第2回記者会見要旨:令和7年 会議結果

赤澤内閣府特命担当大臣記者会見要旨

  • 日時:令和7年3月10日(月)18:17~19:02
  • 場所:中央合同庁舎第8号館1階S108会見室

1.発言要旨

 経済財政諮問会議の概要についてご報告を申し上げます。本日の議題は二つございまして、「マクロ経済運営」では、日本銀行の植田和男総裁から、経済・物価見通しや金融政策の考え方について、そして、第2回の「賃金向上に関する特別セッション」では、有識者から物価と賃金の関係などについてそれぞれご説明をいただいた後に議論を行いました。
 「特別セッション」には、東京大学大学院教授の渡辺努先生、株式会社IGPIグループの冨山和彦会長、法政大学経営大学院教授の山田久先生の3名の有識者にご参加いただきました。
 「マクロ経済運営」の議論では、「食料品の価格高騰等による物価高が消費を下押しするリスクや、金利が今後急激に上昇した場合に、企業・家計の投資マインドを悪化させるリスクに十分注意すべき」、「金利上昇局面にあって、財政への信認を維持するため、来年度予算修正案に関わる安定的な財源確保に取り組むとともに、今後の財政健全化に向けた道筋を提示すべき」などのご意見がありました。
 「賃金向上セッション」の議論では、「日本の物価と賃金は、長期間動きが乏しい状態であったが、消費者のインフレ予想の上昇や人手不足を背景にした賃上げなどにより、この3年間で物価と賃金が共に上がる好循環が動き始めていること」、「この好循環を定着させるため、今年の春季労使交渉が重要であり、また、政府が最低賃金の引上げの先行きについて予見可能性を高めることは、賃上げ全体の後押しとなること」、「物価・賃金・金利の『価格メカニズム』が働くようになれば、市場での効率的な資源配分が進み、生産性向上にもつながること」、「人手不足が深刻な職種に手厚く配分する、メリハリある賃上げが期待されるが、合わせてリスキリングや労働移動の円滑化を支援する取組を進めることによって、賃上げと雇用増が同時に進む経済を構築すべきであること」などのご意見がありました。
 石破総理からは、「政府備蓄米の活用など、物価高に対応するための施策を迅速かつ効果的に実施し、国民生活・事業活動を守り抜くこと」、「『賃上げこそ成長戦略の要』との考え方のもと、賃上げモメンタムを定着させ、国内投資を拡大することによってデフレマインドを払拭し、国民の所得と経済全体の生産性向上を図っていくこと」、「本年の春季労使交渉については、ベースアップを念頭に、33年ぶりの高水準となった昨年の勢いで、大幅な賃上げへの協力を労使の皆様にお願いすること、そして、最低賃金については、その引上げに向けた対応策を取りまとめること」などについてご発言がありました。
 経済財政諮問会議の詳細については、後ほど事務方から説明させていただきます。

2.質疑応答

(問)先ほどの経済財政諮問会議の内容を踏まえてお伺いします。明後日、3月12日に春闘の集中回答日を迎えますけれども、現在の賃上げの機運をどのように評価されているか、また、集中回答日に当たっての期待、それに加えまして、本日のセッションを踏まえまして、最低賃金引上げを含めて、今後政府としてどのように取り組むか、お考えをお願いします。


(答)政府としては、労使に対して、本年の春季労使交渉において、ベースアップを念頭に、33年ぶりの高水準となった昨年の勢いで、大幅な賃上げへのご協力をお願いしているところであります。こうした中で、集中回答日に先行して、春季労使交渉を満額で妥結する事例が出るなど、賃上げに向けた機運が高まっており、3月12日の集中回答日においても、大幅な賃上げに向けてよい結果が出ることを期待しております。
 本日、3月10日ですが、経済財政諮問会議の「特別セッション」では、有識者である東京大学の渡辺努教授から、動き始めた賃金と物価の好循環を定着させるため、この先、政府として最低賃金の引上げに向けた予見可能性を高めることの重要性などについてご発言がございました。また、民間議員から、政府の「2020年代に最低賃金全国平均1,500円」という目標について、到達までの道筋と政策対応を明確化し、丁寧な議論を行うべきとのご提言もいただいております。
 最低賃金を引き上げていくための対応策については、昨年、2024年11月26日の政労使の意見交換における総理指示を踏まえ、適切な価格転嫁の推進や、生産性向上に向けて省力化・デジタル化投資の促進、人材・経営基盤を強化する事業承継やM&Aなどの後押し策などについて更に具体化し、5月を目途に取りまとめることとしております。



(問)大手についてはある程度、春闘へのめどがついてきた部分もあるのですけれども、今後、中小への広がりが今年は要かと思います。その中で本日の有識者会議の中では、ペーパーとして、夏以降だと思いますが、「最低賃金の引上げについて目標到達までの道筋と生産性向上を含めた政策対応を明確化し、丁寧に議論を行い」ということを唱えており、政権の看板の一つで最低賃金1,500円の目標のことについてかと思うのですが、このあたりの有識者のご提言に対してはどのようにお考えでしょうか。


(答)本日、経済財政諮問会議の「特別セッション」で有識者である東京大学の渡辺努先生から、動き始めた賃金と物価の好循環を定着させるために、この先、政府として最低賃金の引上げに向けた予見可能性を高めることなどの重要性についてご発言があったのはご指摘のとおりです。また、民間議員からは、「到達までの道筋と政策対応を明確化し、丁寧な議論を行え」というお話でありました。
 石破政権においては、最低賃金について今日よりも明日はよくなると一人一人の国民の皆さんに実感していただけるように、岸田政権の取組を加速し、「2030年代半ばに1,500円」という目標を半分程度の期間である2020年代に実現するという高い目標を掲げました。私自身が、現行憲法下初の賃金向上担当大臣として、この件については決意と覚悟を持って、この高い目標に向けて取り組んでまいりたいと思っております。それをやっていくための道筋や対応策については、昨年、2024年11月26日の政労使の意見交換で石破総理から指示をいただいておりますので、適切な価格転嫁の推進や、生産性向上に向けて省力化・デジタル化投資の促進をする、人材・経営基盤を強化するため事業承継やM&Aなどの後押し策などについて今後更に具体化をして、ご指示にあるとおり、5月を目途に取りまとめていくということでお示ししていきたいと考えております。

3.木村内閣府政策統括官(経済財政運営担当)による追加説明

 令和7年第2回経済財政諮問会議です。
 今回の議題は2つです。まず、「マクロ経済運営」ですが、植田日本銀行総裁から資料1をご説明いただきました。続いて、第2回目の「賃金向上に関する特別セッション」ですが、こちらにつきましては、中空議員から資料3をご説明いただき、東京大学の渡辺努先生から資料5をご説明いただいた後、意見交換を行いました。  主なご意見をご紹介いたします。
 まず、1人目の有識者です。
 渡辺先生の古いサイクルから新しいサイクルに移動できているかというご指摘については経路依存性の問題が大きい。
 「賃金と物価の好循環」については最低賃金と公定価格が重要であって、2割ほど底上げする必要がある。最低賃金を上げると中小企業が潰れるという考え方は古い考え方である。地方では賃金が低くて人が集まらなくなっており、賃金を上げないと人手不足で地方インフラが崩壊してしまう。また、医療・介護の現場においては賃金が低いことが原因で人材不足による破綻が生じている。  2人目の有識者です。
 正常化の始まりについて社会的・経済的な構造変化も要因になっている点について補足したい。世界経済のフレームワークが変化し、安全保障なども考慮する必要が生じている中で、コスト高や為替が円安方向に振れやすくなっていること、人手不足など基調が変化してきており、コストプッシュという意味では今はインフレであると言えるのではないか。  最低賃金を上げることが重要だという指摘があったが、産業別に定められている特定最低賃金を上げることも有効。特定の地域の特定の産業の賃金を労使が同意すれば上げられるというものであって、現在の人手不足の特定地域・特定産業において率先して賃金を上げることで人手を集める効果があって、政策支援としても実施しやすいのではないか。  賃金と金融政策の連動についても重要だと考える。日銀の2%の物価上昇という目標を企業や労働組合と共有し、過年度の物価水準ではなく、中長期のあるべき物価水準を基に賃上げを実施すべき。
 スウェーデンの事例では、デフレになり始めた時期にあえて金融緩和を続けたことで、労使で賃金安定に向けた動きが生じ、デフレ脱却を実現した。また、物価上昇基調では過年度の物価で賃金を決めてしまうと賃金と物価のスパイラルでインフレが加速してしまうため、あえて中長期の物価目標を賃上げの材料とすることで調整が早く進んだということもあり、賃上げにおいて金融政策と共有していくということが大切であると考えられる。  続いて、民間議員のご意見です。
 1人目の民間議員です。
 賃金、物価、金利が正常化する状況だからこそ中長期的な方向性を示すべき。財政健全化にしっかり取り組むことが重要であって、市場から財政の信認が得られるよう「骨太方針」において細かいプランを示すべき。
 価格メカニズムが働くようになったが、物価が上がれば賃金が上がるわけではないので、どう実質賃金を上げていくかということが重要。労働不足の問題もあるが、持続的な賃金上昇には労働生産性を持続的に上昇させていくことが重要。
 一方で、労働生産性が上がっても賃金が上がってこなかったという側面もあった。
 その上で重要なポイントは4つ。1つ目は、最低賃金の引上げ。2つ目は、公的価格で決まる賃金に物価上昇を反映すること。3つ目は、雇用の流動化。4つ目は、価格転嫁の円滑化。この4つが重要である。
 また、コーポレートガバナンス側からの働きかけも重要。賃金の引上げが会社にとってもプラスという前提に立ち、会社側にも働きかけていく必要がある。
 2人目の民間議員です。
 3点のお話がありました。
 1点目として、非正規雇用の方が38%もおられることを踏まえると、最低賃金の引上げが大変重要。企業にとっては予見性があればそれに対応するという動きもあるので、最低賃金1,500円への道筋を示してほしい。
 最低賃金に堪えられない企業が倒産していく点については仕方がない側面もあると考えている。給料が高い企業に人材が移るということは正常な労働移動が行われているということでもあり、非常に重要。
 バブル崩壊以降、企業が人材に投資してこなかったことは数値的にも事実。今後は地方大学や専門学校を活用して全世代がリスキリングを行うことに投資する必要があり、その投資が適正であったかどうかということについては、EBPMの観点から結果を検証していく必要がある。
 2点目として、働き方改革の見直しが必要ではないかと考えている。振れ過ぎた振り子は戻す必要がある。残業代が出なくなったという声も聞かれる中、健康で働く意思がある方には存分に働いていただくことも必要ではないか。
 エッセンシャルワーカーの賃金については都道府県別の平均値ではなく、産業別の最低賃金を検討していく必要がある。
 3点目として、今後住宅が余ってくる。世田谷でも多くの空き家がみられる。それらを有効に活用するということも考えられる。URや住宅供給公社の機能を活用して、働く方の支出の多くを占める住宅への支出を減らし、手取りを増やすような観点から検討いただきたい。
 3人目の民間議員です。
 「賃金と物価の好循環」については、2%の物価上昇と1%の生産性向上、3%の賃金の上昇が理想。これはかつて諮問会議でも伊藤隆敏先生がおっしゃっていた。7割の働き手を雇用する中小企業の賃上げとその原資の安定的確保が必要であって、中小企業の生産性向上を支援することが肝要。また、適切な価格転嫁と販売価格を受け入れる社会的規範が重要であって、適切な価格転嫁をサプライチェーン全体で受け入れていくということが必要。
 最低賃金についてはチャレンジングな目標を掲げ、早期に引き上げていくことが大事。中小企業の賃金上昇については中小企業自身の生産性向上と適正な価格転嫁が必要。労働市場においては円滑な労働移動による企業の切磋琢磨が重要。政府には頑張る中小企業を応援する取組が求められている。
 次に、閣僚の発言です。
 加藤財務大臣です。
 物価上昇を上回る賃上げが重要。賃金が継続して引き上げられていくことが重要であるが、一方で財政健全化も重要なので、しっかりと取り組んでいく。
 渡辺先生が指摘されたインフレ予想2%程度の水準でアンカーしていくという話は、かつて政府と日銀の共同声明(アコード)に記載されているので、それにしっかり取り組んでいく。物価高が国民生活に与える状況についてはしっかりと注視していきたい。
 次に、竹内経済産業大臣政務官です。
 中小企業については、省力化投資等の生産性向上の支援の拡充や価格転嫁等をより一層推し進めていく。特に、取引適正化については、公正取引委員会と連携して検討中の下請法の改正、価格転嫁を阻害する商習慣の一掃に向けた業界団体への働きかけなど、取引階層ごとの課題に合わせて取り組んでいく。
 今後、国内投資を官民目標200兆円に向けて拡大していく。製造業の高付加価値化やエッセンシャルサービスの省力化を推し進め、産業構造を転換し、賃上げを進めていくことが求められている。この高付加価値化は貿易を通じた所得の海外流出を抑制して、交易条件を改善し、継続的な実質賃金の上昇にもつながる。
 経済産業省としても、2040年頃の産業構造の絵姿を定量的に分析し、官民連携で国内投資の拡大と持続的な賃上げの実現に取り組んでいく。
 次に、福岡厚生労働大臣です。
 厚生労働省としては、令和7年度予算案において生産性向上に資する設備投資等を支援する助成金をはじめ、労働市場全体の賃上げを支援する賃上げ支援助成金パッケージを取りまとめた。
 また、全国47都道府県において地方版政労使会議を開催することとしており、これまでに44か所において政労使のトップなどに出席いただき、賃上げに向けた機運醸成に取り組んできている。
 さらに、人手不足である現場人材についてリスキリングによる生産性向上を通じた賃上げ環境整備のため、スキル評価制度を構築し、関係業界に対し積極的な周知・活用に取り組んでいる。
 業所管省庁に評価制度の活用を働きかけており、今後とも現場人材の賃上げ環境整備に向けて支援を行っていく。加えて、厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「job tag」において職業ごとに求められるタスクやスキル、賃金等に関する情報を掲載し、労働市場の見える化を進めることで労働移動を一層促進していく。
 最低賃金については、2020年代に全国平均1,500円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続けるため、引き続き関係省庁と連携をして環境整備に取り組んでいく。
 さらに、有識者の民間議員からの質問に対するご回答です。
 経路依存性、ノルムについて、これまで居心地がよかったので経路依存性が強かった。資料5の8ページのルーズベルトの話の例が重要で、政府の取組に賛同する企業が看板を掲げた。看板を掲げるという時代でもないが、経路依存性を断つために政府としてそのような取組も含めて考えていくべきではないか。
 価格メカニズムについてしっかりと動くかどうか、アネクドータルなエビデンスでは動き出しているが、ハードデータでモニターすることが重要。データをチェックして、日々、皆が見えるようにして、それで経路依存性を絶っていくことが重要。
 最後に総理から締めくくりのご発言がありましたが、皆様にお聞きいただいたとおりですので、私からの説明は割愛いたします。







(以上)