昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
総説
景気調整の年の5つの課題
昭和36年度経済は前半の急激な経済拡大と、後半の金融引き締めによる景気転換というきわだった対照を示した。一方景気調整策のとられて以後も、社会的摩擦現象を極力さげるという政策的配慮が行われたこともあって、盛り上がった景気の山の高さに比べ景気転換は緩やかであるという特徴を示した。37年度はいわば行きすぎた経済拡大に対する反省の年としなければならないが、反省の年に与えられた課題は次の5つに要約される。すなわち国際収支の均衡回復、消費者物価の安定、産業関連施設の拡充、行きすぎた投資の結果の収束及び世界経済の再編成への適応である。
景気の沈静に伴う輸入の減少と輸出の好転によって国際収支は改善の歩を進めているが、国際収支の黒字基調を確実なものとするためには輸出振興に一層の努力をかたむけ、景気調整の浸透を図るべきである。
一方、設備投資の強成長の結果生まれた能力の増大からくる需給ギャップの拡大と企業経営の圧迫とは、この調整期間を通じて特に強まるとみざるを得ない。このさい思い切った手段を通じて、企業体質の改善を図り、自らの責任において企業経営の強化を図るべきであろう。今までの行きすぎた成長競争による矛盾を解決するためには、単に個々の企業の体質の改善に留まらず、広く日本経済全体との関連からみた産業のあり方の改善も必要である。世界経済が再編成せられつつある今日においては、特に経営者において企業休息の改善を通して国際競争力の充実を図ると共に、国民経済全体としても国際的な視野の下に思いきった産業秩序の確立が要請されるゆえんである。
他方政府は、この調整期において、消費者物価安定と産業関連施設の拡充に積極的に努力を傾注するのは当然であるが、同時に経済の安定成長の道程を見定め、産業界に無用な混乱をおこさせないような配慮も必要である。経済の不均衡発展の累積効果によってもたらされたゆがみを是正するにあたって性急であってはならない。均衡過程を通じて弾力的な施策と深甚の注意が望まれるのであって、政府の課せられた使命もまた大きいといわねばならない。
かえりみれば戦後17年、日本経済は幾多の困難を解決し、激しい障害を克服してきた。また景気循環の波をのりこえて世界にもまれな高成長を達成してきた。この日本経済の実力が今日の場合にも発揮されて、苦難の道をのり切って再び繁栄の道を歩むものと確信する。
日本経済は国民所得倍増計画の初年度である36年において国際収支の均衡を被るという結果をもたらしたが、この景気調整の年を契機として、再び国内均衡と国際均衡を同時に達成する均衡成長の道を歩みながら5つの課題を果たす努力を積み重ねてゆかねばならないのである。