昭和32年

年次経済報告

速すぎた拡大とその反省

経済企画庁


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各論

国民生活

昭和31年度の国民生活

好況の持続と国民生活の向上

 昭和31年度の国民生活は前年の輸出景気につぐ投資景気と、2年続きの豊作によってほぼ前年並みの向上がもたらされた。

 まず個人所得を見ると、国民所得統計による31年度の国民一人当たり実質個人所得の増加率はほぼ前年と同率の9.2%に達し、家計調査による全都市勤労者世帯の実質収入水準は8.0%の上昇となった。また消費水準も都市6.4%、農村1.9%、全国平均4.7%とほぼ前年並みの増加となり、全国平均で戦前を19.6%上回る水準となった。

 このように31年度における国民消費の上昇率は27・28年頃にみられるような年増加率1割という著しいものではなく、経済の成長率に比べても極めて控え目であった。しかし、経済の復興段階を終了した現段階における長期的な上昇率としてみれば決して低いものではなく、かつ個人可処分所得のなかでの貯蓄に向ける割合を増やしながら消費水準の向上を求めた年であるから所得との相対関係においても安定した国民生活の向上であったといえよう。

 このような31年の国民生活の向上は、いうまでもなく前年の後半から伸び始めた投資の急増が国民経済の各部門に波及し個人所得を高めたことに他ならないが、その他農作が未曾有の豊作といわれた前年ほどの作柄ではないものの平年作に比べるとかなり豊作であったこと、消費者物価が後半より上昇に転じているが、年度平均とすれば都市、農村をあわせて1.4%の上昇にしか過ぎなかったことなども影響していよう。

 まず上半期の状況をみると、投資の急増により鉱工業生産は上昇し、雇用も近年にない増加を示すとともに、賃金水準も定期昇給を含めた春の賃金引上げと労働時間の延長による時間外賃金の増加、好況を反映する夏期臨時給与の著しい増加等によって全都市勤労者世帯の実収入は名目で前年同期に対し12%、実質では11.5%の上昇を示した。これを30年度上期の名目3.7%、実質5.2%の上昇率に比べるとはるかに高く、同下期の名目9.7%、実質11.4%の上昇をも若干上回るものがあった。

 このような都市勤労者世帯の実収入の増加や好況の波及による中小商工業主及びサービス業主等の所得増加により、上半期における全都市全世帯の消費支出は前年下期の増加率を若干上回る8.8%の上昇を示した。また消費水準でも前年下期の増加率を約1%下回る8.4%の上昇となった。一方、農家も上半期までは前年の大豊作による増加所得の一部を消費に回し前年後半から伸びた高水準が維持されたので、農村の消費水準も前年下期の増加率に近い4.0%の上昇を続けていた。そのため都市、農村を総合して上半期の実質消費は前年下期の上昇をやや下回る6.8%の上昇となった。

 しかし、下期になると、雇用は依然伸び続けていたが、労働時間の延長も限度に近づき、時間外賃金の増加も停滞し始めた。また年末の臨時給与の大幅な増加を別とすれば賃金水準を高める新たな要員は一部の産業における若干の賃上げ程度にすぎなかったので、勤労者世帯の収入増加はかなり緩慢となり、前年下期の上昇率が高かったことの影響等も加わって下期の名目実収入の増加は7.6%にとどまった。特に32年の1~3月になるとその増加率は5.6%にまで鈍化してきた。一方、C.P.Iは上期の間は前年同期を約0.5%上回る程度で大体横ばいを続けていたが11月頃から魚介、野菜、乾物、薪炭、住居修繕費等を中心に上昇を強め下期平均でも2.9%、32年1~3月では3.7%の上昇となった。そのため勤労者世帯の実質収入は上期の増加率の5割にも達しない4.5%の上昇に鈍化し特に32年の1~3月では前年同期の水準にほとんど近い1.8%の上昇にとどまった。

 このように下期における勤労者世帯の実収入の鈍化、特に物価上昇による実質収入の著しい鈍化は都市消費の緩慢化に大きな影響を与えた。すなわち全都市全世帯の下期の消費支出は7.6%の増加で上期の増加率を約1%下回ったに過ぎなかったが、物価上昇の影響により消費水準では上期の上昇率の5割近い4.5%の増加にとどまり、32年の1~3月では3.8%の上昇まで鈍ることとなった。特に鈍化の著しいのは消費増加の著しい肉類、飲料、住宅修繕、交通通信、修養娯楽等と物価上昇の激しい野菜、乾物等である。しかも、このような実質消費の上昇鈍化にもかかわらず、32年に入ってからの勤労者世帯の家計収支は、所得増加よりも消費支出の増加率が高いために、黒字が少なくなっている。

 下期における消費の鈍化傾向は農村においては一層顕著であった。31年の農業所得が前年を下回ることが明瞭化するとともに農家の家計支出はかなり引き締められ11月以降の農家の消費水準はほとんど前年水準を低迷し、下期の平均でも名目では1.7%ほど上回ったが実質ではわずかながら前年同期の水準を下回った。かくして下期の都市、農村を総合した全国消費水準は3.0%上昇にとどまり、前年下期の7.7%及び上期の6.8%に比べると著しく鈍化の色を濃くした。

第124図 消費水準及び実質所得対前年上昇率

消費水準の相対的低位とその原因

 前述したように31年度の国民生活の向上は上期に高く下期に低いという特徴がみられるが年度間とすれば国民所得の増加率は13.9%、一人当たり実質所得は11.5%上昇しているのに対し消費水準の上昇は4.7%であるから、前年と同様に経済の成長に比べると国民消費の上昇率は相対的に低かったといえるようだ。これは景気循環に対する消費の対応性、すなわち消費の安定的性格によるものであり、欧米諸国等においても同様の傾向がみられるが、31年度の特徴としては大きく分けて二つの要因がある。その一つは個人所得の増加率が国民所得全体の増加率よりも低かったことであり、他の一つは貯蓄性向が強かったことである。国民所得統計によると31年の個人所得の増加率は11.7%であるから29年や30年とは異なり国民所得の増加率よりも個人所得の伸びはかなり低目であったことは確かである。

 これは好況を反映して法人企業の所得が39.7%も増加したのに対し勤労所得は雇用増加をも加えて15.2%の増加であることや、都市小商工業やサービス業主の所得も国民所得の伸び率よりも低い12.5%の増加であること、特に農林水産業の業主所得が農業所得の減収を反映して前年とほとんど変わらなかったことなどが大きく影響していよう。すなわち、個人消費の基礎となる個人所得の伸びが経済の成長率よりも相対的に低かったことに第一の原因がある。

 他の一つの要因である貯蓄性向は32年に入ると若干弱まってはいるが、年度平均とすると前年に引き続いて強く、消費の上昇を相対的に低めた大きな要因をなした。国民所得統計による31年度の限界貯蓄性向は前年の50%よりは若干低下したがなお42%を維持しており、平均貯蓄性向では前年の16%から19%にかえって拡大している。すなわち31年の個人可処分所得は6,840億円11.5%増加したが、そのうち貯蓄に向けた分は2,850億円29.7%の増加となったのに、消費に向けたものは3,990億円、約8%の増加に過ぎなかった。

 かくして31年度の国民総支出に占める個人消費支出の割合は前年の63.1%よりもさらに低下して58.1%となった。

 このような31年における個人消費上昇の相対的低位は投資の急速な拡大による経済のインフレ化を緩和した冷却的な要因として有力な作用を果たしたが、また反面設備投資の拡大が急速に生産力化した消費財産業における供給過剰気味の背景ともなった。

第125図 分配国民所得対前年上昇率(31年度)

第126図 国民所得による平均貯蓄性向と限界貯蓄性向

国民生活改善の内容

消費構造の高度化続く

 31年度の国民消費は前述したように総合消費水準で4.7%の上昇であり、国民経済の発展率に比べるとやや低位にはあるが、増加消費の内容は前年と同様に高度化の傾向が続いた。

 まず、全都市全世帯をみると消費支出の増加率が前年よりはるかに高い費目は住居費と被服費と非主食費であり、特に住居費への支出は27%を超え、27、28年頃の増加率に近かった。これに反し、主食への支出は前年に引き続いて減少した。その結果エンゲル係数(消費支出金額に対する飲食物費の割合)は前年の46.4%から44.9%に低下した。

 一方、消費者物価は主食が前年と同様に低下し、雑費が前年の上昇率に近かったのを除くと住居費、非主食等はいずれも前年の2倍以上の上昇を示し、被服等も前年の低下から1%上昇に転じたので、消費水準としては非主食が前年の上昇率よりも低まり、被服では前年並みの上昇にとどまった。しかし、住居は消費支出の増加率が著しかったので物価上昇のうちにおいても15.7%と前年の約2倍、ほぼ28年に近い上昇率を示した。また、主食も名目消費支出では減少したにもかかわらず物価の低落によって実質消費では前年並みの増加となった。

 このように31年度の都市消費は住居費、被服費及び非主食等を中心に増加したが、住居費のなかでは家賃地代の実質消費が24%、家具什器の耐久消費財が19.6%も増加したことが最も特徴的である。家具什器等の耐久消費財は前年も約19%伸びているので、電気器具を中心とした家庭電化の傾向が依然続いていることの反映とみてよいであろう。家賃地代の実質消費の増加が2割を超えているのは住宅の使用畳数の増加をそのまま現すものではないが、後述するように31年度の建築着工面積は前年の12%増加であり、国民所得統計の個人住宅投資は前年の21%増であるから住宅事情が前年よりも好転したことは疑いがない。非主食の中では外食と飲料の増加率が最も高く2割を超え、これについで肉・卵・乳類が2割近く酒、加工食品等も1割を超えている。その他増加率の高い品目には雑費の中の修養娯楽費と文房具費があるが、これらの品目は質的に高次のものが多く、実質所得の向上とともに消費需要が漸次高次のものに向う前年以来の傾向を現すものとみてよいだろう。もっとも比較的増加率の高かった衣料品等は前述したような長期趨勢的な傾向というよりも、27・28年頃に著増したものが耐用期間が終了したことによって増加したいわゆる短期循環的な傾向が強かったものと考えられる。

 一方、これに対し、実質消費が減少した品目には主食の中の麦類、パン、うどん類生鮮魚介類があり、停滞したものには野菜、乾物、調味料等がある。主食については豊作による内地米の低廉潤沢な供給によって主食の需要が麦類より米に移動したものであり、魚介乾物等は物価上昇が大きかったために、価格の低下している肉類加工食品等に需要が移動したことの反映とみられよう。しかし調味料は28年頃に一応の水準に達し、その後は横ばいに移ったことの影響とみられよう。

 農村は都市消費とはやや事情を異にし、その増加率も名目で3%、実質で1.9%と都市の3分の1に過ぎないが、住宅、家具什器、衣料品等はほとんど増加せず、非主食のなかの豆類、肉卵乳、加工食品茶菓子等の嗜好品と、雑費のなかの保健衛生、交通通信費等で増加し、28年や30年度には大幅な増加をみせた臨時費等はかえって5%ほど減少しているので、消費の高度化も食生活の改善や行楽の増加程度であった。またエンゲル係数も前年の50.0%から49.8%へとほとんど変わらなかった。ただ飲食費に関しては肉、卵、乳類、加工食品嗜好品等の増加の反面、魚介の減少、調味料の停滞、主食のなかの麦類の減少など都市とかなり相似した傾向にあった。

第127図 全都市消費水準費目別対前年上昇率

第128図 全国農村消費水準費目別対前年上昇率

第167表 消費増減の著しい費目(31年度対前年度比)

家計収支の改善と純貯蓄の増加

 31年度の消費の相対的低さの一つの要因に貯蓄性向の強さがあったように、国民所得からみた貯蓄性向は前年に続いて強かった。しかしこれは都市と農村ではやや事情を異にしている。まず全都市の勤労者世帯をみると31年度の実収入は月平均34,730円(5人30.4日換算)となり前年より9.7%の増加となったのに対し、実支出は31,195円(5人30.4日換算)7.8%の増加であったので家計の黒字は月平均3,541円となり実収入の10.2%を占めるに至った。この黒字率は前年の8.6%をさらに上回るものであり、ほぼ戦前(昭和9~11年)の11.7%に近づいている。このように勤労者世帯の家計収支が改善されたのはいうまでもなく、好況の反映による勤労収入の増加が大きく影響したからである。特に定期収入に比べると夏期及び年末の臨時収入の増加率が高く、定期収入の7.2%増加に対し29.2%も増加しており、その構成比も前年の10.3%から12.1%に拡大している。また7月に実施された給与所得控除の引上げも可処分所得の増加に貢献したことはいうまでもない。さらに一方、支出についても緊要度の高い生活物資は一応充足されており、消費者物価も年末までは大体安定していたことなどの他に戦後失われた貯蓄保有額の回復意欲も加わって、限界消費性向は依然低く、前年をやや上回った程度であった。そのため平均貯蓄性向は前年よりもさらに高まって11.3%にまで上昇したからである。すなわち31年度の勤労者世帯は消費を増やしながら貯蓄の割合を高めたのである。

 家計収支の黒字の大半は前年と同様に預貯金及び年金無尽保険掛金等の長期短期の金融機関への預入れであり、前年に対しともに2割以上の増加であるが、31年度の特徴の一つは住宅、証券などへ投資的貯蓄が前年の6倍以上に増加していることである。これ等の31年度の純貯蓄率は前年よりもさらに高まり、実収入の6.8%に達したが、戦前(昭和9~11年)の10.5%に比べるとまだまだ低いといえる。これは戦後の家計が黒字に転じたのはここ5、6年のことであり、手許保有金の割合も少なく、繰越金の増加が依然続いている他、借金返済や掛買払の増加も少なくないからである。

 勤労者世帯に比べると農家の家計は前年よりも改善されたとは言い難い。全府県農家の農業所得は「農業」の項で述べているように、前年よりも若干減少したが、農外事業収入や労賃俸給収入の増加等によって農家所得全体としては1.5%の増加で大体前年の所得と同水準にあった。もっともこれは平年作といわれる29年度に比較すると15.3%の増加である。

 一方、家計費の支出もわずか2.7%の増加であったが、所得増加率よりも若干高かったので限界貯蓄性向はマイナスとなり、家計の黒字は前年の16.8%から15.7%とわずかながら後退した。もっとも、これも平年作の29年に比べるとなお高くなり、勤労者世帯等に比べてもはるかに高い貯蓄率にある。

 このように農家世帯の貯蓄率が高いのは農家世帯が純粋の消費世帯ではなく農業経営と家計消費とが併合されているからである。このような営業世帯においては将来の生活向上や不時の出費に備える貯蓄と将来の所得を生むための投資と現実の消費支出との選択に立たされる。しかも農家の所得は天候等によって大きく変動するので所得が増加しても消費増加を抑制して投資的支出や予備的貯蓄をふやそうとする傾向が強いからである。このことは勤労者世帯等に比べると貯蓄のなかで投資的支出が大きいことによっても明らかである。

 中小商工業、サービス業等の都市営業世帯もその性格は農家世帯に類似しており国民所得統計による一業主当たりの所得増加率は年間12%で勤労者世帯より若干高い程度であり、家計収支を明らかにする統計資料はないが、31年度の非農業個人企業の在庫投資が前年とほぼ同程度の高い水準にあったこと等よりみて投資的貯蓄の割合が大きかったとみてよいであろう。

第168表 勤労者世帯収支バランス(全都市勤労者世帯)

所得及び消費階層別変動

 31年度の国民生活は所得においても消費においても大体前年並みの向上であるが、階層別にみるとやや趣きを異にしている。その特徴はおおむね次の二つに分けることができる。第一は高額資本所得層や経営主層よりも一般勤労者や農家の所得増加率が低くその差は拡大している。さらに第二は勤労者世帯内部においてはそれほど階層差が拡大せず、低所得世帯においても労働力を有する世帯は若干改善されたが、労働力を有しない世帯は依然停滞のままである、こと等であろう。

 まず、当庁調べの31年度国民所得の実績見込みによると、31年度の個人利子所得は25%、個人賃貸所得は16%と勤労所得や農業所得等に比べるとその増加率は著しい。このことは総理府統計局の職業別消費支出においても明らかである。すなわち最も消費水準の高い経営者世帯の消費支出は17.4%も増加して他の、勤労者及び小商人、職人及び自由業者等の2倍の増加率を示している。 しかし、総理府統計局家計調査勤労者世帯の所得階層別五等分区分によると勤労者世帯内部における上昇率においては高所得層と低所得層との間にはほとんど差がみられない。すなわち、同調査の五等分区分によると最下位所得世帯の実収入総額は12.6%(世帯人員修正)増加しているが、最高位所得世帯は10.2%(世帯人員修正)の上昇で中位所得層はその中間の上昇率にある。このうち世帯主定期収入においては低所得世帯の増加率がやや高いが、臨時収入については高位所得世帯の増加率が高い。また妻の収入については中位所得世帯の増加率が著しい。臨時収入において高位所得者の増加率が高いのは賃金水準の高い大企業の労働者や職員その他上位職の増加率が高かったことの反映と考えられよう。また中位所得層の妻の収入がかなりの増加をみせているのは好況による雇用機会の増大によって妻の就業化が促進された結果とみてよいであろう。これは中位所得層の有業率が前年よりも著しく高まっていることによっても明らかである。これに対し最下位所得層の定期収入の増加率がやや高いのは、これら世帯は日雇その他の不安定就業層が多いので好況の波及により就労日数が増加して収入水準を高めたものと考えられる。

 一方、消費支出については最高位所得層の上昇率が最も低く、最下位所得の世帯よりも中位及び中下位層の増加率がやや高い。消費の内容については住居及び耐久消費財の著しい増加、非主食のうちより高次品への移行、主食の中における麦類その他の減少等消費の高度化の傾向は各階層を通じた共通的な傾向である。しかし、費目によっては若干増減率に差がある。例えば外食、肉卵類、衣料品、交通通信費等については、最高位所得層の増加率が低く、中下位層の増加率が高い。これは最高位所得層はこれらの費目についてはある程度充足していることの反映であろう。これは家賃、地代等においても同様の傾向がみられる。これに対し、家具什器類については中上位層の増加率が高く、最下位層の増加率は低い。これは最下位所得層は所得水準の低位のために所得が増加しても耐久消費財には余りさきえないという実情の反映であろう。

 一方、家計の黒字率や純貯蓄率が高位所得層ほど多いことはいうまでもないがその増加率でも上位層ほど高い。特に投資的貯蓄においてその傾向が著しい。これに対し最下位所得層はなお若干赤字であり、純貯蓄でもマイナスの状態にあるので、家計の改善度はまだまだというところであろう。

 このように31年の勤労者世帯の所得階層別所得、消費、貯蓄の変動は項目により濃淡の差はあるが、階層によりそれほど大きな差はなかったとみてよいであろう。

第169表 勤労者世帯所得階級別(5等分)所得消費の変動(31年1~12月)

生活物資供給事情

 昭和31年度の国民生活の改善を生活物資の供給事情からながめてみよう。

 まず主食をみると米は前年の一人当たり109キロから110.8キロとわずかながら増加しているが、精麦や小麦及び小麦製品は前年と同様に減少した。非主食については野菜や果物類の供給は増加したが、魚介類はかなり減少している。非主食のうちで特に供給増加が目立つのは牛乳とビール等である。

 一方衣料品については前年と異なり綿製品の供給も若干増加したが、増加率が著しかったのは毛製品と合成繊維である。しかもその増加率は繊維品の生産過剰気味を反映して消費の増加率をかなり上回っている。また、31年の消費増加の著しかった家具什器類については電気洗濯機は前年の1万人当たり49.9台から80.9台にラジオ受信機は百人当たり1.9台から2.65台へとかなりの増加を示し、扇風機や木製家具類の供給増加も2割を超えている。

 これに対しサービス関係ではバスとタクシーの利用が前年に続いて増加し、映画館の入場者等も前年より約1割前後増加しているがその他の品目については大きな伸びを示している品目はみられない。

 このようにして31年度の生活物資供給量は総合で前年より6.6%の増加となりほぼ前年なみの増加率となった。

第170表 生活物資供給量指数


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