昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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昭和35年度の日本経済

貿易

輸出

輸出の推移

 33年秋から増加に向った我が国の輸出は、34年中は対米輸出の激増を中心に、その後は東南アジア、西欧、大洋州向けを柱軸として、35年度に入っ・てからも順調な伸長を続けたが、下半期には伸び悩みとなり、経常収支を悪化させる一因となった。

 この結果、35年度中の輸出通関実績は4,117百万ドルで、前年度より14.0%増加したが、増加率は前年度の24.8%を大中に下回った。

 この間、輸出物価は高水準横ばいを続け、前年度を2.8%上回ったため、35年度における輸出数量の伸びは12.6%であった。一方36年度の輸入物価指数は、前年度に比べて3.4%の下落を続けた。この結果、28年を1001とする交易条件指数は、前年度の109.8から、116.8へと、一層の改善をみた。

 年度内における輸出額の推移を、前年同期比増加率でみると、4~6月の18%、7~9月の19%から、10~12月には13%に下り、36年1~3月にはさらに7%へと、下半期に入って急速に低下した。

 アメリカの景気が35年はじめから停滞し、夏以後下降に向ったため、対米輸出は35年春から減少しはじめ、36年はじめにかけて急テンポの減少を続けた。このため、35年1~3月には前年同期を31%も上回っていたのが、36年1~3月には前年水準を逆に21%下回るに至った。

 このように対米輸出が35年度中一貫して減退を続けたのに、我が国の輸出が全体として上半期中好調を維持できたのは、東南アジア、西欧、大洋州への輸出が著増したことによる。7~9月の東南アジア向け輸出は、前年同期を46%も上回り、大洋州向けも同じく78%の激増を示した。これは、東南アジアでは34年の外貨事情好転を背景に輸入が増加したこと、大洋州向けでは、設備投資ブームと貿易自由化によって、オーストラリアの輸入が、激増したことなど、相手市場の活況に負うところが大きい。

 ところが、下半期に入ると、対米輸出の減退が続いたうえ、従来これを補ってきた大洋州や後進国向けも、ようやく増勢が鈍り、輸出全体としても伸び悩むようになった。例えば、後進国向け輸出の前年比伸び率は、7~9月の37%から、36年1~3月には29%へと低下し、大洋州向けも同様の傾向を示した。これも後進諸国の外貨準備が夏以後減少に向かい、輸入の伸びが鈍ったことや、オーストラリアで引締政策が探られたことによるところが大きいが、国内需要が急速な増加を続けている結果、鉄鋼など一部商品については、輸出余力の減少や、輸出意欲の低下がみられる。

第1-4表 輸出指標の推移

第1-4図 輸出入通関額の推移

第1-5図 海外需要とわが国輸出の変動

商品別動向

 35年の世界貿易額は前年比11%の増加を示し、前年の5%増をはるかに上回る活況を呈した。しかし、我が国最大の輸出市場であるアメリカの輸入が、前年の17%増から、逆に4%の減少に転じたことを考えると、国際環境は必ずしも我が国にとって有利だったとはいえない。それにもかかわらず、日本の輸出は17%(暦年)と世界の平均を上回る増加をみせ、世界の輸出に占めるシェアも、34年の3.4%から3.6%へと拡大を続けることができた。これは数年来の巨額の設備投資を伴う高度成長によって、 ① 供給能力が著しく増大し、 ② 生産性の向上、コストの低下によって国際競争力が強化され、特に重機減の輸出力が増大したこと、 ③ 高度加工品を中心とする新輸出商品が続出していることに買うところが大きい。

 商品別にみて、増加が大幅だったのは、綿糸、綿織物、人絹糸、鉄鋼、ラジオ、繊維機械、自動車、光学機器などで、ラジオと光学機器のほかは、主として後進国向けの商品であった。これに反して、前年度においてアメリカ向けを中心に大幅な増加をみせた合板、ミシン、絹織物、毛織物、生糸、衣類などは、西欧向けは好調であったが、対米輸出の不振から、軒並に減少している。この他、前年度以来受注残高の減少している船舶も減少し、化学肥料も、ICA 買い付けの削減や、西欧品との競争激化に伴って減少した。

 綿糸、綿織物、鉄鋼の輸出伸長は、供給余力に負うところが多い。すなわち、綿糸はインドネシア向けの激増を中心に、前年度の2.2倍にのぼり、綿織物も西欧、大洋州向けをはじめとして20%の増加を示して、32年度の記録を大きく上回ったが、これは海外市場の好況に加えて、年度はじめに在庫が増加し、輸出意欲が高まったことによる。鉄鋼では、前年度鉄鋼ストの影響で激増した対米輸出は減少したが、東南アジア、オーストラリアなどへの輸出が伸びたため、前年度をさらに52%も上回った。国内経済が、設備投資を中心に急速な拡大を示したにもかかわらず、鉄鋼の輸出が激増したのは、高成長による供給余力の増大を如実に物語っている。35年度の輸出増加の45%は、この3品目の増加によるものであった。最も、国内経済の活況による鉄鋼需要の増加が続き、年度後半には鉄鋼の供給余力はやや減退したうえ、オーストラリアの景気引き締めなど、海外市場の悪化も加わり、輸出の増勢も、36年に入ってからは鈍化するに至った。

 また、技術の向上や、国内市場の急速な拡大による生産規模の増大、コストの低下に伴って、自動車、工作機械など重機械の輸出も、前年度に引き続き大幅な増加をみせた。いま、自動車、原動力機、工作機械の3品目についてみると、その輸出額は33年度の25百万ドルから、34年度の61百万ドル、さらに35年度には115百万ドルへと飛躍的に増加している。

 数年来の我が国の輸出の伸長は、従来あまり輸出されなかった商品の進出、特に高度の技術を要する軽機械や、高級消費財の増加によるところが大きい。34年度のトランジスター・ラジオに引き続き、35年度には、ボート、シネ・カメラ、測定機器、テープ・レコーダー、電蓄、テレビなどの増加がめざましかった。この6品目の輸出額は、前年度の34百万ドルから、35年度の74百万ドルへと2.2倍に増えた。

第1-6表 新商品の輸出額

市場別輸出

 35年度の輸出を主要市場別にみると、前年度において大幅の増加をみた対米輸出が減少した反面、東南アジア、西ヨーロッパ、大洋州向けが著しい伸びをみせた。

 対米輸出は、34年度には、アメリカの景気回復の波にのり、前年度比48%の激増を示したが、35年度には、アメリカの景気後退の影響で、6%の減少をみた。商品別にみても、ラジオ、光学機器、がん具などをのぞいて、多くの主要輸出品が軒並に前年度を下回ったが、特に減り方が著しかったのは、合板、絹織物、毛織物、鉄鋼、衣類、ミシンなど、前年度大幅に増えたものが多い。しかし、この間においても、テープ・レコーダー、電蓄、ボート、自転車など、従来あまり輸出されていなかった商品の輸出が増加を続けたことは注目される。

 第1-6図 にもみられるように、32年から33年にかけてのアメリカの景気後退期には、我が国の対米輸出はほとんど減らなかったのに対して、今回はかなり大幅の減退をみせた。これはつきのような事情によるものと考えられる。

第1-6図 米国景気指標と対米輸出の推移

 第1は、アメリカ経済自体が、前回とはかなり違った動きをみせたことでる。 第1-6図 にも示されているように、工業生産の下り方は前回より小幅に留まったが、小売り々上げ、特に自動車以外の耐久消費財や、食料、ガソリン以外の非耐久消費財の売り上げは、今回の方が早くから衰え、減り方も大きい。

 また、住宅建設活動の低下も今回の方が大幅である。従って、ミシン、カメラ、衣類、雑貨、合板などを中心とする日本からの輸出に与えた影響も、前回より大きかったとみられる。また、32~33年にはほとんど減らなかったアメリカの工業製品輸入が、今回はかなり大幅に減少していることも注目される。第2に、アメリカの鉄鋼ストの影響で、34年から35年はじめにかけて激増した鉄鋼の輸出が、大幅に減少したことも、35年度の対米輸出減少の一因となった。この他、トランジスター・ラジオ、毛織物などにもみられるように、アメリカの輸入制限運動も、対米輸出に若干の悪影響を与えたものとみられる。

 このような事情から、対米輸出は36年はじめまで、かなり大幅の減少をみたが、36年に入って、アメリカ景気の底入れと前後して底をつき、その後アメリカ景気の回復につれて、最近では若干好転している。

 これに対して、北米以外への輸出は大幅に増加した。特に、東南アジア向けは、前年度を33%も上回り、35年度の輸出増加額の半分近くを占めた。

 これは1つには、東南アジア諸国の輸入が全般的に増加したおかげである。

 しかし、我が国からの輸出増加は特に大幅で、輸出増加の大半は、鉄鋼と、船舶、自動車、繊維機械など重機械の伸びによるものであり、我が国重工業の供給力の増大、競争力の強化に負うところが大きかった。

 西ヨーロッパへの輸出は、前年度を16%上回り、特に、ミシン、ラジオ、カメラなど軽機械が順調な伸びを続けたほか、綿織物や絹織物が、西ドイツ、イギリス向けを中心に大幅に増加したことや、少額ながら鉄鋼も輸出されたのが目立つ。西欧経済が好況を続けたうえ、日本商品に対する厳しい差別制限が、わずかながら緩和された結果である。

 大洋州向けも、前年度を60%も上回った。これは、オーストラリアが好況のうえ、大幅の輸入自由化を実施したためで、特に、設備投資ブームを反映して、鉄鋼の輸出はめざましい増加を記録した。

 その他の地域に対する輸出も、船舶輸出の減少でリベリア向けが減ったなど、一、三の国をのぞき、全般に増加した。

 なお、35年春、ソ連との間に貿易協定が成り立つし、ソ連向け輸出が、資本財を中心に2.3倍に増加し、輸出市場として、西ドイツに匹敵する規模に達したことも注目される。

第1-7表 市場別輸出実績


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