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第4節 まとめ

本章では、企業が所得を生む能力、すなわち競争力に焦点を当て、我が国製造業の低収益性の背景、製造業企業の海外進出による収益、雇用・賃金、産業への影響、非製造業における貿易可能性の拡大、非製造業におけるICTの活用が生産性に与える影響などについて分析することを通じて、競争力を高めるための課題を検討した。

低い収益性の背景には我が国製造業の構造的課題が存在

企業が競争力を高めるためには、生産性の向上が何よりも重要だが、我が国企業の低い収益性の背景にある構造を探っていくと、生産性を高めるための課題が浮かび上がってくる。

我が国企業の収益性は長期的に低下傾向にあるが、それは表面的には売上高利益率が低いことによるものである。その背景を分析すると、企業が活動しやすい環境を整えていくことが重要であるが、それに加えて以下の3点の課題が明らかになった。第一に、我が国企業の横並び志向のため抜本的な製品差別化が進まない。第二に、非効率な企業の退出が妨げられているため企業の新陳代謝が進まず産業構造の調整が遅れている。第三に、流通システムの多段階性などが高コスト構造を生み売上原価が高止まっている。

一方で、企業の資産活用の効率性も高いとは言えない。デフレや過剰債務問題等を背景に生産効率の高い新規設備への投資が見送られた結果、有形固定資産である生産設備の生産性が低い。また、無形固定資産の一部となる研究開発投資についても、効率が高い中小企業の投資規模が小さい一方、効率が低い大企業の投資規模が大きいため、全体としての効率が低くなっている。

また、我が国製造業はアウトソーシング(製造工程の外部委託)の実施により自社外の資産を活用して生産性を向上させている。ただし、近年、欧米企業等で実施されている海外の社外企業へのアウトソーシングはあまり活用されておらず、今後、重要度が増してくると見られる。

企業に選ばれるためのビジネス環境の整備が重要

企業の海外進出は、その競争力を高め国内の雇用にもプラスの影響を及ぼす。しかし、これが急速に進む場合には、国内において産業や雇用の面での調整に痛みが生じる可能性がある。構造調整が円滑に進むような環境の整備が必要となる。

最近の製造業の海外進出には、現地市場の獲得を目指したものが多く、また下請企業が元請企業とは関係なく行うものも少なくない。リーマンショック後の厳しい経営環境の中で、海外需要を取り込み、苦境を乗り切ろうとする企業の姿がうかがわれる。

リーマンショック後、企業は海外進出を進める中で、国内においては、研究・開発拠点のような高付加価値部門の雇用を増やす一方、生産拠点を中心に雇用を削減してきた。このため、若年層や大企業を中心に生産現場で働く人が製造業から非製造業へと転職を余儀なくされた。こうした転職は一般労働者間のものが多く、20歳台、大企業間、同職種間の転職であれば、賃金の低下は限定的であった。企業の海外進出に伴い雇用を削減したのは大企業が多かったことから、雇用の削減が大幅だった割には、所得への影響は限定的であった可能性が示唆される。

海外進出が我が国よりも進んでいるアメリカやドイツの経験からは、将来の基幹産業育成につながる可能性の高い先端的な基礎研究に取り組み、その実用化を支援するなど、イノベーションを促すようなビジネス環境を作ることが重要である。また、製造業の活動にとって足かせになっている高コスト構造の是正や、規制緩和などにより国内市場を拡大していくことが重要である。

非製造業でも貿易とイノベーションを促すことが重要

製造業における競争力強化に向けた取組は引き続き重要だが、我が国でも経済のサービス化が進展する中で、非製造業の成長が経済全体に与える影響が強まっている。しかし、アメリカ、ドイツと比較して、非製造業の労働生産性は総じて低迷している。

今後、非製造業の生産性を高め、競争力を強化するためには、従来、製造業がリードしていると思われてきた貿易やイノベーションの可能性を高めていくことが有効である。

サービス貿易には、越境取引や国外消費といった狭義のサービス貿易の他に、商業拠点の越境といった広義のサービス貿易がある。サービスには生産と消費の同時性という特質があるため、非製造業の貿易可能性を高めるためには、広義のサービス貿易の重要性が高く、その一層の拡大を図り、企業の収益力を高め、競争力の向上につなげていくことが重要である。

また、我が国非製造業は、アメリカ、ドイツと比較してICT資本蓄積が低迷しており、労働生産性が低い要因となっている。特に、ハードウェアに比べてソフトウェアの投資に遅れが見られる。ソフトウェアの導入は、企画・立案や研究・分析などの高度な知的業務に従事する人の割合を高め、生産性の上昇につながるが、組織のフラット化などの組織改革を同時に進めることにより、更に生産性が上昇する可能性がある。

ICT資本蓄積以外に、生産性上昇に資する取組として、研究開発投資が挙げられる。研究開発投資を通じたイノベーションは、従来、製造業の特性と考えられてきたが、我が国非製造業においても活発化し始めている。今後、研究開発の成果を活かしつつ、貿易可能性の拡大を図ることで、投資の収益性を更に高めていくことが期待される。

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