昭和34年
年次経済報告
速やかな景気回復と今後の課題
経済企画庁
総説
結語
未曽有の投資ブームを含む景気の一循環を通じて、我が国経済はかつてない速度で経済構造の近代化をおし進めることができた。しかしながらそこに幾多の跛行性を生じていることは、上に指摘した通りである。産業の急速な発展に対して産業基盤が立ち遅れ、生活環境の整備も不十分である。また今後の輸出拡大、近代的雇用の増加、産業の技術的発展などの見地からみて、機械工業を一層発展させることが必要である。その場合に生産性向上の阻害要因となりつつある大企業と中小企業との技術的断層を早急に埋めなければならない。雇用構造の面についても、増加した雇用の大半が労働条件の悪い小企業へ吸収されており、それら低所得層における社会保障の普及が遅れていることも問題である。また戦後急速に発展してきた農業も生産手段と小農経営との関係で一つの転期をむかえ農工間地域間の所得格差拡大が懸念されるに至った。これらの跛行性の克服、特に産業の基盤、生活環境、社会保障の整備拡充を中心として、財政の果たすべき役割は大きい。そして、これまで経済構造近代化の過程で起こりがちであった景気の大きな変動を予防するために、金融政策の手段を整備するだけでなく、基本的に金融機構と資本蓄積方式の正常化を積極的に推進しなければならない。
もちろん日本経済の当面する構造的問題はこれにとどまらない。近代化の原動力としての技術の教育、研究、開発の推進、国際的に割高な金利水準の引下げ、構造的停滞要因をもつ石炭、海運業に対する長期的対策、内外市場における過当競争の是正等解決すべき点は多いが、少なくとも前に述べた問題は日本経済が中進国から先進国へ脱皮していく道程において解決しなければならず、いまそれに取り組むことを迫られている重要な課題である。
33年12月西欧主要国は通貨交換性を回復し、その後予想外のスピードで貿易の自由化をおし進めている。これに対して我が国の自由化は著しく立ち遅れているが、今後我が国もこの世界的潮流にそって貿易為替自由化に必然的に向わざるを得ないであろう。このような事態に対処するためには経済の体質改善をはかり、産業の国際競争力を強化しなければならないが、そのためにも上に述べたような課題を解決することが基本なのである。世界各国等しく驚異とする成長力を示した我が国経済は、今次の景気後退に対しても強い抵抗力をみせ、いまや再び高い成長線に復し、当面数量景気ともいえる順調な上昇期にある。しかし投資の行き過ぎなどから大きな景気変動を招きやすい体質は必ずしも改善されていない。従って景気調整力の強化と経済政策の適切な運用によって経済の安定をはかるとともに長期にわたって高い成長を確保するためには構造政策が一層推進されなければならない。