昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
―地固めの時―
昭和28年、それは国内経済水準の上昇と貿易収支の悪化が最も端的に現れた年である。鉱工業生産及び国民所得の増加率は世界一であった。この年において日本経済が到達した生産、国民所得及び国民生活等の規模は、野心的とさえ思われていた戦後復興計画の計画目標をも遥かに凌ぐものであった。鉱工業生産は終戦の年の5倍、対戦前(昭和9~11年基準)6割増の水準に達し、国民所得は3割増、人口の増加を考慮に入れた一人当たり所得も消費水準と並んで初めて戦前の水準を破った。しかし、西ドイツ復興のめざましさを「西ドイツ経済の奇跡」と称えた世界の目は我が国経済の回復をみせかけの繁栄と評する。それは一国経済の世界に向けた顔ともいうべき貿易収支が余りにも著しい不均衡を露呈しているからにほかならない。復興計画では28年度までに輸出16億ドルを達成する目標であったが、実際は13億ドルにとどまった。しかし輸入は26億ドルにせまり、その前年に対する増加は比率で世界一、金額にしても世界で第2番目であった。従って28年度までに自力による国際収支の均衡を達成しようとした復興計画の見通しに対し、同年の国際収支実際は、8億ドルの特需収入ありながら3億ドル余の赤字を示した。このような国内経済の予想以上の回復と対外収支の不均衡の鋭い、しかも不幸な対照はいかなる原因によってもたらされたのであろうか。なるほど失われた海外市場は回復していない。その上にポンド圏を初めとする輸入削減等の事態も加わった。国内でも不作というような思いがけぬ事情も突発した。しかし我が国現在の国際収支の悪化の主たる原因は、これを国内経済の実力以上の膨張に求めなければならない。
以下総説においては国際収支へのしわ寄せの上に成り立った経済膨張の過程とその動因を検討し、現在行われている経済引締政策の意義を明らかにするとともに、さらに再び拡大均衡への前進の契機を把握するために我々が果さねばならぬ課題の大きさを見極めたいと思う。