昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
景気循環の特質と変ぼう
景気循環態形の変化
財政の景気調整機能
めざましい高度成長を続けている我が国経済は、現在、独立後3度目の昇気調整期を経過しつつある。この間にあって財政もその時々の必要に応じつつ戦災の復旧や戦後経済の復興に、災害の防止や文教科学技術の振興に、産業基盤の整備や社会保障の拡充に大きな努力をはらい、国民生活の安定と向上に寄与すると共に、高度成長の基盤を整えることに努めてきた。また、昇気循環との関係では、租税の自然増収に示されるビルトインスタビライザー機能を主役に、景気安定的に作用してきた。もちろん財政には景気安定策としては多くの限界があり、また、景気安定のみを目的として運営されるものではない。しかし、今後の我が国経済の変動に、より有効に対処するために、景気安定策としての財政に期待されるところも、また大きい。そこで以下に景気循環との関係において財政がどのような傾向を示しているかをみることとしよう。
財政の規模─国民経済のほぼ2割
まず 第I-5-1表 によって、財政の国民経済に占める大きさにつき、あらかじめ簡単にみておこう。
たとえは36年度についてみると、予算ないし財政計画上の定員で国地方あわせて330万人余(雇用者の約14%、労働力人口の7%)の人々が、一般行政事務、教育、運輸通信、防衛といった政府の行う仕事に従事して、1兆3千億円(勤労所得の19%)の職員給与を受けているが、その仕事を有効需要として捉えた政府の財貨・サービスの購入額は3兆1億円にも及び国民総支出の18%を占めている。機械受注(除船舶)に占める官公需の割合は16%、着工建築物に占める国地方の割合は12%であり、セメントについてみると、富公需は6%程度だが、土木や電力、国鉄を含めた宮公、公益需は40%前後となっている。
そして、これらの政府の活動を支える租税負担額は、国民所得の2割余となっている。
また、金融的な活動についてみると、36年度の財政投融資計画は約8千億円であるが、既運用の回収を考慮に入れると、純増は6千億円程度となり、地方銀行の36年度の現金、有価証券、貸出金の増加額とほぼ等しい。また、産投会計、運用部、簡保資金の資産残高純計は3兆9千億円弱で、これも地方銀行の資産残高に近い数字である。そして、地方銀行は金融機関の主要資力合計のほは2割を占める位置にある。これらの点よりすれは、数字はかなりまちまちであるが、大よそのところでは、財政は国民経済の2割弱程度を占めているとみてよいと考えられる。
安定的な財政支出─小さい自動調節機能
ところで、このような財政は、26年度以降につき景気循環との関連をみると、 第I-5-1図 から知られるように、かなり安定的な推移を示している。すなわち、民間在庫投資あるいは設備投資に主導された景気循環のなかで、財政支出は個人消費と並んで変動の少ない部分を占めており、そのことによって、民間部門の変動を相殺するまでには至らないが、経済全体の変動幅を小さくするのに役立っている。もちろん、このような財政支出の一般的特質のなかで、かなりの変動を示しているものもある。以下、その主なものについてみよう。
財故支出の変動要素─資本的支出
さて、 第I-5-1図 をさらにくわしくみると、財政支出は32~33年ごろを境にして、それ以前はそれ以後に比べてかなりの変動を示しており、それは主として政府総資本形成の変動に基づくものであったことがしられる。
その理由は、財政支出と収入の両面におけるゆとりのなさ─いわば緊張状態とでもいったもの─にある。一般に我が国では国民所得の水準に比べて租税負担が重いため減税への要請は強く、財政収入の増加がかなり多額に上がるにもかかわらずそれをすべて支出増加に振りむけ得るゆとりは少なかった。一方、そのためもあって満たされない財政需要は常に存在し、支出増加への強い圧力となっていた。そこで現実の財政支出は、財源の多寡及び減税の必要の強弱によって強く影響されていた。
そして、これらの財源面による支出の規制は過去にさかのぼるに従ってより強く働いたものと考えられるのである。 第I-5-2表 は、一般会計の当初予算について自然増収見込み額とそのうち減税にあてられた額とをみたものである。自然増収見込み額は最近において比較的大きく、減税割合は過去において大きい。減税への要請と未充足な財政需要とが過去において一層緊張した状態にあったであろうことがうかがわれる。
また、 第I-5-2図 にみるように、一般会計歳出は、28年度ごろまでは戦後的色彩が濃く、終戦処理関係費、出資及び投資、価格調整費などが大きな比重を占めていた。防衛関係費の構成比も大きい。そして、歳出のうち比較的弾力的に増減し得ると考えられている公共事業についても、国民の生命、財産に直接かかわりを持つ災害復旧、治山治水や食糧増産のための農業基盤整備といったものの比重が過去におけるほどより高かった。つまり、一般的にいって、過去におけるほど財政支出の内容も生存に直接かかわりを持つような、いわばより緊急なものが多かったとみられるのである。
そのような事情のなかで、28年度には朝鮮動乱ブームの余恵としての自然増収がかなり多額に見込まれる一方、独立第2年度の予算として経済自立態勢確立のために積極的に施策の充実を図る必要があったうえに、年度半はに西日本、近畿の水害、13号台風による被害などの周知の大災害が生じたのであった。これが28年度の財政支出が予算補正に際して既定経費の削減を行うなどにより、支出増加をできるだけ小さくする努力にもかかわらずかなり増加せざるを得なかった現実的な理由である。この結果、28年度の政府の財貨・サービスの購入は、国民総支出の伸び以上の伸びを示し、その構成比を高めているが、その増加額の3分の2は資本的支出の増加によるものであった。この資本的支出の増加額は、財貨・サービスの購入額の12%に当たるが、当時のすう勢以上の増加はその3分の1程度とみられる。なお、30年度の資本的支出の増加は、主として豊作に基づく食管会計の在庫増加によるものである。
さて、以上とは逆に32~33年ごろを境にして、それ以後資本的支出の変動が少なくなった理由には、財政事情にややゆとりが出てきたのと並んで、その一表現でもあるのだが長期計画の背景の下に道路、港湾、国鉄、電々などの公共投資が進められていることによるところが大きい。今後も、資本的支出は、おおむね安定的な増加傾向を続け、短期的な景気の変動には中立なものとなって行くと考えられるのである。
財政支出の変動要素─財政投融資
次に 第I-5-3表 によって一般会計、財政投融資、地方普通会計の動きをみると、一般会計や地方普通会計に比べて、財政投融資のほうが増減の程度が大きく、また、年度ことの変化も大きくてより変動的であることがうかがえる。実際の運営をみても財政投融資のほうがより機動的になされていることは周知の通りである。
その最も大きな理由が、一般会計は予算制度によって厳重な規制を受けるが財政投融資はその点比較的自由であるという手続制度的な面にあることは云うまでもない。また財政投融資は民間資本蓄積の不足を補うことに大きな役割を果たしてきており、民間企業との関連が比較的直接的であった。
そのため、たとえは金融引き締めに際しては、これに協力して大企業向けを中心に投融資を控える一方、引き締めの摩擦現象が大きくなると、中小企業向けを中心に資金手当を行うなど、民間部門の動きに合わせたさめの細かい運営を行って、短期の景気循環対策として大きな効果をあげている。
この点、最近の財政投融資は、民間への資金供給の比重を低め、生活環境整備や道路などの政府の直接投資向けの資金供給を増加させている。また、民間への資金供給の内容も、基幹産業に対する資金の供給が減少し。輸出入、中小企業、住宅建設等への資金供給が増大している。 第I-5-3図 は、財政投融資の運用と原資につきその構成比の推移を示したものだが、運用の使途別分類では基幹産業の構成比は28年度の29.1%から37年度の9.5%へと漸落とし、輸出振興は29年度の1.7%から37年度の9.5%へと漸増している。
住宅・生活環境整備も28年度13.0%から37年度の25.6%へと構成比を高め、その他厚生福祉施設、地域開発なども比重を高めている。
このような財政投融資運用内容の変化は、また原資面の変化にある程度相応するものなのである。すなわち 第I-5-3図 で、原資の構成比推移をみると、かなりの変動を示す郵便貯金の比重が28年度の24.2%から37年度18.0%へと低下している反面、安定的な増加を示す厚生年金が4.8%から15.3%へ、簡保資金が6.0%から17.5%へと著しく比重を高めている。このうち、簡保資金については、今後の3~4年は、満期による保険金の支払いがかなり集中的に到来するので、従前と逆に減少が予想される。しかし、36年度からは新たに国民年金が原資にとりいれられたといった事情もあり、いずれにせよこのような各種保険基金の重要性は次第に高まり、その比重増大が、一般国民への受益の還元要求を強めて運用内容の変化をもたらすと共に運用額の安定的動きをも示唆しているのである。今後の財政投融資には、29年度の対前年度比13.8%減、34年度の同じく30.6%増といった動きは少なくなると考えられる。
財政支出の変動要素─いわゆるビルトインスタビライザーについて
以上、安定的な財政支出の中で比較的変動のみられる資本的支出と財政投融資とについて検討し、それが安定化し、あるいは安定化の要因をはらんでいることを述べてきた。次に、いわゆるビルトインスタビライザーといわれ、従来はともかく今後は次第にその景気補整的作用を現実化すると期待される失業保険制度、生活保護制度などにつきその働きをみてみよう。
失業保険制度
失業保険制度は労働者と雇用者とが給与の一定割合を積み立て、失業による所得の喪失に備える制度であり、政府は事務費の一部と原則として保険給付額4分の1を負担している。
それは不況期に失業者の所得喪失をある程度補償して消費を支え、不況の一層の深化を防ぐばかりでなく、景気循環に応じて保険基金の剰余あるいは赤字を生み、変動を緩和する働きを持っている。すなわち、不況から回復をへて好況に向かう過程においては、失業が減少するに応じて保険金給付が減少し、雇用が増大するに応じて(賃金水準もまた上昇する)保険料収入が増加し、その結果保険基金には剰余が生ずる。一方、好況から不況への過程においては、失業の増加、雇用の減少に応じて保険金給付の増加、保険料収入の減少が生じ、基金の剰余は減少し、あるいは、赤字が発生する。 第I-5-4図 は、このような失業保険制度のメカニズムが我が国でかなりよく働いていることを示している。
生活保護制度
生活保護は、国民全部の社会的共同責任において、一定の生活水準以下にある人に対して保護を行う仕組みになっており。貧窮者の態様に応じて生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の7種類がある。件数では依然として生活扶助が多いが、金額では医療扶助が最も大きな額を占めている。国はその費用の10分の8を一般財源から支出し、残りは府県や市町村が負担している。その景気変動への効果は失業保険の場合とほぼ同じであって、不況への過程では国地方の財政赤字(または余剰の減少)を生じさせ好況への過程では財政黒字(または赤字の減少)をもたらすファクターとなっている。
第I-5-5図 は、被保護実人員と保護費との動きをみたものだが、人員は幾分景気変動と関連した動きを示しているようだが、保護費は保護基準の相次ぐ引き上げなどの制度の充実を反映して急速な増加傾向を示し、金
額面では景気補整作用の存在をほとんどうかがわせていない。
このような、失業保険制度と生活保護制度の働きについて前回の景気調整期についてみると、振り替え所得対前年度増加額は経済の過熱から引き締めに転じた32年度の286億円に比べて、不況期の33年度は459億円と1.6倍以上の増加となり、国民所得増加額との比は、32年度の4.4%から、33年度は19.7%へと高まっている。振り替え所得のうち、失業保険と生活保護とを合わせてみると。82年度対前年度増加額化億円に比べて、33年度のそれは169億円と4倍余に及んでおり、振り替え所得増加額との比は14.7%から36.8%へと上昇している。
これらの数字は、両制度が景気変動に応じてかなりの程度で反応していることを示している。しかし、経済全体に対する影響という点では、振り替え所得を国民所得と対比してみると、その比が5%前後であることから判るように、かなり小さな限られたものとなる。今後は、社会保障の一層の充実などによって、振り替え所得の比重も次第に高まるであろうが、それはこのような支出面でのビルトインスタビライザー機能を強めることになろう。
なお、ここでは詳しく触れないか、失業対策事業も人員面では最近やや景気との関連を明らかにしてきたが、金額的には変動の少ない増加傾向を続け、生活保護制度と同様な事情にある。
また、我が国の農産物価格安定策はかなり充実しており、現在では、戦前のような一般物価と農産物価格との間の大きな?離も農産物価格自体の大きな変動も避けられている。そして、このような価格の安定は、国民の消費生活を安定させ、また、農家経済を安定させて、国民経済を変動から守ることに貢献していると考えられるが、景気循環との関連はほとんどみられない。
以上、財政支出についてみてきたが、その変動部分とみられるものでも、財政投融資を除けは、資本的支出も、失業保険制度なども、かなりの変動を示すものの、経済全体に占める比重はこく限られたものである。もちろんこれらは、直接的な効果だけをみたものであり、企業活動や国民生活に与える実際の影響は、もっと複雑な多面的なものであろう。ともあれ、支出面については、財政は、最初に触れたように安定的な増加傾向を基本的な特質としているといえるのである。
弾力的な財政収入と財政の景気補整作用
財政支出の変動が少ないのに対して、財政収入はかなり景気に敏感であって好況期には大幅な増加、不況期にはわずかな増加といった動きを示す。
そのため収支バランスは好況期には収入超過の増加(または支払い超過の減少)、不況期には収入超過の減少(または支出超過の増加)となり、景気変動を緩和する役割を果たしている。以下この点についてみよう。
租税収入の変動
財政収入のうちでは租税収入の変動が最も大きい。厚生年金や郵便貯金や簡保資金など財政投融資の原資も民間預金等に比べれば比較的安定した動きを示してはいるが、やはり景気その他に関連して変動し、国鉄や電々などの事業収入も経済活動の繁閑にかなり左右されるが、その程度はそれほど大きくはない。
第I-5-6図 は、分配国民所得と租税収入との伸び率を比較したものだが、いずれもかなり大きな変動を示している。たとえは国税(一般会計分)につき税制改正がなかったものとして調整して、最近の対前年度増加率をみると、33年度0.9%、34年度21.4%、35年度34.0%、36年度30.2%といった大きな増加を示している。また、タイム・ラグはあるにせよ、明らかに国民所得の伸び率の大きい好況期には、税収は所得の伸び以上に伸び、国民所得の伸びがかんばしくない不況期には、税収の伸びは所得の伸び以下に止まるという傾向がみられる。そして租税収入がこのように所得弾力的であることが、財政のビルトイン・スタビライザー機能の中心となっている。税種別には、法人税の変動が最も大きく、所得税がこれに次、間接税は比較的変動が少ない。法人税については法人利益の変動が大幅なこと、また、所得税については累進税率構造や所得控除制度、高税率の適用を受ける高額所得者の所得が景気に敏感であることなどが、このような税収入の所得の変動以上の変動をもたらす理由といわれる。間接税は、どの程度の需要の弾力性を持つ財貨またはサービスの消費を税源としているかにかかっているのだが、好況期には消費全体が増えると共に税率の高い高級品への支出割合が大きくなることなどがこの理由である。
財政収支の変動
さて、安定的な財政支出と弾力的な財政収入とは当然に景気の変動に応じた財政収支差額の変動をもたらす。
第I-5-7図 は日銀作成のマネーフロー表によって、主要部門の資金過不足の推移をみたものである。政府部門は29、30年の不況期には資金不足を生じているが、31、32年の好況期を通じて資金過剰の程度を高め、33、34年と資金過剰の程度を低めている。そして、このような政府部門の動きが、好況期の民間部門の投資超過(貯蓄不足)、不況期の貯蓄超過を相殺し、あるいは、その程度を緩和するような方面であることは図にみる通りである。
第I-5-4表 は、租税収入の景気補整作用の程度をみるために作成したものである。
まず、租税収入の変動についてみると、景気の変動に応じてかなり大きな変動を示しており、このことは 第I-5-3表 にある財政支出の変動の程度と比べてみれば明らかである。さらに、当然のことであるが、税制改正(減税)がなかったとした場合に増加の程度が一層大きく、また、自然増収を補正予算によって支出化してしまわなかったならば、租税の景気補整作用が一層大きかったであろうことも 第I-5-4表 から容易によみとれる。この点を具体的に36年度の場合についてみるならば、自然増収の可能性は、減税によって648億円、当初予算における支出増加で527億円、補正予算における支出増加で1,546億円をそれぞれ減少せられて、実際には、1,966億円の自然増収として顕在化した。
このような租税収入の動きが主因となって、一般会計の決算収支(単年度収支)は、好況期における黒字と不況期における赤字とが、交替的に生じており、結果的に景気に対してバランシング・ファクターとして作用している。
また、財政資金対民間収支の動きは、一般財政の好況期揚げ超、不況期払超の動きに、好況不況の変動につれた輸入の増減を主因に生ずる外為会計の揚げ超、払超の動きが加わって、金融調整の素地を作り、景気安定化に役立っている。その程度については、36年度の現金需給バランス─外為を除く一般財政の2,764億円の大幅揚げ超のうえに、外為会計の2,209億円の場超が加わって生じた財政収支総計の場超4,973億円、日銀券増発2,171億円、日銀への民間預金増その他1,334億円の需要を、日銀貸し出し6,860億円増、政府保証債の買いオペなど1,628億円の供給でバランスさせた─をみるだけで充分であろう。
むすび
以上みてきたように、我が国の財政は、財政収入の弾力性を主因に、災害というやむをえざる事情の影響の大きかった28年度を除いて、おおむね景気安定的に働いてきた。
その程度は、財政資金対民間収支の変動が金融市場に大きく影響する場合を除けば、いずれも限られたものであったといえる。それは、我が国の経済が充分な成長力を有しており、むしろその行き過ぎが問題であったという事情に、我が国の財政の緊張状態の持続といった事情が加わって生じたものであろう。
しかし、財政の景気補整効果が限られているのは、また、財政自体の持つ特性の1つでもあると考えられる。財政支出には、本来景気補整作用以外の多くの重要な役割が、担われているのであり、また景気補整的財政支出が適切な効果をあげるためには、景気変動を正確かに予測することが前提となるが、この前提が充分に満たされない場合には、経済情勢の推移と政策当局の認識との間などに生ずる各種のタイム・ラグの存在もあって、充分な効果が期待できないのみならず、景気補整的財政支出が変動を緩和するどころか激化してしまう可能性さえもある。
第I-5-8図 は、財政支出変動の国際的比較を試みたものであるが、我が国、西ドイツ、イタリアのような変動の比較的小幅な国とアメリカ、イギリス、フランスなどのような比較的変動的な国とがあるようであるが、いずれにしろ目立って景気補整的な動きをしているとは認められない。
また租税政策についても、国民の負担力や負担の公平、勤労意欲の向上、格差の是正といった各種の観点を総合して進められるものであるから、景気補整的観点のみをことさらに重視するわけにはいかないのである。このように、短期の景気政策の武器としては財政には限界があり、そのため短期の景気調整は主として金融政策によって担われることになると考えられるのである。
しかし、貿易自由化によって我が国経済が世界経済の一環に直接組み込まれること、また、民間部門との拡大したギャップを埋めるために、今後財政の比重が次第に高まると予想されることなどを考えれば、その限界にもかかわらず、財政の景気情勢に即した弾力的運用への期待は大きいといえる。また、現在の財政が制度として持っている、いわゆるビルトインスタビライザーの機能をより良く発揮させるようにするために、そのような財政の働きの上に立って、金融政策がより効果的に作用し得るように配慮すべきであろう。そのような努力によって、財政における長期的な構造政策と短期的な景気政策との統一的運用、それによる経済の安定成長への寄与は一層確実なものとなると思われるのである。