昭和36年
年次経済報告
成長経済の課題
経済企画庁
高度成長下の問題点と構造変化
高度成長下の構造変化
経営体制の変貌
技術革新の進展はその担い手である企業の経営を変革させる段階にまで波及した。技術革新過程で企業の創意と工夫が一層要求されてきたが、加えて貿易自由化の展開は今までにもまして企業経営の主体性に基づく合理性の確立を必要とさせている。最近1~2年の企業の動きにはず経営の変革の傾向が顕在化しているが、つきにこれを経営形態と経営主体の質的側面から取り上げてみよう。
経営形態の変ぼう
大規模化、多角化
経営形態の変ぼうでまず目につくことは、大規模化の傾向である。いま、主要大企業の全産業平均でみると 第II-5-1表 の通り過去5年間に1社当たり固定資産で2.3倍、資本金で3.0倍、売上高で2.4倍に拡大している。また資本金ランク別社数構成比率の推移をみると 第II-5-1図 のごとく、大規模化を反映して5~50億円の大企業の比重が著しく高まっている。企業規模の拡大は大企業だけが巨大化、集中化したのではなく、中小規模の企業もかなり拡大している。しかし業種別にみると構造変化を反映して民生電機、自動車、合成樹脂、重電機(総合)等の成長産業と紡績、石炭、紙パルプ、金属鉱業等の停滞的な産業との間には拡大率に顕著な差が認められる。
このような経営の大規模化傾向は、経営多角化の内容をあわせ持って進んでいる。これまでの多角化は生産過程より必然的に生じる副産品の利用という範囲で行われたり、景気変動に対する危険分散の意味で行われていたが、産業構造と市場構造が急激に変化する現在では、その意味も変わってきた。各企業とも積極的に将来性のある新分野に進出し、長期にわたる成長を確保しようとしている。多角化は同一産業内の多角化と他の産業領域にまたがる多角化とがある。同一産業内では化学における石油化学、電機における電子工業、繊維における合成繊維が多角化の中心である。特に化学工業は従来の肥料中心の石炭化学より石油化学へと重点が移行し、ナフサや石油精製廃ガスの分解による多種類の連産品の総合利用によって合成樹脂、繊維、ゴム、洗剤等広範囲に拡大している。また電子工業では民生電機中心が今や通信機器、工業計器等電子技術のより高度な展開へと志向している。他の産業領域にまたがる多角化をみると、 第II-5-2表 の通りで全産業平均の他業種への兼業投資割合は10.3%である。特に繊維・石油精製より化学へ、鉄鋼・電機・輸送機械(造船・車輪)より一般機械へ、化学より非鉄への方向が目立つ。またエネルギー革命により資本転換を余儀なくされた石炭鉱業は今までの経営とあまり関連のない建設、石油、観光等の分野にのり出す動きもみられる。
第II-5-2表 設備投資のマトリックス(36年上期主要計画の主体業種別、対象部門別内訳
企業集団化の傾向
また最近の特長としては企業の集団化傾向が目立ってきている。これは同産業内あるいは異産業間の生産力依存関係が密接化した反映である。従って戦前の財閥にみられたような封鎖的な支配関係の形成とは意味を異にする。企業集団化は縦の関係と横の関係に分けてみることができる。縦の関係はいわゆる系列化で大企業と中小企業がそれぞれ独自の専門分野を分担しながら全体として、総合力を発揮しようとしている。これは次の3つの型に分類できる。第1は外注下請けメーカーを系列化する場合で、例えば電機・自動車等の業種で製品組立の大企業と部品メーカーとの間に形成されている。これらの産業の発展は部品メーカーに大きく依存するため、系列化により技術、設備の向上を計り安価良質な部品を安定的に確保することをめざしている。第2は企業が多角化を推進するにあたり、市場関係の有利性を確保するため、既存の専門メーカーや新設の別会社を系列化する場合で、電機・一般機械・化学等の業種で多くみられる。第3は製品加工メーカーを系列化する場合で、アルミ地金、合成樹脂などの原料を生産する大企業が販路を確保するため消費につながる中小企業を系列化するタイプである。
次に横の関係は現在のコンビナートに最も集約的に表わされている。コンビナートは資源、資本の有効利用を計る地域的な企業集団であるが、コンビナートが最も顕著にみられるのは化学工業で旧来の石炭化学コンビナートから石油化学コンビナートへ大きな転換が行われている。石油化学コンビナートはナフサや石油精製廃ガスの分解によってうまれる連産品を有効に利用するため、技術、販売面の専門的特殊性を持つ企業間で分担して形成される。
これはいわば単一産業内のコンビナートであるが、つきに製鉄化学コンビナートの誕生により全く異なった業種間でコンビナートが形成されるようになった。これは製鋼技術の改良と銑鉄増産により余剰を生じたコークス炉ガスを化学原料として利用し、鉄鋼、化学双方の合理化を計ろうとするものである。コークス炉ガスの主要成分は水素(50%)、メタン(30%)、エチレン(4%)で、いずれも化学工業の基礎原料として多種類の化学製品につながり、鉄鋼は化学全体のバランスに広汎に結びつくようになった。逆に化学より鉄鋼へは酸素等の供給関係があり、両者は原料、副産品の循環によって相互いに依存しあいながら発展していくこととなり、単一産業だけの視野で経営するのは困難となってきた。さら重油を大量に消費する電力、鉄鋼等が、重油の輸送合理化を計るため石油精製とコンビナートを形成する動きがある。
かくてこれらのコンビナートが相互いに結合し、化学、鉄鋼、石油精製、電力を軸として広範に他の産業を呼び合いながら総合的なコンビナートを形成する動きも活発化している。日本の企業規模はかなり拡大したが、先進国に比べるとまだ国際競争に耐えるだけの実力を備えるには至っていない。そのため個別企業の枠を越えて資源、資本の有効利用を計るコンビナートは技術革新の必然的産物であると共に他面貿易自由化に備える企業形態のあり方をも示している。しかし、コンビナートは従来の個別企業本位の経営意識の変革を要求する。コンビナート内の原料、製品の需給関係には一定のバランスがあり、これが崩れるとその影響が全面的に波及するので、この面に対する十分な配慮を要する。また異産業間でも密接な相互依存関係を持つから産業構造全体の広い視野にたつ判断が要請される。このようなコンビナート体制に即応した経営意識の確立が今後の重要な課題である。
経営主体の質的変革――経営革新
経営形態の変革は同時に経営主体の質的変革を要求するようになっている。
それは単に企業をとりまく経済環境に企業が受動的に順応する変化ではなく企業の主体的な意志に裏打ちされた積極的な変革の面を有しているといえよう。つきにこれを経営計画、組織と職能、手段の側面よりさぐってみよう。
経営計画の変革――長期計画
経済の構造変化が激しく、経営が多様化するにつれて短期的部分的な判断で企業の行動を決定することが不可能となり、長期的かつ総合的な広い視野での行動の裏付けを長期計画に求める傾向が目立ってきた。ことに最近設備投資の巨額化、懐妊期間の長期化、技術寿命の短期化に伴い企業の危険負担は益々大きくなり、長期計画の必要性が一層強められている。
かくて長期計画は32年以降一般に普及し始め、最近2年間で急増し、現在では大企業を中心に大部分の企業が実施、立案中である。業種別にみると、電力ガス・鉄鋼など投資の規模が大きく、懐妊期間の長い業種で普及度が高い。計画の設定期間は3~5年が一般に多いが、電力・通信・製鉄では投資行動がより長期での視野に律せられるため、かなり計画も長い。長期計画の内容はその所属産業によってかなり重点の起き方に差が認められる。電子工業・石油化学等の新産業では技術開発に、自動車・民生電機等の高成長産業では新製品・新市場開発に、石炭・肥料等の停滞的産業では経営転換に重点を置く傾向がみられる。他方人事・教育・組織等の経営主体面の計画はまだ一般的に普及していないが、最近その必要性がかなり認識され、長期計画の重要な分野として取り上げられる動きも目立ってきた。
経営組織と職能の変革
長期計画の設定とその合理的運営は当然経営組織と職能の変化を要請しており、集権化による統制型組織から分権化による計画型組織への傾向がみられる。各人の自主的な創意を生かし、機動的な意思決定によって企業を能率的に運営するには、中央に集中する傾向が強かった権限を大幅に委譲する必要がある。権限の委譲は今までのように生産、販売等の職能区分に従って行う方法があるが、経営の多角化が進むと、製品別に分けて生産から販売まで一貫した権限を与える方法が合理的である。特に急激な需要構造の変化に生産をたえず適応させるため、生産と販売が密接に結びつくことが強く要請される。このような意味で独立採算的な管理単位を設け、これに生産、販売を一貫した権限と利益責任を与えると同時に他方これを統轄する本部を設置する事業部制が生まれた。事業部制は33年以降かなり増加し、特に機械、化学、繊維等多角化の著しい大企業に目立つ。一口に事業部制といってもその範囲が広く、管理単位の設定の方法により先に述べた製品別の事業部制のほか、地域別に設定するものや、両者を組み合わせたものなどがある。
事業部制が導入され分権化が進展するとこれに対応して、本部の総合化機能の強化が一層要請される。本部は部分的になりがちな事業部の判断に大局的な方向づけを与えるため長期計画を設定し、事業部をリードするため強力な前向きの機能を果たすことが必要である。このような本部のトップ・マネージメントの総合化機能を強化するため、広汎な知識と判断力を備えたゼネラル・スタッフの強化が要請されるようになった。ゼネラル・スタッフ(たとえば、社長室、企画室(部)、管理室(部)等)は、各部門に分かれて存在、していた専門スタッフが分離、集中して企業全般にまたがる問題についてトップマネージメントを補佐するためにこれに直属したものである。ゼネラル・スタッフ活動は 第II-5-6表 の通りほとんどの企業で行われ、その大部分が専属の部門を設置している。 第II-5-7表 によると、年次別の設置強化状況とその動機は大よそ2つの時期に分けることができる。第1期は26、27年ごろでコントローラ制の導入を契機として純然たる管理体制強化を主要目的第2期は30年以降で技術革新に伴い長期計画・事業部制・研究開発等を直接の動機として、特に最近急速に確立してきた。これは前向きの計画型スタッフで、その背後にはトップ・マネージメントの構造変化がある。すなわち企業規模の拡大に伴いトップ自体の組織化が不可避となり、社長の単独指導制より常務会の集団指導制に変化この常務会の事務局としてゼネラル・スタッフが確立されたのである。
第II-5-7表 ゼネラル・スタッフの年次別設置強化状況とその動機
このゼネラル・スタッフは専門的職能を有するから、高度の質の人材が要求される。それは経済・技術双方を広い視野で理解できる新しい型の専門家であり、この充実をまってはじめて新しい組織と職能確立の基礎が与えられる。
経営手段の変革――ビジネス・オートメーション
経営手段の変革は電子計算機等による事務の機械化、ビジネス・オートメーションである。これは次の2つの面より要請される。第1は生産過程のオートメーション化に対応して増加する多量の事務データを正確迅速に処理する要請である。つまり現場の生産技術の高度化と均衡のとれるように、事務も機械化されねばならない。第2は技術革新に伴う経済環境の時々刻々の変化に機動的、弾力的に生産販売活動を対応させる経営管理の科学的手段を持つ必要である。これは人間の頭脳労働に代替して自動的に大量の情報処理を行う電子計算機の導入によって開花しはじめている。その背後には電子技術の発達と共にオペレーションズ・リサーチやリニアー・プログラミング等の高度な経営科学の発達がある。かくて単なる事務の機械化から事務と生産販売の有機的結合を計り原材料購入より製品販売まで一貫した科学的管理体系、が確立された時はじめてビジネス・オートメーションが実現し得るはずである。次にわが国の電子計算機及びP.C.S(Punched Card System)用各種機械の普及状況をみよう。 第II-5-8表 によると本格的に導入されたのは27年以降で大企業から滲透し、33年以降再び増勢を強めている。業種別にみると企業数で製造工業が49%を占め、その内訳を設置台数でみると一般機械・電気機械、鉄鋼・金属製品、輸送用機器、化学などに多い。通用業務の推移をみると、総務、経理等の業務の比重は次第に低下し企画・調査・技術・研究・生産現場・管理の業務の比重が高まっていく傾向にある。いわば事務の機械化から高度の管理業務や技術分野へ発展し、機械化は量的拡大と質的深化の併進過程をたどりつつある。さらに不充分ながら電子計算機による体系的中央管理機構確立の動きもあり、ビジネス・オートメーションは芽生え的状態にあるといえよう。機械化の推進に伴い、ここでも新しい型の専門家が必要となってきた。機械化は事務を質的に変革し、著しく技術化するため、技術的知識、経営科学の知識、経営事務の知識をあわせ持つ新しい型の専門家を要求する。このような人材は現在かなり不足しており、これを養成することが今後の機械化推進の大きな条件といえよう。
第II-5-8表 P.C.S用各種機械および電子計算機械導入企業数の規模別推移
第II-5-9表 P.C.S用各種機械および電子計算機の業種別導入企業数と設置台数
企業内の技術の地位
技術革新の起動力は技術である。従って企業の競争のパターンも価格競争より技術競争に発展することによって企業内の技術の評価と技術者の地位は急速に高まってきた。経営者も技術出身が多くなり、技術を極めて重視する様になった。我が国の技術革新は日本の技術による場合よりも外国技術の導入による場合がはるかに多い。技術援助対価支払金額は 第II-5-11表 の通りで、特に34年より導入ルート拡大と貿易自由化を背景に電機・化学を中心としてかなり増加している。我が国の工業には優れた技術の応用、消化能力があったため、短期間に外国技術を摂取しめざましい発展を遂げた。
第II-5-11表 わが国における自然科学研究費及び技術援助対価支払金額の推移
しかし最近各企業は技術の外国依存体制から技術の主体性を確立しようとして研究開発に積極的な意欲を示し始めた。我が国の自然科学研究費は 第II-5-11表 の通り最近急増し、特に「会社等」では34年は前年の約2倍に達している。これを業種別にみると 第II-5-12表 の通り化学と電機が高く両者で全製造業の52%を占め、次いで輸送機械、鉄鋼、一般機械と車化学工業5種で7526に達している。特に合成化学・電子工業は技術革新の中心産業で研究は企業活動の中心をなし、その内容も著しく理論科学的色彩をおびる。しかし英国の研究開発費は航空機を除いても我が国の2.2倍に達し、車化学工業の比重は一層高い。また研究者1人当たりの研究開発費でも我が国は英国の1/5に過ぎない。研究費の支出と共に能率的な研究体制を整備することも重要である。最近電機・化学を中心にブーム化している中央研究所の設立はこれにつながるものである。すなわち既存製品の改良研究を行う現場の研究所と新製品の開発研究や基礎研究を行う中央研究所との分業体制により研究の能率化を期している。さらに電力・原子力等で企業間の協同研究体制がみられるのも将来の研究の方向を示すものといえよう。
第II-5-12表 業種別研究開発費と研究者1人当り研究開発費の日英比較
経営における技術の地位が高まるに伴い技術者の不足が顕在化してきた。
これは経済の高成長が比例的に技術者の需要を増加した面もさることながち、高成長が急速な構造変化を伴っている面によるところが多い。就業老中に占める技術者の比率を業種別に算出すると、 第II-5-13表 の通り技術者の需要度で産業を多需要型、少需要型、その中間型の三種に区分できる。生産指数との関係をみると多需要型産業が著しく成長し、少需要型産業の伸びは低い。つまり多需要型産業の比重が高まるように構造変化しているため、技術者の需要増が急テンポとなる。しかも29年と34年を比較すると、特に多需要型産業では研究の強化、オートメーションの普及により需要度が一層高まっているのも不足を加速する要因である。このため最近多需要型産業へ技術者の引抜きが目立ち、石炭鉱業等産業内の技術者のほか、産業外の公務員からの引抜きも国立試験研究機関研究者をはじめとしてかなり目立っている。技術者の不足は量的のみならず、質的問題もある。この意味で技術者の引抜きには限界があり、同一産業内でも技術の急速な進歩により古い技術者では次第に役にたたなくなる。従って一方において転用の困難な技術者の余剰を持ちながら新規に供給される大学卒業者へと需要が集中する。技術者の供給は 第II-5-14表 の通りで理工学部の比重が低いため米英両国に比べて少ない。
第II-5-3図 のごとく5年間で供給者は1.4倍に増えているが、大企業の採用数は2.7倍に激増し、この差が中小企業等の他の部門にしわよせされ、大企業との格差が一層拡大している。最も大企業でも技術者の充足状況は最近かなり悪化している。このような不足に対処して企業では技術者の効率的配置と共に、教育により自らの手で技術者養成を行うものが目立ってきた。しかし技術者の問題は企業だけで解決出来ない問題であり、企業、教育機関、政府の緊密な協力による長期対策の樹立が強く望まれる。
第II-5-3図 理工学部大学卒業生数と大企業採用数の推移(指数)
新しい経営体制下の経営者
技術革新に伴い企業が形態的、質的にいかに変革してきたかを概観したが、最後にその主体的担い手たる経営者の問題を取り上げよう。技術革新は経営革新と同時に新しい型の経営者を要求する。第1に技術に対する理解が要請される。優れた技術によって労働と資本を結合し、新しい価値を創造するには経営者の技術に対する認識と判断が必要である。第2は積極的なイノベーターとしての能力である。経済の発展は経営者の創造的機能によりもたらされるから、これを積極的に発揮する開拓者精神と実践力が不可欠である。第3は産業全体の広範な視野にたつ経営意識である。多角化に伴い産業間の相互依存関係が一層緊密化、複雑化するためこの重要性は一段と高まる。この3つは技術革新により直接的に要求されるが、今後の高度成長を続けていくためには経営者としてつきのような基本的な問題がある。第1は組織と人材の問題である。経営革新により必要となった新しい型の専門家や技術者の不足に伴い日本固有の制度であった終身雇用制と年功序列制を支える基盤が徐々に崩れつつある。今までは終身雇用制と年功序列制を基礎として社会的に深く根ざした企業への忠誠心によって容易に経営者のリーダーシツプを維持することができた。しかしこれらの制度的な基盤も逐次変革を余儀なくされ、近代的な能力・職務中心体制へ移行するにつれて、経営者は従業員の新しい協力体制を築くための新しい組織を確立する必要がうまれている。ワンマン型の事業家から組織で動く経営者に重心が移行している。それと共に新時代の経営組織をつくりあげていくためには、その基礎として人材の養成が一層重要な問題となる。しかもそれは短期間に達成するのは困難で長期計画の重要な分野として取り上げられねばならない。最近企業学校の設立の動きがみられ、新しい型の幹部要員、専門家、技術者などの養成に経営者が非常な熱意を示している。これは企業自身に役立つのみでなく、有能な人材の供給源を造ることにより社会的な意義を有しているともいえよう。
第2は企業の社会性の問題である。企業は大規模化に伴い社会活動の中心的地位を占めるようになった。かくて経営者の企業に対する責任と共に社会全体に対する責任も一層高まりつつある。企業が社会に対する影響を大きく持つ面は競争・独占の問題である。この点について独占による弊害を排除し、消費者に生産性向上の成果を配分することが当然要請される。他面特に貿易自由化に処していくためには国内のせまい市場で多数の企業がたがいに過度の競争を行うのではなしに、国際分業に即して輸出競争力を充実していけるような態勢をつくることも考慮されねばならない。今日の日本の企業にとって必要なことは国際的視野にたった真の公正競争態勢をつくりあげながら経済社会全体の水準を向上させていくことである。同時に社会的事業への協力、教育・研究分野の充実に対する寄与、地域経済の発展に対する貢献など、経済・社会・文化の種々の面で公的機能を発現することが望まれよう。