昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
国際収支
逆調への転化
昭和28年(暦年)の外国為替収支( 第2表 )は194百万ドルの支払超過で、前年の受取超過314百万ドルに比べ508百万ドルの急激な悪化を示した。朝鮮動乱後の外国為替収支は各年とも3億ドルを上回る受取超過であったが、28年は特需が前年とほぼ変わりがなかったにもかかわらず大幅な逆調に転じた。
また国際収支の悪化は収支の総額のみでなく、決済勘定別収支( 第3表 )にも強く反映している。すなわちポンド勘定は輸出不振により特に悪化が著しく、オープン勘定は輸出入とも増加したが、輸入の増加が相対的に大きく逆調を強めた。一方ドル収支は28年中にはやや改善したが、昨秋以来の輸入増加と本年に入ってからの特需の減少などにより最近は急激に悪化している。
逆調への転化の過程をみると、特需に支えられた国際収支の均衡は27年11月頃から破れ、以後主として輸入の増減に対応して赤字が増減している。さらに本年1月から従来かなり安定した規模を維持した特需が急減したが、一方輸出がやや回復し、また輸入が輸入金融の引締めなどによって2月以降漸減に転じたため、最近は赤字の幅がかなり縮小している。
逆調の要因
昭和28年の外国為替収支を前年と比べると、 第2表 の通り輸入が383百万ドル増加し輸出が133百万ドル減少し、この結果入超は前年の429百万ドルから945百万ドルへと2倍以上に急増した。特需及びその他の貿易外収支にはあまり変化がなかったが、このような貿易収支の著しい悪化から、収支全体としてはいわゆる特需ありながらの赤字が増大したわけである。このように輸入が急増した半面輸出が伸長せず入超額が拡大したことは、根本的には国内購買力の増大と物価の対外的割高によるものと考えられる。
保有外貨の減少
また国際収支の悪化を反映して我が国の外貨保有額(米ドル、英ポンド及びオープン勘定残高)は急速に減少し、昭和28年12月末977百万ドル、29年4月末787百万ドルとなった。しかもこの保有額のうちには、将来ドルで返済しなければならない国際通貨基金からのポンド買入(約62百万ドル)や年賦払いになっているインドネシア旧勘定債権(65百万ドル)などを含んでいる。さらにインドネシア(新勘定)及び韓国に対しては合計約1億3,000万ドルの債権が累積しており、したがって実質的に利用可能な保有外貨額としてはあまり余裕のないものになっている。( 第4表 )