昭和36年
年次経済報告
成長経済の課題
経済企画庁
総説
序言
1960年は「黄金の60年代」の期待を持って始まった。皮肉にも、アメリカ経済はその初年度において景気後退に見舞われたのであるが、日本経済は、昭和34年度に引き続いて昭和35年度も大幅な経済の拡大を達成しえた。この2年間に実質国民所得で3割、鉱工業生産で5割以上の伸びを示したが、このような伸びは戦後の高成長の中でもみられなかった。日本経済のたくましい成長力に、いまさらながら驚嘆させられるのである。今までの日本経済は、2年も景気上昇期か続くと景気過熱がおこり、それを押さえる政策がとられてきた。過去の29、32年の2回の経験がそれである。今回は33年7月に上昇に転じて以来既に3ヶ年間、はやい上昇テンポを続けてきた。いかにしてこれだけの息の長い繁栄を可能にしたのだろうか。世人の第1の疑問はそこにあろう。
しかしながら、最近においては日本経済にも、貿易収支の大幅な赤字、人手不足の激化、消費者物価の漸騰など種々の問題を生じていることも事実である。また企業の設備投資意欲が強く、36年度の民間設備投資の規模は「国民所得倍増計画」の最終年次の45年度に匹敵するものとなろうとしている。これらの問題が今後どのように発展していくのか、これが第2の疑問である。
一方、日本経済の高成長は、同時に経済の各部門にわたって大幅な変ぼうをもたらしている。それは産業の地域構造をも変えようとしている。また、経営者、労働者、消費者、農民、中小企業主などの経済主体のあり方も変わってきているが、現実の急速な変化に対してこれらの人々の意識が充分に追いつきえない面もみられる。今までいかに変化してきたか、今後いかに変わらねばならないかが第3の疑問としてだされよう。以下の各章においてこの3つの問題を検討しよう。