )。

このような要因から43年にはいつて輸入は落ち着いた動きを示しているが,今後もこのような傾向がつづくであろうか。輸出の急増と根強い国内需要に支えられて鉱工業生産は伸び率をやや鈍化させながらもひきつづき上昇基調にある。さらに,食料,消費財,木材など景気調整下にも増勢をつづける品目もあり,輸入の減少はつづきにくいと思われる。しかし,生産が堅調ななかで輸入関連生産は鈍化しており,また輸入素原材料在庫も過去のすう勢を越えているとみられ( 第1-9図 ),さらに,需給ひつぱくも解消されつつあるから,輸入は強含みながらも当面落着いた推移をたどるものと思われる。

第1-13図 商品別輸入の推移

(4) 貿易外収支

42年度の貿易外収支は1,261百万ドルの赤字となり,前年度比360百万ドルと大きく赤字幅を拡大した。項目別にみると( 第1-12表 ),運輸収支,とくに貨物運賃収支の悪化が大きく,またその他も事務所経費,代理店手数料といつた貿易附帯経費や特許権使用料を中心に悪化した。

第1-12表 貿易外収支

このように大幅に赤字幅を拡大した要因は何であろうか。

第1-14図 貨物運賃収支の推移

それは輸入の急増にともなう輸入関連取引の支払増大であつた。いま貿易外収支の各項目を輸出入関連取引およびその他取引に分けてみると( 第1-13表 ),輸入関連取引の支払は対前年度比422百万ドルの増加となり,その純流出額は393百万ドル増となつたが,その大半は輸入貨物運賃の支払増加(307百万ドル)である。貨物運賃の支払はわが国外航船舶保有量の不足という構造的要因から,輸入貨物量の増大ともに傾向的に増加してきている。輸入貨物の邦船積取比率は計画造船の拡充によつて年々改善してきており,42年度の積取比率は50.4%と前年度の49.8%から若干改善したものの,急増した輸入を賄うには十分ではなかつた( 第1-14図 )。

また,42年度の貨物運賃支払増大には,6月のスエズ運河閉鎖による海上運賃上昇の影響も大きかつた( 第1-15図 )。輸入貨物の外国船輸送量と貨物運賃支払いとの相関から推計すると,運賃上昇によつて年度間に1億ドル強の支払増になつたものと考えられる。

第1-15図 海上運賃の推移

一方,輸出関連取引は49百万ドルの純流入増にとどまつた。これは,延払利子,借款利子等投資収益の受取増は大きかつたが,輸出の不振にもかかわらず輸出貨物の邦船積取比率の改善は小幅で貨物運賃の受取増が小さかつたことによる。その他取引は,これまでの旺盛な技術導入を背景に,42年度企業業績の好調を反映した特許権使用料や旅行関係の支払増加を主因に,16百万ドルの純流出増となつた。

第1-13表 貿易外収支悪化の要因

(5) 資本収支

(一) 輸出不振下における本邦資本の流出増大

42年度の長期資本収支は741百万ドルの赤字で前年度比95百万ドルの改善をみた。これは本邦資本が213百万ドルの流出超増となつたものの,外国資本が前年度の110百万ドルの流出超から200百万ドルの流入超に転じたことによるものであつた(本報告第1部 4表 )。

まず本邦資本をみると,流出超過幅拡大の主因は延払信用と借款の供与増であつた。延払信用の供与は前年度比176百万ドル増加して964百万ドルに達した。これは,42年度中の輸出が全体として伸び悩んだものの,延払輸出比率の高い機械,とくに船舶の輸出が順調に伸びたためである。延払信用の供与は,重化学工業品の輸出増大とともに増加してきており,延払輸出比率(大蔵省「外国貿易概況」による)も41年度の7.5%から42年度には9.6%と上昇している。なかでも船舶は延払輸出比率が69%と高く,延払輸出額の7割を占めている。また,借款は開発途上国向け円借款の供与を主体に42年度の供与額は252百万ドルに達し,前年度比110百万ドル増と拡大した。

このように,本邦資本の流出は延払信用や借款の供与を主体としたものであり,今後もわが国重化学工業品の輸出増大,経済協力の進展とともに流出増加はつづくであろう。

しかし,一方では延払信用供与残高の累増にともない回収も本格化してきており,42年度の回収額は前年度比117百万ドル増加して,451百万ドルに達している。これは,今後貿易外収支における延払利子の受取とともに国際収支上大きな流入要因となろう。

(二) インパクトローンの流入増

つぎに外国資本についてみると,証券投資が,わが国経済の高い成長力が見直されたこと,42年7月の資本自由化による外人持株比率の引上げなどから好調に流入していた反面,その他の資本の流入は,国内資金需要が比較的強くなく,アメリカの長期金融市場の逼迫もあり11月までは停滞していた。また,インパクトローンの流入停滞には,42年2月に米銀在外支店の現地長期貸付について金利平衡税が免除されたことから,在日米銀がユーロ・ダラーを取入れ,わが国企業に貸付けるといつた,長期資本収支に計上されない資本流入ルートが大きくなつたことも影響していた (注)

(注)

しかし,9月に始まつた金融引締めから,資金需給の逼迫に備えて企業の外資導入意欲は高まつた。42年12月以降,インパクトローンは5月まで月平均52百万ドル(42/4~11月平均18百万ドル)と,38,39年の水準(月平均28百万ドル)を上回るテンポで流入している。これを借入先別にみると( 第1-16図 ),米市銀のウエイトは高いものの,一方ヨーロッパやカナダの市銀からの借入増加が目立つている。当初,在日支店を主体としていた米市銀からの借入も,最近は在日支店の貸付枠が限度いつぱいになつたこともあつて在欧支店からの借入が増加している。しかもこれらの資金はドル建がほとんどで,期間3年のものが主体になつている。このように最近のインパクトローンの流入は,ユーロ・ダラー市場規模の増大を背景に中期ユーロ・ダラー資金を主体にしたものとなつている。

第1-16図 貸付主体別貸付金債権認額

(三) 復活した外償発行

40年11月のアメリカにおける開銀債の発行を最後に,海外金利の高騰等起債条件の悪化,企業の資金需要の沈静から新規外債の発行は途絶えていたが,42年12月アメリカでの転換社債の発行を皮切りに42年度中3件50百万ドル,12月から6月までには6件110百万ドルの発行をみている。発行市場をみると,欧州市場での発行が5件95百万ドルとなつており,また民間外債4件60百万ドルのうち3件45百万ドルはユーロ・ダラー債であつた。

第1-17図 ユーロ・ボンド市場の規模

このように欧州での起債が可能になつたのには,つぎのような背景があつた。まず第1に西ドイツが貿易収支の大幅黒字がつづくなかで国内のインフレ対策から積極的に海外投資を推し進めていることである。このような西ドイツでの起債環境の好転から2月にマルク建産投国債,6月に神戸市債と各25百万ドルの発行をみている。第2に,ユーロ・ボンド市場の成長である。ユーロ・ボンド市場の規模は1963年の1.6億ドルから,1967年には19億ドルと急激に増大してきており,なかでもユーロ・ダラー債市場の成長はいちじるしい( 第1-17図 )。このようなユーロ・ボンド市場の成長は,欧州諸国の経済的実力が高まり,資本蓄積が進んだことが基本的要因であるが,とくにユーロ・ダラー市場規模(国際決済銀行の推定によると1967年末現在160億ドル)の拡大に支えられたものである。また,ユーロ・ダラー債市場の成長は,ユーロ・ダラー資金堤供者の一部に長期,高利回りの投資を選好するものがふえていることによつている。一方,ユーロ・ボンド市場における発行者をみると,ドル防衛の強化から1965年以降米国系企業のウエイトが増大しているが1967年には米国市場の起債環境悪化もあつて,EEC,その他諸国の発行額が増大するとともに,発行者数も1966年のその他12ヵ国から1967年には,17ヵ国へと発行者の多様化が進んでおり,ユーロ・ボンド市場は国際資本市場として重要な地位を占めてきている。

第1-18図 外国為替公認銀行対外負債残高の推移

しかし,1968年初のドル防衛強化措置の結果,ユーロ・ボンド市場での米国系企業の起債が急増し,金利水準は上昇している。政府も43年度より民間外債の利子免税を採用し,民間企業の外債発行の促進を図つているものの,これまで発行されたユーロ・ダラー債はすべて5年という比較的短期のものであり,最近起債分の応募者利回りは8.25%と起債条件は悪化している。

(四) 短期資本の大幅流入

42年度の基礎的収支は1,054百万ドルの赤字となつたが,民間短期資本(非金融部門)の流入超増と為銀部門の純負債増加によつて賄われ,外貨準備は114百万ドルの減少にとどまつた。これは,40年末から高騰した海外金利が42年にはいると低下し始め,輸入の急増とともに41年の円シフトの反動も加わつて短期資本が大幅に流入したためである。

民間短期資本はBCユーザンスを中心に42年度491百万ドルの流入超となつた。これはWithoutL/C輸入のウエイト増大とともにBCユーザンスの利用率が上昇したことによるものであつた。

第1-19図 基礎的収支と短期資本の動き

為銀部門は輸入ユーザンス等貿易信用の流入超過,ユーロ・ダラーの取入れ増から42年度中416百万ドルの純負債増となつた。

最近の為銀部門の負債残高の変化をみると( 第1-18図 ),米銀借入を主とした輸入ユーザンス等がドル防衛の強化もあつてウエイトを低下させている一方,市場規模の拡大を背景にユーロ・ダラーの取入れ増からその他負債の増加が目立つている。

以上のように,わが国の短期資本は貿易信用を主体としていることから,基礎的収支の赤字期における短期資本の調達力は強く,それが外貨準備の減少を小幅にとどめてきた( 第1-19図 )。しかし,それは同時に為銀の対外ポジシヨンの悪化をともなつており,総合収支の好転は,輸出ユーザンスの供与増などから,為銀の対外ポジションの改善を通じて短期資本の流出テンポを速め,直ちに外貨準備の増加にはつながらないという性格を持つている。


[目次] [年次リスト]