昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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景気循環の特質と変ぼう

国際環境への適応と企業体制

日本の輸出成長力

 我が国の輸出は、戦後10余年にわたって、世界一のめざましい増加を続け、日本経済の高度成長に大きな役割を果たしてきた。しかし、最近2、3年、輸出の増勢はかなり鈍化しており、国際的にみても、その増加率は必ずしも世界最高とはいえなくなっている。

 以下では、我が国輸出の高成長をささえてきた諸要因が、過去数年間にどのように変化したかを検討し、成長率低下の原因を明らかにすると共に、EECの発展を契機として変化しつつある国際経済環境に対応しながら、今後の輸出を伸長する可能性を考察してみよう。

輸出成長率の低下

 日本の輸出増加率は、世界景気、特にアメリカ景気変動の影響で、年々大きく変化しているので、成長率が傾向的に低下したかどうかを判断するのは容易でない。第42図(総論)に示したように24年以降の輸出額(季節変動調整ずみ)の推移をみると、36年末までに三つの循環的運動が認められる。そこで、それぞれの循環期について傾向線を求め、その増加率をみると、 第III-1-1表 のように、第1期(24年第4四半期~27年第4四半期)の年率34%から、第2期(27年第4四半期~33年第3四半期)の20%へ、さらに第3期(33年第3四半期~36年第4四半期)には15%へと、次第に低下している。

第III-1-1表 日本の輸出増加率の推移

 戦争直後の著しい低水準からの回復過程であった第1期は別としても、33~36年の増加率が、28~33年に比べて低下していることは注目される。この間、世界貿易額はほぼ一貫して年5~6%の伸びを続けている。

 次に、主要国の輸出額の推移をみると、 第III-1-1図 の通りである。我が国の輸出増加率が33年以降低下したのに対して、西欧諸国の輸出は、ほぼ一定の増勢を維持しており、西ドイツの伸びがやや鈍っている反面、イタリア、フランスの増加テンポは、33年ごろからむしろ遠くなっている。

第III-1-1図 主要国輸出額の推移

 この結果、32年以来、日本の輸出増加率はイタリアを下回り、西ドイツと肩を並べている。輸出の規模をみても、我が国の輸出額は、30年にイタリアを、35年にオランダを凌駕し、アメリカ、西ドイツ、イギリス、カナダ、フランスに次いで、世界第6の輸出国となったが、36年には再びオランダに追越され、イタリヤにも起き付かれている。

第III-1-2表 主要国の輸出増加率

輸出高成長要因の変化

 世界貿易がほぼ一貫した増加を続けているなかで、我が国の輸出成長率が低下したのはなぜであろうか。この点を明らかにするため、日本の輸出高成長をささえてきた要因をとりあげ、それらが、過去数年間にどのように変化し、輸出伸長にどんな影響を与えたかを検討してみよう。

 輸出の高成長をもたらした要因としては、次の6つが挙げられる。

  ① 戦争直後の極端な低水準からの回復。

  ② 世界経済、特に世界貿易の順調な拡大。

  ③ 先進国、特にアメリカで、労働集約商品や耐久消費財など、我が国の国際競争力の強い商品の輸入需要が急速に増加し、対米輸出が激増したこと。

  ④ 後進国市場では、伝統的輸出品である軽工業品の競争力を利用して、軽工業品のシェアを著しくたかめえたこと。

  ⑤ 生産性の向上が著しく、賃金コストが低下傾向をたどったため、輸出価格が、主要工業国に比べて相対的に低下したこと。

  ⑥ 技術革新下の設備投資を中心とする高成長によって、各分野で輸出力がたかまり、特に機械工業を中心とする多くの重化学工業品の輸出が可能になったこと。

西欧を中心とする世界貿易の拡大

 戦後の世界経済は、全体としてほぼ順調な拡大発展を続けている。 第III-1-2図 にもみられるように、世界の鉱工業生産は、28年以降年率5%弱の割合で順調に伸びている。この間、世界輸出数量の伸びは、一貫して生産増加率を上回っている。

第III-1-2図 世界の生産・貿易と日本の輸出

 このように、世界経済の好調は維持されており、今後も特に大きな変化があるとは思われない。むしろEEC(欧州共同市場)の発展を契機として、成長が促進される可能性もある。しかし、世界貿易拡大の中心は次第に西欧に移っており、28年から32年までの間では、世界輸入需要の増加のうち、51%が西欧の輸入増加によるものであったが、32~36年では、この比率は71%にたかまっている。EECの成功は、この傾向に拍車をかけるものと考えられる。

 現在のような、北米3割、アジア4割、西欧1割という日本の輸出市場構成を前提とする限り、西欧中心の世界経済発展は、日本にとって、それだけ輸出伸長が困難になることを意味する。

労働集約商品の対米輸出の鈍化

アメリカの労働集約品輸入の激増

 世界貿易のすう勢は重化学工業化にあるといわれる。しかし、需要増加が著しい商品は、必ずしも重化学工業品には限られない。むしろ先進国では耐久消費財や雑貨など、軽工業的商品の輸入増加が著しい。

 例えば、32年から35年までに、アメリカと西欧で輸入額が50%以上伸びた工業製品をみると、 第III-1-3表 の通りで、アメリカでは24品目中17品目が、西欧では26品目中16品目までが、軽工業品で占められている。

第III-1-3表 欧米の輸入急増商品の輸入増加率

 特に、両地域を通じて、ゴム製品、ガラス製品、綿織物、衣類、履物、雑貨などの労働集約商品や、事務用機械、電気機械、科学光学機器など軽機械が急速な増加を続けているのが目立つ。

 我が国の対米輸出は、これらの輸入需要急増商品を中心に、28年の227百万ドルから35年の1,083百万ドルへと、飛躍的に増加した。これは、アメリカで需要の増加した労働集約商品については、労働力が多く、技術水準も比較的高い我が国は国際競争上有利であり、そのうえ、業者が市場開拓に努力した結果である。

シェア拡大の余地乏しくなる

 しかし、このようなかたちによる対米輸出の増加テンポは、今後次第に鈍化するものと思われる。

 その理由は二つある。

 第1は、労働集約商品の多くについて、アメリカ市場における日本のシェアが、既に箸しくたかまり、一応の限界に近づいていることである。

 従来の経験からみると、生糸、真珠など純粋の特産品は別として、ある商品のシェアが30%をこえると、それ以上はなかなかたかまらない。例えば、28年に既にシェアが30%をこえていた陶磁器、綿織物など4品目のシェア(平均37%)は、7年後の35年でもあまりたかまっていない(平均44%)。また、32年にシェアが30%を超えた5品目(合板、衣類、雑貨、科学・光学機器など)のシェアも、28年の平均21%から、32年の40%に上昇した後、35年には36%へと若干低下している。

 従来の対米輸出の増加は、特定商品のシェア拡大によるところが大きかった。たとえは、32~35年にシェアが急増して30%をこえるに至った商品は、電気機械、履物、金属製品など6品目があるが、この間の対米輸出増加の38%は、この6品目のシェア拡大によるものだった( 第III-1-4表 参照)。

第III-1-4表 主要対米輸出品のシェアーの推移

 国際標準分類(3桁)による労働集約商品は、事務用機械などを含めて約30品目あるが、このうち15品目については、日本のシェアは既に30%をこえている。従って、今後重化学品のシェア拡大に成功しない限り、従来のかたちによる対米輸出の増勢は次第に鈍化する公算が大きい。

新興国との競合激化

 労働集約商品を中心とする対米輸出の伸びを制約する第2の要因は、新興工業国との競合が次第に激化していることである。新興国の進出によって、対米輸出が抑えられるという現象は、既に32年ごろからかなり顕著になっている。28~32年の対米輸出増加の中心となった合板、綿織物、衣類、雑貨(4品目の増加寄与率は47%)、についてみると、 第III-1-5表 のように、32年から35年の間に、日本のシェアはいずれも低下している。

第III-1-5表 アメリカ市場のおける新興国との競合

 例えば、32~35年に、アメリカの衣類の輸入は85%増えたが、日本からの輸出は44%の増加に留まり、シェアは32年の45%から、35%に大幅に低下した。一方、香港からの輸入はこの間に7倍に激増し、アメリカ市場のシェアも6%から、一躍21%にたかまった。

 その他の3品目についても同様の傾向がみられ、新興国としては、香港、フィリピン、インド、台湾などの進出が目立つ。

 綿織物、衣類、合板の場合には、アメリカの輸入制限運動や、日本の輸出規制の影響も大きいと考えられるが、各種の品目を含む「雑貨」でも、シェアが低下し、新興国の進出が著しいことからみても、この傾向は、後進国工業化の進展につれてますます激化するとみるべきであろう。

 従って今後の対米輸出の伸長には、従来以上に、高度の技術を必要とする商品に重点を移す必要がある。このことは、新興諸国の工業品輸出の途をひらくという、世界経済的視点からいっても望ましい。

東南アジア市場における軽工業品シェアの拡大も限度に

軽工業品輸入需要の停滞

 東南アジアの輸入は、重化学工業品の増大と、軽工業品の停滞ないし減少という傾向を示している。すなわち、輸入総額は数年の58億ドルから60年の84億ドルへ、46%増加したが、この間重化学工業品が、2.1倍に増加したのに対し、軽工業品の伸びは15%に留まり、特に33年以降はほとんど増えていない。商品別にみても、ゴム製品(62%増)を除くと、ほとんどか停滞ないし減少傾向を示し、特に繊維品、(SITC651~657)(8%減)、自転車(31%減)などの減少が目につく。

 我が国の東南アジア向け輸出は、28年の384百万ドルから、33年の650百万ドル、36年には1,032百万ドルに増加し、東南アジアの輸入総額に占めるシェアも、28年の6.7%から、33年9.2%、36年11.9%と、徐々にたかまっている。しかし、ここでも、輸入需要に対する適応の仕方は、最近2、3年来大きく変化している。

軽工業品のシェア拡大─33年まで

 33年ごろまでの日本の輸出は、主として、需要停滞商品である繊維品セメント、自転車、雑貨などのシェアを大幅に拡大することによって伸びてきた。しかし、33年にはこの種商品のシェアは軒並40~50%に達し、このような形態による輸出伸長の余地は乏しくなってしまった。従って、その後の輸出増加は、機械工業の充実を背景とした、重化学品の進出によるところが大きい。

 東南アジア向け輸出の大部分(35年に89%)を占める工業製品53品目について、シェア拡大による増加額を計算すると、 第III-1-6表 の通りである。すなわち、28年から33年までに、シェア拡大による輸出増加は292百万ドルにのぼったが、このうち66%に当たる191百万ドルは繊維品を中心とする軽工業品であった。

第III-1-6表 シェアー拡大による東南アジア向け輸出の増加

 これに対して、33~35年についてみると、シェア拡大による輸出増加245百万ドルのうち、73%は車化学工業品で占められ、比率は全く逆転している。特に、鉄鋼、産業機械、自動車、船舶のシェア上昇が著しい。

輸出価格の相対的下げ止まり

 第4に、賃金コストの低下による国際競争力強化という要因も、近年次第に弱まっているようである。数年来の高度成長によって、労働力需給は部分的にかなりのひっ迫が感じられ、賃金の上昇率も、35年ごろからめだって高くなっている。現在までのところ、製造工業全体としてみれは、賃金上昇が生産性の向上率を上回るには至っていないが、低賃金労働者の賃金上昇が特に大幅なため、中小企業では賃金コストが増大している分野も少なくない。

 一方、欧米諸国では、30~31年のブームに際して、賃金上昇によるコストインフレが大問題となり、諸々の対策がとられた結果、商品需給関係の緩和と相まって、32年以後物価の上昇はかなり抑えられている。これを反映して、28~32年に4%の上昇をみたOECD諸国の輸出物価指数は、35年までに3%の低下をみている。

 我が国の輸出価格は、28年から32年までに2.8%低下したが、この間に欧米諸国の輸出価格は平均して4%程度の上昇をみた。このため、相対的にみると、日本の輸出価格は、28年に比べて7%低下したことになる。

 その後35年までに、我が国の輸出価格は2.7%と、ほぼ同程度の値下がりを続けた。しかし、西欧諸国の輸出価格も、同じ期間に平均3%の低下をみたため、相対的にみると、日本の輸出価格はほとんど下らなかったことになる。

 このように、32年以来、日本の輸出価格が相対的に下げ止まりとなったことも、最近の輸出増勢鈍化の1つの原因だと考えられる。

 もとより、輸出の伸びが価格変化によってどれだけ左右されるかは、意見の分かれるところである。しかし 第III-1-4図 にもみられるように、輸出価格の相対的低下率と、輸出数量の増加率の間には、かなり密接な相関関係が認められる。特に、32年以降、輸出価格が相対的に著しく低下したフランスとイタリアの輸出増大がめざましく、価格が相対的に上昇したアメリカとイギリスの輸出の伸びが低いこと、輸出価格が相対的に下げ止まりとなった日本と西ドイツでは、共に輸出の伸びが鈍化していることなどは注目に値する。

第III-1-3図 主要国輸出物価の推移

第III-1-4図 32~35年の輸出物価変動率と輸出数量の相関

新輸出品の増大

 以上四つの要因は、いずれも輸出増加のテンポを鈍らせる方向に変化している。これに対して、第5の「技術革新下の高度成長による新輸出産業の発展」は、次第にその力を強めている。

 まず、過去10年間に、どのような商品が主要輸出品として登場してきたかをみよう。ここで、「主要輸出品」というのは、各年の輸出額が、総輸出額の0.2%以上を占めた商品を指す。

 28年から32年までの間に、0.2%の規模に達した商品は、 第III-1-7表 のように、マンダリン缶詰、大豆油、紙製品、電球など、技術革新とはあまり縁のないものが相当含まれており、土木・建設機械、ベアリング、合成繊維などが、わずかにイノベーションの色彩を持っていた程度であった。

第III-1-7表 主要新輸出商品の輸出額

 次に、34年までをみると、新商品はトランジスター・ラジオと乗用車のわずかに2品目に過ぎないが、技術的水準の高い商品であった。

 これに対して、35、36の2年間には12の新輸出品が輩出し、しかもその大部分が金属加工・工作機械、機械部品、電蓄、テープレコーダーなど重機械ないし耐久消費財で占められている。このように、新輸出商品は、次第に多様化する傾向をみせ、その内容も急速に高度化している。

 第III-1-7表 にかかけた新輸出品24品目の輸出額は、28年の21百万ドルから、36年には586百万ドルへ、8年間で25倍に激増し、輸出総額の13%を占めるに至っている。特に、最近2年間の増加額は250百万ドルにのぼり、総輸出増加の31%に当たっている。

 以上のように、世界貿易の伸びが次第に西欧中心となっていること、アメリカ市場では労働集約商品のシェアが著しくたかまり、新興国からの競争も次第に激しくなっていること、東南アジアでも軽工業品のシェア拡大の余地が乏しくなり、また、輸出価格も相対的に下げ止まり傾向を示したことなどは、我が国の輸出成長を制約する方向に働いた。これに対して、経済高度化に伴う機械輸出力の強化によって、これを或る程度カバーしながら日本は輸出伸長を続けてきたとみることができる。

 今後についても、これらの要因は大勢として同様の動きを示すものと考えられる。対米輸出については、我が国中小企業の賃金コストが上昇傾向にあることも考えれば、労働集約商品の増勢鈍化はさけがたい。テレビなど新しい軽機械市場の開拓と、機械部品など一部軍機械部門への進出を図る必要があろう。後進国市場では、重機械の競争力充実によってシェアの拡大が期待されるが、外貨不足に悩まされている後進国の輸入が、果たしてどれだけ増加するかが問題である。

 このようにみてくると、輸出増加テンポがこれ以上低下するのを防ぐためには、西欧市場への進出が不可欠だということになる。

西欧の経済統合と我が国の輸出

 西欧、特にEEC(西ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ)は世界最大の成長市場であり、今後の世界貿易拡大においては西欧の占める役割がますます高まると予想される。従って、西欧諸国の経済が、経済統合の進展につれて、どのようなかたちの成長を示すか、特に、域外諸国からの輸入がどういう変化をみせるかは、我が国にとっても重大な意味を持っている。

 ここでは、最近におけるEEC経済の発展のなかで、その輸入需要がどのように動いてきたかを検討して、将来の我が国輸出伸長の可能性を打診してみよう。

輸入依存度の上昇

 EEC諸国の国民総生産は、30年から35年までに、年平均7%の増加を記録したが、輸入額の増加はこれを上回り、年9%に及んでいる。

 輸入総額のうち域内貿易の比率をみると、30年の31%から、35年の37%へと、年々上昇する傾向を示しているが、特に34年以降、域内比率が急激にたかまっている。これは主としてEECの発足、特に34年から実施された域内関税引き下げの影響と考えられる。

労働集約商品の域外輸入は著増

 このように、輸入全体としてみると、域外からの輸入増加率は、輸入総額の伸びを下回っているが、輸入需要が急速に増大している工業製品のなかには、域外への依存率がたかまっている商品が多いことは注目に値する。

 工業製品74品目(国際標準貿易分類)のうち、31~35年の増加率が平均の68%を上回った商品32品目について、域内輸入の比率をみると、 第III-1-8表 のように、31年の57%から、35年の56%へと、わずかではあるが低下している。

第III-1-8表 EECの輸入急増商品の域外輸入

 この中でも、化学品、重機械など資本集約度の高い商品の域内比率はほとんど下っていないが、軽機械、雑貨など労働力を多く必要とする商品では、域内輸入が102%増加したのに比べて、域外からの輸入増加は119%にのぼっている。特に、雑貨、履物、家具、身辺雑貨、ゴム製品、科学・光学機器、木製品など13品目では、31年から35年までに、域内輸入も2.4倍に大幅に増加したが、域外からの輸入増加はさらに大きく、3倍に達し、この結果、域内比率は58%から52%へと、著しい低下をみた。

 このような傾向は何を意味するか。EEC諸国のように、完全雇用状態にある経済が、急速な成長を続ける場合、人手を多く必要とする商品については、労働力のより豊富な地域から輸入した方が生活水準の向上に役立つという、完全雇用下の国際分業の原理がつらぬかれている証左である。もちろん、この際、産業構造の変化は、衰退産業にとって大きな困難をもたらすことが多く、それが現に、「低賃金国からの輸入制限」という口実で、輸入制限への圧力を高めている。西欧各国が厳重な対日輸入制限を続けているのも、その1つの現れにほかならない。それにもかかわらず、上述のように、労働集約商品の域外依存度が上昇しているという事実は、経済原則の貫徹かいかに強力で、これへの抵抗がいかにはかないものかを示している。

 今後EECの発展につれ、域内関税が漸次切り下げられると、域外諸国が関税面でさらに若干不利な立場に置かれることは事実である。しかしその反面、域内の商品、資本。労働の交流が自由になり、高成長か続けられれは、それだけ産業構造の高度化も加速されよう。労働集約商品の生産はますます不経済になり、高成長による需要の増大と相まって、域外からの輸入も当然大幅に増加するものと考えられる。

日本の対欧輸出

 このようなEECの輸入動向からみて、我が国の対欧輸出は大きな将来性を持っているといえる。

 西欧(EECとEFTA)への輸出は28年の106百万ドルから、36年の456百万ドルへと増大を続け、輸出総額に対する割合も、8%から12%へと徐々にたかまっている。しかし西欧諸国の工業製品輸入総額に占めるシェアは、35年でもようやく1%に過ぎない、アメリカ市場でシェアが15%をこえているのに比べると、西欧市場は全く未開拓の状態である。

 輸出の内容をみても、西欧向けは、日本の特産品のウェイトが著しく大きく、労働集約品の進出ははなはだしく遅れている。 第III-1-9表 は35年の西欧向け輸出と、対米輸出を比較したものであるが、魚介、生糸、真珠、鯨油など天然資源に依存する特産品の対欧輸出額は、対米輸出の2倍に近い。これに対して合板、繊維品、がん具など労働集約商品の輸出額はアメリカ向けの5分の1に過ぎない。

第III-1-9表 アメリカと西欧に対する日本の輸出

 労働集約商品の対欧輸出が極端に少ないのは、1つには、従来我が国業者の眼が主としてアメリカに向けられていたためでもあるが、最大の理由は、西欧諸国の対日輸入制限にある。EEC6ヵ国とイギリスについてみると、綿製品、陶磁器、ミシンなどは7カ国のすべてが、双眼鏡、がん具、履物については6カ国が、対日輸入規制を実施している。中でも、イタリヤ、フランス、イギリスは、我が国の主要輸出品の大部分に制限を課している。

 いま、ドイツとべネルクスでは自由化され、フランスとイタリヤで制限されている品目(ラジオ、テレビ、カメラ、絹織物、グルタミン酸ソーダなど48品目)の35年における輸出額をみると、ドイツ、ベネルクス向けの29百万ドルに対し、仏伊向けは7百万ドルにも満たず、輸入制限がいかに日本商品の進出を阻んでいるかかうかかえる。

 我が国の輸出は、高度成長による輸出競争力の強化を背景として、世界各市場における輸入需要の動向に適応しつつ、労働集約商品と軽機械を中心に、急速な伸長を続けてきた。

 最近の世界経済をみると、EECの発展、これに対応するアメリカの通商政策の新展開を中心として、国際経済環境は大きな変ぼうを遂げようとしている。特に、EECの発展による西欧諸国の輸出競争力の増大、成長政策によって国際収支の赤字を克服しようとしているアメリカの輸出努力をみると、今後世界市場における輸出競争はますます激化するものと考えられ、我が国の輸出を伸ばすためには、従来にもまして大きな努力を必要とする情勢にある。

 以上にみたごとく、今後西欧経済がEECの拡大を中心として高成長を続ければ、比較的多くの人手を必要とする軽機械や、雑貨類の域外輸入が大幅に増大する可能性が大きい。このような情勢に対応して、我が国としては、軽機械を中心に、技術と豊富な労働力を生かした高級商品の西欧向け輸出の増進に努力すべきである。この場合、強力な経済外交によって、現在日本商品に課されている不当な輸入制限の撤廃を図ることが、目下の急務であろう。

 かくして、最大の成長経済圏である西欧に、安定市場を確保すると共に、後進国市場に対しては、経済協力の推進によって重機械部門での進出を図ることが望ましい。


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