昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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昭和35年度の日本経済

貿易

貿易為替自由化の進展

自由化の進ち進捗

 35年度においては、貿易、為替の自由化措置が次々に実施され、国際収支の動向にも少なからぬ影響を及ぼすに至った。

 まず、6月には貿易為替自由化促進閣僚会議によって「貿易為替自由化計画大綱」が策定された。これは貿易面では自由化率──自由化品目が、昭和34年の輸入通関総額(政府輸入物資を除く)に占める比率──を、35年4月の41%から、3年後に約80%(石油、石炭を自由化した場合は90%)に引き上げること、為替面では、経常取引を2年以内に原則として自由化し、資本取引の規制も漸次緩和することを目標としている。

 35年度中には、この方針に沿って、幾多の自由化措置が実施に移された。貿易の面では、対ドル差別品目の撤廃がほほ完了した。すなわち、鉄くず、牛脂、粗製ラードは4月に、牛皮は7月に、銑鉄は10月に、それぞれ完全自由化され、残る大豆と精製ラードも、36年7月から差別が撤廃された。

 また、自動承認制品目の追加も、年度中数回にわたって行われ、コーヒー豆、亜鉛鉱石、ニッケル鉱、化学品など486品目が追加された。さらに36年4、月には原綿、原毛をはじめ527品目が、6月からは普通鋼々材、アルミニウム地金、タール中間製品など、128品目が自動承認制に加えられた。一方、自動割り当制も拡充され、35年度中には陶磁器、鉄道車輪、耐久消費財など、に適用されるに至った。この結果、35年4月には41%であった自由化率は、36年6月には65%までたかめられた。

 一方、為替面でも、35年4月の商社特高集中制、7月の非居住者自由円勘定の創設、8月の無担保倍入れ枠の撤廃、などが相次いで実施され、輸入ユーザンスについても、適用品目の制限を全廃し、期間も3ヶ月から4ヶ月に延長するなど、規制が緩和された。この他、海外渡航費など貿易外支払いの制限も漸次緩和され、外資導入を促進するため、株式取得制限の緩和、株。式、社債等の元本送金期間の短縮などが行われた。

自由化と国際収支

 このような自由化の進展は、35年度の我が国の国際収支にも大きな影響㌧を与えた。すなわち、自由化によって、商品の輸入や貿易外経常支払いが増加すると共に、資本移動が活発化し、特に短期外国資本流入の著しい増大・がみられた。金額としては、自由化による経常支払いの増加よりも、短資流入増加の方がはるかに大きく、このいみでは、35年度の国際収支の大幅黒字は、自由化に負うところが大きかった。

 輸入増加のうち、どれだけが自由化によるものかを数字的に把握することは困難であるが、34年度と35年度上半期中に自動承認制に加えられた主要商品(原材料を除く53品目)について、輸入実績の推移をみると 第1-11表 の通りで、33年の59百万ドルから、35年には128百万ドルに、2倍に増えている。

第1-11表 特定自由化品目の輸入額

 貿易外支払いについても、海外渡航費、雑送金などが、35年度に大幅な増加をみたのは、自由化措置によるところが少なくないとみられる。

 一方、資本取引においては、自由化の影響は著しいものがあった。第1に、短期資本収支の大幅黒字は、輸入ユーザンス規制の緩和によるユーザンス残高の激増、自由円勘定創設と無担保借り入れ枠撤廃による短資の大量流入など為替自由化によるところが極めて多かった。長期資本についても、元本送金制限の緩和などに伴い、株式元本の送金が急増し、支払い増加をもたらす一方、株式取得制限の緩和による証券投資の著増など、受取面にも好影響を与えている。

 このように、35年度においては、貿易為替の自由化がかなりの進展をみせ、これが直接経常支払いの増加をもたらすと共に、自由化に対応するための国際競争力強化の必要から、産業界の設備投資が促進され、外国技術の導入も一段と活発化した。一方外国短期資本の流入も多額にのぼったので、自由化は35年度の国際収支に好影響をもたらしたといえる。しかし、乗用自動車、産業機械をはじめ、国際競争力に問題のある多くの品目の自由化が、今後の課題として残されているうえ、35年秋以降、アメリカ政府によるドル防衛政策が本格化したことや、36年春、英独仏伊等10カ国がIMF協定第 8 条国(国際収支を理由とする経常取引の制限を認められないもの)への移行を宣言したことなどから、我が国の自由化促進に対する海外からの要望も一段と高まっている。

第1-10図 自由化の影響の強い外国為替収支項目の推移


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