地域経済レポート’99のポイント
-日本列島総不況からの脱却-
平成11年7月
経済企画庁調査局
目 次
はじめに
本レポートの基本的なスタンスは、各地域の発展の具体的条件が各地域ごとに異なるものであり、中央の視点から一様に論じてしまうことは必ずしも適切ではなく、また、具体的な目標やそれを達成する手段は地域ごとに考え、実行していくことが本来の姿であり、望ましいというものである。各地域が地域のための発展戦略を自らが自らの責任で切り開いていくことが21世紀には自然な流れになっているというものであり、現在はその移行過程にあると捉えている。
本レポートは、3部構成となっている。
第1篇では、全国11ブロックの状況を各ブロックごとに産業構造や最近の動向をコンパクトにまとめている。主として各地域の位置づけを認識してもらうためのものであり、それぞれの地域経済への関心を高めてもらおうという狙いがある。第2篇は、雇用や倒産に現れた98年の厳しい現実を大都市圏と地方圏の違いという視点に立って、分析するものである。第3篇は、全国から集めた成功事例集である。数も多くはなく、事例紹介にとどまってはいるが、こうした成功事例の広がりこそが新たな飛躍につながるという観点に立ってまとめたものである。
第1篇 目でみる地域経済
<基本的な考え方>
各地域の経済動向は、わが国経済全体の動向に大きく影響を受けるが、それぞれの経済や産業の構造の違いを反映しており、ばらつきがみられる。このため、日本経済全体としての変化の方向を早めにキャッチする観点から、地域経済動向把握はマクロ経済動向把握のための補完的な位置付けがなされ、実施されてきている。 他方、地域とは、本来、生活や経済等の諸活動が現に行われている「現場」であり、「グラウンド」に喩えることができよう。さまざまなプレイが繰り広げられるグラウンドは、すぐれたパフォーマンスの必要条件であるので、プレイヤー自身によって高い関心が払われなければならない。例えば、南関東vs近畿の比較では、同じ大都市圏でありながら、最近の近畿がより厳しいのはなぜか。また、輸送機械のウェイトが極めて高い東海vs近年急速に電気機械のウェイトを増大させた東北では、モノカルチャー的構造が有する死角はないか。アジア経済危機の影響はどの地域が最も影響を受けたのか。公共工事のウェイトが高い地域とそうでない地域との経済対策の効果はどのように異なり得るか。この他にもいろいろなテーマがあり得よう。本レポートでは、こうした問題意識のもとに地域経済動向を捉えることによって、より立体的な観察が可能となり、地域の活性化のあり方等を考えていく上での基礎を提供すると考えられる。 以上のような観点を念頭におきながら、第1篇では各地域の主要な特徴等をコンパクトにまとめた。 |
<ポイント>
北海道
農林水産業、建設業、サービス業の割合が高く、製造業の割合は非常に低い。北海道拓殖銀行の破綻により、家計・企業のマインドが悪化し、厳しい状況にあったが、地元銀行や道の積極的な姿勢や公共工事の増加により、景気は下げ止まってきている。
(トピック)「たくぎん」の看板がはずされるまで
東北
製造業での電気機械工業の割合が高くなり、その動向が大きく景況を左右するようになった。昨年10月以降、パソコンや通信機器等の生産増加が生産全体で持ち直しの動きを牽引している。
(トピック)新産業創造に向けた具体的取り組み
北関東
輸送機械、一般機械、電気機械といった加工組立型の製造業のウェイトが高い。個人消費の低迷や設備投資の減少から、電気機械、一般機械等を中心に減少傾向にあったが、99年に入ってから、持ち直しの兆しがみられた。
(トピック)温泉客数の減少を食い止める取り組み
南関東
卸小売業、金融・保険業、運輸・通信業、サービス業等第三次産業の割合が他地域に比し高く、第一次産業、第二次産業の割合が低い特徴があるが、その経済規模の全国に占める割合が高いため、日本経済全体の動向とほぼ同じ動きをする。
(トピック)減少傾向にある大田区の工場数
東海
自動車を中心とした輸送機械の割合が非常に高く、その動向が地域の景況に与える影響は他地域に比しても相当大きく、自動車の国内販売の低迷から生産は低調に推移した。
(トピック)経済波及効果の大きいビッグプロジェクト
北陸
繊維工業やアルミサッシを中心とした金属製品工業の割合が高いため、国内需要の低迷により生産が減少傾向で推移していたが、公共工事の大幅な増加から景気は下げ止まってきている。
(トピック)「能登キリコ祭り」による観光の活性化
近畿
電気機械工業の中でも家電のウェイトが高く、また、中小企業の割合も高い。阪神淡路大震災の復興需要の一巡や中小企業の割合が高く、アジア向け輸出依存が高いため、状況は最も厳しいものとなった。
(トピック)阪神淡路大震災の被災地域の経済の復興状況
中国
化学、鉄鋼等の素材型産業や輸送機械、一般機械等の機械工業の割合が高く、「重厚長大型産業」中心の構造を有している。昨年秋以降は、化学や自動車の生産に持ち直しの動きがみられた。
(トピック)電気機械からみられる山陰地域の重要性
四国
農林水産業の割合が北海道や東北同様、相対的に高く、第三次産業の割合が比較的低い中で政府サービスの割合が高い。製造業は減少傾向が続いたが、明石海峡大橋の開通により観光業には活気がみられた。
(トピック)高松周辺における大型店の出店ラッシュ
明石海峡大橋開通が四国に与えた影響
九州
農林水産業、卸小売業、サービス業の割合が相対的に高い。製造業では、ICや自動車等の加工組立型産業が立地している。地理的条件から、貿易や観光等でアジアとの関係が深く、アジアの経済危機の影響を強く受けたが、その回復の兆しに期待が高まっている。
(トピック)アジア経済危機と九州
福岡一極集中と、激化する都市間競争
沖縄
観光関連産業、建設業、政府サービスの割合が高く、製造業の割合は著しく低い。入域観光客数の大幅な増加や公共工事の増加、さらにはスーパーの売上高など個人消費の一部も底固く推移し、昨年秋以降景気に明るさがみられ、最近も他地域に比し活況である。
(トピック)沖縄経済を支える観光産業と高い失業率
第2篇 98年は日本列島総不況
<基本的な考え方>
98年の日本経済は、まさに「日本列島総不況」というほど厳しいものであった。そのかつてない厳しさは、失業と倒産の状況に集約される。 すなわち、98年の雇用情勢は、完全失業率が全地域で一様に過去最悪の水準(全国4.1%)に達し、有効求人倍率も過去最低の水準(0.53倍)を記録した。また、企業倒産は、件数で18,988件と戦後3番目を記録し、負債総額でも13兆7,500億円と戦後2番目の記録となった。 他方、例えば、98年10月から実施された、「中小企業に対する信用保証制度の拡充」が直ちに倒産件数の減少に貢献したように、厳しい現実も各種の政策効果によって緩和され、12月の月例経済報告には早くも「変化の胎動」が感じられるとされたのも98年の一つの特徴を成した。 日本列島総不況とは、地域経済の視点からは、経済状況が全国的に急速かつほぼ一様に悪化し、大都市圏と地方圏の区別なく、一気に飲み込んでしまったことを指している。 第1篇では、地域経済を地域ごとにいわば縦割り的な切り口でみたが、本篇では、以上のような特徴を有する98年の経済活動の様相を、大都市圏と地方圏という視点を中心に、雇用、生産、消費といった横割り的な切り口で分析するものである。また、本篇では雇用、倒産といった厳しい現実をスタートとし、その背景を辿っていくという順序にした。 |
<ポイント>
1)雇用
過去最悪を記録した98年の完全失業率は、大都市圏では4.2%、地方圏では4.0%と、差は0.2%ポイントと小さくなったものの(両圏の95年時点での差は0.5%ポイントであった)、92年以降、大都市圏が地方圏を上回っている状態が続いている。また、有効求人倍率については、大都市圏では0.45倍、地方圏では0.58倍と、大都市圏の方が悪い。92年以降起こった、こうした雇用情勢における大都市圏と地方圏の逆転現象は、大都市圏においてはサービス産業の就業者数が増加するものの、製造業での減少が著しく、また、地方圏においては逆に加工組立型産業の工場立地が進んだり、建設業が雇用を吸収したこと等、主として両圏の産業構造の違いを反映したものと考えられる。しかし、97年から98年にかけての急激な雇用情勢の悪化は、主として大都市圏ではサービス産業の伸びが鈍化し、製造業での減少を支えられなかったことや、地方圏では製造業と建設業での減少が大きかったことに起因しており、経済情勢の悪化がそのまま両圏の雇用吸収の要である産業を直撃した結果と言える。
(コラム) データでみる各地域の就業構造
2)倒産
98年の企業倒産18,988件は、84年の20,841件、83年の19,555件に次ぐ戦後3番目となり90年代では最悪であり、負債総額も13兆7,500億円と、97年の14兆400億円に次ぐ戦後2番目の記録となった。大都市圏及び地方圏で、ともに件数が大きく増加したが、業種別では両圏とも建設業の倒産件数が最も多く、特に、地方圏の建設業の倒産増加が顕著である。そのほかの業種では、両圏とも製造業、卸売業、小売業が大きなウェイトを占めるが、いずれの業種も増加した。また、98年は、貸し渋りや金融機関の破綻関連の倒産が増加したことも特徴的であった。
また、業歴5年未満の若い企業の倒産が減少傾向にある中で、業歴20年以上の企業の倒産が増加し、特に30年以上の老舗企業の大型倒産が目立ったことも特徴的であった。
なお、バブル崩壊後と今回の景気後退局面を比較すると、今回の景気後退局面では、バブル崩壊後に大幅増となった倒産件数の水準を更に上回る等、大都市圏、地方圏とも一様に悪化し、中でも地方圏の建設業が最も影響を受けたと言える。
(コラム) 増加傾向にある老舗倒産
3)企業活動
以上のような雇用と倒産における厳しい状況は、主として生産や設備投資といった企業活動の低迷に起因していると考えられる。また、こうした低迷の背景には企業活動そのものを支える金融の面からの影響も大きかった。こうした企業活動の様相を大都市圏と地方圏に分けて整理する。
<設備投資>98年の一つの特徴は、設備の過剰感が大都市圏でも地方圏でも広がり、非製造業でも製造業と同様に過剰感が強まり、全産業で悪化したことである。大企業・中堅企業・中小企業といった企業規模別でみても、一様に冷え込んでいる。
なお、バブル崩壊後と今回の景気後退局面を比較すると、今回の景気後退局面では、両圏とも設備投資は一様に減少しているが、地方圏でやや落ち込みが大きい。これは、バブル崩壊後も地方圏では比較的設備の蓄積が進んだため、この反動が表面化したものと推察される。
(コラム) 生産性の分析からみた地域特性
<生産>98年の鉱工業生産は、全地域及び全業種で、大幅に減少した。特に、98年の前半には、97年後半の在庫の積み上がりや98年に入ってからの内需の一層の低迷等を背景に、97年半ば頃から始まった鉱工業生産の減少傾向が一層強まった。
在庫は、大都市圏では総じて97年10~12月頃に調整局面入りし、98年10~12月頃には若干なりとも進展し、45度線を上回った。地方圏では四半期程度遅れて調整局面入りし、98年10~12月頃には45度線に近づいたが、上回るまでには至らなかった。
なお、バブル崩壊後と今回の景気後退局面の状況を比較すると、生産では、バブル崩壊後は大都市圏の方が減少が大きかったのに対し、今回は大都市圏、地方圏とも一様に悪化したこと、素材型産業と加工組立型産業の出荷では、内需低迷の状況がより厳しいなか、素材型産業の減少が、今回の方が総じて大きかったことが特徴であった。
<金融>97年後半以降クローズアップされた、いわゆる「貸し渋り」問題は、98年においても貸出残高の減少等という形で続いた。これは、金融機関においては、中小企業向け融資のウェイトが高いなかで、売上高減少による中小企業の財務内容の悪化等の借り手側の要因に加え、ビッグバンを控えての金融機関の資産圧縮の動きの加速化等貸し手側の要因によるものである。
日銀短観の貸出態度D.I.によれば、大都市圏の方が地方圏よりも悪化が顕著であり、実際の貸出残高でも地方圏では総じて増加しているが、大都市圏では減少している。
なお、バブル崩壊後と今回の景気後退局面の状況を比較すると、今回の方が、地方圏における日銀短観の貸出態度D.Iが悪化しており、金融情勢の厳しさが全国的な広がりをみせている。
(コラム) 相対的に減少が大きかった北海道の中小企業向け貸出残高
4)個人活動
98年の企業活動の低迷が主として個人消費や住宅建設が著しく落ち込んだことを反映した面があるが、同時に雇用、倒産、企業活動の厳しい状況を受けて、個人消費や住宅建設が落ち込んだ面も強かった。こうした点を踏まえ、個人消費や住宅建設の動きを大都市圏と地方圏に分けて整理する。
<個人消費>98年の個人消費は、97年秋以降の大手金融機関の経営破綻、企業倒産の増大等を背景に、消費者マインドが大都市圏でも地方圏でも低下し、全体として低調に推移した。しかし、年後半頃からは、全国的に家電・パソコン、軽自動車が堅調な動きとなった。
大都市圏と地方圏の比較では、消費そのものに大差はないものの、地方圏の方がやや低調となった。これは、地方圏での就業者数の減少により可処分所得の減少が相対的に大きかったことによるものである。ただし、乗用車新車販売台数は、98年10~12月に軽乗用車のウェイトが高い地方圏は軽乗用車の増加貢献度が大きく乗用車全体でも増加となったが、普通・小型乗用車のウェイトが高い大都市圏の場合には減少幅が一層拡大した。
なお、バブル崩壊後と今回の景気後退局面を比較すると、バブル崩壊後には大都市圏がより低調であったが、今回はそれほどの差はない。
(コラム) 大都市圏で高い平均消費性向
天候要因で違いが現れた98年夏のコンビニエンス・ストア販売額
<住宅建設>98年の住宅着工は、年間着工戸数で120万戸となり、84年以来の低水準を記録した。利用関係別では、持家は97年7~9月を底に徐々に減少幅が縮小し、98年7~9月以降はほぼ前年並で推移した。貸家と分譲は減少傾向が続いた。特に、近畿では阪神・淡路大震災の復興需要が一巡し、貸家の落込みが顕著であった。首都圏では、分譲マンションの在庫戸数が危険水域といわれる1万戸を超えるなど、振るわなかった。
圏別に推移をみると、大都市圏より地方圏での増減の幅が大きかった。また大都市圏では、ウェイトの高かった貸家が低下し分譲のウエイトが高くなってきている。
5)改善への動き
98年の地域経済は、「需要の減少が供給の減少を招き、さらにこれが一層需要を減少させる」という、典型的な不況の悪循環に陥り、さらに大都市圏及び地方圏の双方がいわゆる「金融不全による悪循環」と「家計不安による悪循環」といった2つの悪循環にはまり、極めて厳しい状況が全国的かつほぼ同時的に進行し、「日本列島総不況」という事態に立ち至ったといえよう。なお、強いて言えば、大都市圏では「金融不全による悪循環」の影響がやや強い面があり、地方圏では「家計不安による悪循環」の影響の方がやや強かったものと考えられる。
しかしながら、こうした悪循環も各種の政策の実施等により、断ち切られつつある。それまでの不況一色から「変化の胎動」が感じられ始め、更に99年に入ってからは、なお楽観視できるような状況にまでは至ってないとはいえ、「下げ止まり」の傾向にまで改善の動きが広がりつつあると考えられる。
以下では、このような不況の悪循環を断ち切る動きとして、資金調達環境の改善、公共工事の下支えをとりあげる。
<資金調達環境の改善>北海道に限らず、全国的に政府系金融機関が下支えした面は大きく、また、「中小企業に対する信用保証制度の拡充」は即効性をみせて、98年後半からは倒産件数が著しく減少した。
これまでの金融機関は、不良債権の処理等主として自らの問題に傾斜して取り組んできた傾向がうかがえるが、金融二法の成立を機に金融不安の問題は一応片付いた。このため、金融機関本来の機能が発揮され、企業活動への金融面からの支援が可能な状況が整ってきたと言える。
<公共工事の下支え>98年度の公共工事は、7~9月になって当初予算の前倒し効果によって前年同期比でプラスに転じたが、三次補正予算等の効果は99年に入ってから具体的に出てきた。全国的には、年度ベースで前年比プラスとなったが、地域的にもタイミング的にもばらつきがあり、総じて大都市圏の方が落ち込み、地方圏はプラスとなった。全国的に共通していることは、発注者別では国が、工事種類別では道路と治山治水が増加に大きく貢献した。
こうした公共工事の増大は、建設業における雇用や倒産の動向にプラスの影響を及ぼしている。建設業における有効求人倍率が6~7月頃には底となって、それ以降改善してきている。同じく就業者数も97年10~12月から大都市圏で、地方圏では98年1~3月からそれぞれ減少し始めたが、10~12月から減少幅が縮小した。また、セメントや鋼材等公共工事関連の業種への波及効果もみられた。
第3篇 地域経済の回復への息吹
<基本的な考え方>
第3篇では、独創的取り組み等により、この厳しい状況下においても元気に頑張っている企業や地域の34事例を紹介する。この34事例は、「どういう地域にどういう元気のいい企業や地域があるのか」として収集したものの中から絞り込んだ結果である。 こうした事例集が示唆することは、企業や地域こそがメインプレイヤーであり、メインプレイヤーがもっと大胆に行動し、より良いパフォーマンスを実現できれば、地域社会全体が活性化されるということである。行政の役割とはすばらしいプレイを生むようなグラウンドを整備することが第一の任務であると考えるべきであろう。このグラウンドの整備は、細心の注意をもって丹念に行われなければならない。グラウンドという現場を知り抜いていなければならず、何よりも愛着が重要である。巨大なグラウンドもあれば、小さいものもあり、また整備が進んでいるものもあれば、そうでないものもあり、まさに種々雑多である。したがって、そうした個々のグラウンドの整備状況を遠隔の地から云々することは事実誤認をすることすらあり得ようし、一様に整備していこうとすると、公平性の観点が尊ばれるあまり、平均的なことや標準的なことに落ち着きやすく、個性あるグラウンドづくりが困難になる面もあろう。そうした意味において、おざなりのグラウンド整備に陥らないようにするには、グラウンドという現場を知らない立場にある場合には、その整備の具体的な内容に深くは立ち入らないような自制が必要であろう。 さらに、ここに収められている事例は、全体のほんの一部に過ぎないということも看過してはならない。そのことは、まさに東京において知り得る知識や情報には限りがあるということである。行政は、こうした情報収集力を高めていく努力を怠ってはならないが、同時にそこには大きな限界があるということも的確に認識する必要がある。 今後、まずこうした事例の蓄積を行い、さらに突っ込んで地域特性(歴史、文化、風土を含む)を加味しながら分析することができれば、グラウンド整備の具体的方向がより一層明確なものとなろう。 |
<ポイント>
1)事例
34の事例は、次のとおりである。
1.景気が低迷している中頑張っている企業・組合の事例
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2)元気な企業、元気な地域の特徴
34の事例について、企業と地域に大きく括って、それぞれがなぜ元気なのかをまとめてみる。
<元気な企業>厳しい状況下でも元気な企業とは、次のような特徴を有している。
まずは、産業の選択に目を向けてみると、未だ誰もが手を付けていない、いわゆる隙間産業に挑戦していることが挙げられよう。また、これまでの事業を継続している企業にしても、これまでの事業内容に疑問を抱き、何とかして現在の困難な状態から脱出したい、そのためにはどうしたら良いのかとの思いから、試行錯誤の末その方策を見いだし、これまでの経営方針を変えるとか、その中で独自のブランドを確立し、実行しているということである。
さらに、忘れてはならないことは、成功している事例をみると、それぞれ顧客の幅広いニーズに対し、きめ細かな対応で応えているということである。
経営面からみると、それぞれの企業努力により、徹底したコストの削減を図り、低価格での提供が可能となっていることである。
なお、大半の成功事例では、地域の或いは行政の何らかのバックアップがみられる。
<元気な地域>元気な地域としては、次のような特徴がある。
まず、その地域の特性を最大限に活かしている事例がある。
その地域独自のブランド化を確立し、そのブランドで広域的に市場を展開して成功している事例がある。
街づくりの成功事例は、その地域に合った景観づくりに配慮し、地域が一体となって取り組んでいる。
観光等の施設等については、時代のニーズに合った戦略で成功している事例が多く、また、運営面では、民営化で成功している事例が多い。
地域の活性化・地域おこし等で成功している事例から言えることは、そのテーマ(メッセージ)が誰にでも分かりやすい・身近なものである、ということが大切であろう。
いずれにせよ、大半の成功事例では、地域や行政と企業との間の連携や一体化が円滑に機能していることがみられる。
おわりに
本レポートの第1篇や第3篇の基本的な考え方で示したように、プレイヤーとグラウンドの比喩を用いると、地域経済の動向把握とは、要するに、プレイヤーとグラウンドの状況や両者の関係を少しでも早くかつ的確に把握するということであろう。そして、こうした把握のあり方は、堺屋経済企画庁長官が昨年10月から11月にかけての、連続5回に及ぶ地方視察において提唱された「地方シンクタンクとの連携強化」や同じく同長官のイニシアチブでまとめられた「動向把握早期化委員会の提言」をベースに、「地域景気モニター」(仮称)の創設等を通じて一層充実していく必要がある。
しかしながら、プレイヤーとグラウンドを詳らかにかつ総合的に把握することは、中央での関心事としてのみ位置付けるのではなく、それぞれの地域がその主要な関心事として主体的に取り組まれなければならない性格のものという認識が必要であろう。そういう認識の下では、こうした役割を担い得る、地方大学や地方シンクタンク等の知的基盤が大きくクローズアップされなければならない。
特にアメリカでは、シンクタンクや大学といった知的基盤の果たす役割はわが国に比べて格段に大きい。今やわが国において大学等の高等教育機関はあふれ、県立大学や市立大学の数も増えてきたし、シンクタンクも増えてきている。しかし、その地域社会における役割は必ずしも十分評価されているとは言えないようである。こうした知的基盤が地域社会にとっては本来の性格上コストセンターになり得るものであり、経済情勢次第で知的基盤の存続自体が左右されかねないこともあろう。したがって、せっかくの知的基盤が所期の目的を達成することもなく挫折することがないようにするためには、地域社会全体で活用策を含めそのあり方について常に議論していくことが望ましい。やはりこのためには、地域社会が知的基盤を長期的に継続して、積極的に活用していく姿勢と、そういうニーズや期待に応えるよう、知的基盤サイドも努力することが必要であろう。例えば、アメリカでは地方の大学のビジネススクールがベンチャービジネス支援に積極的な役割を果たしている。大学側がノウハウ等を提供する代わりに企業はケーススタディの対象として情報を提供するという関係がみられることが多いという。このことは、広い意味でベンチャービジネスを地域社会が支えているということであり、さらに、ビジネスをビジネスだけに終わらせず、客観的な分析の対象にもしていく知的努力は大きな目でみれば地域社会全体の知的基盤をより強固なものにしてきていると考えられる。また、テキサス州オースティン市はシリコンヒルズと呼ばれ、全米有数のハイテク産業都市として変貌を遂げ、人口も急増する等発展しているが、こうした成功の裏にはテキサス大学が果たした役割が極めて大きかったという。
そうした地域社会の知的基盤がより強固になっていくことはその地域社会の競争力が一層高まることになるという意識がもっと浸透していく必要があろう。知は飾りではなく、まさに力である。そのことを認識した上での対応は、長期的にみれば大きな成果を生み出すことになろう。換言すれば、地域の活性化とは、脳の活性化ということであり、脳に十分な栄養分が行き渡るように、土壌深く根ざして栄養分を吸収する根をはりめぐらさねばならない。こうした脳から活性化させていくことは、たとえ即効性はなくともいずれ大きな実をもたらすものと期待できる。問題は、そのような脳をつくるため、根をはることから始め、時間をかけて大きく育てていくだけの力を保持していくことができるか、地域社会全体の関心事になるべき性格のものと考えられる。
知は力であり、その知は豊かな文化的風土でのみ育まれ得るものである。最短距離で目標を達成しようとするのも一案であるが、知を育む段階からじっくり取り組んでいくやり方にも大いなる希望が宿っているように考えられる。