第10回事務方説明要旨:令和7年 会議結果

事務方説明要旨

1.堤内閣府政策統括官(経済財政運営担当)による説明

 第10回経済財政諮問会議の概要を報告いたします。
 本日の議題は5つです。まず、議題1「マクロ経済運営(金融政策、物価等に関する集中審議)」について、植田日本銀行総裁から資料1のご説明をいただきました。次に、議題2「内閣府年央試算」について、私から資料2-1に沿って説明した後、議題3「中長期の経済財政に関する試算」について、阿久澤統括官から資料3-1に沿って説明し、その次に、中空議員から資料5に基づいて、2つの内閣府試算を踏まえた民間議員からのご提案をご説明いただきました。続いて、議題5「令和8年度予算の概算要求基準」について、財務大臣から資料7に沿ってご説明いただいた後、議題1から5をまとめて意見交換を行いました。
 会議の最後では、本日の議論を踏まえて、「令和8年度予算の全体像」を諮問会議として取りまとめるとともに、「令和8年度予算の概算要求基準」を了承いたしました。
 主なご意見をご紹介いたします。
 1人目の民間議員です。
 コアCPIはインフレ目標である2%、39か月連続でG7諸国の中で最も高い物価上昇率を示している。先の参議院選挙でも物価高対策が大きな争点の一つになったが、ガソリン暫定税率を今年度中のできるだけ早い時期に廃止するということで合意した。一方で、7月の金融政策決定会合において、日銀は足元の展望レポートで食料品価格の上昇を中心とする足元のインフレ率3%超えについて、物価高は一時的な影響にとどまるであろうということで、政策金利の維持を決定した。インフレが既に長きにわたり国民の生活に明らかに影響を与えている。物価高への対応が急務であることは明らかで、内閣府のデータによれば、8割を超える世帯が今後2%を超えて物価が上昇していくと考えている。国民のインフレ期待が相当進んでいる。
 物価高の対応として財政か金融か、もしくはその組み合わせなのかということであるが、ここで改めて議論すべきは、現在のマクロ経済情勢の中で、財政、金融どちらの政策に優位性があるかということ。内閣府の調査から明らかなように、インフレ期待が進む日本経済は、即効性の観点、抜本的な対策として金融政策のほうが優位ではないか。
 2%のインフレ目標、今までは2%に届くか届かないかということを随分議論したが、2%を超えている。この状況を考えると、一時的な供給制約によるインフレとは言い難く、金融政策が後手に回っているのではないかと危惧している。一方で、直近の長期金利を見ると、この上昇は市場のシグナルと捉えるべきで、代替財源なしに規律なく財政出動に頼り続ければ、トラス・ショックのようなことが起こりかねない。つまり、円の急落。その結果として輸入物価が上昇し、さらなる物価高を起こすリスクも十分配慮しなくてはならない。そういった意味で、財政のみならず、金融政策をしていく必要があると考える。
 現状、米国での物価上昇は2.7%、政策金利が4.25~4.5%。日本では物価上昇率が3.3%、政策金利が0.5%にとどまっている。日本の実質金利は著しく低く、これはコロナ禍以降、世界がインフレという共通の課題に対応する中で日本は財政政策に過度に依存してきたということを示していると思う。
 この30年間、日本のマクロ経済は実質金利がマイナスという環境下で、財政政策を中心に運営されてきた。その結果として、一時的に生産性が上がっている部分があるが、OECD諸国と比較するといまだ低い状況である。デフレ経済からインフレ経済へと変換する中で、我々が生産性を高めるため、人手不足の中で金利を引き上げることは徐々に経済の新陳代謝も高め、財政に頼らない民間主導の経済に導いていく必要がある。
 そういった意味で、国内の投資をしっかりしていくことは今まで議論してきたとおりであるが、これをしっかりと実現していくことが必要。日本経済にとって重要なことは、生産性の上昇を実質賃金の引上げに恒常的につなげていくことであり、経済界としても賃上げに真摯に向き合っている。米国関税の逆風の中でも、賃上げ原資をどう担保するか非常に悩みながらも、それぞれやろうとしている。あるサーベイにおいても、6割の企業が来年も賃上げする方向で検討している。
 こうした中で、実質賃金を上げるためにも金利を引き上げ、物価を鎮静化させることが目下必要ではないか。財政に頼らない民間主導の成長型経済の実現という共通の目標に向かって経営者たちも努力するが、やるべきステークホルダーがちゃんとした役割を果たしていくことを期待する。
 2人目の民間議員です。
 中長期試算が出るたびに忸怩たる思いを感じる。それは試算の中で出てくる成長移行ケースを実現しなくてはならないが、これまで実現できていないのが現実であるから。この点では、全力を挙げて成長移行ケースに乗せるのが大きなポイント。そのためには成長のための投資をしっかりやっていくことは欠かせない。先端技術への投資、そして、これまでも指摘のあったGX投資も大事だが、具体性が見えないので、具体化して成長に結びつける必要がある。
 中小企業が賃上げに耐えられる体力をつけるためには省人化のための投資が必要。一時的にコストはかかるが、中長期的には生産性を上げて、潜在成長率を高める。人的資本投資も重要で、人々の能力開発を行い、生産性を高めることが必要。実質賃金を引き上げて成長へとつなげるのが大きなメッセージ。実質賃金を持続的に上げるためには労働生産性の持続的な引上げが欠かせない。そのためには人的資本投資、省人化投資をしっかりやることが望まれる。
 ただ、物価上昇率が高まると実質賃金は下がってしまう。名目賃金上昇率が3%、インフレ率が2%であれば、1%の実質賃金上昇率が見込める。2%の物価上昇率を目標とすることは、実質賃金を上げて、インフレを抑えるために重要。
 日銀や内閣府は、物価上昇率はやがて落ち着いてきて、2%を下回るという予測をしており、この予測は尊重する。しかし、高いインフレ率は実質賃金を下げ、国民への影響も出る。かつては政策によって2%を何とか実現するのが目標であったが、今は2%に落ち着かせるための政策運営が求められる。その上で、物価対策を何のために、いかにしてやるかということは考えるべきところ。物価を安定的に持続できるのであれば、これは政府が目標としてきたところであるので、そのための物価対策はどこまで必要なのかは考える必要がある。ただ、同じような物価高に直面しても、それぞれの置かれている状況により、困る方、何ともない方など影響に差が出るので、きめの細かい物価対策が求められる。
 いずれにせよ、成長率を上げて物価を安定させ、そして財政の安定を目指すのが大きな目標として必要。財政の健全化をしっかり確保しなくてはならない。ワイズスペンディングや必要な歳出削減が何よりも重要。なかなか進んでこなかった全世代型社会保障改革も必要。実質金利がある程度上がっていっても、財政の健全化を確保できるように財政の信認が失われないように財政運営と成長を政府全体で目指すことが大事。
 3人目の民間議員です。
 内閣府の2つの試算を踏まえて中長期の視点から3点ポイントを申し上げる。
 第1に、持続的な経済成長の確保。今回の中長期試算の結果からも、この持続可能な経済財政を維持するためには足元0%台半ばの潜在成長力を引き上げて、実質1%を上回る成長を実現することが不可欠。価値と質に重点を置いた高付加価値創出型経済への移行が重要。政府には全体最適の視点と分野横断的な政策連携によって産業競争力の強化、多様な人材の活躍をはじめ、骨太に掲げた施策の速やかな実施を期待する。
 第2に、米国関税措置を踏まえた戦略的な対外対応の展開。まず、米国関税措置への対応が単なるコストカットに陥らないよう対策を講じるとともに、この日米合意の9分野における対米投資の促進を真に実効あらしめるためにも、日米間のコミュニケーションはもちろん、我が国の中における官民間のコミュニケーションを緊密に取ることが不可欠。
 また、我が国としては、この経済連携のルールづくりでリーダーシップを発揮していくことで自由で開かれた貿易投資体制を維持・強化すべき。それは今回の米国の措置に限らず、世界経済の不確実性が急速に高まっており、自由で開かれた貿易投資体制の危機というものが、資源を持たない我が国経済社会の基盤を揺るがしかねないからである。具体的には、CPTPPについて、EUとの連携、高水準のルールを満たすことのできる国や地域の加入拡大を進めるべき。また、RCEP協定の深化、日中韓FTAの締結、グローバルサウスとのEPA、FTAの締結促進といったことに力を尽くすべき。
 第3に、税・財政・社会保障の一体的な改革議論に向けた機運の醸成。今回の中長期試算では、来年度のプライマリーバランス黒字化など、財政健全化目標の達成に向けた着実な進展を確認した。
 ただし、内閣府が昨年4月に公表した長期推計でも明らかなように、医療・介護の給付は経済成長を上回る伸びだと見込まれている。給付と負担両面の改革継続が不可欠。現下の政治情勢で今後改革を進めるに当たっては、この給付と負担の将来像を見える化し、党派を超えた共通認識を得て、そして建設的な議論につなげることが重要。この点で、2018年5月に政府が公表した社会保障の将来見通しの改訂版を早急に提示していただきたい。その上に立って国民会議的な議論の場が設けられるということを期待する。
 4人目の民間議員です。
 1点目に、排外・排他主義が顕著になってきている風潮を危惧している。ここで今、日本の価値向上を果たさなければならない。いかに実質GDP成長率を引き上げていくかが重要。成長の源泉となる部分が具体性を欠いていることが問題であり、半導体、AI、GXといった分野について実際に各分野でどれぐらい成長を果たしていくのかを考えていく必要がある。
 2点目に、金利上昇も含め価格正常化が重要。私たちは脱デフレを目指してきたところなのに、実際に物価が上昇するとそれが問題視されてしまう。エネルギー価格や米価を下げる方向に働いたり、ましてや消費税減税につながることは望ましくない。価格の正常化を行い、賃金も本格的に上げていく必要がある。
 民間議員ペーパーの中で最低賃金を上げることもお示ししたが、働き方に見合った報酬をつけ、労働市場が強化されることが本当に大事だと思う。
 3点目に、応能負担の徹底とそのための仕組みづくりが重要。ガバメント・データ・ハブのようなものをつくることが大事。誰が本当に困っているのか、困っている人に本当の支援の手が伸びているのかを知るためにはデータの整備が必要。マイナンバーがかなりの割合で浸透してきているので、これを活用してデータ整備をし、正しい応能負担を設定することを求めたい。
 4点目に、日本を含め世界中で歳出膨張の機運が非常に高まっている。諸外国の中でも、財政を使う余力があることの重要性をドイツが証明していると思うので、財政健全化に向けた機運を高めていくことが重要と思う。
 続いて、閣僚の発言です。
 加藤財務大臣です。
 今回の中長期試算では、2025年度のプライマリーバランスが決算等を踏まえて、前回の本年1月試算から改善し、2026年度についてはPBが黒字化となるという姿が引き続き示された。これらの結果は今後の経済状況によって変化し、また、追加的な対応などによる影響も受ける。政府としては、引き続き2025年度から2026年度を通じた可能な限り早期のPB黒字化の実現に向けて、力強く経済再生を進める中で、財政健全化も実現し、経済再生と財政健全化の両立を図っていく。
 武藤経済産業大臣です。
 本日示された中長期試算においては、2026年度にプライマリーバランスが黒字化する姿が示された。昨年度の税収は5年連続で過去最高を更新し、法人税収も高水準となった。財政健全化に向けて力強い経済成長は不可欠であり、こうした税収の増加は「経済あっての財政」の考え方を裏づけるものであると認識している。
 経済成長を牽引するものは投資と賃上げであり、投資と賃上げの牽引する成長型経済への移行に向けた動きを止めることがあってはならない。引き続き国内投資や研究開発投資の加速、中堅・中小企業の生産性向上支援などに全力を挙げて取り組んでいく。
 米国の関税措置に伴う不確実性を懸念する声もあるが、関税の影響をきめ細かく目配りしながら、追加的な対応が必要であれば躊躇なく行っていく。
 最後に総理から締めくくりのご発言がありましたが、皆様にお聞きいただいたとおりですので、割愛いたします。