総合経済対策の要旨
平成10年4月24日
1. 総合的な経済対策によって21世紀の展望をひらく
- 現下の厳しい経済状況から早期に脱却して、我が国経済を力強い回復軌道に乗せるとともに、21世紀の活力ある我が国経済社会を実現するためには、次の3つの課題を同時に進める必要がある。
- (1)社会資本整備や減税による思い切った内需拡大策を実施する。
- (2)経済構造改革を強力に推進する。上記の内需拡大策は、短期的な需要喚起と同時に、民間活力を発揮させるよう規制緩和を進めつつ、21世紀を見据えて真に必要とされる社会資本を整備するなど、中長期的に我が国経済の体質を改善・強化する経済構造改革の方向と整合的なものとする。
- (3)景気回復の阻害要因となっている不良債権処理を促進する。
財政構造改革法については、財政構造改革会議決定に沿って所要の改正を行う。
2. 対策の内容
- (1)21世紀を見据えた社会資本整備等
21世紀を見据え、豊かで活力のある経済社会の構築に向けて、真に必要となる社会資本を整備することとし、国・地方あわせて総額7兆7,000億円程度の事業を実施する。- 1) 国を中心とした社会資本整備等
- 環境への負荷の少ない経済社会の実現を目指し、環境・新エネルギー特別対策事業として1兆6,000億円程度の事業を実施する。
- 我が国将来の発展基盤となる情報通信の高度化や科学技術の振興を図るとの観点から、情報通信高度化・科学技術振興特別対策事業として1兆円程度の事業を実施する。
- 少子・高齢化の急速な進展等を踏まえ、福祉・医療・教育特別対策事業として1兆円程度の事業を実施する。
- 多様な物流サービスの効率的な提供に向けて、物流効率化特別対策事業として8,000億円程度の事業を実施する。
- 災害から国土を保全し、国民の生命、身体及び財産を保護するため、緊急防災特別対策事業として8,000億円程度の事業を実施する。
- 公共投資の経済効果を最大限高める観点から、中心市街地活性化等民間投資誘発特別対策事業として8,000億円程度の事業を実施する。
- 災害復旧事業については、速やかな事業実施を図ることとし、2,000億円程度の事業を実施する。
- 2) 地方単独事業の推進
- 地方単独事業についても、地域の実情に則して、社会資本等の整備が図られるよう、地方公共団体に対して、1兆5,000億円程度の事業費の追加を要請する。
- 3) 公共事業等の施行促進
- 公共事業等の執行に当たっては、上半期契約率81%以上と過去最高の施行促進を図る。
- 4) PFIの推進
- 民間の技術力、経営力及び資金力を活用した新たな手法による社会資本整備(PFI)を強力に推進する。
- 5) 住宅投資の促進
- 住宅金融公庫の融資条件の改善等により住宅投資の促進を図る。
- 6) 北海道経済に関する措置
- 北海道地域経済の活性化のため、公共事業の重点配分等を行う。
- 1) 国を中心とした社会資本整備等
- (2)特別減税等による経済活性化
- 所得税・個人住民税について、特別減税の追加・継続(合計4兆円)を行う。
- 投資、住宅について税制上、政策的な配慮を行う。
- 1) 特別減税の追加・継続
- 所得税・個人住民税について、本年すでに2兆円の特別減税を実施しており、さらに2兆円の定額による特別減税を追加実施する。これによる減税額は、納税者本人は2.9万円、扶養親族一人当たり1.45万円となる。所得税については、給与所得者の場合、平成10年8月1日以後実施される。
また、来年も2兆円の特別減税を行う。減税方法等については今後検討する。
- 所得税・個人住民税について、本年すでに2兆円の特別減税を実施しており、さらに2兆円の定額による特別減税を追加実施する。これによる減税額は、納税者本人は2.9万円、扶養親族一人当たり1.45万円となる。所得税については、給与所得者の場合、平成10年8月1日以後実施される。
- 2) 政策減税
- 投資、住宅について税制上、政策的な配慮を行う。
- 3) 法人課税
- 法人課税については、今後3年のうちにできるだけ早く、国・地方を合わせた総合的な税率を国際的な水準並みにするよう、検討を行う。
- 4) 所得課税
- 個人所得課税については、公正・透明で国民の意欲が引き出せるような税制を目指し、幅広い観点から検討を行う。
- 1) 特別減税の追加・継続
- (3)経済構造改革の推進
- 我が国の資本、人材、技術等の優れた資源が最適に活用され、時代のニーズに円滑に対応できる柔軟で創造的な経済構造を構築する必要がある。
- 民間部門がその活力を最大限に発揮できるようにするとともに、弱者の保護にも配慮しつつ自己責任の原則を貫徹する条件を整えるなど、我が国経済の発展基盤を整備する。
- そのため、先般取りまとめられた規制緩和推進3か年計画に基づき規制緩和を強力に推進するとともに、以下の施策を実施する。
- 1) ベンチャー企業育成
創造力や独創性に富む個人や企業が、新規技術・事業に積極果敢に挑戦できるような環境整備に努め、ベンチャー企業の育成を図る。- ベンチャー企業に対する債務保証を強化する。
- 2) 中小企業対策等
中小企業等を支援していくことは、構造改革を強力に進めていく上でも重要である。このため、中小企業に対する必要な資金供給が妨げられることがないよう、財政投融資の活用による中小企業への融資の拡充等、中小企業支援策等を講ずる。- 中小企業金融の融資対象拡大のため、卸売業・小売・サービス業の定義を改定する。
- 政府系金融機関に対する追加出資等を行う。
- 情報機器の配備等の中小企業の情報化を促進する。
- 3) 雇用対策
- 「緊急雇用開発プログラム」を実施する(雇用調整助成金500億円程度の増額等)。
- 労働者派遣事業について、中央職業安定審議会の結論を得て、ネガティブリスト化、派遣期間、労働者保護のための措置等を中心に見直しを行う。
- 4) 資金供給システムの変革
最近の資産デフレによる担保価値の下落等により、金融機関の資金供給機能が十分に発揮されていない現状に鑑みても、新規企業や新規事業に多様な資金供給チャンネルを通じて資金が流れるようにする。また、投資顧問業者等の専門家の能力の活用等、資産運用の一層の効率化が図れるようにする。- 投資顧問業、証券投資信託委託業に係る規制を緩和する。
- 郵便貯金資金事業の健全な経営確保を図るとともに、郵便貯金資金の市場への適切な還元を図るため、郵便貯金の自主運用資金である金融自由化対策資金を増額する(4兆円)。
- 1) ベンチャー企業育成
- (4)土地・債権の流動化と土地の有効利用
- 債権債務関係の迅速・円滑な処理、土地の整形・集約化と都市再開発の促進、都市再構築のための土地需要の創出に係る思い切った措置を総合的に講ずることにより、土地取引を活性化し、不良債権問題を抜本的に解決する。
- その際、土地は資源であるという発想に立ち、土地の有効活用やスペースの増大を図り、ゆとりある生活環境や経済活動空間の実現を併せて目指す必要がある。
- 1) 債権債務関係の迅速・円滑な処理
- 不動産担保付不良債権等に係る債権債務関係等を整理する臨時不動産関係権利調整委員会(仮称)の整備に向け、必要となる法案を次期国会に提出すべく検討を行う。また、当該委員会のあっせん等によって当事者間の合意が得られた債務者の合理的な再建計画が策定される場合の税制上の措置を検討する。
- 不動産投資情報のディスクロージャーの拡充、郵貯・簡保資金による資産担保証券への運用の検討等など資産担保証券の市場整備を図る。
- 2) 土地の整形・集約化と都市再開発の促進
- 住宅・都市整備公団において土地有効利用事業推進本部(仮称)の設置、土地取得のための臨時の出資金・財政投融資の適切な活用等を通じて新たな仕組みを整備する。また、民間都市開発推進機構において、土地取得業務の拡大、都市開発プロモート体制の整備等を行う。
- 3) 都市再構築のための新たな土地需要の創出
- 防災対策、高齢者福祉、中心市街地活性化等、都市の再構築のため必要となる公的土地需要への積極的な対応、民間需要不足への補完のための諸施策を広範に講じる。
- (5)アジア支援策
- 通貨・金融の混乱により経済的困難に直面しているアジア諸国の経済安定化や構造改革支援のため、IMF等の国際金融機関やG7諸国等と協調しつつ、以下の措置を講ずる。
- 財政投融資を適切に活用し、日本輸出入銀行のツーステップローン、投資金融等により、貿易金融の円滑化等を支援する。
- 足の速い円借款について緊急特利制度を設ける等により、経済構造改革を支援する。
- 研修員受け入れ・専門家派遣等、人材育成の支援を強化する。
- 食糧・医療品等生活必需品確保のための支援を行う(インドネシアに対する政府米貸し付け50万トン、供与10万トン程度)。
- 通貨・金融の混乱により経済的困難に直面しているアジア諸国の経済安定化や構造改革支援のため、IMF等の国際金融機関やG7諸国等と協調しつつ、以下の措置を講ずる。
3. 対策の点検・推進
- 対策の決定事項を着実かつ迅速に実施することで、我が国経済の早期回復と活性化を図る。このため、経済対策の主な施策分野について、内閣官房長官主宰による関係省庁の会議を機動的に開催し、実施状況の点検を行い、必要な措置について討議・推進していく。