平成18年度年次経済財政報告公表にあたって

日本経済は、総じてみれば十年余りにわたる長期停滞のトンネルを抜け出し、ようやく未来への明るい展望を持てる状況になったと考えられます。我が国は90年代初めのいわゆるバブル経済の崩壊に加え、グローバル経済下での競争環境の激変という「経済の非常事態」に直面しましたが、このような難局においても、国民、個々の企業や事業家は、各々の持ち場でまさに粒々辛苦して克服の努力を進めてきました。こうした努力に加え、政府の構造改革への取組もあいまって、日本経済は「平時の経済」に復帰しつつあると考えられ、2002年初から始まる景気回復は5年目を迎えています。

今回の白書では景気回復が長期化している日本経済の実態を多角的に分析しています。企業部門では、バブル崩壊の後遺症の解消を目指し、雇用面では積極的にリストラを進め、設備投資を抑制することで債務返済を進めてきました。その結果、雇用・設備・債務の3つの過剰が解消され、企業の収益性の向上、さらには経済全体の生産性にも回復がみられます。企業経営の面からは、資本効率をより重視した姿勢がみられますが、一方で従業員重視といった「日本的経営」の特徴は構造調整を経た後もある程度多くの日本企業に共通してみられます。こうした日本企業の特徴を比較優位として活かし、さらなる発展が期待されます。

企業部門で実施された構造調整を家計側からみると、フルタイム労働者の賃金引下げや正規雇用の削減、雇用の非正規化などをもたらしました。しかし、景気回復が持続し、その成果が家計にも波及する中で、安定的な雇用の増加や賃金の緩やかな増加など明るい動きもみられます。一方で、ニート、フリーターの増加など若年層にみられる就業や技能形成といった課題への対応や、経済的に弱者の立場におかれた人々への対応は重要な政策課題であることが浮き彫りになりました。

このように、日本経済は新たな成長を目指すための条件が復元したと考えます。この機を逃さず、人口減少・少子高齢化が本格化する前に、「財政健全化」と「成長力・競争力強化」を同時に実現していく必要があると認識しております。

本白書により、日本の経済と財政に対する認識が深まり、日本経済が抱える課題の解決に貢献できれば幸いであります。

平成18年7月

経済財政政策担当大臣

与謝野 馨