緊急経済対策

平成10年11月16日
経済対策閣僚会議

目次

  • 第1章 緊急経済対策と日本経済再生の道筋
    1. 経済情勢の認識
    2. 緊急経済対策の基本的考え方
    3. 経済再生の道筋
      • (1)  緊急経済対策により、現下の厳しい状況から脱却
      • (2)  11年度ははっきりとしたプラス成長へ転換
      • (3)  12年度には、回復軌道へ
      • (4)  中期展望の策定
  • 第2章 経済再生のための緊急対策
    • 金融システムの安定化・信用収縮対策
      1. 金融システムの安定化対策
        • (1)  資本増強制度の実効ある運用
        • (2)  検査監督行政の効果的な運用
        • (3)  金融機関の主体的な取り組み
        • (4)  情報開示の改善
        • (5)  金融機関の財務状況等の把握の強化
      2. 信用収縮対策等
        • (1)  信用収縮対策
        • (2)  資金供給ルートの拡充・多様化
      3. 日本銀行による金融政策の適切かつ機動的な運営
    • 21世紀型社会の構築に資する景気回復策
      1. 21世紀先導プロジェクトの実施
        • (1)  先端電子立国を形成するための2つのプロジェクト
        • (2)  未来都市の交通と生活を先取りする3つのプロジェクト
        • (3)  安全・安心、ゆとりの暮らしを創る2つのプロジェクト
        • (4)  高度技術と流動性のある安定雇用社会の構築のための4つのプロジェクト
      2. 生活空間活性化策
        • (1)  生活空間倍増戦略プランの策定
        • (2)  土地・債権流動化
        • (3)  住宅投資の促進
      3. 産業再生・雇用対策
        • (1)  産業再生計画の策定(中小企業関連施策を含む)
        • (2)  雇用対策
      4. 社会資本の重点的な整備
      5. 恒久的な減税等
        • (1)  個人所得課税・法人課税
        • (2)  政策税制
        • (3)  「地域振興券」の交付
      6. 財政構造改革法の凍結
    • 世界経済リスクへの対応
      1. アジア諸国の通貨危機等への対応
      2. アジアの現地日系企業等に対する支援

はじめに

今次の緊急経済対策は、現下の厳しい情勢に鑑み、日本経済を一両年(平成11年度、12年度)のうちに回復軌道に乗せる第一歩として立案されたものである。

そのためにまず、来たる平成11年度には、次の三つの目標を達成することとする。

  • (1)  平成11年度の経済を、はっきりプラス成長と自信を持って言える需要創造
  • (2)  失業者を増さない雇用と起業の推進
  • (3)  国際協調の推進、とりわけ対外経済摩擦の抑制    である。

政府は、以上の目的を達成するために、全力をあげて諸施策を推進する。

同時に、日本が直面している構造変化と国民のニーズの変質、高度技術の発達などを考慮した「未来」を創造することも大切である。本対策においては、日本が21世紀においても活力と創造性と楽しさを持ち、すべての人々が安全で安心して暮せる国であることを目指す未来創造型プロジェクトをも発足させることとしている。緊急対策とはいえ、夢と理想のある長期展望こそ、国民を勇気づけ、世界に日本の理念を発信する上で大切と考えたからである。

第1章 緊急経済対策と日本経済再生の道筋

  1. 経済情勢の認識
        我が国経済は、金融機関の経営に対する信頼の低下、雇用不安などが重なって、家計や企業のマインドが冷え込み、消費、設備投資、住宅投資といった最終需要が減少するなど、極めて厳しい状況にある。また、世界経済は、アジア諸国を始め厳しく、アメリカでは、先行きに対する不透明感が見られる。さらに、金融機関の再編と体質強化の過程では信用収縮が生じる可能性があり、今年度後半から来年度にかけて、十分な対策と監視が必要である。
  2. 緊急経済対策の基本的考え方
        こうした厳しい状況から脱却し、11年度にはっきりプラス成長と自信を持って言えるよう、政府は、まず、金融システム安定・信用収縮対策、併せて、景気回復策を緊急に実行する。
        景気回復策は、景気回復への、① 即効性、② 波及性に加え、21世紀に向けた、③ 未来性の3原則に沿って実施することが重要であり、短期的な施策も、こうした観点を踏まえつつ推進する。すなわち、景気回復の動きを中長期的な安定成長につなげていくためには、短期的に十分な需要喚起を行うとともに、21世紀の多様な知恵の時代にふさわしい社会の構築に向けて、供給サイドの体質強化を図るための構造改革も進める必要がある。
        また、世界経済、中でも、我が国と密接な相互依存関係にあるアジア経済にとって、我が国経済の再生が極めて重要であるとの認識に立って本対策を実施する。
        政府としては、このような方針の下に、100万人規模の雇用の創出・安定を目指して、総事業規模17兆円超の事業を緊急に実施する(これに恒久的減税6兆円超を含めれば、20兆円を大きく上回る規模となる)。
        なお、緊急経済対策を実施するに当たっては、極めて厳しい地方財政の状況も踏まえ、適切な配慮を行う。
  3. 経済再生の道筋
    • (1)  緊急経済対策により、現下の厳しい状況から脱却
          緊急経済対策により、デフレスパイラルの懸念は取り除かれ、現在の厳しい経済状況を脱することができると確信する。本対策は、我が国経済を一両年のうちに回復軌道に乗せるための政策対応の第一歩であり、今後、平成12年度までに経済再生を図ることとし、機動的弾力的な経済運営を行う。
    • (2)  11年度ははっきりとしたプラス成長へ転換
          11年度は、3年連続のマイナス成長を回避し、回復基盤を固める年にしなければならない。また、21世紀型社会の構築に向けた構造改革に取り組む。
          有効な資本増強をはじめとする金融システム安定策を実施し、不良債権処理、金融機関の再編が進む結果、金融機関に対する信頼は回復に向かい、我が国実体経済の回復を阻害していた要因が取り除かれる。
          設備投資については、設備過剰感が強い現状からみて、回復にはしばらく時間がかかることも予想される。雇用情勢は厳しいものの、公共投資の拡大、恒久的な減税の実施等により、所得の落ち込みは避けられるため、民間消費は緩やかながらも回復に向かい、住宅投資も底打ちする。また、在庫調整が終了し、徐々に生産が回復に向かう。
          民間需要の緩やかな回復を公的需要が十分下支えするとともに、信用収縮を起こさせることのないよう、金融面からも企業の資金需要に応え、量的緩和を図るよう、経済運営を行う。
    • (3)  12年度には、回復軌道へ
          12年度は、回復軌道に乗せる年としなければならない。
          恒久的な減税の効果が現れ、家計のマインドが好転する結果、民間消費、住宅投資ともに本格的に回復する。また、企業マインドも好転し、実体経済の回復と金融再生が好循環を生む結果、設備投資を含め、民需主導の景気回復が始動し、安定成長軌道に復帰するものと期待される。この結果、拡大していた需給ギャップも縮小に向かう。
          公的需要から民間需要に円滑にバトンタッチが行われ、民間需要の腰折れを招くことのないよう、十分に配慮した経済運営を行うとともに、金融再生を完了させる。併せて、21世紀型社会の構築にむけた構造改革を引き続き強力に推進する。これらの進捗状況を見極め、13年度からは、民需中心の安定的な成長軌道に乗って我が国経済が発展していくことを期待する。
    • (4)  中期展望の策定
      以上の経済再生の道筋を踏まえ、今後の中期的な経済の姿と政策対応の在り方について、展望を策定する。

第2章 経済再生のための緊急対策

  • 金融システムの安定化・信用収縮対策
    1. 金融システムの安定化対策
      金融システムは、経済全体にとっていわば動脈と言うべき役割を果たしており、日本経済の再生のためにまず成し遂げるべきことは金融システムの再生である。このため、金融再生関連法及び金融機能早期健全化法を制定し、それぞれ18兆円・25兆円の政府保証枠を措置したところである。金融システム全体の危機的な状況を絶対に起こさない、日本発の金融恐慌を決して起こさないとの固い決意の下、更に次の取り組みを行う。
      • (1)  資本増強制度の実効ある運用
            金融機関は、抜本的な業務再構築に取り組みつつ資本増強を図ることによって、市場からの信認を高め、経営基盤を強化させることが強く望まれる。
            このため、金融機能早期健全化法を早急に実効性あるものとして機能させる必要があり、資本増強を申請する金融機関が実施すべき事項を定める承認基準等を策定し、本日告示した。当該基準は、金融機関の業務再構築等を促進しつつ、中小企業を中心とする国内向け信用供与に配慮した内容となっており、当該基準等に基づき、資本増強制度の実効ある運用を図る。
            なお、資本増強後も経営健全化計画の履行状況の報告及び公表等によって適切に点検する。
      • (2)  検査監督行政の効果的な運用
            金融機能の早期健全化の観点から、早期是正措置の発動基準等を改正し、本日より施行した。さらに、「金融監督等に当たっての留意事項」として公表されている金融監督庁の事務ガイドラインを改正し、全ての金融機関に対し、① 信用供与の円滑化と資本増強、② 経営の効率化、③ 審査体制の強化を促すこととする。
      • (3)  金融機関の主体的な取り組み
            検査監督行政と資本増強制度との効果的な連携に加え、承認基準の内容等の周知徹底により、金融機関が速やかに体制整備を行い、資本増強に取り組むよう促していく。各金融機関は、自らの社会性・公共性を十分に認識しつつ、戦略的な業務再構築やリストラに主体的に取り組み、資本の充実等に関するそれぞれの方針に応じ、必要があれば、早急に臨時株主総会を開催することも含め、資本増強制度を効果的かつ十分に活用することが期待される。
      • (4)  情報開示の改善
            証券取引法上の情報開示において、連結財務諸表作成に当たっての子会社及び関連会社の範囲を拡大し、実質的な支配力基準・影響力基準1を導入するとともに、税効果会計2をこれまでの連結財務諸表に加えて個別財務諸表においても導入する。
            金融機関については、早期に内外の信認を高めるために、1年前倒しで来年3月期より上記基準を実施し、米国SEC基準と同様の基準によるリスク管理債権額についても実質的な連結基準により開示する。さらに、金融再生緊急措置法に基づき、主要行については来年3月期から資産査定の開示を義務付けることとしており、債務者分類を基礎とした更に踏み込んだ情報開示が行われる。
        1支配力基準・影響力基準とは、従来、持株比率50%超を子会社、20%以上を関連会社としていたものを、持株比率がこれらを下回っていても、株主総会等を支配している場合を子会社、財務等の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合を関連会社とするものである。
        2税効果会計とは、例えば、有税引当てをした場合に、法人税等の支払いを企業会計上は前払いとして扱い、費用とせずに資産に計上する会計処理である。
      • (5)  金融機関の財務状況等の把握の強化
            金融機関に対し実効性ある監督を行っていくため、金融機関の財務状態について正確かつ継続的な把握を行っていくことが必要不可欠である。このため、検査マニュアルの整備・公表や金融機関の財務状況等の継続的把握のためのコンピュータ・システムの開発、海外当局との人材交流等を通じて検査・監督手法の一層の充実を図るとともに、民間からの幅広い人材確保に努めつつ、金融機関の財務状況等の把握のための体制整備を図る。
    2. 信用収縮対策等
      • (1)  信用収縮対策
            いわゆる貸し渋り・融資回収等による信用収縮を防ぎ、中小・中堅企業等に対する信用供与が確保されるよう、先般閣議決定された「中小企業等貸し渋り対策大綱」に盛り込まれた信用保証協会及び中小企業信用保険公庫による信用保証制度の拡充、政府系金融機関の融資制度の拡充等の施策を強力に推進する。
            これに加え、中堅企業等向けの貸し渋り対策を抜本的に強化するため、日本開発銀行等の政府系金融機関において、代理貸しの導入、転貸資金融資の導入や融資比率の弾力化を含めた融資制度の拡充、保証料率下限の引下げ等による保証制度の強化を行うとともに、非不動産担保の活用を図る。さらに、今後見込まれる社債の大量償還に対応すべく融資機能等を活用するとともに、企業の資金需要に機動的に対応するべく長期運転資金の融資を本格化する。このため、平成10年度における財政投融資の補正及び弾力条項の発動を含め、所要の資金量の確保に努めることとする。
            また、破綻金融機関の貸出先の中堅企業向け対策として、信用保証協会及び中小企業信用保険公庫による新たな信用保証制度の導入を行うこととする。
            以上の施策により、事業規模5.9兆円程度を追加する。これにより、資金規模ベースでは、「中小企業等貸し渋り対策大綱」で特に確保した中小企業に対する20兆円の信用保証規模と並んで、新たに中堅企業等への融資・債務保証について、従来の資金量に加えて、7兆円を上回る規模の資金量を確保する。
            さらに、中小企業等への貸し渋りに対する監視体制を強化するため、金融取引に関する金融機関と利用者の間の苦情相談窓口の周知等を行い、その活用を図るとともに、各都道府県単位で、金融機関の融資動向に関する情報交換会を開催する。
            また、農林漁業者、木材産業等の資金調達の円滑化を図るための施策を推進する。
            なお、北海道等において、厳しい経営状況に置かれている中小企業の支援や中堅企業等への貸し渋り対策の一層の強化を図る観点から、北海道東北開発公庫における中小企業向け既往債権の金利の減免、信用保証協会の保証の活用を新たに行うとともに、財政投融資を適切に活用し、融資及び債務保証を充実する。
      • (2)  資金供給ルートの拡充・多様化
            従来型の間接金融ルート中心による金融仲介機能は低下しており、証券化等の新たな資金調達方法の早期確立が求められる。このため、特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律(SPC法)については、その施行状況等を踏まえ、一層の制度整備の検討を行うとともに、本年12月から導入予定の会社型投資信託の投資対象について、その導入後の状況等を踏まえ、検討を行う。また、金融業者の貸付業務のための社債の発行等に関する法律案の早期成立が求められる。このような環境整備により、証券化等の多様な資金調達方法の確立と新たな金融サービス業の創出を促す。
    3. 日本銀行による金融政策の適切かつ機動的な運営
          日本銀行は、11月13日、資産の健全性に留意しつつ、企業金融の円滑化に資することを狙いとして、① CPオペの積極的活用、② 企業金融支援のための臨時貸出制度の創設、③ 社債等を担保とするオペレーションの導入の措置を講じることを決定し、公表した。
          金融システム安定化を進めていく過程で、信用収縮が生じる可能性があることから、日本銀行においては、これらの措置の実施や潤沢な資金供給等、金融政策を引き続き適切かつ機動的に運営するよう要請する。
  • 21世紀型社会の構築に資する景気回復策
        今日、国民の間に、我が国経済・社会の将来に対する不安感が生まれているが、これを払拭するため、国民が将来にわたり夢と希望を持てるよう、21世紀に向けて以下のような新たな施策を展開することとする。
    1. 21世紀先導プロジェクトの実施
          21世紀型社会の構築のため、経済戦略会議の緊急提言で示された5分野(都市、情報、教育・人材育成、福祉、環境)のプロジェクトの実現に取り組む。特に、次の視点に立って、未来を先取りするモニュメントとなるプロジェクトに焦点を置き、今後新たに、各省庁連携して、4つのテーマのプロジェクトに積極的に取り組む。
      • (1)  先端電子立国を形成するための2つのプロジェクト
        • ① 次世代インターネット構想を推進するとともに、国、地方公共団体等の情報化を進め、強力な電子政府、ワンストップ行政サービス等情報化を図る。また、全国的に地域や産業の情報化の取り組みを一層加速させる。2000年問題への対応を進める。
        • ② 通信コストの引下げと情報ハイウェイ、光ファイバ網・CATV網等の整備・高度利用を引き続き推進し、通信容量の大幅な拡大、情報内容の充実を図り、我が国のネットワーク環境を一変させる。
      • (2)  未来都市の交通と生活を先取りする3つのプロジェクト
        • ① 世界に先駆け、高度道路交通システム(ITS)を実用化し、近年中に全ての高速道路で、電子マネー技術にもつながるノンストップ自動料金収受システム(ETC)等を実現する。また、2003年を目途に、モデル道路で世界初のスマートウェイ(知能道路)、スマートカーの走行実現に取り組む。
        • ② 国際ハブ空港・ハブ港湾の整備、高速鉄道網、高規格幹線道路、都市圏自動車専用道路網の整備、大規模都市開発プロジェクトの実施等により、国際社会での都市間競争力を向上させる。また、都市鉄道、高速交通ネットワーク等未来都市の交通を先取りする。
        • ③ 危機に直面している日本の都市を、「生活機能の復権」という視点で再生し、環境、安全、居住、産業の4分野について、質的転換を図る。
      • (3)  安全・安心、ゆとりの暮らしを創る2つのプロジェクト
        • ① 世界に先駆け、高齢者が安全で安心して暮らせる国土づくりを実現する。中心市街地の再開発・商業集積の活性化、電線共同溝等の整備、生活支援型産業の育成・振興、街灯の機能改善、街区公園の高度利用、交通機関・公共空間におけるバリアフリー化、テレワーク(在宅勤務等)の推進、安全で安心な保健介護施設の配置、子育て支援施設の整備など、少子高齢化社会に向けて、全ての人々が安全で安心な暮らしの場を形成する。
        • ② 地方文化施設のネットワーク化と交通ネットワーク、全年齢層を対象とした観光とイベントを振興する。また、廃棄物処理の技術と体制を発展させるとともに、ダイオキシン対応施設整備等を進め、循環型経済システムの完成を図る。
      • (4)  高度技術と流動性のある安定雇用社会の構築のための4つのプロジェクト
        • ① バイオテクノロジーなど、高度未来技術の開発・研究、人材・組織形成、研究施設整備、情報収集を積極的に推進する。
        • ② ベンチャーの事業化のために公的技術開発費の集中投下制度を創設する。
        • ③ 新規起業者育成のための資金調達面を始めとする支援を行う。
        • ④ 新技術、新種起業、産業転換に対応した「流動性のある安定雇用社会」への転換を進める勤労者教育訓練を推進する。
    2. 生活空間活性化策
      • (1)  生活空間倍増戦略プランの策定
            国民が、多様化した価値観をそれぞれに活かして、ゆとりとうるおいのある行動ができるよう生活空間の倍増に向けた戦略的なプラン(生活空間倍増戦略プラン)を明年1月中を目途に策定し、向こう5年間を視野において、明日への投資を積極的に推進することとする。
            このプランの推進に当たっては、都市の住空間、遊空間・田園空間・健康空間、教育・文化空間、高齢者にやさしい空間、安全で環境にやさしい空間、交通・交流空間の拡大など民間投資の誘発や投資の拡大といった経済効果の高い施策に特に配慮し、重点的な予算配分を行う。
            また、都市と地方の各地域自らがテーマを選んで、活力とゆとり・うるおいのある生活空間を創造するための総合的な地域戦略プランを策定することが重要である。その際、地域の数としては、400ヵ所程度、1地域当たりの事業規模は平均して約100億円との想定の下、総額は5年間4兆円程度とするものとする。これに対して、国としても、国土庁を総合的窓口として、関係省庁が一体となった推進体制の下、重点的な予算配分を行うとともに、事業の円滑な推進を図るための予算措置のほか、プランの策定経費について地方財政措置を講ずる等、最大限の支援を行う。
      • (2)  土地・債権流動化
            金融機関等が保有する不良債権等の実質的な処理を早急に進めるため、整理回収機構や債権管理回収業法などの新しい不良債権処理の市場環境の基盤も活用するとともに、公的機関等の活用を図りつつ都市再開発を促進することにより土地の有効利用を推進し、土地・債権の流動化を進める。
      • (3)  住宅投資の促進
            低水準が続いている住宅投資の現状に鑑み、経済波及効果の大きい住宅投資に関して、住宅市場の活性化と良質な住宅ストック形成の支援を図る。
            住宅金融公庫等の融資について、貸付金利の大幅な引き下げ、基準金利等の適用される融資額の大幅拡充、既存ストックの有効活用、流通の促進、住宅ローン返済困難者対策等を着実に実施することにより、事業規模1.2兆円程度を追加する。また、公共賃貸住宅等のリフォーム、建替えの積極的推進、21世紀にふさわしい広くて良質な住宅の整備促進、優良な木造住宅の建設、住宅・都市整備公団等による定期借地権付住宅の供給促進、定期借家権の導入促進、良好な居住環境の整備推進等を図る。
    3. 産業再生・雇用対策
      • (1)  産業再生計画の策定(中小企業関連施策を含む)
        「経済構造改革」に一層強力に取り組んでいくため、新事業の創出による良質な雇用の確保と生産性向上のための投資拡大に重点を置いて、「産業再生計画」を明年1月中を目途に策定し、我が国産業の再生に全力を傾注する。
            計画の内容としては、
        • ① 資金調達面、ハード面、ソフト面での支援等による新規開業及びその成長支援
        • ② 既存企業を核とした産業活性化・企業内起業支援
        • ③ 新規・成長15分野における技術開発・普及等
        • ④ 雇用の安定及びミスマッチ解消に向けた人材移動の円滑化
          などを推進する。さらに、知的資産の倍増に向けて、
        • ⑤ 国際研究交流施設等も含めた公的研究施設・設備の整備、知的基盤整備等創造的技術開発・普及に向けた投資
        • ⑥ 経済・社会の情報化や次世代の情報通信基盤の整備に向けた投資
        • ⑦ 物流システムの高度化に向けた投資
        などを推進する。
            さらに、これらの措置とあわせ、対日投資の円滑化のための施策の実施を図る。
            また、活力ある中小企業の成長は経済構造改革の推進力の源泉であるため、中小企業対策として、研究開発費補助金等のベンチャー等中小企業への重点的投下等による中小企業の技術の事業化促進を図るとともに、地域の活力向上のため中心市街地の商業等の活性化支援及び地方の製造・物流拠点の強化を促進する。
            さらに、対応の遅れが懸念される中小企業のコンピュータ2000年問題対策として、相談事業の充実、システムエンジニアの派遣等の支援を行う。
            なお、施策の推進にあたっては、重点的な予算配分を行うとともに、規制緩和や公的な支援措置の充実に努めることとする。
      • (2)  雇用対策
            早急な雇用の創出及びその安定を目指し、中小企業における雇用創出、環境整備のための支援事業の創設、失業給付期間の訓練中の延長措置の拡充、「緊急雇用開発プログラム」の実施期間延長、中高年労働者の失業なき労働移動・再就職支援対策の拡充、民間教育訓練機関の活用も含めたホワイトカラー離転職者向け訓練の拡大など職業能力開発対策の拡充等を内容とする「雇用活性化総合プラン」を実施するとともに、産業再生計画に沿った新規開業及びその成長支援等による新規雇用の創出を行う。特に、雇用情勢に臨機に対応して、中高年の非自発的失業者に必要な雇用機会を提供できるよう「緊急雇用創出特別基金(仮称)」を創設する。
            以上により、事業規模1兆円程度の施策を実施する。
            また、労働者派遣法の改正、職業安定法の見直し等を通じて労働力需給調整機能を強化し、労働移動の円滑化を図る。さらに、労働移動に対応したポータビリティの確保を含め、確定拠出型年金について、公的年金制度改正に向けての全体的な検討作業とともに、その導入を検討する。
    4. 社会資本の重点的な整備
          緊急の内需の拡大を図るため、以下のような方針の下で、事業規模8.1兆円程度(公共事業5.7兆円程度、施設費等1.8兆円程度、災害復旧0.6兆円程度)の21世紀を展望した社会資本の整備を進める。
      • (1)  社会資本整備に当たっては、① 景気回復に即効性のあること、② 民間投資の誘発効果が大きく、地域の雇用の安定的確保に資すること、③ 従来の発想にとらわれることなく21世紀を見据えて真に必要な分野に重点化することを基本原則とする。
      • (2)  具体的には、21世紀に向けて省庁横断的に実施する「21世紀先導プロジェクト」、「生活空間倍増戦略プラン」及び「産業再生計画」も踏まえ、
        • ① 情報通信・科学技術
        • ② 環境
        • ③ 福祉・医療・教育
        • ④ 物流効率化・産業競争力強化
        • ⑤ 農山漁村等地域活性化
        • ⑥ 民間投資誘発等都市再生
        • ⑦ 防災
        に重点的な投資を行い、21世紀を展望した社会資本の緊急整備を行う。
            また、災害復旧対策についても適切に対応する。
      • (3)  北海道など特に厳しい経済状況にある地域や不況業種の実情に十分配慮し、地域経済の活性化にも資する即効性の高い社会資本整備の重点的な傾斜配分を行う。
      • (4)  社会資本整備の執行に当たっては、早期の景気回復を図る観点から、国・地方の協力の下に、施行の促進に全力を尽くす。なお、高速道路について早期施行命令を行うとともに、4車線化を進める。また、民間資金を活用する観点から、PFI(民間の技術力、経営力及び資金力を活用した新たな手法による社会資本整備)を推進するため、所要の措置を講ずる。
    5. 恒久的な減税等
      • (1)  個人所得課税について、平成11年から最高税率の50%への引下げ等による4兆円規模の恒久的な減税を行うとともに、法人課税について、平成11年度から実効税率の40%程度への引下げを行うこととし、その具体的内容について結論を得る。
            その際、地方財政の円滑な運営には十分配慮する。
      • (2)  現下の厳しい経済情勢に対応するため、景気回復に資するよう、住宅建設・民間設備投資等真に有効かつ適切な政策税制について精力的に検討し、早急に具体案を得る。
      • (3)  個人消費の喚起と地域経済の活性化を図るため、一定年齢以下の児童を持つ家庭及び老齢福祉年金等の受給者等に、事業規模0.7兆円程度の「地域振興券」を交付する。
    6. 財政構造改革法の凍結
          財政構造改革を推進するという基本的考え方は守りつつ、まずは景気回復に向けて全力を尽くすため、財政構造改革法を凍結することとし、所要の法案を次の国会に提出する。
  • 世界経済リスクへの対応
        世界経済、中でも、我が国と密接な相互依存関係にあるアジア経済の安定にとって、我が国経済の再生が、極めて重要であるとの認識、また、世界経済リスクへの対応に際しての我が国の役割の大きさを踏まえ、上記対策を緊急に実施するとともに、以下の事業規模1兆円程度のアジア支援策等を実施する。
    1. アジア諸国の通貨危機等への対応
          通貨危機に見舞われて経済的困難に直面しているアジア諸国等の実体経済回復の努力を支援するため、先進諸国等との協調を図るとともに、財政投融資等を適切に活用し日本輸出入銀行の融資や円借款の供与等を行うほか、アジア通貨危機支援資金(仮称)を設立し利子補給及び保証等を行い、また、国際開発金融機関の保証機能の積極的な活用を促すことにより、これら諸国の資金調達を支援し、国際金融資本市場の安定化を図る。更に、無償資金協力等の活用により、これら諸国の経済・社会基盤の整備、社会的弱者救済等の諸問題への対処を図る。
    2. アジアの現地日系企業等に対する支援
          アジア経済で重要な役割を果たす現地日系企業が現下の経済危機を克服できるよう、本年12月1日から中小企業金融公庫・国民金融公庫による本邦親企業経由の現地子会社向け融資制度を創設するとともに、商工組合中央金庫においても、これに準じた措置を講じる。また、我が国企業の事業参加機会の拡大を図るため、日本輸出入銀行、海外経済協力基金、貿易保険、無償資金協力等のアジア諸国やアジアの現地日系企業等に対する資金支援の活用・充実や情報提供等を行うとともに、円借款に関し、関係省庁においてアジア諸国等の経済構造改革を進めるための特別の円借款の創設について早急に検討する。併せて、中核人材の大規模な研修や国内産業人材活用による専門家派遣を通じて、現地の社会・産業基盤の維持・強化を支援する。