昭和31年
年次経済報告
経済企画庁
財政
昭和30年度予算
歳出
一般会計の歳出規模
昭和29年度においては、1兆円予算と金融引締めを主軸とする緊縮制作が実施された結果、我が国の経済は次第に健全化の方向に進んできた。30年度においてもこの経済健全化の基調を堅持し、将来の経済拡大均衡をはかるための地固めとして、暫定予算につぐ当初予算の編成に当たっては、(イ)一般会計予算の規模を前年度に引き続いて1兆円以下に、(ロ)財政投融資資金については前年度程度に維持、(ハ)財源調達の健全化をはかって公債の不発行、(ニ)地方財政の健全化、(ホ)経費配分の重点化、(ヘ)税制改正などに重点をおく方針がとられた。その結果一般会計歳出総額は9,915億円と前年度予算額を83億円下回る財政規模で成立した。しかし、歳出の内容を前年度ベースで計測してみれば、実質規模としては前年度を上回るものであった。
その後、地方財政関係費、食糧管理特別会計の損失、生活保護費、義務教育費国庫負担金、旧軍人遺族等恩給費の不足などが見込まれて補正予算が組まれた結果、当初予算より218億円の歳出増加となり、財政規模は1兆133億円と前年度予算額を134億円上回るに至った。しかし国民所得に対する比率でみると、 第66表 に示すごとく、前年度決算額に対する17.1%から15.0%に低下した。
一般会計歳出の内容
次に歳出の内容を、 第67表 に示すごとく「目的別分類」によってみると、前年度に対して増加している経費は主として補正予算で増加した経費である。すなわち地方財政費は30年末の臨時国会で臨時地方財政特別交付金が160億円支出されたことを主因にして195億円、産業経済費は食管特別会計の赤字補填のため67億円繰り入れられたが、その他に若干の削減もあったために52億円、社会保障関係費では緊縮政策によって増大した失業者を吸収するために失業対策費50億円を増加した他生活保護費、社会保健費などの増加から82億円、教育文化費は義務教育費国庫負担金の増加を主因に69億円その他恩給費は旧軍人恩給の増加を中心に67億円、国債費39億円の増大となっている。なお防衛関係費は防衛支出金と防衛庁費の合計額を前年度並に抑える方針であったため、前者の削減額125億円だけ後者の増加となった。
他方、前年度に比して減少している経費は補正予算における歳出増加の財源として一部歳出の節約繰り延べなどが見込まれた関係もあって、公共事業系統の国土保全及び開発費251億円、対外処理費106億円、国家機関費11億円などとなっている。
以上のような経費の増減をみて気づくことは、1兆133億円の財政規模内における各経費の配分関係で消費的経費が増加したことであろう。すなわち社会保障関係費、教育文化費などの増加はともかくとして、恩給費の増加が社会保障関係費全体の増加額にほぼ近いこと、防衛庁費が防衛支出金の削減内とはいえこれまた大幅な増加をみせたことなどがこれである。
戦前との比較
次に歳出について戦前(昭和9年度決算)と比較して( 第67表 参照)歳出内容の構成がいかに変化しているかを検討してみよう。もちろん戦前と30年度とではその間に行政機構、会計制度さらにはその背景となる経済構造などに大きな変革があるので、一般会計の比較のみで財政支出全般を語るのは正確ではないが、財政政策の推移について一応の理解を受けることができるであろう。
昭和9年度一般会計歳出の国民所得に占める比率は16.5%で、同じく30年度の比率15.0%に対比してほぼ同じ程度の財政規模であるといえようが、その内容についてはかなり顕著な差異がみられる。
第一に、30年度の構成比の方が減少している支出は防衛関係費と国債費のみである。まず防衛関係費は9年度の43.7%に対して、現在は13.3%と著しい低落を示している。
次に国債費も9年度の16.7%から4.4%に急減している。これは現在償還ないし利払いの対象となっている国債が、主として戦時中または戦前のものであるため、戦後の激しいインフレで相対的に額面価値が下落したことによるものである。
第二に、30年度の増加した構成比のうち特に顕著なものとしては、地方財政費と社会保障関係費が挙げられる。前者の増大は、戦後における地方行財政制度の大変革によるもので、9年度には戦前の地方配付税制度もまだ存在しなかったのに対し、現在は地方交付税制度が確率されていることなどによるものである。また後者は防衛関係費のウエイトの推移と著しい対照をなしているものだが、我が国においては、戦後になって画期的な生活保護法が作られたことを初めとして、不十分ながらも福祉国家の実現を指向して拡充強化された。その結果戦前の1.8%から30年度には14.0%(1,420億円)に上り、いまや国の行う仕事のうち大きな要素となっているが、この内訳を詳細に示せば 第68表 の通りである。
第三に、30年度の構成比が、前記のものほどではないがかなり増加しているものとしては国家機関費、国土保全及び開発費、産業経済費、教育文化費、恩給費がある。これらのうち教育文化費は7.2%から12.3%に増加しているが、これは戦後における教育の民主化に伴い、義務教育費国庫負担金や国立学校運営費がウエイトにおいて戦前の2倍近くにもなったためである。次に国土保全及び開発費の増加(9.1%から12.9%)は、戦時中にこれらの仕事が十分に行われなかった関係もあって、戦後開発及び災害対策関係の支出が増大したことにより、また産業経済費では農林水産費関係の支出が増加したことによる。最後に恩給費は9年度の7.9%から8.5%に上昇している。現在の比率が戦前の「恩給亡国論」当時(昭和5年8.1%、6年10.4%)とほぼ同程度となっていることとともに、恩給費の枠内においても文官恩給費に比し旧軍人遺族等恩給費のウエイトが戦前以上に大きく、さらにここ2、3年この傾向が強まっていくことに注目すべきであろう。
以上ごく大雑把ではあるが、戦前との比較において総括していえることは、国民所得の対比でみた財政規模はほぼ同じ大きさであっても、戦後においては行政費(防衛関係費、恩給費及び国債費以外の経費)の割合が戦前の31.7%から73.8%へと2倍以上に上昇していることである。もっとも最近においては行政費が次第に圧縮されていこうとする傾向が現れている。
歳入
30年度の歳入構成
戦後における一般会計歳入予算では22年度以降公債及び借入金収入がなくなったので、 第64図 をみれば明らかなように、租税及び印紙収入の割合が戦前に比し一貫して非常に高くなっている。すなわち、30年度においても、補正予算で最近の景気好転を反映して、所得税85億円、法人税10億円及び物品税35億円などを中心にして160億円の税収増加が見込まれた関係から、総額7,908億円と前年度を125億円上回っている。その全歳入中に占める比率も78.1%とほぼ前年度並であった。ただ税目別の内訳では、後述のように直接税負担を軽減するために所得税及び法人税を中心にして税制改正が実施されたため、相対的に間接税の比率が高まっている。
次に歳入中第二の財源である専売納付金は1,115億円と前年度を約137億円下回っている。これは、たばこ消費税(地方税)の平年度化、30年度限りの措置として一般会計を経由せずして直接に交付税及び譲与税特別会計へ45億円(たばこ専売特別地方配付金)繰り入れられたこと、及び補正予算において上級たばこの売行不振状況から当初より50億円削減されたことなどによる。これに伴って全歳入中に占める比率も前年度の12.5%から11.1%に低下した。
税制改正
昭和30年度当初予算と関連して行われた税制改正においては、戦後数度にわたる減税にもかかわらず、現在の租税負担がなお著しく重い点から、国民生活の安定及び資本蓄積などをはかるために、所得税(344億円)及び法人税(49億円)を中心にして政府案及び衆議院修正によるものを合わせて税法上395億円の減税が30年7月から実施されたが、平年度としては、655億円に達するものであった。しかし、健全財政の見地から減税分を補うために他方では一部酒税、砂糖消費税、揮発油税の増収がはかられた。
この税制改正の内容は 第70表 に示した通りである。その主な狙いとしてはまず所得税関係では、(イ)基礎控除の引上げ及び税率の引下げなどによる低額所得層の負担軽減、(ロ)預貯金、公社債等利子の免除及び生命保険料控除の引下げなどによる資本蓄積の促進、次に法人税関係では、(イ)法人税率の引下げ、特に中小法人の負担軽減、(ロ)輸出及び住宅建築の促進などが挙げられよう。
かように最近の税制改正においては、シヤウプ勧告後我が国の租税体系が直接税中心となってその負担が非常に重く、我が国情に合わないことから、(イ)減税の効果を一般的に均霑せしめる一般的減税と、(ロ)資本蓄積、輸出促進などの特定目的に限定する個別的減税を併せ実施して直接税の軽減をはかる反面、健全財政の見地から財源不足をきたさないように間接税を増微するという税制調整を内容とするものであった。しかもなお減税が強く要望される一方、財政規模の圧縮が難しいため、今後の租税制度をいかにすべきかについて「臨時税制調査会」を設置して目下検討中である。
徴税状況
次に昭和30年度租税及び印紙収入の収入状況をみると、決算額で7,960億円に達し、対予算進捗率では100.7%と前年度の102.3%を若干下回ったけれども、総額においては51億円の自然増収であった。その内容を税目別にみると 第72表 の通りである。
まず直接税関係では、源泉所得税が最近の景気好調と年末手当の増加支給などから補正予算では55億円の増収をみたが、これを上回って30億円の自然増収となっている。他方申告所得税は豊作による農業所得の増加から補正予算で30億円の見積もり増をした関係もあるが、営業所得関係で青色申告が普及したことから予想以上に減収となり、対予算進捗率は96.0%と低調である。しかし所得税全体としては予算額に達した。
法人税においては景気回復による収益増が大企業関係では現れているが、中小企業関係にはその波及が遅れ、しかもこれらは概して一年決算である関係から収益増がすぐには税収面に現れてこないという事情もあって、予算額を下回る状況となっている。
次に間接税関係は、一般に消費の好調を反映して順調である。すなわち、物品税は電気器具関係の消費増加から補正予算で35億円の増加を見込まれたが、それでもなお3億円の自然増収となった。また砂糖消費税も原糖の輸入外貨割当増によって溶糖量の増加が見込まれたことから15億円の補正増となったが、16億円の自然増収をみた。その他酒税が6億円、関税が25億円の自然増収となっている。
戦前との比較
最後に「歳出」のところで戦前との比較を行ったように、歳入の比較( 第69表 参照)をしてみるとここでもかなり著しい差異がみられる。
第一に歳入中に占める租税及び印紙収入の割合が9年度には40%程度でかなり低く、30年度のほぼ半分に過ぎない。従ってこれに専売益金を加えた割合も歳入の約50%見当である。
第二に30年度には全然みられない公債及び借入金収入が33%と歳入全体の約3分の1を占めているのが注目される。これは7年度から満州事変関係の軍事公債の他に新たに日銀引受による歳入補填公債(赤字公債)が登場してきたためである( 第73表 参照)。すなわち、金解禁後の不況の深化によって租税収入その他の経常収入が激減したが積極的な増税によって税収を確保するよりも、民間の生産資金を残して産業を振興し将来の増税の基礎をつくろうとする見地から赤字公債政策がとられたのである。そして公債収入をもって農村土木事業を根幹とする「時局匡救費」に充当されたが10年度以降は軍事費の増大から打ち切られるに至った。
昭和30年度財政収入の動向
昭和30年度中の財政資金対民間収支の実積は 第65図 に示すごとく総額2,768億円の支払超過で前年度(1,900億円の支払超過)を868億円も上回る大幅なものであった。
しかし、その内容をみると両年度間にかなりの差異がみられる。すなわち、29年度においては外為会計の他一般財政も大幅な支払超過であったのに対して30年度においては引き続く輸出の好調と豊作を反映して外為会計と食管会計が合計2,768億円の巨額な支払超過となったので、一般財政(ただし特別会計などから食管会計を除く)としてみればほぼ均衡していたということができよう。
そこで次に2,768億円近くの巨額な払超を行ったこれら両会計の資金調達が、どのようにして行われたかを検討してみよう。
外為会計
輸出の好調によって外貨の受取りがあるとそれに見合う円資金が必要となり、その大部分は輸入に対する外貨売却によって賄われるが外貨の受超が生ずれば円資金が不足することになる。この不足円資金の調達方法をみると、ドッジ緊縮政策がとられたときには、一般会計からインベントリー・ファイナンスが行われ、25年度から27年度までに総額1,500億円に上ったが、28年度には中止された。
ところが最近の外貨受超に伴う円資金は主として外為証券の発行と外貨の対日銀売却(アウトライト)による日銀信用に依存している。すなわち、 第74表 にみるごとく29年度には外為証券によって賄われた分が多かったのに対して、30年度では前年度末の外為証券発行残高が1,400億円と借入限度(1,500億円)に近かったため50億円の純増をみたに過ぎず、円資金の調達はもっぱらアウトライトによって賄われた。その額は1,350億円に上り、年度末残高は1,738億円、日銀保有外貨は5億ドル近くなった。なお外為証券とアウトライトの金融市場に及ぼす影響は、いずれも日銀信用に依存しており、日銀券増発要因となる点でその性質を同じくしている。
食管会計
この会計においては特に米の出来秋になると供米が殺到し運転資金が不足するので、食糧証券の日銀引受によって資金が賄われている。この点特に30年度は未曾有の大豊作であったことから、食糧証券発行高の純増額は1,160億円とかつてない巨額に達した。
かように外為会計及び食管会計において、外貨または食糧証券の日銀引受により調達された資金が大幅に支払われたために、「金融」の項でみるように金融緩慢化の一要因となったのである。