第5回記者会見要旨:令和6年 会議結果
新藤内閣府特命担当大臣記者会見要旨
- 日時:令和6年5月10日(金)19:03~19:41
- 場所:中央合同庁舎第8号館1階S108会見室
1.発言要旨
本日の経済財政諮問会議の概要についてご報告いたします。
本日の議題は二つです。「マクロ経済運営」、そして、中長期の重点課題として、「先端技術実装と競争力強化」、この二つについて議論を行いました。
まず、「マクロ経済運営」については、私から先日4月24日、25日に開催した、中小企業経営者との「賃金と物価の好循環に向けた懇談」の結果について、概要をご報告をいたしました。
当日寄せられた価格転嫁や賃上げの現状と課題、政府への要望と意見、そこから導かれる今後の政策対応への示唆についてご説明いたしました。例えば、労務費の指針、交渉用のフォーマットがありますが、業種の特性に応じた展開や活動を促してはどうか、そういう取組の周知・奨励をぜひしてはどうかという意見がございました。
また、各業界の要望やニーズを踏まえて、省力化投資に関するカタログ方式の補助制度のさらなる対象機器の拡大、また、リスキリングの対象講座、資格の拡充、それに伴う助成条件の見直し、これについてご意見いただきました。また、約束手形の利用の廃止も含めた検討も話題に上がりました。さらには、標準労務費及び標準的運賃について、国及び地方自治体に加えて、民間同士の取引についても活用徹底をできるようにする対応が重要である旨を説明いたしました。
その後の議論では、価格転嫁について、サプライチェーン全体での取組が重要である、運輸・建設・介護等のエッセンシャルワーカーについて、人手不足への対応を強化すべき、最低賃金の引き上げに向けてしっかりと取り組むべき、などの意見がございました。
二つ目の議題、「先端技術実装と競争力強化」に関する議論では、新技術の社会実装による脱炭素や経済安全保障、生活の質向上などの社会課題の解決が、経済成長に結び付くような環境整備が重要であるというご意見、新技術の社会実装の基盤として、人的投資、研究開発投資、新陳代謝の三つの観点から取組を推進することが必要とのご意見、さらには、特に地域における社会実装の実践のため、地域の課題と新技術のマッチング機会の拡大、規制改革諸制度の連携強化による規制の見直しの加速、スタートアップ等に対する優先的な調達の実施など、一体的な支援を強化すべき、などのご意見がありました。
総理からの締めくくり発言では、骨太方針の取りまとめに向けて、総理ご自身や私が来年以降の賃上げの定着を確かなものにするために、必要な政策課題について意見交換を行う旨の発言がございました。そして、私に対しては、その準備を早急に進めるようにというご指示をいただきました。
また、私と関係閣僚に対して、新技術の社会実装を加速するために研究開発や人材投資、スタートアップによる技術開発支援などについて、骨太方針に向けた施策の具体化を進めるようにご指示がありました。
諮問会議の詳細については、後ほど事務方から説明をします。
2.質疑応答
(問)本日、諮問会議で総理より、「最近の円安の動きを十分注視する」という旨の発言がありました。総理からのこの発言の背景、また、現在の円安水準が年内いっぱいぐらい続いた場合、日本経済や個人消費にどのような影響があると考えているのか教えてください。
(答)円安が経済に与える影響にはプラス面とマイナス面の両方があると思っています。そして、足下、賃金上昇が物価上昇に追い付いていない中で、円安の進行が輸入物価の上昇を通じて家計の購買力にマイナスの影響を及ぼすことが懸念をされているわけであります。このため、政府としては最近の円安の動きを十分注視しておりまして、引き続き日銀との密接な連携を図っていきたいと考えています。
また、政府としては、個人消費に力強さを取り戻し、経済を民需主導の自律的な成長経路に乗せていくために、まずは、賃金と所得の拡大に全力を向けていきたいと考えています。
このため、春闘の賃上げの流れを中小企業や地方に拡げるとともに、来月から実施する定額減税などにより、家計所得の伸びが物価上昇を上回る状況を確実につくり出していきたいと考えています。
また、価格転嫁の動きを全国津々浦々、そして中小企業、あらゆる業種、さらにはサプライチェーンの最先端まで拡げていくために、価格転嫁対策を強化したいと考えています。同時に、GXやDXなどの投資や人手不足に対応する省力化投資を推進するとともに、リ・スキリングの強化などの三位一体の労働市場改革を推進し、生産性の向上、潜在成長率の引上げに取り組んでいきたいと考えております。
こうした取組を着実に推進することで、物価上昇を上回る持続的・構造的な賃上げを定着をさせて、「所得増と成長の好循環」の実現を図ってまいりたいと考えています。
(問)新藤大臣から提出されたヒアリングの資料の中に政策対応への示唆ということが盛り込まれておりまして、それから骨太方針の策定に向けた検討を本格化させるというお話もございましたが、今回、政策対応への示唆で含まれている中で特に力点を置かれている分野などがありましたら教えてください。
加えて、総理から政策課題について必要な意見交換を行うための準備の指示を受けられたというお話がありましたが、これは今回、新藤大臣がやられたように中小企業の経営者の方らと意見交換をされる新たな場を設けるという、そういった指示と理解してよいでしょうか。
(答)まず、中小企業の経営者の皆さまからのご意見にはさまざまな政策対応への示唆があったと承知しています。労使交渉においては、従来にない関係者の大変なご努力によりまして、かつてない高水準の数字が示されているわけであります。この結果、成果を中小企業や各業界に、そして、全国に広く浸透させていきたいと考えています。そのためには、さまざまな工夫が必要であり、また、春闘に参加していない中小企業の先端のさまざまな場でどのようなことが起きているのか、生の意見を聞くことが趣旨でございました。
その中で、例えば価格転嫁については、労務費転嫁の指針とそのときの交渉用のフォーマットを作っていますが、こういったものを積極的に活用していく、また、それをそれぞれの業種の特性に応じた活用や応用展開が可能となるような工夫を促してはどうかという意見をいただきましたし、それを奨励していきたいと考えています。
また、省力化投資も、カタログ補助金ということでカタログを準備しているのですが、まだ今はアルファ版です。次の第2弾も拡充したものを考えていますが、カタログを作るに当たって、それぞれの業種ごとにこういう機械が欲しいとか、こういう設備を入れたいという要望があれば取り入れて、国の作るカタログを見ていただきながら、皆さんが欲しいと思っていただけるように、そうした要望を受けるようにしようではないかと思っています。
リスキリングも同じで、既にたくさんの種類のリスキリング講座が用意されていますが、これも例えば業界・業種単位で、こんな講座があればとか、こういう講座をリスキリングの対象にできないかというような要望をいただいて、政府と産業界、国民の皆さまが意見交換しながら、政策の中身を充実させていこうではないかということを考えています。
それから、やはり中小企業の皆さまと話をすると、どうしても出てくるのは手形の問題です。これは、今般、期間の短縮が図られ、120日が60日になるということですが、それでも依然として手形は残るわけですし、それが電子手形になっても、結局、根本的な問題は残るわけです。こうした手形をどのように取り扱っていくのか、廃止も含めた検討をできないのかというようなご意見も頂戴しました。これを私たちは受け止めなければいけないと思っています。
そして、価格転嫁をするためには、大前提として適切な、また、標準的な価格の設定が必要です。運輸や建設、さまざまな中で単価の設定があるわけですが、ものによっては国と地方自治体と民間が標準的な単価を使ってくださいという基準もあります。でも、場合によっては建設工事の単価などは、それは国の事業には標準単価が使われますが、地方自治体や民間にはその単価が使われるようなことにはなっていない場合があります。ですから、実際に賃金を上げるためには、まず物価動向が取引価格に反映されていないことがあるのだというご意見を頂戴し、極めて傾聴に値するところですので、こういったことを今後具体的に検討しようということを考えています。
その上で、本日、総理からもお話をいただきましたが、構造的賃上げは一過性に終わってはならないわけです。今回、今年の春闘で素晴らしい結果を出していただきました。でも、それを来年度以降も続けていくために、その定着を確かにするために、必要な政策課題、今申し上げたようなことも含めて意見交換をしようではないかということで準備をさせていただくことになりました。この意見交換の中身をどのようにするかは、これはまた詳細を詰めて、決まったところで皆さまにご報告したいと思いますが、いずれにしても来年以降に向けて、賃上げを定着させるためのさまざまな仕組みを検討し、また、その意見交換の場もつくっていきたいと考えているわけです。
(問)更問いになってしまってすみません。構造的な賃上げを一過性に終わらせないための意見交換をするということは決まっているけども、相手がどういった方とか、そういったことも含めて今後の検討ということになるってことでしょうか。
(答)そこは準備をした上で申し上げると申し上げているので。もともと、まずは中小企業の方々との生の声をお聞きするということは、その延長上に最終的には来年にどうつなげていくかというものを考えております。私どもでその準備を進めていく状態ですので、また中身についてはお話しできる状態になってからご報告すると。こういうふうに考えてください。
(問)コロナ禍の課題を踏まえた新型インフルエンザ等対策政府行動計画の改定案についてお尋ねします。
先般、この改定案が公表され、パブリックコメントで非常に多くのコメントが国民の皆さんから寄せられたと聞いています。現時点で、概数で結構ですが、どれぐらい届いたのかということと、賛否どちらが多いのかということについて分かりましたら教えてください。
また、この状況についての大臣の受け止めや、パブリックコメントを踏まえた、今後どのようなスケジュール感で対応していくお考えなのかについてもお聞かせください。
(答)今回の政府の行動計画案のパブリックコメント、意見募集期間は5月7日で終了しまして、約19万件のご意見を頂戴しました。国民の皆さまの関心を背景にして多くのご意見をいただいたと、このように受け止めています。
その上で、中身につきましては事務局において意見の一つ一つを確認し、整理していると報告を受けています。内容を精査した上で新型インフルエンザ等対策推進会議の委員のご意見も伺いながら、必要なものを適切に政府行動計画に反映したいと考えています。
また、いただいたご意見に対する政府の見解については、6月をめどに政府行動計画の改定と併せて結果公示の段階でお示ししたいと考えております。賛否のどちらの意見が多いかというのは、パブリックコメント自体がそもそもが国民の賛否を問うものではなくて、ご意見を広くいただく趣旨ですので、その意見を考慮して国民の利益に役立てたいと思いますし、意見内容は精査をして、政府行動計画をより良いものにするために検討していきたいと考えています。
(問)パブリックコメントの公示は6月をめどにとおっしゃいましたが、その改定案の取りまとめも公示以後になるということでよろしいでしょうか。
(答)そうです。
(問)関連の質問ですけれども、新型インフルエンザ等対策政府行動計画、今回の改定は5月のWHO総会で採択するパンデミック条約と国際保健規則、IHR改定に合わせた国内法整備の一環と理解してよろしいのでしょうか。
外務省と厚労省が担当になりまして、国際保健規則は2005年にできたものを今度変えようという動きがあります。それから、新たにパンデミック条約と呼ばれるものを採択しようということで、5月のWHO総会で諮られる予定になっています。今回の政府行動計画の改定は、この動きに合わせた国内法整備の一環として位置付けられるのでしょうか。
(答)今回の政府行動計画の改定につきましては、これは2013年に作ったものを2017年に一部改定しました。それを今般、新型コロナのまん延があって、それらを受けての改定であり、行動計画の中身をきちんと現状に合わせたものにするというものとご理解ください。
(問)今回の改定はざっくり言えば、「コロナ対応で課題となったものをクリアして、次のパンデミックに備えるのが目的」というように書かれています。確かにマスク着用やソーシャルディスタンスに感染予防効果があったか疑問ですし、PCR陽性はイコール感染でないと当時の厚労省の佐原康之医務技術総括審議官は国会でも答弁しています。また、mRNAワクチンでは前代未聞の副反応被害が出ていることは厚生科学審議会で明らかにされています。新藤大臣はコロナ対策の何が課題だったと認識されていますか。
(答)今回、私たちが取りまとめなければいけないのは、こういった有事に対してどのような行動をするべきか、このことを平時から準備をして、また、いざというときの備えをきちんと充実させていくことが重要だと思っています。政府行動計画は、当初6項目でしたけれども、今回有識者のご意見をいただいて、項目も13に増やしましたし、ページ数も90ページ程度だったものが、今は200ページを超えています。
そういう中で、まず私たちは訓練をきちんとできるようにしようということをここの中でうたいました。それから、国と地方、また、国立感染研と医療機関等との連携、全国的な連携ですね。それから、関係機関がリアルタイムで情報共有できる仕組みをもっとDXを活用しながらやっていこうということ。それから、広報体制も充実させるとともに、情報の収集と共有、また、これを分析して、かつ、国民に的確な情報を迅速に提供できる体制を整えようということを考えています。
それから、リスクコミュニケーション、これはやはりいろいろなものが出てきますので、そういったものを的確に皆さんへきちんとお伝えできるような、そういったことが必要ではないかということを有識者会議でもご意見いただきましたので、そういう全体の行動計画の検討をしているわけでして、今のご質問にあったような、一つ一つの何かに対する評価というのは、今、私がここで持ち合わせているわけではございません。
(問)WHO総会での決議がいかなるものであろうと、これはこのまま進めていくという理解でよろしいでしょうか。
(答)これは私どもの感染症がいざ有事が発生したときにきちんと対処できるように、日頃からの準備とともに、次に備えるための、どのような内容を整備しておくべきかということの計画を定めるものですから、これは粛々と進めていかなければならないと思います。
3.木村内閣府政策統括官(経済財政運営担当)による追加説明
令和6年第5回の経済財政諮問会議です。
先ほど新藤大臣からご紹介がありましたように、議題は2つです。
まず、「マクロ経済運営」について、日銀総裁から資料1のご説明をいただいた後、新藤大臣から資料2に沿って、先日開催した「賃金と物価の好循環に向けた懇談」について報告し、その後、意見交換を行いました。
次に、「中長期の重点課題③(先端技術実装と競争力強化)」について意見交換を行いました。
それぞれの議題について、主なご意見をご紹介します。
まず、1つ目の議題、「マクロ経済運営」についてです。
1人目の民間議員です。
日本経済は30年のデフレからの脱却に向けて正念場である。成長と分配の好循環に資する取組を多面的に展開することが肝要で、2点申し上げたい。
1点目は、科学技術・イノベーションや人手不足等の先送りできない課題の解決に向けて、人への投資を積極的に行い、我が国のファンダメンタルズを向上させる産業の地盤固めを行うことが重要。そのためにも、政府は重要分野に対する複数年度にわたる財政支出を行い、民間企業の予見可能性を高め、民間投資を積極的に拡大していただく。そのことによって我が国の経済成長を後押しできる。
2点目は、物価上昇に負けない賃上げの実現について、春闘に昨年以上に取り組んだ。大企業のみならず、中小企業にもこのモメンタムが波及しつつある。この流れを来年にも継続させることが重要。そのためには、物価がモデレートである必要がある。円安による過度な物価上昇も懸念される中で、日本銀行にはこれまでの共同声明に基づいて、2%程度の適度な物価上昇の実現を図っていただきたい。
2人目の民間議員です。
米国の景況感が思っている以上に強く、米国の金利低下、日米金利差の縮小は遅れるかもしれない。円安との闘いが長期化する可能性があり、その間に確保できる利益をしっかり確保できるよう全力を挙げる必要がある。
日銀においては、物価見通しに基づく金融政策を行う方針を出して、円安圧力を緩和してほしい。
抜本的には日本が強みを発揮して、財政健全化への道筋を示すことが大事。
さらに、デフレ脱却から一歩前に進めた新たな経済ステージの実現、実質GDP1%成長を安定的に実現する、しっかりとした宣言や発言の工夫が必要。その上で、どこに強みがあるのかを戦略的に考える必要がある。
賃金・所得の拡大、価格転嫁、人手不足の対応、この3つの課題にしっかり取り組んでいただきたい。
3人目の民間議員です。
今年の春闘は昨年以上の結果となったが、中東情勢や円安によって油断できない状況。賃金と物価の好循環を実現し、可処分所得の向上につなげていく必要がある。
足下の人手不足による労働供給制約の解消が重要。エッセンシャルワーカーの仕事の魅力を上げて、国内外から人が集まるようにし、投資を呼び込むためにも、職務を指定して、最低賃金を例えば20%引き上げるようなことをしていくのはどうか。
労務費の価格転嫁の可視化をすることや下請法・独禁法の強化も必要。外国人材の同一労働同一賃金を実現し、労働供給の制約を緩和すべき。
大企業における早期退職者が増えている中で、大企業から中小企業への労働移動を税制面でも支援していくべき。
4人目の民間議員です。
かつてはマクロ経済のポリシーミックスと言えば、財政政策と金融政策であった。しかし、今日においては、賃金や労働市場の動向がマクロ経済に大きな影響を与えており、労働市場改革や取引の適正化といったミクロ政策がマクロ経済政策にも大きな影響を与えている。
価格が安定的なのは日本の特徴の一つであるが、世界では需給に連動して価格が上がっているのに対し、日本だけが上がらないのは問題である。グローバルな経済の中で、世界の動きに合わせる形で、価格が需給に応じて柔軟に動いていく必要がある。
人手不足にもかかわらず賃金が上がらないというのが問題であって、賃金・所得の拡大、価格転嫁、人手不足対応を進めていくことがポイント。
続いて、閣僚からの発言です。
齋藤経済産業大臣です。
日本では、中長期的に成長力を高めるための国内投資が不十分であり、先進国で最も資本ストックが増えてこなかった。また、設備の老朽化も深刻化している。他方で、足下では30年ぶりの賃上げや投資という潮目の変化も生じている。これは、半導体も含めた国内投資促進が後押ししたものである。ここで投資促進の手を緩めては、こうした努力が水の泡になってしまう。成長力の基盤強化、潜在成長率の底上げのために、こうした動きを継続させるためにも、政府が一歩前に出る投資の手を今緩めてはならない。
短期的にはGDPはマイナス成長が見込まれており、消費の回復にも足踏みが見られる。デフレ完全脱却に向け、成長期待を維持し、賃上げと投資の力強い動きを継続させる上でも、現在が正念場。ここで経済が崩れると、また30年停滞することになり、元に戻ることはできない。今後の重要な政策の選択肢を狭めることがあってはならないと強く考えている。
ここからは自由討議の中で出た発言です。
日本銀行の植田総裁からです。
為替の変動が経済に及ぼす影響は、業種や企業規模、経済主体によっても様々である。為替円安は、理論的には、インバウンド消費を含む輸出の増加要因となるほか、グローバル企業を中心として企業収益に好影響を及ぼす。一方、為替円安は、輸入物価の上昇などを通じて家計の実質所得を下押しするほか、一部の中小企業などの収益にマイナスに作用する面もある。
金融政策は為替相場を直接コントロールの対象としていないが、為替は経済・物価に影響を及ぼす重要な要因の一つである。為替円安は、輸入物価の上昇を通じた直接的な経路に加えて、様々な主体の経済活動に影響を及ぼすことを通じて物価に作用する。
日本銀行としては、為替の変動を受けて基調的な物価上昇率に影響があれば、金融政策上の対応が必要となると考えている。この点、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化する下で、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があることは意識しておく必要がある。
このように、為替相場は経済・物価に大きな影響を与えるものなので、その動向によって、金融政策運営上の対応が必要になると考えている。日本銀行は、政策運営に当たって、最近の円安の動きを十分注視している。
次に、民間議員の発言です。
海外の投資家が日本に注目しているのは確かだが、その観点については様々ある。
株式投資家にとっては値上がり益への期待がある。半導体投資について、日本は米国に加えて、質の高い労働者を確保できるのではないかということ、オープンAIを政府として使い始めているということ等に好感を持つ人もいる。
一方で、新たなステージに向けた局面であるにもかかわらず、国内支出が抑制されているように見えることや、せっかくのインバウンドを受け入れる体制が弱いことはネガティブに思われており、改善の余地があるのではないか。
実質GDP1%成長を打ち出すのであれば、どの分野で利益を上げるのか、期待を集めることが大事。宣言とともに具体策を示すことが重要。
債券投資家にとっては財政健全化への道筋を示すことが重要。仮に格下げが行われないとしても、下がるかもしれないという状況から脱することが重要である。
2つ目の議題についてのご意見です。
1人目の民間議員です。
3点お話がありました。
1点目として、社会課題の解決に資する投資分野について、脱炭素、AI、量子はもちろん、CSTIで戦略的に議論されているバイオの分野も重要。バイオは、医療、食料、環境エネルギーに至るまで裾野が広く、また、日本が得意とする分野である。こうした分野の市場創出に向け、規制の見直しや助成措置といった環境整備も重要。
2点目として、特にディープテックにおける大学の研究成果を、スタートアップを通じて社会実装することも重要。そのために、優秀なビジネス戦略の専門家から成る支援チームの組成などが急務である。
3点目として、そうした重要分野における国内投資を拡大するには、クリーンなエネルギーの安定供給が必須。クリーンなエネルギーは我が国の産業基盤そのものである。
2人目の民間議員です。
どういう成長を確保するかが極めて重要で、新技術の社会実装について優先順位を持って始めることが大事。例えば、GXの分野でGDPの0.5%成長が実現できればよいと考えているが、脱炭素をどう達成するか、どのようなエネルギー・ポートフォリオが適正か、日本としてどこで食べていくのか、メインは何かをクローズアップさせることが重要。
半導体投資が進んでいるが、どの程度日本で使われ、どのように周辺セクターに利益をもたらすのか、日本に利益をもたらす構造がつくれているのか、特許などをどうマネタイズしていくのか、こういう点が重要。
日本の優秀な人材が因習や制度によって活躍できないのは問題。人的投資で触れた措置に加えて、もっとダイナミックに価格調整機能を使って人材の偏りを解消するのはどうか。
新陳代謝を進めるということは、いわゆるゾンビ企業に退出をお願いするということ。こういったネガティブなことについても政府には対応をお願いをしたい。
3人目の民間議員です。
新技術の社会実装は重要だが、政策資源には限りがあるので、中長期ビジョンの下、分野を重点化し、最後までやり遂げることが重要。分野としては、特にエネルギーとヘルスケアが大事。
エネルギーコストの競争力を上げることは、実質賃金の上昇に影響することからも、低廉な電力の安定供給が重要。GX移行債を活用し、技術革新への投資を行っていくべき。100%のエネルギー需給といった目標を掲げ、民間を巻き込んで新技術の社会実装を行うことが重要。
治療から予防へと移行し、ヘルスケアの生産性を高めるべき。認知症の分野も含め、医療・介護のデータが不足している。司令塔を明確化しながら、大胆な規制改革や税制優遇など、政策を総動員して取り組んでいくことが重要。
4人目の民間議員です。
民間企業からすると社会課題解決はビジネスチャンス。しかし、外部効果があると投資が過少になる傾向があり、政策的なサポートが必要。脱炭素、経済安全保障、生活の質の向上、人口減少・高齢化への対応への支援は波及効果が大きい可能性。
新技術の社会実装を進めていく中で、教育投資や科学技術投資は過少になりがちである。人的投資の強化や研究開発投資の質・量の拡大が必要。
さらに、リストラクチャリングを通じて企業の新陳代謝を向上させ、活力を見いだしていくことも必要。
一方で、地域のスタートアップ企業には大きな期待を寄せており、行政のニーズとのマッチング機会の推進や優先的な調達などを図るべき。
これらの観点から、社会課題の解決と経済成長の両立を目指していくべき。
続いて、閣僚からの発言です。
まず、松本総務大臣です。
AIに関しては、関係閣僚のご協力も得ながら、先週、パリで開催されたOECD閣僚理事会に当たり、広島AIプロセスの成果を広げるため、50か国近くが参加する「広島AIプロセス フレンズグループ」の立ち上げを総理から発表いただくとともに、2019年に採択された「AI原則」の改定にも貢献した。
AIの国際的なルールづくりを日本が主導することにより、我が国のビジネス環境への信頼性が高まり、日本への投資促進にもつながっていると認識。また、デジタル分野に係るルールについて、日本中心の標準化を目指したい。
通信分野では、オール光ネットワーク技術は、大容量・低遅延・省電力という特色を持っており、日本の強みがある。AIについても、総務省所管の法人であるNICTでは、AIの同時通訳技術の開発を進めており、AIの利用提供もかなり評価できるレベルになっている。このAIの活用やクラウドデータセンターなどが鍵になる。
コンテンツ産業は成長が期待され、ソフトパワーの発揮に貢献するもの。海外の動画配信サービスが世界的に展開する中、競争力を高め、日本の魅力を国内外に広めるには、制作・流通に関わる者への支援を通じて、放送コンテンツが持つ潜在能力を生かすことが大事。
続いて、齋藤経済産業大臣です。
半導体はDXやGX、経済安全保障などのための最重要戦略物資。特に先端半導体は、生成AIの活用などで需要が激増する見込みであり、その需要を取り込んでいくことが経済成長のためには必要不可欠。
世界では各国政府が先端半導体の投資への支援を競っている。我が国も世界に先駆けて支援を開始しており、AI開発と先端半導体を軸としたエコシステムづくりのため、今後も投資拡大を後押しすべき。これまでの取組でその機運が生まれてきており、ここで投資促進の手を緩めることは自ら負けを認めることに等しい。
半導体への投資は、地域での雇用や賃金上昇などの効果に加えて、サプライチェーンにも関わる産業全体の活性化など、経済波及効果が極めて大きい。私自身も熊本の半導体工場を訪れたが、この点を強く実感した。
さらに、税収増も見込まれる。その税収増も財源として見込むことで、歳出と歳入を多年度でバランスさせるなど、多年度にわたる計画的な投資支援策を実施するべき。
次に、盛山文部科学大臣です。
新技術の社会実装に向けては、人材育成・研究基盤の強化、各分野での研究開発の促進が極めて重要。ご自身が取りまとめられた「博士人材活躍プラン」の施策の実現、基礎研究の推進、大学の研究力向上や大型研究施設の高度化、宇宙等の各分野での研究開発の加速に全力で取り組んでいく。
大学は国民の知識基盤を支え、我が国社会の発展を担う人材や国際社会を牽引する人材を戦略的に育成する中核的な機関。今回のテーマに関しては、産学官連携による海外留学の促進や大学の国際化、大学院教育の強化を進めるとともに、教育費のさらなる負担軽減や大学改革を支える運営費交付金、私学助成等の確保に取り組みたい。
生産性向上には、初等中等教育段階の人的投資も不可欠。民間議員提案にある探求学習やアントレ教育とともに、デジタル人材育成、GIGAスクール構想、教師を取り巻く環境整備等を推進する。
クリエーター支援等、官民の文化投資拡大や文化団体・業界の体質改善を通じ競争力を高め、新たな価値や需要・市場の創出につなげる。スポーツツーリズムをはじめ、スポーツの力で活気あふれる日本の未来を切り拓いていく。
これらの人的投資、研究投資により、我が国の持続可能な成長につなげたい。
続いて、高市科学技術政策担当大臣です。
研究力については、我が国の研究力が相対的に低下していることに危機感を持っており、大学などの研究機関に対する運営費交付金などの財政的支援を通じて、研究力を強化していくことが不可欠。特に、研究力の最も基盤的な源泉である大学強化の必要性は論を俟たないことから、政府全体として必要な対策を講じていくべき。
加えて、研究機関の成果を国益につなげるためには、その適切な管理が必要不可欠。まずは国家戦略の下で研究を進めている国立研究開発法人から研究セキュリティ・インテグリティの一層の強化を図りたい。
また、AI、フュージョンエネルギー、量子、バイオ、マテリアルなどの重要技術に関しては、戦略的に取組を推進してくことが重要。例えば、フュージョンエネルギーについては、現在、米英などの産業界を中心に盛り上がりを見せているところであり、我が国におけるフュージョンエネルギーの早期実現と関連産業の発展に向けて、国際連携を戦略的に推進する。それと併せて、先日創設されたフュージョンエネルギーに関する産業協議会とも連携し、世界に後れを取ることなく取組を加速したい。
ここからは自由討議の中で出た発言です。
1人目の民間議員です。
高度人材の育成・確保については、資料6の2ページ目の真ん中のグラフにあるように、日本の博士の数は横ばい、または減少している。これはここ数年の話ではない。資源を持たない島国である日本が生きるためには、日本は科学技術立国でなくてはならない。
我が国は高度人材を必要としてこなかったのではないかとまで考えている人もおり、政府全体で取組を進めなければならない。高度人材について社会全体で関心を持っていく必要。
我々は科学に対して憧憬の念を持つべき。そのためにも、アカデミアには科学の力を対外的に積極的に発信していただきたい。
政府の研究開発はもちろん、高度専門人材の育成・確保、企業の投資も必要。そのためには、AI、量子、バイオといった分野に対して、産学官が一体となって取組を進めることが大事。
2人目の民間議員です。
企業の体質が生産性上昇につながっておらず、産業の新陳代謝が望ましい形で機能していない可能性という観点は重要。
中小企業の新陳代謝を進めるためには、1つ目として、競争力の低い企業を生かすことにならないような補助金の見直し、2つ目として、事業再構築のために私的整理を進めやすくなるような新しい仕組みの創設、3つ目として、事業承継のためのファンドの活用、4つ目として、個人保証の見直し・検証と、4つの取組が大事。
3人目の民間議員です。
波及効果が大きい分野は経済成長につながりやすく、その波及効果が大きいと考える分野が資料5で示された4つの分野。
しかし、規制が多いが故に、社会課題解決が企業の利益につながりにくくなっているため、その点を変えていく必要。例えば、ヘルスケア産業を規制改革などを通じて、成長産業にしていく必要。
新しいアイデアを持った人が参入できるようにする、つまり、スタートアップがどんどん出てくることが経済成長にとって必要。
研究を実装していくことも大事で、実装とはビジネス化するということ。国の支援を受けているところは儲けてはいけないというフィロソフィーのようなものがあるので、そういうものがあるのであれば、その辺りを変えていく必要もあるのではないか。
続いて、閣僚からの発言です。
まず、松本総務大臣です。
地方創生に関わる観点では、地方での起業、社会課題の解決につながる支援も進めている。次世代の通信デジタルインフラについては、パーツやシステムの両面で様々な企業にチャンスがつながるような形で連携して、研究開発の実装につなげていきたい。
政府全体で連携して、AIをはじめ、新技術の活用についても前向きに取り組んでいきたい。
齋藤経済産業大臣です。
スタートアップと社会課題とのマッチングについては、自治体との官民連携の促進が大事。公共調達の拡大については、初期需要を創出する観点から、高度かつ独自の新技術を有するスタートアップとの随意契約の仕組みの構築の検討に加えて、入札参加資格要件の緩和などの検討を進めている。
研究開発支援については、ディープテック・スタートアップの研究開発成果の早期社会実装に向けて、SBIRによる支援に取り組むとともに、現在、国会で審議をいただいている産業競争力強化法等改正案において、NEDOが研究開発支援にとどまらず、イノベーションの死の谷を乗り越えるための商用設備支援もできるように措置する予定。
次に、盛山文部科学大臣です。
新技術の社会実装、スタートアップの創出・育成を推進していくに当たり、人材育成の中核を担う大学等の機能を強化し、教育の質を向上することが重要。このため、デジタル・半導体等の専門人材育成に資する大学の機能強化や高専の高度化・国際化を進めるとともに、大学の教育研究機能の強化に向けた運営費交付金、私学助成、施設整備費等の基盤的経費の確保に取り組む。
さらに、博士人材の処遇向上・活躍促進に向け、育成機能を強化する世界トップレベルの大学院教育拠点形成の促進や海外トップ大学理系博士課程の留学をはじめとする官民連携による中長期留学の拡大、博士人材の積極活用に向けた経団連などの経済団体との連携を進める。
研究開発支援についても、引き続き強力に推進する。例えば、大学ファンドにより支援する国際卓越研究大学制度や地域の中核や特色ある研究大学への支援においては、大学発スタートアップの育成支援を含めた研究環境を充実させ、研究成果の創出・活用を推進する。
昨年度創設された宇宙戦略基金についても、関係府省と連携し、速やかに総額1兆円規模を目指すなど、取組を強化していく。
これらの施策の推進に必要な予算の確保に取り組み、関係府省・産業界とも連携し、スタートアップの創出や新技術の創出から社会実装までを強力に推進し、我が国全体の成長を加速していく。
次に、高市科学技術政策担当大臣です。
内閣府においては、スタートアップからの公共調達の促進に向け、スタートアップが様々な行政課題の解決に向けて提供が可能な新技術の調査を実施し、政府・地方公共団体などに幅広く周知を図るとともに、イベントの開催を通じたマッチング機会の充実を図る。
また、経済産業省と連携し、スタートアップの公共調達への参画促進に向けた取組について、各府省庁に対し、周知や活用の推奨を行っていく。
さらに、SBIR制度においても、関係各省と連携し、スタートアップが有する先端技術の大規模技術実証を推進し、公共調達を含めた初期市場の形成や早期の社会実装の実現に向けて着実に取り組んでいく。
最後に、総理から締めくくりのご発言がありましたが、皆様にお聞きいただいたとおりですので、割愛いたします。
(以上)