昭和32年

年次経済報告

速すぎた拡大とその反省

経済企画庁


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< 昭和32年度版経済白書 >

速すぎた拡大とその反省

経済企画庁
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経済白書の発表に当って

 経済企画庁では毎年7月に、経済白書をだしていますが、今回は、異常な好況が国際収支の急変を招き、にわかにきびしい調整措置をとらざるをえなくなった、ちょうどその時期に当って発表することになりました。あまり急激な変化を納得しかねている向きも多いかと思いますので、この間の事情を国民の各位に十分理解していただくことが、今回の経済白書のおもな目的であります。

 日本経済はまだまだ富の蓄積が少なく、産業の設備をもっと良くしなければなりませんし、また雇用問題の改善をはかるためには、経済を拡大させていく必要があることは、いうまでもありません。しかし、短期に功をあせりすぎますと、今度のように国際収支が悪くなって、足ぶみしなければならなくなります。同じことは昭和28年度にも経験しましたが、これでは永つづきした発展を保つことはできません。

 これが、今回の経済白書を通じて汲み取った最大の教訓であります。政府としましては、こういうことを重ねて繰り返さないために、統計資料をいっそう整備し、事態の推移を早目にキャッチして、刻々の動きに関する指針を提供するとともに、今後の経済施策については、機動性をもたせて景気の動きに大きな波をうたせないように心掛け、安定した基礎のうえで、繁栄への道に出直すべく、万全の措置を講じてまいる所存でおります。しかしこのような施策も、企業家や銀行家の良識ある協力を待たなければ遂行できません。

 また今後、日本経済が長期にわたって発展していくためには、輸出を伸ばすとともに、産業の設備を改善していかなければなりませんが、それには国民各位ができるだけ無駄な消費を抑えて、貯蓄をふやすようにしていただかなければなりません。

 こうして、官民一致協力のもとで、日本経済の安定した発展をはかってまいりますならば、その前途は洋々たるものがあると確信しております。

昭和32年7月19日 河野 一郎 ( 経済企画庁長官 )


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