昭和34年

年次経済報告

速やかな景気回復と今後の課題

経済企画庁


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総説

昭和33年度経済の回顧

景気回復の足取り

 まず景気後退から現在までの足取りを概観しておこう。32年5月、金融引締政策を契機に景気後退が始まって以来、現在までをおよそ四つの局面に分けることができる。第一は33年3月頃まで、景気の下降局面であり、第二は33年度上半期の停滞局面である。第三は下半期の回復局面であり、34年度に入ってからは新たな上昇局面とみることができる。下降局面については既に前年度報告で述べたからここでは停滞局面の動きから述べよう。

上半期

 この時期は「なべ底景気」といわれた時期である。 第1図 に示すように32年5月いらい、急低下を続けた鉱工業生産は、33年3月を底に上昇に転じ、9月までに8.5%増と急速な回復歩調を示した。しかしこの間卸売物価は下げ続け、上半期中になお2.3%下落した。品目別にみると、それまで大幅に下げてきた金属、繊維などの下げ過ぎ訂正の動きがあったものの、他の商品はむしろ下落率が増加している。このような生産上昇の反面、物価が低下傾向を示したのは次のような事情による。すなわち需給が好転した業種は上期にはまだ電気銅、石油製品などごくわずかで、大部分の業種は操業度低下による企業採算の悪化を防ぐため、過剰在庫を抱え込みながら生産を増加せざるを得ない状況であった。従って、企業の決算をみると製造業の利益率は前回のデフレ期の29年下半期をやや下回っている。また 第2図 にみるごとく31年度下期決算では、利益を蓄積した関係から名目利益率が実質利益率より低いが、33年度上期では名目が実質を上回っていて、蓄積利益を吐き出して決算を行ったことを示している。この傾向は不況産業ほどはなはだしく、業種によっては工場閉鎖、人員整理に踏みきらざるを得なかった大企業もいくつかあったのである。

第1図 生産、物価、利益率の推移

第2図 産業別利益率

下半期

 秋に入ると景気の基調は転換して明るくなり、意外なほどはやく回復がみられた。需給好転も上半期中は一部業種に限られていたが、下半期に入ると鉄鋼をはじめ、セメント、ソーダ工業などに次第に及んで、生産活動は引き続き上昇し、鉱工業生産は12月にはやくも神武景気のピーク(32年5月)をこえた。上半期中下落を続けた卸売物価も堅調に転じて、下半期中に2.7%回復した。回復の中心は下落の場合と同様金属であるが、その他の品目も需給改善を反映して、漸次下げどまった。なおこのように生産が上昇し、安値で仕入れていた原料を使うことによって、34年2~3月頃には不況産業の採算もかなり立ち直った。製造業の下期決算は上期に比べ売上高14%、営業利益が17%増加して利益率も回復した。

 以上の通り景気の回復過程は下半期中にほぼ完了し、34年度に入るとともに新しい上昇過程を着実にたどりつつある。

第3図 製品及び原料の価格推移


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