景気動向の早期把握等に関する今後の課題―動向把握早期化委員会報告書―

はじめに

我が国経済の現状をみると、景気は低迷状態が長引き、極めて厳しい状況にある。こうした状況のなか、景気動向の把握の更なる迅速化を図り、また、その正確さを高めていくことは、政府が適切な経済運営を行っていく上で極めて重要な課題である。

こうした課題に対応するため、経済企画庁は「動向把握早期化アクションプログラム」を平成10年11月に公表し、種々の調査・統計の早期公表をはじめ、動向把握早期化等に向け全力をあげて取組む決意を明らかにした。

このアクションプログラムに基づき、「動向把握早期化委員会」が経済企画庁長官の下で開催され、平成10年12月より調査・統計の早期化等に伴う様々な問題について議論が重ねられてきた。会合は7回にわたって開かれたが、委員(コア・メンバー)の方々にはご多忙中にもかかわらず、極めて熱心にご参加いただき、この種の委員会としては驚異的ともいうべき出席率となった。また、関係各省からも、事務局からお招きしたゲスト・メンバーの参加に加え、自発的な参加もいただき、建設的な議論を行うことができた。検討項目は、消費動向の早期かつ的確な把握、地域経済の情報収集、加工統計を含む統計のあり方、公的部門の動向把握、新しい視点からの情報把握など多岐にわたった。なお、設備投資など企業動向の把握については、時間の関係で議題として取り上げることができなかった。今後、別の機会に議論をしたいと考えている。

本報告書は、委員会におけるこうした議論を、「景気動向の早期把握等に関する今後の課題」として取りまとめたものである。議論の過程では、上述のように個々の調査・統計を所管する省庁を招き、活発な意見交換が行われたが、この報告書自体は、委員(コア・メンバー)の考えをとりまとめたものであって、必ずしも関係省庁と合意をみたものではない。報告書に官僚的な枠をはめるよりも、自由な立場からの忌憚のない議論をまとめることの方が、長期的な改善に資すると考えたからである。政府が、本報告書にある考え方や提言を尊重し、今後の景気動向把握の改善に対して一層の努力をしていくことを期待する。

動向把握早期化委員会委員長

竹内 啓

第1部 基本的考え方

「動向把握早期化委員会」での議論を通じて、調査・統計の見直しを進めていく上で、いくつかの基本的な考え方が明らかにされた。それは、次の7つに整理できる。

(1) 「方向性」の早期把握

我が国の調査・統計については、どちらかと言えば「迅速さ」よりも「正確さ」により重点が置かれてきた面があることは否定できない。しかし、右肩上がりの経済成長という前提が崩れた現在、経済が向かっている「方向性」を迅速・的確に把握することが、政府が経済運営を適切に進めていく上で不可欠となっている。昨今の政府の経済対策が常に後手に回ったという批判が多くみられるが、この様な問題は、経済の「方向性」に対する政府の認識の遅れに起因するところが少なくないと考えられる。

経済全体の網羅的な姿(GDPなど)の早期把握に努めることと並んで、景気に対して敏感かつ早期に反応するものを重視し、重点的な動向把握に努めるべきである。近年の統計処理技術の発達や報告者負担軽減の観点に鑑み、可能な分野については、詳細な数値の記入を求める統計からDI型の調査への移行を図るなど、報告者負担を軽減する一方、精度を保つ観点から、適切なサンプル数を確保するなどの措置を進めることが望ましい。

(2) 多面的なアプローチ

個別の調査・統計にはカバレッジや精度の限界があるので、少数の調査・統計に頼って景気動向の把握を行うことは困難であり、多面的な情報を総合しつつ適切な景気判断を行っていく必要がある。

例えば、経済の動きは供給サイドと需要サイドに分けられるが、調査・統計についても供給側と需要側の双方からのアプローチが可能である。経済情報を早期かつ正確に把握するためには、こうした双方向からのアプローチを効果的な形で採用していくことが重要であろう。

また、消費者にとっては価格でデフレートあるいはインフレートした実質額が意味を持つが、企業にとっては名目の売上額やこれと仕入れ価格との差が重要な場合が多い。このように、経済主体別に異なるアプローチを採用することも必要である。

多面的なアプローチは、それぞれ独自のメリット・デメリットを有しており、各々が補完するような形で情報収集が行われることが望ましい。可能な限り工夫をこらし、省庁間の連携をとりつつ多面的なアプローチが効率的に機能するように、体系的な調査を行っていく必要がある。

(3) 既存の調査・統計の活用と報告者負担の軽減

現在、国・地方自治体をはじめとした多くの政府機関、多数の民間機関が様々な目的から調査・統計を行っているが、こうした既存のものを最大限活用することが必要である。

そのためには、「調査・統計は公共財」という認識の基に、その存在や作成方法についての一層の積極的な情報公開が必要である。また、新規に調査・統計を行う場合には、既存のものと重複がないか十分な確認を行うべきである。

新規調査以外について、今後とも報告者の立場も考慮した調査方法の見直しを常時行っていくべきである。報告者の理解と協力があって初めて、信頼のある結果が得られることを再認識し、報告者負担の軽減に対して出来る限りの努力をする必要がある。こうした努力が回収率の改善につながり、最終的には、調査結果の公表の早期化、信頼度の向上に通じていくものと考えられる。

(4) 利便性の向上

情報通信技術の進歩に伴い、近年、インターネット等の新しいメディアを通じた情報発信が盛んになってきている。調査・統計の結果についても、印刷物に加え電子媒体を用いた発表も行われつつある。また、情報公開法の制定について議論が行われるなど、政府情報の公開に関する動きも活発になっている。

しかし、調査結果の細目等の詳細情報については、公表はされていても、当局まで取りにいかなければならないなど入手するのが困難な場合がある。また、電子媒体での情報提供が不十分なため、経済分析に際して利用者側がデータを再入力するようなケースも生じている。

詳細情報も含め、電子媒体での情報発信を推進し、一般の利用者が必要な情報を容易に入手できるような環境を整備すべきである。

(5) 市場への配慮

昨今、市場の動きが景気全体に大きな影響を与えるようになってきており、経済統計が市場を通じ、景気に影響を与える可能性が高いと考えられる。こうしたことから、市場関係者に経済統計に係る情報提供が等しく行われ、市場関係者がそれらを正しく理解出来るようにすることが、経済の攪乱要因を除く意味で重要となる。

インターネット等にて、調査・統計の公表スケジュール(日付が明記された詳細なもの)の事前公表、一次統計の詳細情報の公表、加工統計の推計手法の公表等を行うことにより、市場への迅速かつ正確な情報提供に努めるべきである。また、市場等、民間部門が統計を解釈する機能を重視すべきであり、誤解防止のための技術的コメントなど統計自体についての説明は必要であるが、結果の解釈に時間をかけて公表時期が遅れることがないよう留意するべきである。

(6) 新しい技術・手法の活用

調査・統計の分野においても新しい技術を積極的に導入すべきである。急速な発展をみた情報通信技術を最大限に利用し、回答の電子化等による業務の効率化を進めるとともに、情報通信技術の将来動向も想定しつつ、景気動向の早期把握に向けての技術開発を意識的に行うべきである。また、統計処理手法や分析手法についても新しい進展(欠損値の処理法やロジット分析等)がみられていることから、調査・統計の手法についても、既成の考え方にとらわれず、諸外国の事例も参考にしつつ、こうした変化に即して改革を行うなど、弾力的な見直しを行っていくべきである。

(7) 機動性の確保

景気動向を早期に適切に把握するためには、定常的な調査・統計を迅速に処理するのみならず、その時々の景気情勢に応じて重要となった分野や政策効果について、機動的な情報把握に努める必要がある。報告者負担の軽減や既存統計との重複回避という要請と、こうした機動性確保を両立させる努力が今後とも必要である。

第2部 提言

我が国経済の現状をみると、景気は低迷状態が長引き、極めて厳しい状況にある。こうした状況のなか、景気動向の把握の更なる迅速化を図り、また、その正確さを高めていくことは、政府が適切な経済運営を行っていく上で極めて重要な課題である。

こうした課題に対応するため、経済企画庁は「動向把握早期化アクションプログラム」(本報告書資料編資料1)を平成10年11月に公表し、種々の調査・統計の早期公表をはじめ、動向把握早期化等に向け全力をあげて取組む決意を明らかにした。このアクションプログラムでは、GDP速報の早期化、月例経済報告の早期化、景気動向指数の早期化、基礎的な景気情報把握の早期化など、広範な分野での努力を行うことを表明している。本委員会では、このうちの一部(上記資料のアンダーライン部)を中心に検討を行った。

以下、前述の「基本的考え方」に基づきつつ、具体的な提言を述べることとする。なお、この提言は関係省庁との意見交換を踏まえて、本委員会の委員(コア・メンバー)がとりまとめたものであり、必ずしも関係省庁の合意を得たものではない。

1.消費動向把握の改善

国内需要の3分の2を占める民間最終消費支出の動向は、従来に比べて変動が大きくなっている反面、その十分な把握が必ずしも可能となっていない。消費動向把握の改善を図ることが景気判断を行う上で極めて重要な課題となっている。

(1) 「家計調査」の更なる改善

「家計調査」(総務庁)は、諸外国でも類例のない包括的な消費調査であり、消費動向把握の上で最も重要な調査であるが、報告者負担が比較的重いことなどを反映してサンプル数が約8,000と限られているなど、景気動向把握という観点からは改善の余地が残されている。「家計調査」は景気の動向把握のみを目的としたものではなく精緻な調査体系を評価する声もあることから、多方面からの意見聴取を踏まえつつ見直しを実施していくことが望ましいが、比較的容易にできるものとしては、チェーン指数(共通サンプルを比較した前月比をつないで作る指数)の計算と公表、日次データの集計と公表等が望まれる。また、チェーン指数等の公表については、通常の集計結果と合わせて毎月公表するなど市場への配慮も期待したい。

(2) 「消費動向調査」の月次化

「消費動向調査」(経済企画庁)は、消費者マインドの変化、サービスの支出予定等を調査項目としており、報告者負担が比較的軽く、また消費動向把握の上で大きな役割を担っている。このため、更なる公表の早期化に努めるとともに、現在四半期毎に行われている本調査の月次化を進めるべきである。その際、現行のままの月次化が困難なのであれば、一部地域のみについて月次化することや調査票を簡素化することが検討されるべきである。

(3) 供給側からの調査・統計の更なる活用

需要側からの消費動向の把握には、世帯毎・時期毎の消費のバラツキが大きいため相当なサンプル数が必要であり、また、詳細な構造を把握しようとすると報告者の負担が重くなるという問題がある。このため、供給側からの調査・統計の更なる活用に努めるとともに、市場等に対しても使い勝手の良い形で供給していくことが望ましい。

供給側からの代表的な調査である「商業動態統計調査」(通商産業省)については、業態分類の見直しや詳細データの提供等の改善を順次行い、その更なる活用を図ることが望ましい。また、民間機関が実施している販売動向等に関する調査・統計についても、需要側の調査・統計では把握が困難な分野(耐久財支出等)についてかなりの情報が得られることから、その活用につき努めるべきである。

現在、経済企画庁にてパソコン通信を用いた企業ヒアリングが試験的に行われているが、上記の観点から、こうしたシステムを、既存調査では捕捉が不充分な業種(サービス関連等)に重点をおきつつ拡充すべきである(「サービス産業動向把握」〔仮称〕)。具体的には、パソコンのみならず新しい情報機器を活用し、動向情報を把握するシステムの構築を検討すべきである。なお、こうしたシステムの構築に際しては、協力者に過度の負担がかからないよう十分に配慮すべきである。

(4) テレビ消費動向調査(仮称)の検討

情報通信技術の進展に伴い、今後テレビは情報を受信するのみならず、視聴者が情報を発信することにも利用できる双方向システムの中のツールとしての位置づけが強まっていくと見込まれている。こうした新しい媒体を消費動向把握に活用すれば、かなりの回答数が期待できるし、ほぼリアルタイムでの情報把握を行うことによって協力者の負担も軽く、かつ速報性も確保できるなど、大きなメリットが期待できる。ただし、費用対効果の検討を十分に行うとともに、回答のバイアスの補正策や、システムの暴走防止策等についての工夫をした上で、手法の限界に留意しつつ利用していくことが必要である。民間関係機関の協力も得て、消費動向を調査する新しいシステムの構築に向けた作業を開始すべきである。

2.公的部門の収支動向把握の改善

景気対策の中での財政政策の占める位置付けに鑑み、公的部門の支出が景気動向に与える影響は重要である。公的部門の収支動向については確実な把握が本来可能であるべきものであるが、現実には、景気動向把握の観点からみると十分な状況とは言い難い。

(1) 会計システムの標準化・電算化を通じた把握

公共事業を始めとする公的支出は、本来は発注側からの把握が可能なはずであるが、現状では、特に地方自治体の予算の補正状況や、その執行状況の早期把握が困難である。また、特別会計を含む国の会計については、執行状況は比較的早期に把握できるものの、主要経費・目的別の分類などその内容の早期把握が困難である。こうした状況を改善するためには、予算費目別の状況だけでなく、何に使われたかが分かるような(国民経済計算と対応するような)標準的な会計システムを国がガイドラインとして提示するとともに、その利用が業務の電算化を通じて自治体にとってもメリットとなるよう、ソフトウエアも整備しつつその普及を促進することが重要である。また、国においても、会計処理の電算化を図る中で、支出状況を早期かつ的確に把握できる体制を構築していくことが重要である。こうしたシステムが普及すれば、これを活用しつつ迅速な支出状況把握を行っていくことが可能となる。

(2) 類型別自治体についての調査

ただし、(1)には時間がかかるので、財政困窮度別や、大都市・地方別など、類型別に地方自治体をいくつか選定し、民間の調査機関なども活用しつつ、予算やその執行状況を調査することも当面の方策として必要であろう。

(3) 契約率の継続的把握

また、公共事業予算の前倒し執行の際に公表している契約率の調査を経常的に実施・公表することも望まれる。

(4) 既存統計の解釈方法の研究

公共事業に関する受注側の各種調査・統計については、標本誤差が非公表など信頼性に関する情報が少ないことが、景気動向把握の観点からの解釈が困難な一因となっている。情報提供の改善を図るとともに、各種調査・統計相互の性格の違いなどについての理解を深めるため、既存統計の解釈方法についての検討を進めることが望ましい。

3.地域経済動向把握の改善

地域経済には、変化の方向がマクロ経済指標に比べ先行的にあるいは顕著に現われる場合があり、その把握はマクロ経済動向の理解を補完するものとして極めて重要な意義を有している。このため、地域別調査の拡充をはじめ、地域を中心とした情報収集を更に充実したものにする必要がある。

(1) 地域別データの一層の整備

「家計調査」(総務庁)や「毎月勤労統計調査」(労働省)では、地域別データは公表されているものの、サンプル数などの関係から、地域別の動向を正確にあるいは早期に把握することが困難である。また、「労働力調査」(総務庁)では、地域別データは公表されているものの四半期データしかない。さらに、現在利用可能な地域別データは、公表時期が全国ベースのものと比べ遅いものもある。消費や雇用など主要な指標については、地域別にも月次で動向を迅速に把握することが望ましい。

(2) 「地域景気モニター」(仮称)

地域経済動向の把握に当たっては、地域間比較をしながら地域の実情に関する分析を掘り下げていく必要がある。このため、各調査機関で行われている企業や事業所中心のビジネス・サーベイの一層の有効活用を図るとともに、これを補完するものとして、景気動向に関連する状況を観察し易い立場にいる人を「地域景気モニター」(仮称)として属人的に選定し、地域の経済動向をそれぞれの観点から評価・報告してもらうようなシステムを新たに検討すべきである。

(3) 地方シンクタンクとの連携強化

地域経済について一層の情報収集を図る観点から、政府、特に経済企画庁は地方シンクタンクとの連携強化を図るべきである。政府が地方シンクタンクを活用して地域経済動向を把握することは、地域における潜在的なニーズの掘り起こしにもつながり、地方シンクタンクを中心とした新たな知的インフラの発展の契機となることが期待される。

4.GDPの公表早期化

本委員会とは独立に設けられた「GDP速報化検討委員会」(委員長:栗林世中央大学教授)において、四半期別GDPの更なる早期化の可能性について検討した結果、新たに暫定値を作成する等の6つの提言や暫定値公表に際しての留意事項をとりまとめたとのことである。

具体的には、

  • 暫定値に関しては、一部の需要項目について、別の基礎統計を使用して推計すれば、暫定値を1カ月程度早く作成することが可能であるが、速報値との開差がかなり大きいため、暫定値を公表するにあたっては、その統計的な性格を十分に理解してもらえるよう、一定の試行期間を設けたり、公表形式を工夫するなどの措置が必要である。
  • 速報値自体の更なる早期化を実現するためには関連基礎統計の早期化が重要である。
  • 2次速報値の早期化を図ることが望ましい。
  • GDPの推計方法を公開し、改訂がなされた場合に適切な説明を行い、統計の信頼性を確保するように努めることが望ましい。
  • 推計手法の不断の見直しを図ることを強く求める。
  • 中長期的課題として、生産アプローチや月別GDPの開発に取り組むことが望ましい。

(詳細は、「四半期別GDP暫定値の推計手法の確立とその作成にむけて-GDP速報化検討委員会報告書-」参照。)

5.その他

情報通信技術の発展や経済情勢の変化により、調査・統計をとりまく環境やそのニーズは変わりつつある。また、既存の調査・統計が実勢を十分に反映していない部分も生じていると考えられる。こうした状況の変化に機動的に対応できるように、新たな視点からの情報把握・提供や調査・統計の見直しが必要となっている。

(1) 価格動向の更なる把握

銘柄指定を基本とする現在の物価指数は、品質・取引条件等の連続性を確保する上で一定の利点を有するものであるが、一方で、世代交代が激しい商品分野では、平均購入価格(実効価格)の動向の把握も極めて重要である。また、商品やサービスの質の差を勘案した価格動向についても、「卸売物価指数」(日本銀行)ではヘドニック法等の手法を一部採用するなどの工夫がなされているが、物価指数全体としてみれば、品質調整の面でなお改善の余地がある。こうした既存の調査・統計では把握が困難な価格動向については、新たな手法を含め把握方法の見直しを行うことが必要である。

なお、「消費者物価指数」(総務庁)については、調査日や調査品目の選定が最近の消費者行動の変化を反映していない面もあると考えられるため、事実関係の周知に努めるとともに、実態についての調査を行い、必要に応じ見直すことが望ましい。

(2) データ収集のオンライン化

コンピュータ・ネットワークによる企業等とのオンライン化によって、データ収集に伴う時間的・金銭的コストを大幅に削減できると考えられる。現在、「機械受注統計」(経済企画庁)で調査票のオンラインでの提出が可能となっており、通商産業省においても、通商産業省生産動態統計等の代表的な動態統計について、インターネット等のオンラインを活用して申告できる新たなシステムを2000年1月分から導入する予定である。個票データの安全性に配慮しつつ、こうした措置を出来る限り多くの調査・統計に早期に導入することが望ましい。

(3) 間接推計の可否の検討

米国の一次統計の公表が総じて早い背景についてみると、統計作成に間接推計法を採用していることが挙げられる。例えば、鉱工業生産指数については全体の半分以上が労働投入量や電力使用量から推計されている。こうした方法は動向把握の早期化に寄与すると考えられるが、一方で一次統計の範囲を超え、誤解を招く可能性もあるので、その取り扱いも含め、どのような対応が望ましいか、我が国においても検討していく必要がある。

(4) 部分的な早期集計・公表

「家計調査」(総務庁)において勤労者世帯の調査結果について早期集計・公表が実施されたように、各調査・統計においても早期公表の重要性が高い項目で、かつ可能なものについては部分集計を行い、公表の早期化を図ることが望ましい。

(5) 「速報」の性格の明確化

早期把握の観点からは調査・統計の速報化が望まれるが、速報を発表する場合には、どのような意味で確報と異なるかを明らかにし、適当と思われる場合には、「速報」とせずに、別の名称による別の調査・統計として位置付けることが望ましい。これにより、速報と確報との乖離といった問題で混乱が生じることが避けられると考えられる。

(6) インターネットによる情報提供の拡充

長期時系列や細目等の詳細情報、統計の公表スケジュールなど、インターネットによる情報提供を一層充実させるとともに、利用者が加工処理可能な形でのデータの提供を行うべきである。一次統計については、インターネット上で作成方法を明らかにするとともに、標本誤差や統計のもつ癖についても可能な限り公表していくことが望ましい。加工統計についても、インターネットにおいて推計手法を明らかにするなど透明性を確保すべきである。

6.措置が採られた分野

早期化等の観点から、最近政府等により措置が採られているもの、あるいは予定されているものとして、以下が挙げられる。

(1) 「家計調査」(総務庁)の見直し

勤労者世帯(速報値)について、従来の翌々月初公表から翌月内公表へ早期化(平成10年11月分より実施)。今後は、平成12年1月より、農林漁家世帯を調査対象に含め、単身世帯については寮・寄宿舎を対象とした調査を実施し、これに伴い単身世帯及び単身世帯を含めた総世帯についての調査結果を四半期ベースで公表する予定。

(2) 「景気動向指数」(経済企画庁)の公表早期化

公表を従来より2週間程度早期化(平成10年8月分より実施)。また、景気動向指数速報からの改訂状況についても公表を開始(平成11年1月22日より実施)。今後、各種一次統計の早期化の進展に応じ、さらなる早期化に取組む予定。

(3) コンビニエンスストアに関する統計調査の開始(通商産業省)

500店舗以上を有するコンビニエンスストアのチェーン企業本部を対象に、新たに調査を開始。(平成10年10月分より承認統計として実施。平成11年4月分からは「商業動態統計調査」の一部として実施。)

(4) 「特定サービス産業動態統計調査」(通商産業省)の見直し

景気動向に感応的な対個人サービス業を中心に、対象業種の拡大(5業種のものを15業種に拡大)を予定(平成12年1月を目途に実施)。

(5) 新世代統計システムの導入(通商産業省)

通商産業省生産動態統計等の代表的な動態統計を対象に、オンライン化による調査票の収集等を可能とする新世代統計システムを導入(平成12年1月分から導入予定)。

(6) 国の予算執行状況の公表の前倒し(大蔵省)

月次及び四半期で公表をしている国の予算執行状況については、今後集計の迅速化を進め、原則として、毎月分に関しては現状の2ヶ月半後を翌々月末までに、また、四半期分に関しては現状の4ヶ月後を3ヶ月以内に、それぞれ公表を早期化する予定。

(7) 「企業短期経済観測調査」(日本銀行)の見直し

全国短観の標本の見直しを行い精度の向上を図るとともに、規模別比較にあたって主要短観に加え全国短観を活用(平成11年3月分より実施)。また、短観の調査全容について従来より2週間程度公表を早期化(平成11年4月より実施)。

(8) 金融関連統計の見直し(日本銀行)

マネタリーベースについて、平成11年1月より従来と比べ3週間程度公表を早期化し、更に平成11年4月より8営業日公表を早期化。また、都道府県別預金・現金・貸出金動向について従来より6営業日程度公表を早期化(平成11年4月より実施)。

(9) 「卸売物価指数」等の見直し(日本銀行)

「卸売物価指数」及び「製造業投入・産出物価指数」については、現在の統計が抱える問題点や調査方法等を記述したペーパーを公表(日銀調査月報99年4月号掲載)するとともに、次回基準改定時に実施を予定している見直しについてパブリックコメントを募集。

(10) 統計公表日の事前公表ルールの明確化(日本銀行)

日本銀行調査統計局作成の統計及び統計書については、3・6・9・12月の中~下旬に、それぞれ先行き6ヶ月間(各4~9月、7~12月、10~翌年3月、翌年1~6月)の公表日程を、記者クラブへの資料配布、インターネットへの掲載等により公表(従来は、主要統計の公表日を4週間前に公表)。

7.今後について

本報告書にある提言等について事務局にてその検討・実施状況の点検を行い、結果を公表していくことが望ましい。

なお、本委員会の事務局でもあり、また景気判断等の重責を担う経済企画庁においては、これまでに述べた基本的な考え方や提言を率先して積極的に実施することが望まれる。また、調査・統計をベースとした景気判断プロセス自体の早期化・効率化についても、今後とも努力が望まれる。

第3部 各委員によるメモ

第3部はコアメンバーの各委員が、本委員会の検討に関して、個人の立場で感想、強調したい点などを自由に述べたものである。

最近の消費需要の動向について

明治学院大学教授

竹内 啓

1.消費需要動向把握の3つの段階

消費需要の動向については、これを一般に3つのレベルで捉えることができる。

(1)家計の消費支出

(2)小売り業者の売り上げと収益

(3)消費財生産者の売り上げと収益

この3者は、もちろん互いに密接な関連を持つが、しかしその動きは必ずしも常に同じ方向にあるとは限らない。とくに景気後退期から回復期に当たってはこれらの数字の動きの関係は微妙になる。

2.家計の消費支出

家計の消費支出の変化については、消費関数のパラメータの変化と説明変数、とくに収入と資産価値の変化とを分けて考えねばならない。前者は構造的な景気変化を引き起こす要因となるが、後者による家計消費の変化はいわば景気変動の結果であるといえるからである。

最近の家計消費については1997年半ばからの消費需要の落ち込みが問題となっている。これについていわゆる消費税率アップ前の「駆け込み需要」に対する反動ということがいわれているが、これが正しい説明であるかどうかの詳しい分析はまだほとんど為されていないように思われる。このことが正しいとすれば、消費関数が全体として消費税率アップ前の数ヶ月間上方にシフトし、次いで消費税率アップ後その分だけ下方に移り、やがて元に戻るはずである。このことが実証的に示されなければ単に総額としての消費支出の変化からだけでは、このような命題は立証できない。

しかしその後1998年になってからの状況を見ると、消費税の問題だけでは家計消費の変化を説明するのに不十分であることは明らかなように思われる。実際に消費関数のパラメータが変化したかと思われる兆候もある。そこでこの点を詳しく分析する必要があろう。ただしこの問題に関して注意すべき点がいくつかある。

(1)利子率の極端な低下により家計の利子所得および一般に金融資産からの収入が減っていること:

このことは株式等の減価によるキャピタルロスから生ずる資産効果を無視しても、直接に所得効果として消費需要に影響するはずである。ただしこの点を家計調査等のミクロデータから検証するとき、賃金収入などと違って資産からの収入の把握は不十分であることに注意する必要がある。

(2)物価影響:

もし消費関数が実質所得と実質消費との関係として捉えられるべきものであるとすれば、それを名目所得と名目消費の関係として計測すると、価格が変化したとき、その影響は消費性向の変化として現れる。限界消費性向が1より小さいとすれば、物価が上がれば名目所得と名目消費が比例的に変化しても、消費関数は上方にシフトし、物価が下がれば下方にシフトする。最近消費者にとっての物価は、価格分布の変化によって、物価指数の示すところ以上に下がっているようにも思われるので、このことがあたかも消費需要が減退したような効果をもたらしているかもしれない。

(3)住宅購入:

消費税は住宅需要にも影響している。1998年において住宅建設の落ち込みが著しく、これが景気減退の一つの要因になっているが、家計の住宅購入は消費ではなく投資である。従って家計の住宅購入の減少はそれだけ消費を増やすか、或いは貯蓄を増やすか、または同じことであるがローンを減らすかという効果を持たなければならない。家計消費がそれだけ消費支出を増加させたとは考えられないから、それは貯蓄を増やすことになったはずである。

(4)耐久消費財の購入:

いわゆる耐久消費財、自動車や電気電子機器などの購入も、投資的な面がある。このような投資的な支出、つまり実物資産を購入する行動は、金融資産の購入つまり将来の所得を目的とした投資とは異なるが、一般の消費支出と同じに扱うことはできない。最近一般的な物価下落の期待の下で、実物資産の購入傾向は低下しているように思われる。しかしこの点を家計調査等から検証することは、そのようなものの購入頻度が十分大きくないので困難である。

全般的にいえば1998年においても、家計の消費性向は厳密な意味では必ずしも下っていないように思われる。

3.小売り業者の売り上げと収益

しかし商業者の観点からすると状況は必ずしも同じことではないと思われる。売り上げは必ずしも伸びていなし、また「消費税還元セール」等の安売りによって一次的に売り上げが伸びても、利益は増加しないということもあるようである。ただしこれに関連して次の点に注意すべきである。

(1)小売り業の立場から見た消費財の売り上げは必ずしもすべて家計の消費支出に対応するものではない。企業の直接的な中間投入と見なすべきもの――例えば被服、家具、文房具等、或いは間接的な経費――交際費等もある。これらは家計外消費支出という形で捉えられることもあるが、家計消費に対してある程度の大きさを持つと思われる。不況の深刻化により、この部分の支出が大きく減っていることが想像される。この点を裏付けるデータが何らかの形で取れるであろうか。

(2)消費者にとっては価格でデフレート或いはインフレートした実質額が意味を持つが、商業者にとっては原則として名目売上額および粗利益、つまり販売価格と仕入れ価格との差が問題である。仕入れ価格の変化は把握し難い。しかしそれは商業者の粗利益つまり商業の景気そのものを直接決定するものとなるので、何らかの形で把握することが必要であると思われる。

(3)商業の利益計算を左右するもう一つの要素は在庫率、或いは商品の回転率である。商業在庫については、最近特に上がっているとは思われない。むしろ商業企業は在庫を極力減らそうとしているように思われる。そのことはいわゆるバーゲンセールなどの安価販売と結びつき、一次的な計算上の赤字を増やすかもしれないが、中長期的には経営を健全化することにつながるであろう。もう一つの商業企業のコスト要因としては人件費および物流費がある。これについてはすでに合理化は十分進んでいると思われるが、むしろ最近ではコンビニエンスストアなどの小規模多品目商店の増加により、単純に売上金額との比を取れば大規模スーパーなどより効率の低いところが増えているともいえる。もちろんこのことは単純な効率化の後退ではなく、消費者の要求の変化に応ずるものである。けれどもそれが小売り商業全体としての付加価値にどのように影響するかを見るには、一層の分析が必要である。

(4)商業における企業の経営については、販売粗利益のほかに金融関係の条件が影響する。商業企業が金融資産への多額の投資を行っていた場合には、多額のキャピタルロスを生じている可能性もあるが、実物投資の中にも不良資産化しているものもあるかもしれない。また商業戦略上の投資の失敗、或いはそれに伴う借入債務の負担の増大という問題もあり得る。また最近ではいわゆる「貸し渋り」の影響を受けて、運転資金の面でも困難にぶつかっている企業もあるかもしれない。このように商業企業のキャッシュフローにも注目する必要がある。

商業の企業としての経理内容から見ると、1998年度は一般に経営指標は悪化している場合が多いのではなかろうか。そうしてそのことは単純に消費者の需要の動向だけからは決まらないものであるから、その内容について十分調べる必要がある。

4.消費財生産者の売り上げと収益

さらに消費需要に関わるものとして消費財やサービスの生産者がある。これには次の4つがある。

(1)農業を中心とする個人企業生産者

(2)対個人サービス業者

(3)消費財製造企業

(4)海外

この中で(1)については景気との関連ではあまり論ぜられることはない。とくに最近ではしばしば現在と比較される昭和不況や、1930年の大不況期と違って、農水産物などの食品や、生活に直接関連するサービス業の売り上げはほとんど影響を受けていないように思われる。生鮮食品についてはむしろ気候や気象の影響の方が大きいであろう。

しかし一部の対個人サービス業、とくにタクシーなどは景気の影響を大きく受けるといわれているので、対個人サービス業の一部の業種について売り上げや収益の変化を調べることは必要ではなかろうか。

生産者として最も多く取り上げられるのは、消費財関連製造業であろう。その中には食品加工、衣服身廻り品製造業、雑貨製造業などの非耐久消費財製造業と、自動車を代表とし、家庭用電気電子機器などの耐久財製造業とがある、耐久財購入は投資的性質を持っていることは既に述べた。実際大型家電製品や家具などの需要は住宅投資――新築およびリニューアル、と密接な関係がある。

自動車の販売台数はしばしば注目される。もちろんそれは販売額からいっても、また関連する産業全体の大きさからいっても極めて重要であるが、その需要の性格は注意して分析する必要がある。自動車の必要な家庭への普及はほとんど完了したといってよい現在では、家庭用の自動車の新規需要は新築住宅の需要と密接な関連があり、それ以外は買い替え需要である。若年層の減少とともに純新規需要は減退するはずである。従って買い替えの周期が重要な要素となる。それについてどのような変化が起こっているのであろうか。この点についての情報は包括的な家計調査から求めることは無理であり、業界統計、或いは特別な調査によるほかはない。家電製品についても買い替えの周期は問題になろう。

もう一つはパソコンを中心とする情報機器の家庭への普及である。家計によって購入された情報機器の額はどれほどであろうか。

非耐久的な最終消費財製造業の動向も重要と思われるが、最近この点についてあまり聞かないように感じられる。ということは需要についての著しい落ち込みはないと考えてよいのではなかろうか。

ところで生産者の一部は海外となる。消費財の一部とくに繊維については供給先は大幅に移転した。労働集約的な最終消費財製造業については、供給先が海外に移るのは自然であり、またそれは貿易黒字が過大にならないためにも必要である。ただし1995年に円高が急激に進んだ時期には海外への移転が急激に進み、また輸入によって国内価格が大きく引き下げられる危険があった。現在の1ドル=115円前後の交換レートは基本的には円高というべきであり、消費財輸入を徐々に増大させるであろうが、それほど急激な影響はもたらさないであろう。

5.家計消費の動向と政策の指針

憶測を交えていささか大胆な判断をしてしまえば、現在の日本の家計消費の動向について次のようなことがいえると思う。

(1)消費関数のパラメータとしての消費性向にはあまり変化はなく、下方へのシフトもない。従って家計の所得が減らない限り消費は減らない。

(2)消費財の価格の全般的低下によって、家計の実質消費は減少していない。或いは増加しているかもしれない。

(3)ただし家計の住宅購入などの投資的支出については変化が見られる。それは家計の持つ資産の価値の変動、ボーナスなどの臨時所得の減少などによって説明できるであろう。

(4)しかし小売り業の売上額は減っている。これは価格低下によるところが大きい。それに対応して小売り業企業の経営は悪化している。

(5)小売り業における価格の低下は、一部は在庫と需要とのミスマッチによるが、小売り業の構造変化の過程における競争の激化によるところが大きい。

(6)非耐久消費財生産者については、円高が急激に進んで輸入が激増することがない限り、景気によってあまり大きな影響は受けていないように思われる。これは需要が基本的には減退していないからである。

(7)耐久財および住宅等の投資については消費財一般とは別の観点から分析が必要である。その需要は確かに減退しているようであるが、それについては消費者の将来に対する不安からくる流動性選考の上昇が少なくとも一つの要素であろう。

(8)消費財に対する需要の一部は企業、および非営利法人等からも生じていて、このような需要の最近の合理化の進展によって確かに減少していると思われる。

もし上記のような判断が正しいとすれば、それはまた取るべき政策についての指針を与えるであろう。以下の点に留意して取り組む必要があると思われる。

(1)家計に対する政策として最も重要なことは所得を安定させることであって、消費を刺激することではない。

(2)消費財の価格低下は流通業の全体としての効率化につながる構造変化の反映であれば望ましいもとのいえるが、「過当競争」的状況の生み出したものであれば流通業界を混乱に陥れるだけでなく、いわゆる「デフレーション・スパイラル」のきっかけとなる恐れがある。消費財市場の構造とその変化には十分注意する必要がある。

(3)住宅、自動車、その他の耐久消費財等の広い意味の投資的需要については、金融関係の要素を考慮しなければならない。超低金利はローン負担の減少、貯金の果実の減少により、これらの財の需要を増加させる効果があるようにも思われるが、しかし他方金利の低下は現在の資産所得を減少させるのみならず、将来の所得見込みをも低下させる。それが資産価値の減少や金融資産の含むリスクの増大、或いは年金収入に対する不安などと結びつくと、将来所得の期待額を大きく低下させることになる。そのことは将来財の現在における価格――すなわち将来の生活費を確実に賄い得るために必要な現在の貯蓄額、を大きく上昇させたと思われる。そのことの所得効果が投資的需要を減退させていると思われる。この点では金融不安が影響しているのみならず、先行きについての不安が大きく影響している。年金のみならず個人貯蓄について、その将来の果実を保証する(少なくとも一定の果実が得られることを安心して期待させる)ような政策が重要であると思われる。

補足

現在の景気診断は、微妙な条件に依存している。もしGDPの成長率が+2%ならば、「景気は回復した」と宣言されるであろうし、-1%ならば「かなり悪い」と判断されるであろう。しかし全体の差で3%の幅というのは、多くの統計数字にとって誤差の範囲である。

もし2つの相続く年について独立に数字が取られるとすれば、それぞれの数字の標準誤差が2%ならば、その差の標準誤差はほぼ数式 となってしまう。そうして建前上の設計標準誤差ではなく、事後の現実の標準誤差が2%というのは、かなり小さい数字といわなくてはならない。このような数字にもとづいて場合によっては0.5%の動きも大きな意味を持つかもしれない景気判断を行うことは不可能である。

このことは包括的(comprehensive)な統計数字にもとづいて景気判断をすることには、厳しい限界があることを意味している。ここで標本の大きさを増して、いわば“力づく”で精度を上げようとしても無理である。そこで景気判断については、いろいろな形の部分的情報をうまく組み合わせ、適切な推理を働かすことによって行う以外方法はない。

動向把握早期化に関するメモ

経済ジャーナリスト

小邦 宏治

1.統計、予測に関する政府の姿勢

外野席から見ていると、政府の景気予測に対する信頼は悲しいほど薄らいでいる。年末に決める翌年度の政府見通しは、誰も信用していない、といって過言ではない。最近の例でいえば、堺屋長官が「変化の胎動」発言を行ったとき、「立場上、明るさだけを強調した」と受け止める向きが多かった。こうした政府不信の原因は、景気予測と政策決定が混同されている事に求められるのではなかろうか。客観的であるべきデータの解釈に政府が政策意図を織り込むため、予測が当たらなくなり、信頼度が落ちてきたのである。

まず、データの公表と政策決定をキチンと区別する必要がある。良い数字であろうと悪い数字であろうと生の数字を出来るだけ早く公表すべきである。

上記の認識に立てば、閣議にあげるまで公表をまっているデータは直ちに発表し、閣議はそのデータに基づいて政策を協議すればよい。また、月例経済報告のように景気判断を行うものについても、閣僚会合に上げるまで待つことなく公表し、閣僚会合ではこれに基いて政策を議論すべきである。こうすることで迅速化が図られるだけでなく、透明性が高まる。長官が率先して実行して欲しい。

2.フォローアップについて

今回の審議過程の中で気になったのは、統計作成部局の関係者の中で「抜本的」変更を主張する発言が多かったことだ。例えば調査票などをインターネットで送り、回収する案に対して、「5年後を目処にシステム変更を準備している」という大蔵省の回答には正直驚いた。システムを変えなくとも現在郵送している調査票をパソコンで送受信するだけで、往復数日間は短縮できる。

これ以外にもなにか「抜本的」に変えなければ意味がない、という意識が共通していた感じが強かった。これは間違いだ。小さな改良を積み上げていく事こそ重要である。フォローアップに際しても、小さな改良に留意して欲しい。

動向把握早期化の基盤について

さくら証券チーフエコノミスト

宅森 昭吉

本委員会の動きを、国民の間に浸透させていくことが、真の「動向把握早期化」の体制づくりにつながると思う。例え話をすれば、サッカーの試合が行なわれている競技場という同じ空間の中でも、スタンドにいる観客と、グラウンドでプレーをしている選手とでは、雰囲気、試合の流れ、芝の状態等の感じ方は違うはずである。その時々の状況を正確に把握するためには様々の立場の人々の意見を集めることが必要になる。

経済のほとんどの分野が右肩上がりで成長している時代であれば、代表的な一部の指標だけを把握すれば、こと足りたかもしれないが、成長分野と停滞分野が混在し、しかも従来の枠組みだけからの判断に限界が生じている状況では、各企業や家計の幅広い「動向把握早期化」への協力が必要になってこよう。

民間が実施している各種統計・調査も「社会の公共財」である、という認識を広めることも重要であろう。公開しても差し障りのない範囲で積極的に、使いやすい形で開示して欲しい。宝の持ち腐れはもったいない。

「動向把握早期化」の流れを広める手段として、情報通信技術活用のための基盤整備が必要である。まずパソコンの普及率を高め、日本国民のほとんどがインターネット等を利用できる環境を早く作り上げるべきであろう。パソコン操作を行なう人材がいないので早期の情報提供が出来ないという企業は極力減らしていきたいところだ。インターネット等の利用はその企業の生産性を向上につながることを認識してもらう必要があろう。

幸い21世紀初めに実施される予定の学習指導要領の改定案によると、中学校では技術・家庭でパソコンの学習を必修にし、電子メールのやり取りは当たり前に出来るようにするという。高校では「情報」という課目が新設されパソコン実習が必修になるという。こうしてパソコン操作を身につけた若い人が社会人になっていけば、日本のほとんどの企業でインターネットの利用が当たり前になってくるのであろう。日本の家庭のパソコン普及率は最近かなり伸びているといっても、米国などに比べ相当低いし、韓国やシンガポールというアジアの国に比べても遅れているという。パソコン操作は「習うより慣れろ」なので、家庭普及率を高める努力も必要だ。そうする中で各経済主体が、調査・統計にアクセスする回数を増やし、さらに必要に応じて自分の情報を発信するという体制が出来上がろう。

補助信号として、多くの企業・家計から収集した様々な速報性を重視した指標を活用し、一部に生じた変化の予兆を注視して見守るシステムを早く築き上げたいところである。

動向把握早期化への多角的戦略

南山大学教授

野村 信廣

経済動向の把握を早期化するには、種々の分野からの戦略が必要であるし、その方がより効果的であると思う。

まず、経済統計の利用の早期化である。今回の動向把握早期化委員会でもこの面からの議論が中心であった。これには従来の統計であっても調査、回収、集計、公表などの時期の繰り上げがある。経済統計利用の目的は経済全体の実態を出来るだけ正確に把握するのと同時に早期に経済動向をなるべく具体的に把握するためである。それには、大規模調査の前に速報性を優先した小規模、先行調査を実施して、動向把握統計を作成して公表することが考えられる。

また、経済動向の変化を早期に把握するためには、月次統計でその公表も翌月末までには実施するという時間制約を導入するのも有効と思う。その理由は、統計そのものが過去を対象にしたものであっても一般には公表した時点の経済状況と解釈され、金融市場などにも影響するからである。こうした統計が仮に、小規模、先行調査のため統計のブレが発生しやすいとしたら、DI的発想を採用し、客体の経済規模の大小にかかわらず等ウェートで調査結果を総合すればかなり軽減されるだろう。インターネットなど経済統計を作成するためのインフラが整備されてきており、技術革新面からも統計の作成・公表の早期化を促進する条件が整ってきている。

次に、動向把握のための先行指標となる統計を整備していくことである。例えば、生産、売上げに先行して発注する受注統計(新規受注、受注残高など)を消費財やサービスにまで広げて調査することが考えられる。また、製品やサービスの中で、景気動向に先行して動いたり、敏感に動くもの(住宅、乗用車、高額商品や旅行など、また通常3Kと呼ばれる広告・交際費・交通費など企業消費に類するもの)を中心に動向把握を早期化することである。加えて、地域別、経済分野別に早期動向調査を実施して、DI的発想により先行して変化するシグナルを発見するようにすることである。

従来、サーベイ統計のように企業や個人に対して意識、見通し、計画などを尋ね、動向把握を早期化する作業が数多く実施され、利用されてきた。当事者や関係者の意見から直接、把握しようとするものだが、この場合、微妙に企業経営者や個人に誤解が生じたり、利害が絡み、しばしば統計にタイムラグなど不都合が見られた。これらの統計は過去の景気や経済動向を整理する意味では有効であっても、カレントな動向把握、特に、最も景気判断が重要な時には、必ずしも有効でない印象がある。その点もあり、動向把握にあたっては実績統計を基礎にするのが適当と考えられる。ただし、サーベイ統計はその時点ないし先行きの景気動向に対して、人々の心理状況とどういう関係があるなどの分析をする意味では重要性があることは決して否定するものではない。

さらに、経済動向の変化(その場合でも重要かつ理解しやすい点では変化方向や変化率を考えることだと思うが)の判断を積極的に容認していく土壌を作っていくことである。これまで、経済統計からすでに景気が反転しているのが観察できても、それを積極的に推進していく姿勢が政策当局はじめ関係者に不足していたように思える。景気や経済はそもそもダイナミックに変化するのが当然くらいの姿勢で、むしろ景気や経済の変化を先行的に認めていくことが必要なのではないか。仮にその結果、判断が間違ったとしてもすぐに判断を軌道修正すればいいと思う。従来のように毎度、景気や経済の把握が遅れるよりはいいのではないか。

現在は、21世紀に向けて種々の分野で情報(経済統計もその重要なひとつ)について根源から再検討を迫られ、情報の重要性が見直されているところである。経済統計の供給側はもちろんのこと需要側ももう一度情報や統計の重要性を勉強していくことが必要になっている。ただ単に経済統計の作成・公表が早期化、改善されても、それが的確に理解され有効に利用されない限りは動向把握早期化につながらないし、統計の存在意義も低下する。

そのため、子供の時から社会人に至るまで経済統計に対する関心を高め、その勉強を進め、社会全体から経済統計による動向把握を円滑に進めていくことが望まれる。その点、私の周囲で経済統計の必要性を理解し、学ぼうとする学生や社会人が増えてきたことは好ましい限りである。

動向把握の早期化を促進するには統計の作成・整備に加えて、統計分析技術の向上も重要である。経済統計を取り巻く環境・条件全体から動向把握を早期化するメカニズムを作ることだろう。カレントに統計を分析するためには、月次など対象期間が短いデータが中心になるだけに、データの変動における季節的変動や不規則変動を的確に除去するなど統計処理技術の向上も必要である。

最後に、今回の動向把握早期化委員会はゲスト・スピーカーも含めて多方面の方が自由・闊達に意見交換し、提案できた点で有意義だったと思う。また、その一部は委員会開催中に実施されたのは画期的なことだと思う。議論された点は一つ一つ重要であり、関係各方面でさらに実現に向けて努力を期待したい。さらに、異分野で活躍する人が今回のように密に意見交換することは、景気・経済の動向変化のチェック機能になるし、景気・経済判断のバイアスの低下にもなると思う。

報告者・利用者の視点に立った改善を

住友信託銀行相談役

早崎 博

「動向把握早期化委員会」に参加して、毎回色々な角度から勉強させて頂くにつれて、委員会が担っている大きな役割を、一層強く意識するようになった。

つまり、これまでの官庁統計は、日本人特有の几帳面さからか、どちらかと言えば、統計の公表スピードよりも、統計の緻密さに意識が向かっていたように思うが、当初は聞き慣れなかったこの委員会の名称こそが、従来の発想を転換しようという宣言であった、という点である。

民間企業の間では、官庁統計の緻密さと速報性とでは、速報性を重視するという意見が圧倒的に多く、この委員会が目指すところは、民間企業が望む方向性とも合致している。

ところで、最近、統計の重要性がとみに高まっていると感じるのは私だけではあるまい。経済全体にとっては、各種統計によっていち早く景気動向を把握し、的確な判断を行なって政策に反映していくことが求められているし、企業経営にとっても、顧客やマーケットの動向を把握し、敏感に経営戦略に反映させていく必要性が高まっている。

また、経済・産業構造の変革に伴い、景気判断の基準が変化していることもあって、従来とは異なる経済指標、例えば水準そのものよりも変化の方向やその幅がわかるような指標が求められるなど、統計に対する新たな要請が高まっている。

統計を取り巻くこのような環境変化を背景に、委員会では官庁統計について、様々な角度から、改善に向けた議論が百出したが、民間企業にとっては、その過程で、報告者としての負担が過大にならないように、また、利用者として統計が一層利用しやすい形で公表されることをお願いしてきた。

特に報告者負担の軽減のためには、スクラップ・アンド・ビルドを基本スタンスとして、統計の不断の見直しや重複統計の整理を行なうほか、既存統計の改善と最大限の活用、省庁間でのデータ相互利用や行政記録の活用、そして民間統計についても積極的な活用を進めることなどによって、統計数量の抑制に努めて頂きたい。

一方、利用者利便の向上のためには、統計へのアクセス改善を基本スタンスとして、発表スケジュールの事前公表、加工統計の推計手法の開示など情報の更なる開示を進めるほか、統計がマーケットに及ぼす影響の大きさを考えれば、官は統計数字に加工を加えずに早期に公表し、民は自由な立場から分析や解釈を行なえるようにすることも重要な視点である。

官庁統計は公共財であり、経済運営や企業経営を左右する社会的インフラの一つと言える。したがって、統計を実施する際の報告者負担を含めた全体としてのコストパフォーマンスを考え、その成果の更なる有効活用を図るという視点は不可欠である。

経済動向の早期把握には、様々な課題があることとは思うが、自由な発想と自発的な行動こそ、課題をブレイクスルーするための不可欠な要素だと思う。関係各位の主体的な取り組みにより、発想の転換が具体化されることを期待したい。

なお、委員会では、限られた時間の中で自由に発言できる機会を与えて頂くなど、適切な運営を行なって頂き、また全体として課題の実現に向けた意気込みが感じられたことは、参加者としてまことに幸せであり、感謝申し上げるとともに、敬意を表する次第である。

地方分権の進展の下での地域経済動向把握の課題

総合研究開発機構理事

平野 正宜

当委員会報告で指摘されているように、地域経済にはマクロ経済の先行指標としての動きが顕著に表れる場合があり、その把握はマクロ経済動向の理解を補完するものとして重要な意義がある。マクロ経済で見れば先行指標かもしれないこの動きは、多くの場合同時に地域経済にとっては、対応を取るべき重要な政策課題である。その地域の政策運営責任者は適切な対応をとらねばならず、仮にマクロ的対応が必要な場合には、中央への政策要望となり、経済企画庁が頭を悩ますまでもなく、必要な情報が中央に集まる筈である。しかしながら、この様なケースは、現実には行政を通さず直接政治に持ち込まれ解決されてきた。その結果、政策には影響力の強い政治家、集票力大きいグループの意向が反映され、合理的な資源配分からの乖離が危惧される。

全ての県に、何らかの形で地方自治体が協力したシンクタンクが設立されている現在、この様な問題は地域シンクタンクの恰好のテーマと思われるが、活躍が充分とはいえない。

この要因としては、①利用できる地域経済データが少ない事、②相応しい人材が限られていることが指摘できよう。データ面では、例えば経済白書の分析手法を地域経済に適用しようとした場合、全国値は地域の合計であるにもかかわらず、対応するデータが取れないことが多い。これは、殆どの統計はサンプル調査の為、地域に分割すると統計的な偏りから使えない事による。人材面では、NIRA(総合研究開発機構)が行ってきた地方シンクタンク助成研究のなかで、期待外れに終わっている研究を見ると、2つの点が指摘できる。一つは研究を指導する立場に立つ年配の研究者(多くの場合地域の大学の教授クラス)が、短期データを用いた政策課題の分析に、極めて不馴れな事であり、もう一つは、留学等で得た最新の理論を地域問題解決に適用しようとする若手研究者の中に、データ収集などの実務に不馴れな人が多い事である。この為、符号条件が満たせない等理論通りの推計値が得られないという事も起きてくる。

地方分権という大きな流れの中で、地域経済政策はこれまでの政治的対応中心から、統計データに基づく分析結果がより反映された形で決定される事が望まれる。このためには、その基礎となる地域経済統計の整備が何よりも重要である。この場合当委員会報告に有るような、国の努力だけでなく、地方自治体の自主的統計整備を指導、支援して行くことも考慮すべきと考える。国の機関委任事務廃止の基本方針の下で、指定統計の収集業務は「法定受託事務」に変更され、国の関与も限定的になり、県独自でのサンプルの追加など地域データの収集の自由度は高まる事が期待される。地方自治体は、トップの決断さえあれば中央よりは柔軟に制度的対応が可能である。国が、政策効果を数量的に明示する分析例等を数多く提示する事によって、地域統計の有用性を地方のトップに理解してもらうと共に、分析者に啓蒙効果を与える事や、国が地方作成のデータや分析結果を積極的に利用する事を通じて、担当部局の予算や定員獲得を側面から応援する事も重要である。

当面「地域景気モニター」は、マクロ経済分析に馴れ、企画庁のニーズに近い発想を持つ金融系シンクタンクに依存せざるを得ないと思われるが、地方分権化の進む将来の地域経済動向把握の観点からは、地方自治体の関与したシンクタンクの自主的活動を支援し、その連携を図って行くことも重要と考える。今回、企画庁に予算化された調整費等が、このきっかけになる事を期待している。

景気動向把握の早期化について

総務庁統計局統計基準部長

堀江 正弘

1.景気判断のために有用な情報としては、統計調査結果、これらを利活用した加工統計、業務資料の集計結果、集計不能な定性的情報等があり、また、官公庁だけでなく、民間の統計・情報もある。これらの多様な統計・情報を発掘し、有機的に組み合わせて活用することが重要である。

2.景気指標には、景気動向全体を把握する経済指標と個別分野の統計調査結果等による経済指標とがあり、いずれについても、早期かつ適切な取りまとめ・発表等が求められる。これらの景気指標のうち、経済企画庁は、GDP速報、景気動向指数等重要な部分の作成を直接担当しており、作成・公表の早期化、作成方法・推計方法の公表等に積極的に取り組み、他の範となるべく、一層努力する必要がある。その際、景気動向指数については、先行系列のみ早期公表することも考えられ、また、製造業中心の景気動向指数の作成方法を見直し、サービス分野の活動状況も反映するようなものに変更することも検討する必要がある。月例経済報告も工夫により時期の前倒しが可能と考えられる。

3.経済のサービス化に対応して、近年、各省庁のサービス分野の動態統計調査の充実が図られている(例.通信産業動態調査、建設関連業等動態調査等)。経済企画庁は、こうした新たに始められた調査の結果も大いに活用する必要がある。

4.景気動向の把握に有用な統計調査であっても、個々の調査には各々固有の目的があり、また、基本的な統計調査であるほど、多方面で様々な目的で利用されている。このため、景気動向の早期把握のためだけに調査内容を極端に簡素化することについては、統計体系の整備等の視点からも慎重であるべきである。部分を限っての早期集計等を工夫すべきである。

5.景気動向の把握の早期化のため、アメリカで行われている例を参考にして、一次統計の作成に間接推計法を導入してはどうかという意見があるが、統計調査の集計処理にこのような手法を導入することは統計(特に一次統計)の真実性・信頼性の確保等の観点からみて極めて不適当と考える。間接推計を行うのであれば、経済企画庁において、例えば、現行の景気動向指数に加えて間接推計方法を活用した新たな加工統計を開発するなど、一次統計とは別のものとして考えるべきである。

6.統計・調査の現状の評価や改善方策については、個人的には他の委員と意見を異にするところが少なからずあり、また、各論中の個々の具体的な方法については、本委員会でも、必ずしも十分に議論されたとは言えないと考えるが、委員会の参集者等の貴重な時間をさいてまとめられたものであり、経済企画庁は、必要な部分についてはさらに検討を行い、関係省庁の理解と協力を得るべく努力し、改善に取り組む必要がある。

7.白石・芦沢「景気指標-公表の早期化と景気判断-」(ESP99年4月号)で述べられているように、統計等の取りまとめ・公表の早期化が必ずしも早期かつ適切な景気判断を保証するとは限らない。そのためには、景気判断の在り方について、さらに総合的に吟味し、具体的に問題や改革方策を検討する必要がある。

動向把握早期化委員会に際しての基本的理念

日本銀行調査統計局長

村山 昇作

当委員会において発言するにあたり、念頭においていた私の基本理念を以下のように整理させて頂きます。

経済統計は、わが国の経済情勢を的確に判断する上で基礎となるものであり、いわば「社会の公共財」と位置付けることができる。こうした経済統計の作成・公表に当たっては、①政策当局ばかりでなく、全ての国民に対して、経済実態を正確・的確に捉えた統計を迅速に提供すること、②統計収集から公表に至るまでの全ての作業工程の透明性を高めることがきわめて重要になっているが、こうした観点から、とくに配慮すべきこととして、以下の3点が考えられる。

第一に、経済統計を迅速に提供するためには、現状の統計作成方法にこだわらず、統計収集から公表までの全ての事務を大胆に見直すことが必要である。統計作成方法の抜本的見直しは言うに及ばず、統計作成が完了したら、その統計の分析や組織内での説明に時間をかけることなく、速やかに公表することが重要である。また、詳細・精緻な統計が出来るまで公表を待つのではなく、①経済実態を把握する上で必要不可欠な主要部分が出来た段階で公表するとか、②一部推計を含んだ速報値を提供するなど、大胆に発想を切り替えることも大切であろう。

第二に、収集・作成した統計は、すべて公表することが基本である。公表しないデータは、統計作成事務の効率化、報告者負担の軽減等の観点から、収集を取り止める必要がある。また、統計作成過程の透明性を高めるために、調査票(調査項目)を開示するとともに、調査目的、調査対象、調査方法、集計方法、推計方法等を幅広く公表することもきわめて重要である。

第三に、経済構造の変化に合わせ、実態把握に必要となる統計は遅滞なく収集する一方、重要性の薄れてきた統計は廃止・簡素化するなど、大胆にスクラップ・アンド・ビルドすることが大切であるが、その際には、調査対象先の納得性にも配慮する必要があろう。調査対象先に統計作成目的を十分に説明し、協力を得ることが基本であるが、調査対象となった企業、個人にはかなりの負担がかかることから、調査項目を必要最小限に止めたり、重複収集を排除するなど、報告者の回答負担の軽減に心掛けることも重要である。

なお、仮にどうしても調査対象先の納得の得られない統計については、収集自体を再検討する必要があろう。

動向把握早期化に関する要望

(株)電通 R&D局次長

森住 昌弘

経済統計・データの早期把握と内容の充実について、民間企業の視点から若干の意見と要望を述べたい。現在は「変化の時代」であり、この時代を生き抜く為には、国としてもあるいは企業、個人としても、未来の変化を常に予測し、変化に対応していかなくてはならない。その為には当然タイムリーなデータが必要なわけだが、ただ、データを迅速に入手することが最終目的ではない。動向把握早期化の真の課題は、「変化予測」ニーズに応えるデータを効率的・効果的に入手し、必要とする人へ提供することだと思う。この視点から要望を以下4点にまとめてみた。

1 「将来予測」に役立つ多様なデータの提供

統計データや数式、モデルだけで未来を予測するわけではない。予測作業の中では、分析者の「勘」や、様々な定性情報が重要な役割を果たす。従って、ヒアリング調査のような「方向性を示す定性データ」や、特定の産業動向調査のような「最先端の変化を捉えるデータ」を収集して公表してほしい。

2 需要サイド・データの充実

国の調査・統計では需要者側のデータは家計調査、消費動向調査などを除いて、限られている。需要サイドのデータからは経済や消費の変化をリアル、かつ早期に把握することができる。例えば、旅行、レジャー、教育等サービス産業の動向は、供給側データだけでは捉えることが難しく、消費者意識やニーズも含めて、需要サイドのデータが必要だろう。需要側のデータを是非充実して、民間にも提供してほしい。

3 流通データの積極的収集

需要サイドのニーズや変化を集約しているのが流通業の動向データである。従来の百貨店、量販店の売上げだけでなく、ディスカウント・ストア、コンビニなど新しい流通業態の売上げや、商品種類別の売上げ比率などの動向も知りたい。政府の指導により流通業の信頼できる統計の公表が進めば、景気動向の把握だけでなく、民間の市場競争活性化にも繋がる。

4 新しいIT(情報技術)の導入

情報技術の発展は、統計・調査活動のすべての面で、革命的ともいえる変化をもたらしている。動向把握の早期化の為にも、また集めたデータを効率的に未来予測に利用する為にも、インターネット調査や、委員会で検討したテレビを使った消費動向調査等を積極的に取り入れるべきである。また、調査・統計データの提供に当たっても、利用者が使いやすいように、可能な限りデジタル化して、データベースの形で提供すべきだと思う。

最後に、強調しておきたいことは、冒頭でも述べたように、現在ほど「未来予測」に関心が集まっている時はない。国だけでなく企業や個人も、各々の分野で必死に将来の動向を探ろうとしている。早期に把握した動向と、関連する調査・統計データをより早く、効果的な形で民間に公開していただきたい。

動向把握早期化委員会メモ

青山学院大学教授

美添 泰人

限られた字数であるので,今後の重要な検討課題として,以下の5点を特に指摘しておきたい.

1.先行性のある指標の把握

今回の委員会で検討の素材とした指標は消費活動が中心であったが,景気動向の把握という視点であれば,消費動向よりも先行性のある指標にもっと注目すべきである.

2.利用可能な指標の検討

現在利用可能な指標にこだわらず,利用可能性を広く検討すべきである.たとえばPOSデータの利用可能性は限定されているとはいえ,部分的な動向の把握には有効な可能性もある.このような民間の指標まで視野に入れて検討することにも価値があろう.さらに現実的な方法は既存統計の部分的な活用方法を検討することと思われる.

3.景気動向指数の早期化

この問題については,すでに昨年末から2週間程度の早期化が図られているが,その方向に沿ってさらに改善が可能かどうかの検討も必要である.具体的には速報においては指標を入れ換えること,簡単なモデルによる予測数値を代入することなど,冒険であっても工夫・検討の余地はあるものと考える.さらに,景気動向指数そのものでなくても,類似の景気の指標を開発することも課題の一つであろう.個人的には多少具体的なアイディアはあるものの,その内容については別な機会に紹介することとしたい.

4.暫定数値の公表に関する工夫

これまで,さまざまな機会に指摘されてきたように,暫定数値を公表した後で大きな修正があると統計利用者・市場を混乱させるという心配があることは事実である.一方で公表の早期化のため,何らかの形で暫定数値を作成しなければならない.そのためには,一般の誤解のないように「○○予測統計」のような別な名称を利用して,たとえば適当なモデルによる予測まで含めた推定方法を工夫することが,比較的短期間に実現可能な方法であると考えられる.これは委員会の席上でも竹内委員長の発言にもあったように,大方の賛成を得られる方法であろう.

5.電子的システムを利用した調査方法

一例として紹介されたインターネット調査は,早期化,低コスト化などの利点が上げられているが,一方で,この種類の調査方法に関しては十分な経験の蓄積がない状態である.新しい調査方法の導入を検討する積極的な姿勢は評価できるものの,このような方法がただちに実現可能であるとは思えない.不特定多数の調査というより,特定のモニター世帯等を対象とした調査の方法と位置づけるのが,当面の運用を考えても現実的であろう.本格的な導入までには,慎重な検討が必要であると判断している.

第4部 各論

第1章 消費動向把握の改善

従来、消費は他の最終需要項目と比べ安定的であるといわれてきた。しかし、大手金融機関の相次ぐ破綻等による金融システム不安、高齢社会に対する不安等から消費者マインドが悪化し、消費は低調な動きが続いている。近年みられないこうした消費の落ち込みが、景気低迷を長期化させている一因であることは否定できない。

また、現在、消費に係る調査・統計は発表までにある程度の時間を要する状況にあり、サービス支出の動向等捕捉が不十分な分野があることも指摘されている。

こうしたことから、消費動向をできるだけ早期に、かつ正確に把握することが、適切な経済運営を図っていく上で重要な課題となっている。

1.供給側からの把握と需要側からの把握

消費動向の把握においても、供給サイドと需要サイドの双方からのアプローチが可能である。

一般に、供給側からの消費動向の把握には、次のような問題点があると考えられる。

  • 法人需要と家計需要の区別が困難であること
  • 立ち上がりつつある業態の把握が困難であること
  • 消費行動の構造の把握が困難であること
  • 一方、需要側からの把握には、次のような問題点が指摘できる。
  • 世帯毎、時期毎の消費のバラツキが大きいため、相当なサンプル数が必要であること
  • 詳細な構造を把握しようとすると、報告者の負担が重くなること

これらは、供給側・需要側からの把握に伴う基本的問題として理解されるべきものである。効果的な双方向からのアプローチによりこうした諸問題点を改善し、消費動向把握の早期化を図ることが求められている。

2.需要側からの把握の現状

需要側からの既存の調査・統計について、代表的なものとして表1のようなものがある。

需要側から消費動向をみる包括的な統計として、総務庁が実施している「家計調査」がある。本調査は、約8,000世帯に毎月家計簿形式の調査票を配布し、集計する方式をとっており、収入、項目別消費支出等に関する把握が可能となっている。月次調査であり、公表時期は調査月の翌々月初(全世帯)となっている。また、本調査では単身世帯が調査対象になっていないため、平成7年より「単身世帯収支調査」が開始されている。「単身世帯収支調査」では、家計簿記入期間を3か月に短縮し、金額のみの調査とするなど報告者負担を減らすような配慮もとられている。

他の主要な調査・統計として、経済企画庁が実施している「消費動向調査」がある。本調査は、約5,000世帯を対象としており、消費者マインドの変化、サービス等の支出予定等を調査項目としている。四半期調査であり、公表時期は調査月の翌月下旬となっている。また、本調査も、「家計調査」と同様に単身世帯を除外しているため、「単身世帯消費動向調査」が同庁により別途作成され公表されている。四半期調査であり、公表時期は調査月の翌々月下旬である。その他、民間調査機関も消費者マインドを中心とした調査を行っている。

改善に向けた取組みとして、「家計調査」の公表早期化、調査対象の拡大化、提供の充実等がある。平成9年4月より、調査結果の公表を従前と比べ約2週間早期化する措置がとられているが、更なる早期公表を求める声が強かったため、平成10年より「個人消費動向の的確な把握のための検討会」(総務庁)を開催し、早期化等の検討が行われた。この結果、平成10年の11月分から、勤労者世帯について、翌々月初公表から翌月内公表へと早期化が実施されている。「単身世帯収支調査」については、平成10年1~6月分から半期別の公表を開始している。今後は、平成12年1月より農林漁家世帯を調査対象に含め、単身世帯については、寮・寄宿舎を対象とした調査を実施し、これに伴い単身世帯及び単身世帯を含めた総世帯についての調査結果を四半期ベースで公表する予定となっている。

3.供給側からの把握の現状

供給側からの消費に係る調査・統計について、代表的なものとして表2のようなものがある。

供給側から消費動向をみる包括的な統計として、「商業動態統計調査」(通商産業省)がある。本調査は、卸・小売業に属する全国193万商店(代理商、仲立業、飲食店を除く)を母集団とする標本調査であり、「卸売業販売額の動向」、「小売業販売額の動向」、「大型小売店販売額(百貨店、スーパー別)の動向」を把握できる。公表時期は、調査時点の翌月下旬に速報値が出る。

他の主要な調査・統計として、「百貨店売上高概況」(日本百貨店協会)、「チェーンストア販売」(日本チェーンストア協会)がある。「百貨店売上高概況」は、全国分については翌月下旬、東京地区分については翌月中旬に速報値が発表される。「チェーンストア販売」についても翌月下旬に速報値が発表される。ただし、このような大型小売店の販売動向については、近年個人消費の多様化が進み指標性が落ちてきたこと、衣料品の販売動向に全体の動向が左右される傾向が強いこと等の問題点が指摘されている。その他、「自動車統計月報」(日本自動車工業会)や「家電小売金額」(日本電気大型店協会)があり、耐久消費財の販売動向に関する情報を提供している。

供給側からの消費動向の把握について、改善に向けた最近の動きとして、コンビニエンスストアに関する統計調査の開始(通商産業省)がある。本調査は、既存の調査・統計では、近年急速に店舗数を伸ばしているコンビニエンスストアの動向の把握が困難であるという問題意識を踏まえ、平成10年10月分より「コンビニエンスストア統計調査」(承認統計)として、500店舗以上を有するコンビニエンスストアのチェーン企業本部を対象に調査を開始した。また、平成11年4月分から、同調査は「商業動態統計調査」の一部として実施されている。

「特定サービス産業動態統計調査」(通商産業省)は、企業側の協力を得て平成10年1月分より公表日を1週間程度早めている。本調査については、平成12年1月を目途に対象業種の拡充を図ることが政府部内で検討されている。我が国におけるサービス産業のウエイトは高いものとなっているが、サービス産業に係る調査・統計は他の産業と比べ必ずしも充実してはいない。今回の検討は、景気動向に感応的な対個人サービス業を中心に対象業種の拡大を図るものであり、現在5業種のものを15業種に拡大すること等の内容となっている。

以上の1.~3.を踏まえ、消費動向把握の改善を進める上での論点等を、以下4.~6.で検討する。

4.既存の調査・統計等の活用、見直しの徹底

①各種の経済情報の更なる活用

消費動向を需要側・供給側の双方から捉えるにあたり、具体的には、家計の消費支出、小売業者の売り上げと収益、財・サービス生産者の売り上げと収益、といった段階的な把握を図ることが考えられる。これらはもちろん互いに密接な関連を持つが、その動きは必ずしも常に同じ方向にあるとは限らない。特に景気後退期から回復期に当っては、これらの動きの関係は微妙になると考えられる。

こうした複雑な関係を正しく理解するためには、所得要因、物価要因、資産要因、消費性向、耐久消費財のストック調整といった諸要因を考慮し、総合的な判断を下す必要がある。加えて、その判断には何よりも迅速さが求められている。

このため、消費について得られる情報を全て活用するような積極的な姿勢が必要となってくる。例えば、民間機関が実施している販売動向等に関する調査・統計についても、需要側の調査・統計では把握が困難な分野(サービス支出、耐久財支出等)についてかなりの情報が得られることから、その活用につき努めるべきである。また、統計とはいえないが、発表時期が比較的早い消費関連情報にも着目すべきである。例えば、各観光地・テーマパーク等の入場者数は月次で情報が入手できるものが多い。昨今売り上げを伸ばしているパソコンについても、週次の販売台数と金額が約半月後に公表されている。また、消費者マインドについて、消費者側からの調査に加えて企業側にアンケートをしたものも発表されている。その他、スポーツ等の観客動員数、競馬売上高、CD売上枚数等も極めて早く情報が入手できる。

ただし、こうした情報には特定のバイアスが伴うため、継続した利用によりバイアスの性質をつかみ、データの客観的な解釈に努めることが不可欠である。

②需要側からの調査・統計の見直し

①のような情報活用に加えて、既存の調査・統計の内容や調査方法についても不断の見直しが必要である。

例えば「家計調査」は、諸外国でも類例のない包括的な消費調査であり、需要側から消費動向を把握する上で最も重要な調査であるが、報告者負担が比較的重いことなどを反映してサンプル数が約8,000と限られているなど、景気動向把握という観点からは改善の余地が残されている。「家計調査」は景気の動向把握のみを目的としたものではなく精緻な調査体系を評価する声もあることから、多方面からの意見聴取を踏まえつつ見直しを実施していくことが望ましいが、比較的容易にできるものとしては、チェーン指数(共通サンプルを比較した前月比をつないで作る指数)の計算と公表、日次データの集計と公表等が望まれる。また、チェーン指数等の公表については、通常の集計結果と合わせて毎月公表するなど市場への配慮も必要であろう

また、「消費動向調査」は、消費者マインドの変化、サービスの支出予定等を調査項目としており、報告者負担が比較的軽く、また消費動向把握の上で大きな役割を担っている。このため、更なる公表の早期化に努めるとともに、現在四半期毎に行われている本調査の月次化を進めるべきである。その際、現行のままの月次化が困難なのであれば、一部地域のみについて月次化することや調査票を簡素化することが検討されるべきである。

③供給側からの調査・統計の見直し

需要側からの消費動向の把握には、先に示したように、世帯毎・時期毎の消費のバラツキが大きいため相当なサンプル数が必要であり、また、詳細な構造を把握しようとすると報告者の負担が重くなるという問題がある。このため、供給側からの調査・統計の更なる活用に努めるとともに、市場等に対しても使い勝手の良い形で供給していくことが望ましい。

供給側からの代表的な調査である「商業動態統計調査」について、業態分類の見直しや詳細データの提供等の改善を順次行い、その更なる活用を図ることが望ましいといえよう。

消費に関する既存の調査・統計について、「景気判断の材料」という視点から調査内容や調査方法の見直しが図られることが望ましい。ただし、こうした見直しは、報告者負担の軽減、利用者利便の向上といった観点も同時に踏まえたものであることが不可欠である。急速な発展をみた情報通信技術を最大限に利用し、調査・集計方法の電子化、詳細情報の電子媒体による公表等を同時に推進していくことが大切である。

5.「サービス産業動向把握」(仮称)の検討

供給側からの動向把握につき有効と考えられる新規の措置として、「サービス産業動向把握」(仮称)が考えられる。

現在、経済企画庁では、「消費動向ヒアリングシステム」という名称で、パソコン通信を用いた企業ヒアリングを試験的に行っている。こうしたシステムの拡充を図り、立ち上がりつつある業態を含め、既存の調査・統計では補足が不十分な業種(サービス関連等)に対して把握を行えば、ある程度の情報収集が可能と考えられる。

こうした把握の主目的は、迅速な動向把握に置かれるべきである。このため、ヒアリング項目は可能な限り単純化し、動向把握に的を絞った内容にすべきである。

具体的には、定点観測モニターとして、他の調査・統計では動向把握が困難な企業等(サービス関連等)に協力を依頼し、パソコン通信等を活用した情報収集システムを拡充していくことが考えられる。

<「サービス産業動向把握」(仮称)のイメージ>

(1)定点観測モニターとして、企業等(サービス関連等)に協力を依頼する。

(2)パソコン通信ネットワークを利用して、各観測モニターと経済企画庁をオンライン化し、月一回ペースで動向に関するヒアリングを実施する。

(3)負担の軽減の観点から、コンピューターの配布、配線の設置など必要な環境を整備する。謝礼金についても可能な限り支払うこととする。また、オンライン化の利点を生かし、企業への集計データの還元や、企業が関連統計等へアクセスすることを容易にするなど、企業側のメリットを高める。

(4)ヒアリング項目等の設定

a)企業側が経営を考える上で不可欠な数値について問われれば、既に集計ができているため回答は簡単だが、あまり重視していない数値を聞かれると、そのために集計作業が必要となり負担が大きい。このため、ヒアリング項目等は業界毎に柔軟性を持たせ、余計な集計作業が生じないよう配慮する。

b)入手できる情報として、企業自身の販売動向に関するものと、企業が実感する業界全体の市況に関するものがある。ヒアリング項目等を工夫して、後者に関して多くの情報が得られるように留意する。

c)法人需要と家計需要を区別するのは困難だが、一応の目安として、現金での購入者は家計、銀行口座等での購入者は法人、と見なすことが考えられる。こうした観点からヒアリング項目等を工夫する。

(5)依頼先の選定

a)支店の情報について本社がほぼ完全に把握している企業もあれば、情報把握が不十分な企業もある。依頼先の選定に際し、情報化の進度の違いについて留意する。

b)立ち上がりつつある業態の動向を把握するため、新規産業において代表的と考えられる企業を選定する。このため、依頼先の見直しは定期的に行う。

c)既存調査では把握が不十分な産業から依頼先を選定するよう留意する。

その他

(6)個別企業の販売動向に関する情報は、基本的に機密度が高い。システムの構築に際し、機密保持には十分な注意を払う。

こうしたシステムの構築に当っては、既存統計等の改善で対応可能かどうかという観点からも検討を加え、屋上屋の調査とならないような配慮が必要である。また、本調査の主目的は他の調査・統計では把握しがたい分野の動向を表すようなデータの把握であり、数を増やして統計学的な厳密さを求めるよりも、要所要所にアンテナを設置し、生きた情報を早期に入手することに重点が置かれるべきである。また、第3章の「地域景気モニター」(仮称)との有機的連携や、場合によっては一体的運用をすることも視野に入れることが望ましい。

6.「テレビ消費動向調査」(仮称)の検討

需要側からの消費動向把握を強化する新規の措置として、テレビを用いた調査が考えられる。情報通信技術の進展に伴い、今後テレビは、情報を受信することのみならず、視聴者から情報を発信することも可能とする双方向ツールとして発展していく可能性がある。

こうした情報通信技術の進歩を視野に入れ新たなシステムを構築していけば、需要側調査に伴うサンプル不足等の問題を解決し、リアルタイムでの情報把握が可能となると考えられる。本調査の概要は、次のようなものである。

<「テレビ消費動向調査」(仮称)のイメージ>

(1)テレビの時間帯を毎日又は隔日、政府等が買い上げ、調査用の番組を放送する。

午前中10分程度:専業主婦を対象

深夜10分程度:単身者及び共働き世帯を対象

(2)電話回答及び端末回答の集計センターを設置する。

(3)端末回答者(双方向通信)については、予め無作為抽出で十分な数のサンプル(回答者)を依頼することで、統計的連続性を確保できるようにする。また回答者の特性(地域、世帯主職業、家族構成、持家借家別など)を記録して構造分析が可能なようにする。

(4)不特定多数の視聴者を対象にした電話回答については、番組内で放送する質問に対して集計センターに電話をして回答する。

(5)番組では、一問30秒程度のペースで消費動向に関する質問を発する。

例示:

①昨日の夕食を外食にした人は1を、しなかった人は0を押して下さい。

②上の問に1と答えた人は、一人当たりの支払額をこの表から選んで下さい。

③先週他府県に仕事以外で一泊以上の旅行した人はその泊数を押して下さい。

④行った場合、一人で行ったか家族と行ったか、この表から選んで下さい。

⑤今日の食料品の購入額は全部でいくらですか、この表から選んで下さい。

⑥その他、消費動向調査などで聞いている項目や単価情報。

質問は回答者が即座に答えられるよう、簡単なものとし、回答者の記憶に鮮明に残っている事柄に限定する(家計調査報告のような記帳義務を要求しない)。また定性的な質問も重視する。端末回答用と電話回答用の質問は、基本的に同一として、比較やバイアス補正に使えるようにするが、必要に応じて別の質問も設定する。消費構造の変化は、消耗品ではなく耐久消費財、奢侈品に現れると考えられることから、こうした観点からも設問設定を工夫する。

(6)集計センターでは集計結果をリアルタイムで番組に反映させる一方、当日の回答者の特性の構成を踏まえ、マクロ動向の分析に適した形に再構成し、景気動向の判断に役立てる。

(7)ある程度集計結果が蓄積された段階で、家計調査報告、全国消費実態調査、消費動向調査、単身世帯消費動向調査、販売側の諸統計、などの動きと突き合わせることによってバイアス(回答した人としなかった人の行動の差)の補正方法や定性情報(DIなど)を定量情報(実額や前年同期比など)に変換する方式などを開発する。

(8)質問の方法や、特性との対応付けなどに関する改善を重ね、この方法で消費動向の把握に十分な実用性があると判断されれば、既存統計の一部を縮小する可能性も検討する。

(9)端末回答者には回答状況に応じて謝金を支払う。電話回答については抽選等で謝金を支払うことも検討する。

(10)番組は単なる政府への情報収集の場にとどめず、集計結果を即時に表示することで消費動向や需要動向(何が売れているか)を知りたい者にとっても見たいような番組にする。また、大臣、タレントや民間エコノミスト(コメンテータ)など有識者の出演によって注目度を高めることも検討する。

(4)にある不特定多数の視聴者を対象にした調査により、回答者の確保はかなり容易になると見込まれる。また、(5)のように質問項目を容易なものとすることにより、協力者負担の大幅な削減が可能となると考えられる。人件費等の削減により、結果集計のための費用もかなりの程度抑えることができると考えられる。

こうした調査方法は、消費動向の把握のみならず、労働供給の動向把握、中小・零細企業の行動把握など、広範な情報把握にも活用することが可能である。また、世論調査や民間企業がマーケティングのために利用することも潜在的には可能と考えられる。視聴者参加型のため、国民が経済問題に関心を持つ契機になるなど、色々な応用方法があると考えられる。

ただし、自由参加の電話回答による集計結果と、予め選定した報告者の端末回答による集計結果では属性が異なるため、両者を比較しつつバイアスを補正し、総合的な精度を高めていく方法を開発する必要がある。また、回答が容易であるため、虚偽の報告の増加が予想され、場合によっては特定の目的での動員等の対象ともなり得るなど、システムが暴走する危険もあることから、有識者・民間関係機関の協力も得つつ、真偽のチェックや本人確認を行う方法を検討するなどして、適切な活用を図っていくべきであろう。

また、テレビの他に、新たな媒体を活用することによって消費把握を行うことも検討が必要である。例えば、バーコードによる消費に関する調査が民間調査機関によって行われている。これは、消費者からバーコード内の商品情報を集計することにより、消費動向の把握(現状は消費財が中心)を図るものであるが、こうした手法も、調査対象の拡大の可能性、既存の調査・統計の補完性等の問題がクリアできれば、報告者負担削減等の観点から利用価値があると考えられる。近年急速な普及をみたインターネットについても、その活用につき検討する必要がある。

表1 消費に関する需要側の主な統計・調査 表2 消費に関する供給側の主な統計・調査

第2章 公的部門の収支動向把握の改善

公的部門による支出は、公的固定資本形成など国民経済計算上重要な位置を占めるとともに、近年、各種の経済対策の実施等に伴い、公的部門の収支動向と景気動向との関係が強まっていると考えられる。公的部門の収支動向については確実な把握が本来可能であるべきものであるが、実際には、景気動向把握の観点からみると十分とは言い難い状況にある。

こうした中、公的部門の収支動向把握を改善するための措置が求められている。

1.公的部門の収支動向把握の主な問題点

公的部門の収支動向把握に関して、現状における問題点は主に次の3点と考えられる。

  • 公的固定資本形成のうち約74%(96年度)を占めている地方分の予算の把握が困難であること
  • 予算の種類別(「当初か補正か」や「直轄か補助か地方単独か」等)の契約・支出状況については、公共事業等の施行促進がなされている場合には公表されているが、通常は明らかでなく、経済対策等の実施状況の確認が困難なこと
  • 他分野の主要統計に比べて公表時期がやや遅いこと

景気動向の把握、特に経済対策の効果などを把握する場合には、これらの情報が迅速に得られることが重要である。

さらに、公共事業以外の政府支出に関しては、決算、国民経済計算による情報、財政投融資や個別会計・個別機関に関する情報がある他、速報性のあるものとして税収や対民間収支などがあるが、例えば、国・地方を合わせた教育費の総額を算出しうるような統計があることが望ましい、との指摘があった。

なお、公的支出に関連した我が国の調査・統計としては、後にみるように「公共工事着工統計」(建設省)など受注側からの調査・統計が作成されている。海外の状況をみると、アメリカは発注側からの調査を実施しており、またフランスはアンケート調査による「着工DI」を作成するなど、国毎に様々な手法がとられており、上記の諸問題を解決する上で参考になると考えられる。

2.国民所得統計速報(QE)における公的固定資本形成の推計方法等

「国民所得統計速報(QE)」(経済企画庁)QEの名目値(原系列)の推計は、①年度現計予算額の推計、②年度決算見込額の推計、③当該四半期計数の推計の手順で行う。特に、四半期計数の推計に当っては、主として公共工事関連指標の動向(建設総合(出来高)統計等)を踏まえて、年度の決算見込額を四半期計数に分割し、当該四半期計数を求めている。

名目値を推計した後、総固定資本形成デフレータのうち、一般政府及び公的企業にかかわるデフレータにより実質値(原系列)を推計している。

QEにおける公的固定資本形成を推計する上でのデータ上の制約として、具体的には、SNAにおける四半期計数推計の基礎となる建設総合統計について、①進捗転換の基礎となる調査にやや古いきらいがあること(ただし、平成11年度にデータ更新のための調査を実施中)、②公的部門について、発注者の範囲がSNAと関連統計とで必ずしも一致していないこと、また、③そもそも地方公共団体等の発注者側からは進捗ベースの計数を得ることが極めて困難であることが挙げられる。

3.公共事業の把握の現状

現在、公共工事関連の主な統計として、「公共工事着工統計」、「建設工事受注A調査」、「建設総合統計」(以上、建設省)などがある。

公共工事着工統計の目的は執行状況の把握、公共工事の構造の把握、地域分析等である。調査周期は月次であり、調査項目としては、工事種類別、発注者別、地域別等がある。主な特徴として、建設業許可業者を対象としたサンプリング調査であること、工事の請負契約額を締結した月に算入していること、100万円未満の小規模工事は対象外であること、という点が挙げられる。

「建設工事受注A調査」の目的は、大手建設業者の受注を早期に把握し、景気動向や建設業の生産活動を把握することである。調査対象は国内の代表的な大手建設会社50社であり、郵送により調査票を発送している。調査周期は月次であり、調査項目は工事種類別、発注者別、官民別等がある。主な特徴として、公共工事着工統計に比べ約10日早く公表されること、回収率が100%であること、民間からの受注も対象になっていること、という点が挙げられる。

「建設総合統計」は、公共工事着工統計、建築着工統計及び民間土木工事着工統計を基に月々の建設工事の出来高を計算し、建設活動全体を着工高、出来高及び手持ち工事高(未消化工事高)で総合的に把握するというものである。

最近の動きとして、公共工事関連の調査・統計については、建設活動全体を把握するための調査・統計の改善、調査項目の整理・統合、記入者負担の軽減など、全般的な見直しが進められており、今後見直しを踏まえた新規措置の実施が予定されている。

4.国における収支動向把握の現状

国における収支動向については、公共事業等の執行状況及び国の歳入の状況・歳出予算の執行状況により把握されている。

公共事業等の施行状況の把握については、上半期の契約目標を設定した場合においては、契約、支出等に関する状況を事業執行官庁から大蔵省が報告を受け集計しており、集計の結果は9月末までの各月の契約状況等が閣議に報告され、公表されている。施行対象経費の範囲は、一般会計、特別会計、公団・事業団の公共投資関係経費のうち施行調整に馴染むものとしている。補助率のかさ上げ分である補助率差額、当年度の災害関係等は対象外である。また、集計事務については、全国の出先や市町村から、ブロック機関や都道府県を経て、執行官庁の本省で集計・チェック等を終えるまでに1ヶ月程度、大蔵省での全体の集計やチェックに2週間程度の事務量が必要とされている。

国の歳入の状況及び歳出予算の執行状況については、各省各庁から大蔵省が報告を受け集計しており、集計の結果は、毎月分を官報に掲載し公表するとともに、毎四半期分を国会に報告し官報にて公表している。公表時期については、原則として、毎月分に関しては現状の2ヶ月半後を翌々月末までに、また、四半期分に関しては現状の4ヶ月後を3ヶ月以内に、それぞれ公表を早期化することが予定されている。

なお、一層の事務処理の合理化を図るため、昭和52年度から進めている会計事務機械化の一環として、平成15年度より、各省各庁の報告事務等のシステム化の導入が計画されている。

5.地方自治体における収支動向把握の現状

地方自治体の支出動向については、「地方財政状況調査」(自治省)や公共事業等の事業執行状況により把握されている。

「地方財政状況調査」は、普通会計決算に係る決算規模、歳入項目、歳出項目、地方債残高及び基金残高等の各種項目についての調査であり、対象は5,578の地方公共団体となっている。

地方財政状況調査に基づく公表資料として、決算状況関係報告書及び地方財政白書がある。報告書の都道府県分は1月中、市町村分は2月中に公表している。「地方財政白書」(自治省)は地方公共団体全体の普通会計決算として、都道府県と市町村間の重複を除いた純計数値を算出し、それに基づき集計・分析をするものであり、国会に報告後公表している。

なお、自治省より地方自治体にヒアリングを行い、都道府県分の当初予算(案)については4月末頃、9月補正後予算の都道府県分の集計結果については11月末頃、求めに応じて公表している。

公共事業等の事業施行状況については、国において上半期における公共事業等の施行促進が決定され、地方公共団体に対しても国と同様の事業施行を図るよう閣議において要請がなされた場合、都道府県に対し、上半期の施行目標額、毎月の予算計上額、契約済額等について調査を行い閣議に契約率等について報告し、併せて公表が行われている。

以上の1.~5.を踏まえ、消費動向把握の改善を進める上での論点等を、以下6.~9.で検討する。

6.公的支出の受注側及び発注側からの把握

公的部門の収支動向把握の問題点については、上記1.でも触れたが、こうした問題点に対応するためには、現在の受注側からの調査・統計だけでは限界があると考えられる。

発注側から予算状況や執行状況の把握を拡充する場合には、①会計記録(決算)の場合には正確さが優先され速報性が期待しにくく、どのように「執行概況」を把握すべきか、②限られた定員の中で、また他にも重要な行政需要のある中で調査・統計をどのように拡充していくか、といった課題がある。中・長期的にみてこうした課題の解決を図り、発注側からの動向把握を充実したものにする必要がある。

現在、発注側から公表されているものの中で重要なものとして、上半期の契約目標を設定した場合に実施される公共事業等の契約率に関する調査がある。短期的な措置として、こうした調査を経常的に行うことが、公共事業の動向を把握する上で有効と考えられる。

7.会計システムの標準化・電算化

既に述べたように、公共事業をはじめとする公的支出は本来は発注側からの把握が可能なはずであるが、現状では、特に地方自治体の予算の補正状況や、その執行状況の早期把握が困難である。また、特別会計を含む国の会計については、執行状況は比較的早期に把握できるものの、主要経費・目的別の分類などその内容の早期把握が困難である。こうした状況を改善するためには、予算費目別の状況だけでなく、何に使われたかが分かるような(国民経済計算と対応するような)標準的な会計システムを国がガイドラインとして提示するとともに、その利用が業務の電算化を通じて自治体にとってもメリットとなるよう、ソフトウエアも整備しつつその普及を促進することが重要である。また、国においても、会計処理の電算化を図る中で、支出状況を早期かつ的確に把握できる体制を構築していくことが重要である。こうしたシステムが普及すれば、これを活用しつつ迅速な支出状況把握を行っていくことが可能となる。

8.地方自治体の収支動向の更なる把握

我が国には3,000以上の地方自治体が存在しており、これら全ての収支動向を把握することは現状では極めて難しい。したがって、予算の補正状況やその執行状況、地方単独事業の動向等の早期把握のためには、発注側からの情報を如何に把握するかが課題である。今後の対応の方向性として、以下のものが考えられる。

  • 特定の地方自治体を選んでサンプル調査を行う方向
  • 緊急度の極めて高い問題として、地方自治体に優先的対応を求める方向
  • 予算のみならず人員も拡充して体制を強化する方向
  • 環境整備(例えば予算執行概況把握や予算のコード化に関する共通ガイドラインのようなものを作成)を図りつつ、事務の電算化や情報公開等の進展に応じて中長期的計画の下に把握体制を確立していく方向

今後の方向性として、環境整備等の構造的な改革は中・長期的課題として取り組むこととし、当面の措置としては、財政困窮度別や大都市・地方別などで類型別に地方自治体をいくつか選定し、民間の調査機関なども活用しつつ、予算やその執行状況を調査することが必要であろう。

9.既存統計の解釈方法の研究

公共事業に関する受注側の各種調査・統計については、標本誤差が非公表など信頼性に関する情報が少ないことが、景気動向把握の観点からの解釈が困難な一因となっている。情報提供の改善を図るとともに、各種調査・統計相互の性格の違いなどについての理解を深めるため、既存統計の解釈方法についての検討を進めることが望ましい。

第3章 地域経済動向把握の拡充強化

地域経済には、地域毎の経済・産業構造の相違等を反映して、変化の方向性がマクロ経済に比べより早く、またより顕著に現れる傾向がある。このため、地域経済動向の把握は、日本経済の状況をより立体的につかみ、マクロ経済動向の理解を深めるものとして極めて重要な意義を有している。

現在、地域経済動向の把握に当っては、調査・統計の分析に加え、各地域の主要企業や行政関係者へのヒアリングを実施するなど多方面からの情報収集が行われている。しかし、早期の景気動向把握の観点からは、現状は必ずしも十分とはいえない。

こうしたことから、既存の調査・統計の見直しや新規施策の実施等により、地域経済の把握につき改善を図ることが必要となっている。以下、この様な観点から主要な論点等を整理する。

1.地域別データの一層の整備

地域経済動向の把握に当っては、一次統計の地域別データの利用が不可欠であるが、地域別データは全国ベースのものと比較すると総じて制約が大きい。

例えば、家計の消費動向の把握にとって重要な情報源となっている「家計調査」(総務庁)、「毎月勤労統計調査」(労働省)については、地域別の計数はあるものの、標本数や公表時期の関係から利用には限度がある。また、「労働力調査」(総務庁)についても、地域別は四半期の値しかなく月次での利用はできない。企業の設備投資に関する統計についても、地域別に利用できるものは限られている。

利用可能な地域別データの公表時期についても、全国データの公表と同時、あるいは2、3日遅れというものが大半であるが、中には10日程度遅れるものもある。

消費や雇用など主要な指標については、地域別にも月次で動向を把握できることが望ましい。

2.意識調査、ヒアリングの更なる活用

上述のように、地域別のデータを整備していくことは今後の重要な課題である。しかしながら、報告者負担等の諸問題を考慮すれば、網羅的に全国ベースの水準にまで整備することは困難といえよう。地域経済動向の把握に当っては、経済の「方向性」の早期把握に重点を置き、必要な諸施策を推進していくことが望ましいと考えられる。

そのためには、地域特有の状況が現れやすく、かつ地域間の比較が可能なデータを重点的に整備・活用していくべきであろう。具体的には、意識調査であるビジネス・サーベイの有効性に鑑み、「企業短期経済観測調査」(日本銀行)等の企業・事業所を対象とした既存調査の更なる活用に努めることが重要である。

また、ヒアリングは、情報提供者の主観が入り込む余地があり地域間比較に馴染まないという制約があるものの、その点に留意しつつ総合的判断の一材料とすれば、機動性に富む優れた情報収集方法である。特に、経済の「方向性」の早期把握という観点からは、各地域の主要企業や行政関係者からの直近の景況感等についてのヒアリングを一層活用していくことが必要であろう。

3.「地域景気モニター」(仮称)の検討

地域経済動向の把握に当っては、各地域の定性的情報をきめ細かく分析することが必要であろう。このためには、上述のようなビジネス・サーベイや主要企業や行政機関に対するヒアリングを活用していくことに加えて、各地域の実情を観察しやすい立場にあり、かつそれを的確に解説し得る人物を「地域景気モニター」(仮称)として属人的に選定し、各地域の経済動向をそれぞれの観点から評価・報告してもらうようなシステムを構築することが有効といえよう。このようにして集められた情報を総合的にみていくことにより、経済の「方向性」をより早期に見極めることが可能となる。

具体的には、景気に関連の深い動きを観察できる立場の人を、業界・分野毎にモニターとして選定し、毎月回答を依頼するようにする。質問内容は、自社の状況に加えて、業界・分野全体の状況に関するものを中心とし、また回答形式は、協力者負担を考慮してDI式等を採用し、「方向性」を回答してもらうようにする。加えて、電話での入力やオンラインによる回答など電算化も図ることとする。

本システムの構築に当っては、第1章で述べた「サービス産業動向把握」(仮称)との連携等も視野に入れることが望ましい。

4.地方シンクタンクを活用した情報収集

各地域の経済構造は一様ではない。このため、地域経済の動向に関する情報を早期かつ的確に収集する主体としては、当該地域の経済構造を熟知する立場にある地方シンクタンクが適任といえよう。地域経済動向の把握に当っては、地域の特性を考慮した調査事項の設計や定性情報の収集方法の検討も含め、地方シンクタンクを活用した調査を行うことが望ましい。

また、そうした調査は行政単位にとらわれず、各地域の経済圏の実情に応じた調査範囲を設定して実施されるべきであろう。例えば、海外との結びつきの強い地域では、相手国側の経済状況を調査することにより、その地域の経済動向をより深く理解することが可能となると考えられる。

5.中・長期的視点に立った施策の検討

地域経済動向の把握を充実させるための諸施策を1.~4.で述べてきたが、これらの多くは、各地域の人材に依存するところが大きい。ヒアリングやビジネス・サーベイは、回答者がより的確に自らの地域の実情を把握していればしているほど、有用さを増していくものであろう。また、「地域景気モニター」(仮称)にはこうした資質が特に期待される。各地域の経済の実態を的確に認識しうる人材の育成、それを支える知的インフラの整備が、地域経済動向把握の改善のキーポイントであるといえるだろう。

現在、質的また規模的に十分とはいえないものの、地方シンクタンクは各地域に存在している。このような状況において、政府がそれらの活用を推進することは、地域における潜在的なニーズの掘り起しにつながり、地方シンクタンクの強化・整備に資するものである。地方シンクタンクを中心とした新たな知的インフラの構築を視野に入れ、中・長期的視点からの諸施策の検討が必要である。

第4章 調査・統計の改善

景気動向の早期把握のため、一次統計に求められていることは、迅速さ、正確さ、透明性の高さと考えられる。サンプル数を少なくすること、推計手法を利用すること、調査手法を改善することなどによって公表を早期化できる可能性はあるものの、これらは往々にして、正確さや透明性の基準と両立しないことがある。

したがって、景気動向把握早期化のためには、一次統計の作成側の早期公表に向けた一層の改善努力と同時に、利用者側が既存統計の活用に努めるといった創意工夫が求められることになる。その際、情報通信技術の発展や経済情勢の変化により、一次統計をとりまく環境やそのニーズが変わりつつあることなども考慮し、こうした状況の変化に機動的に対応できるような見直しを図ることが求められる。

1.日米の一次統計の比較からみた早期公表の要因

我が国の一次統計をアメリカの一次統計と単純に比較すると、概ね公表時期はアメリカが早く、確定時期は日本が早いといえる(表3)。この原因としては、サンプル数の違い、作成(推計)方法の違い、調査手法、過去に遡った改訂に対する考え方の違いが挙げられる。

①サンプル数の違い

消費者物価指数(全国)の公表時期はアメリカの方が1週間程度早く、卸売物価指数は日本の方が早くかつ月3回公表している。いずれもサンプル数が少ない方が早く公表されており、これが公表が早い要因の一つと考えられる。なお、日本では、一部集計の東京都区部分を、速報として公表している。

②作成方法の違い

日米の鉱工業生産指数、日本の機械受注統計とアメリカの受注統計を比較すると、いずれも、アメリカの方が1週間程度早い。この原因としては、日本はいずれの調査・統計も調査対象企業からの報告してもらう金額、数量データをもとに作成しているのに対し、アメリカでは間接推計手法を用いていることが要因として考えられる。即ちアメリカでは、鉱工業生産指数については、数量データで把握しているのは全体の半分以下であり、その他は電力消費量や労働投入量から推計している。また、受注については、生産・出荷・在庫統計から推計している。また、アメリカの生産・出荷・在庫統計は、前期と今期の両方で回答のあった企業のみで伸び率を作り、速報値として公表している。

③調査手法の違い

失業率は、公表時期はアメリカの方が1か月弱早い。この原因の一つとして、調査時点が、アメリカの方が1週間強早いことがあるが、アメリカでは調査員が、調査時にコンピューターの端末にデータを入力していることも考えられる。

④過去に遡った改訂に対する考え方の違い

アメリカの企業設備、小売売上高では速報値を公表しており、その公表時期は日本の調査・統計に比べ2週間程度早い。速報値は日本の調査・統計の公表とほぼ同時期に改訂されるが、その後も3か月程度遡って頻繁に改訂される。速報値を公表していない調査・統計においても、同様に3か月程度遡った改訂が行われている。一方、我が国の景気関連の主な月次統計では、「鉱工業生産指数」、「商業動態統計」(以上、通商産業省)は速報を公表しているが、こうした調査・統計では当月分の確報が、他の月次統計では当月分が公表された後、過去に遡った改訂は、基本的に行われていない(基準改訂を除く)。このように、アメリカは早期に公表するが、その後改訂を行っている。そこには、過去のデータの改訂をマーケットを含め社会が容認するという風土があるように思われる。

以上のような日米比較を踏まえ、我が国の一次統計の公表早期化を考える上での論点等を以下2.~4.にて検討する。

2.一次統計自体に係る論点

一次統計自体に関する論点として、以下が考えられる。

①サンプル数及び調査内容の変更

サンプル数を減らせば、調査票の回収、集計に要する時間は短縮できると考えられるが、調査・統計の精度が低下するという問題が生ずる。適切なサンプル数を確保しつつ早期公表を行っていくためには、情報量が減少するものの、調査内容を簡素化することも一案である。

②データ収集方法の改善

コンピュータ・ネットワークによる企業等とのオンライン化によって、データ収集に伴う時間的・金銭的コストを大幅に削減できると考えられる。現在、「機械受注統計」(経済企画庁)で調査票のオンラインでの提出が可能となっており、通商産業省においても、通商産業省生産動態統計等の代表的な動態統計について、インターネット等のオンラインを活用して申告できる新たなシステムを2000年1月分から導入する予定である。個票データの安全性に配慮しつつ、こうした措置をできる限り多くの調査・統計に早期に導入することが望ましい。

③間接推計手法の利用

一次統計の中で作成に必要とされる基礎情報の入手が困難な分野等については、間接推計手法を利用した補完が可能な場合もある。こうした方法は動向把握の早期化に寄与すると考えられるが、一方で一次統計の範囲を超え、誤解を招く可能性もあるので、その取り扱いも含め、どのような対応が望ましいか検討していく必要がある。

④一部集計の公表

各種調査・統計において早期公表の需要が高い項目については、全サンプルの集計結果にこだわらず、一部集計の公表という形での早期化が考えられる。

3.推計・改訂に係る論点

推計・改訂に関する論点として、以下が考えられる。

①速報の改訂幅と市場への影響

アメリカの調査・統計では、推計した暫定値を速報として早期に公表している場合がある。日本においても、実数を調査した場合に比べ調査・統計の精度は低下するものの、公表の遅い指標を公表の早い指標から推計する方法や、ある期日までに得られた回答のみで暫定値を作成する方法が考えられる。

②速報の位置付け及び推計手法の周知

速報値と確報値との乖離といった問題で混乱が生じることを避けるためには、暫定値を発表する場合には、その作成方法を公表し、どのような意味で確報値と異なるかを明らかにする必要がある。また、適当と思われる調査・統計については、「速報」とせずに、別の名称による別の調査・統計として位置付けることも一つの手段と考えられる。

③情報提供の充実

昨今、マーケットの動きが景気全体に大きな影響を与えるようになってきており、調査・統計がマ-ケットの認識の変化を通じ、景気動向に影響を与える可能性もある。こうしたことから、調査・統計が市場全体に正しく理解されることが、経済の攪乱要因を除く上で重要となる。現在、多くの省庁がインターネットで調査・統計情報を提供しているが、その内容を一層充実させ、より使いやすい形で提供することが必要である。

4.利用者に係る論点

利用者側が既存統計の活用に努めるにあたり、以下の論点が考えられる。

①意識調査の利用

一定の情報量を維持しつつ、報告者の負担を増やさないことを前提とした場合には、一次統計の公表早期化には一定の限界があるといわざるを得ない。

したがって、景気動向把握の早期化には、調査・統計の利用者側においても、消費者、事業者の意識調査(DI型の調査)を活用していくことが必要である。こうした調査・統計を活用して経済の「方向性」を捉え、その後で定量的な一次統計で実態経済に変化が生じているかどうかを確認するという手法について、景気判断・分析担当部局でも検討する必要がある。

消費者マインドの極端な低下が民間最終消費支出の低迷の大きな原因となるといった現象もみられたように、最近の景気動向を展望する上で、消費者、事業者のマインドの動きを調べる意識調査が重要性を高めてきている。意識調査を景気判断・分析担当部局で積極的に活用することができるよう、既存の意識調査について分析手法を含めその改善について検討することが求められる。

②各種の経済情報の更なる活用

第1章でも示したように、景気動向の早期把握に当っては、多方面からの経済情報を活用することが重要である。

政府の調査・統計よりも公表が早い民間の調査・統計や、景気との因果関係は不明なものの、過去において景気との間になんらかの関係を見出せる社会・経済現象においても、経済の「方向性」を捉える上で有用な情報となるものがある。例えば、スポーツの観客動員数等は景気との相関が高いといわれる。これらは、景気関連の調査・統計よりも公表も早いことから、景気動向の把握早期化に利用する可能性を検討することが有用と考えられる。

ただし、こうした情報には特定のバイアスが伴うため、継続した利用によりバイアスの性質をつかみ、データの客観的な解釈に努めることが不可欠といえる。

表3 日米統計の比較

日本
  指標名 公表時期 調査時点 標本数 特記事項
物価 CPI
 全国
 都区部
  
翌月下旬
当月下旬
毎月12日を含む週の水・木・金曜日のうち1日 167市町村約31000事業所約22000世帯(家賃調査)23区  
物価 WPI
 上旬
 中旬
 月中平均
  
当月中旬
当月下旬
翌月上旬
 中旬初下旬初翌月1日 2211事業所/4808価格  
雇用 失業率 原則として翌月末の火曜又は金曜 原則として月末の1週間    
企業 資本財出荷
 速報
 確報
  
翌月末
翌々月中旬
当該1か月 約36000事業所  
設備 機械受注 翌々月中旬 当該1か月 280社 オンライン調査
米国
  指標名 公表時期 調査時点 標本数 特記事項
物価 CPI
 全国
 都区部
翌月中旬 翌月第1週に取収を開始する 87標本都市約23000事業所約50000世帯  
物価 WPI
 上
旬 中旬
 月中平均
翌月上旬 毎月13日を含む週の火曜日 約30000事業所/約100000価格  
雇用 失業率 翌月第一金曜日 毎月12日を含む1週間 約50000世帯 調査員が調査時に端末にデータ入力を行う
企業 耐久材
 受注・出荷
翌月下旬 当該1か月間 約47000事業所 生産出荷在庫統計から推計
設備 ―――― ―― ―― ―― ――

第5章 新しい視点からの情報把握・提供等

情報通信技術の発展や経済情勢の変化により、調査・統計をとりまく環境やそのニーズは変わりつつある。また、既存の調査・統計が実勢を十分に反映していない部分も生じていると考えられる。こうした状況の変化に機動的に対応できるように、新たな視点からの情報把握・提供等が必要となっている。

1.金融取引の把握の改善

金融市場全体の資金の流れを総合的に把握するための指標として、「資金循環勘定」(日本銀行)が作成されている。これは、金融機関等から入手したバランスシートを基に日本銀行が作成する加工統計であり、年一回公表される年間表と四半期別の応用表の2種類がある。両表とも、6経済部門(金融、中央政府、公社・公団及び地方公共団体、法人企業、個人及び海外)別に期末における金融資産と金融負債の残高を示した「金融資産負債残高表」と、特定期間に発生した各種の金融取引を表示した「金融取引表」によって構成されている。

「資金循環勘定」は、各部門別にみた特定時点でのストック(保有額)や2時点間のフロー(増減額)を示すものだが、ここでフローとは、2時点間のストックの差として提示されるものにすぎない。このため、どういう主体がどの局面でどういう取引を行ったか、という様な詳細な情報をこれから引き出すことはできない。しかし、「資金循環勘定」は、多数の機関が関係する加工統計であり早期化は困難であること、構造的な判断に用いる指標であり早期の動向把握に活用できる性質のものではないことなどから、「資金循環勘定」をフロー面での金融取引の把握という目的で利用するには限界があるといわざるを得ない。

「金融市場で何が起きているか」という点に関しては、市場情報等の断片的な情報から推測せざるを得ないのが現状である。金融取引の多様化に伴って、こうした推測はますます困難になっていることは否定できない。

日本銀行においては、マネタリーベースの公表を1ヶ月程度早期化するなど、金融関連の調査・統計の早期化、詳細情報の公開を積極的に進めている。金融取引を迅速かつ正確に把握するための可能性を検討するとともに、改善が進んでいる金融関連の調査・統計を有効に活用する手法を考える必要があろう。

2.価格動向の把握の改善

現在の代表的な物価指数として、「卸売物価指数(WPI)」、「企業向けサービス価格指数(CSPI)」(以上、日本銀行)、「消費者物価指数(CPI)」(総務庁)等がある。銘柄指定を基本とするこれらの指数は、品質・取引条件等の連続性を確保する上で一定の利点を有するものであるが、一方で、世代交代が激しい商品分野では、平均購入価格(実効価格)の動向の把握も極めて重要である。「家計調査」(総務庁)から単価を算出することは可能だがブレが大きく、また新聞紙上等で売れ筋商品とその価格動向に関する情報はあるが、統計という客観性の高い形での把握はできない。

また、企業収益にとって重要な意味を持つ投入・産出価格比(過去の投入価格と現在の産出価格の比)についても、投入から産出までのタイムラグが産業別・投入別で異なることから、情報の把握が難しい面がある。特に中間投入に関する情報は少なく、物価が下落基調にあれば企業収益に影響が生じている可能性も否定できない。

加えて、商品やサービスの質の差を勘案した価格動向把握についても改善すべき点がある。「卸売物価指数」では、コスト評価法(メーカーから製造コストを聴取する方法)の他、ヘドニック法(商品の品質・性能データと価格の関係を表す回帰式を用いて新商品の理論価格を推計する方法)を「電子計算機本体」と「外部記憶装置」の2品目に採用するなどの工夫がなされているが、物価指数全体としてみれば、品質調整の面でなお改善の余地がある。米国では、パソコンの価格にヘドニック法を適用し、これが消費者物価上昇率を0.04%押し下げるといった分析も行われていることから、こうした手法の適用を広げていくことも検討に値すると思われる。

このように、最近の価格動向は既存の手法では把握が困難な面があることから、新たな手法を含め把握方法の見直しを行うことが必要である。

なお、「消費者物価指数」については、主な調査地域が商店街を中心とした地域であること、週末のバーゲン等の扱いが十分でないこと、一銘柄・一価格のため売れ筋商品等の把握が困難なこと、採用品目において最近の消費者行動の変化を反映していない面があること、等の論点が考えられる。今後の「消費者物価指数」の見直し等に当っては、事実関係の周知を含めこうした論点への配慮が望まれる。

3.報告者負担の軽減、重複防止、その他の論点

調査・統計に対する考え方やニーズは不変のものではなく、経済情勢の変化とともに変わっていくものといえる。このため、時代にあった形での調査・統計の実施、情報の提供等を行うことが求められる。以下、その論点を整理する。

①既存の調査・統計の活用と報告者負担の軽減

現在、国・地方自治体をはじめとした多くの政府機関、多数の民間機関が様々な目的から調査・統計を行っているが、こうした既存のものを最大限活用することが必要である。 

そのためには、「調査・統計は公共財」という認識の基に、その存在や作成方法についての一層の積極的な情報公開が必要である。また、新規に調査等を行う場合には、既存のものと重複がないか十分な確認を行うことが前提になる。

新規調査以外について、今後とも、報告者の立場も考慮した調査方法の見直しを常時行っていくことが求められている。報告者の理解と協力があって初めて、信頼のある結果が得られることを再認識し、報告者負担の軽減に対してできる限りの努力をする必要があろう。こうした努力が回収率の改善につながり、最終的には、調査結果の公表の早期化、信頼度の向上に通じていくものと考えられる。

②利便性の向上

情報通信技術の進歩に伴い、近年、インターネット等の新しいメディアを通じた情報発信が盛んになってきている。調査・統計の結果についても、印刷物に加え電子媒体を用いた発表も行われつつある。また、情報公開法の制定について議論が行われるなど、政府情報の公開に関する動きも活発になっている。

しかし、調査結果の細目等の詳細情報については、公表はされていても、当局まで取りに行かなければならないなど入手するのが困難な場合がある。また、電子媒体での情報提供が不十分なため、経済分析に際して利用者側がデータを再入力するようなケースも生じている。

詳細情報も含め、電子媒体での情報発信を推進し、一般の利用者が必要な情報を容易に入手できるような環境の整備が求められている。

③市場への配慮

昨今、マーケットの動きが景気全体に大きな影響を与えるようになってきており、経済統計がマ-ケットを通じ、景気に影響を与える可能性が高いと考えられる。こうしたことから、市場関係者に経済統計に係る情報提供が等しく行われ、市場関係者がそれらを正しく理解できるようにすることが、経済の攪乱要因を除く意味で重要となる。

インターネット等にて、調査・統計の公表スケジュール(日付が明記された詳細なもの)の事前公表、一次統計の詳細情報の公表、加工統計の推計手法の公表等を行うことにより、市場への迅速かつ正確な情報提供を行うことが求められている。この点に関しては、月日まで示した年間公表スケジュールを事前に公表したり、詳細情報を提供している総務庁などの例もあるが、他省庁においても同様の努力が行われる必要がある。また、市場等、民間部門が統計を解釈する機能を重視すべきであり、誤解防止のための技術的コメントなど統計自体についての説明は必要であるが、結果の解釈に時間をかけて公表時期が遅れることがないよう留意するべきである。

④新しい技術・手法の活用

調査・統計の分野においても、新しい技術を積極的に導入する必要がある。急速な発展をみた情報通信技術を最大限に利用し、回答の電子化等による業務の効率化を進めるとともに、情報通信技術の将来動向も想定しつつ、景気動向の早期把握に向けての技術開発を意識的に行うことが重要であろう。

また、統計処理手法や分析手法についても新しい進展(欠損値の処理法やロジット分析等)がみられていることから、調査・統計の手法についても、既成の考え方にとらわれず、諸外国の事例も参考にしつつ、こうした変化に即して改革を行うなど、弾力的な見直しを行っていくべきである。

⑤機動性の確保

景気動向を早期に適切に把握するためには、定常的な調査・統計を迅速に処理するのみならず、その時々の景気情勢に応じて重要となった分野や政策効果について、機動的な情報把握に努める必要がある。

報告者負担の軽減や既存統計との重複回避という要請と、こうした機動性確保を両立させる努力が今後とも重要といえよう。


資料1

動向把握早期化アクションプログラム

平成10年10月

経済企画庁

1 アクションプログラムの目的

 適切な経済運営を行うための、景気動向のより一層の早期把握。このために、現在、経済企画庁が公表している種々の統計・調査類(参考1参照)の早期公表等に取り組むこととし、「動向把握早期化アクションプログラム」を策定。

 なお、アクションプログラム実現の一環として、21世紀発展基盤整備特別枠の中で景気動向早期把握化に係わる予算(参考2参照)を要望中。

2 アクションプログラムの内容
(1)景気動向全体の把握の早期化

①GDP速報(四半期別国民所得統計速報(QE))(経済研究所)

・・・現在の速報値公表に先立って、暫定速報の公表可能性も含め検討。併せて、現行QEの公表の早期化を検討(7月から、本年度末を目途に、栗林中央大学教授を委員長とする「GDP速報化検討委員会」を設置して検討中)。

早期化のためには、他省庁統計の早期化も重要な課題。

②月例経済報告(調査局)・・・各種1次統計の早期化に応じ、月例経済報告の早期化に取り組む。

③景気動向指数(調査局)・・・現行1カ月+20日程度を、8月分(10月公表)から約2週間程度早めて公表する。各種1次統計の早期化の進展に応じ、さらなる早期化に取り組む。

④他の手法による景気動向把握(物価局等)・・・例えば、景気警告指標としての物価の利用可能性の検討(物価局。物価安定政策会議の下部委員会として、貝塚中央大学教授を座長として「ゼロインフレ下の物価問題検討委員会」を9月29日に設置し、検討を開始。)

⑤業界統計を含め、既存の統計で全体の傾向動向を把握するのに役立つ統計の発掘

(調査局)・・・・ 例えば、高速道路通行量で生産・出荷を、外食産業動向調査で消費動向を、評価するために使用。

⑥現場感覚の把握の強化・・・11月に景気懇談会(各種業界団体首脳との意見交換。調整局)を開催。

(2) 基礎的な景気情報把握の早期化

①消費動向把握の必要性増大

  • バブル経済の崩壊までは、GDPの約6割を占める民間消費は、景気変動の影響は受けながらも、マイナスとなることは少なく、景気を下支え。
  • しかしながら、バブル経済崩壊後の平成4年4-6月期以降は、所得の伸び率低下等のため、民間最終消費支出はたびたびマイナス。この動向把握が景気動向全体の把握のために、重要性を増加させている。
  • 他方、家計の消費活動は物の購買よりもサービス支出を増大させる等、多岐にわたり、その把握は困難化(参考3参照)
  • 支出対象・場所が極めて多岐にわたるため、本来は消費側で把握するのが最も合理的かつ正確。しかしながら、消費者側の協力負担の問題もある。
  • したがって、
    イ 消費者の協力を得るための新たなシステムの導入の検討(調査局。テレビアンケート等)
    ロ 物価から見た消費動向把握(物価局。今年度、物価モニター調査でディスカウント店等の店舗形態別の購買行動や消費者の価格志向などについて調査)
    ハ 供給サイドからのアプローチの充実・強化や、業界統計等の既存統計の発掘・利用。(調査局)
(3)「動向把握早期化委員会」の設置

上記の下線部等を検討するために、有識者、業界関係者等からなる委員会を大臣の下に設置(事務局調査局。調整局、物価局、経済研究所が協力)し、検討。他省庁にも参加を依頼することを予定。

3 フォローアップ

 「動向把握早期化アクションプログラム」のフォローアップを半年程度後に行い、その結果を公表。

(参考1)

経済企画庁が公表している統計・調査の現状

①景気動向全体(加工統計)

・ GDP速報(四半期別国民所得統計速報:QE)

・・・各種統計を使用し、四半期毎(2カ月+10日程度後)に公表。

・ 月例経済報告・・・毎月。各種統計とヒアリングを基に判断。

(使用する主な統計は、当該月から1カ月程度前のもの)

・ 景気動向指数・・・毎月。各種統計を使用し、景気の動向を示す先行指数、一致指数等の指数として加工。

(使用する主な統計は、当該月から1カ月+20日程度前のもの)

・ 産業動向調査・・・隔月。主に、各種統計とヒアリングを基に作成。

(使用する主な統計は、当該月から1カ月+20日程度前のもの)

・ 地域動向調査・・・隔月。主に、各種統計とヒアリングを基に作成。

(使用する主な統計は、当該月から1カ月+20日程度前のもの)

・ 景気懇談会の開催・・・当庁幹部が、直接、主要業種の幹部から、その業種の現状・今後の見通し等を聴取(春・秋)。

②景気動向全体を把握するための補完的な統計・調査(一次統計)

・ 消費動向調査(消費者マインド等の調査)・・・年4回。家計調査の補完

(調査時点から1カ月+10日程度後に公表)

・ 単身世帯消費動向調査(消費者マインド等の調査)・・・年4回。家計調査の補完。

(調査時点から2カ月強後に公表)

・ 法人企業動向調査(企業マインド、設備投資の調査)・・・年4回。

(調査時点から1カ月+10日程度後に公表)

・ 機械受注統計・・・毎月。(調査時点から1カ月+10日程度後に公表)

(参考2)

 情報通信・科学技術・環境等21世紀発展基盤整備特別枠に係わる予算要望の概要

・景気情報早期把握推進に必要な経費(要望額:10億円)

 景気動向を迅速・的確に把握し景気判断に資するため、著しい展開がみられる情報・通信技術の活用を図りつつ、景気に影響を及ぼす緊急事態の情報収集や、景気情報の早期把握を推進するための経費。

・消費動向の早期把握に要する経費(要望額:2億5千3百万円)

 消費の迅速・的確な把握のため、情報ネットワーク構築によりリアルタイムな情報収集を行う消費・経済動向定点観測システムの拡充や、情報・通信技術を活用した小売販売関連データベースの収集、家計の消費動向の把握、各種経済情報収集を行うための経費。

(参考3)家計の目的別最終消費支出の構成比(平成8年度)

食品・飲料・たばこ(16.2%)、衣服・履物(5.2%)、

家具・家庭器具・家計雑費(5.0%)

家賃・水道・光熱(23.3%)、医療・保険(10.9%)、

交通・通信(11.7%)、レクレーション・娯楽・教育・文化サービス(12.7%)、その他(15.0%)