まえがき

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「世界経済の潮流」(以下「潮流」という。)は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。今回で46回目となる潮流は「米国の通商政策を受けた世界経済の動向」との副題を付しています。

第1章では、米国の通商政策の影響を受けた2025年前半の世界経済の動向を主要国・地域別に整理しています。米国では、個人消費の伸びが緩やかになるなど景気の拡大が緩やかとなっています。関税引上げに伴う駆け込み需要やその反動の影響がみられるほか、消費者マインドの低下などの不透明感がみられています。中国では、消費財買換えや大規模設備更新を支援する「両新」政策等による効果がみられるものの、不動産市場の停滞の影響などから景気は足踏み状態が続いています。ユーロ圏は米国関税措置に伴う駆け込み輸出や、財政拡張的な政策を受けた設備投資の伸び等を受けて、景気は持ち直しの動きが続いています。英国では、景気は持ち直していますが、物価上昇が継続する中、企業の雇用意欲が低下傾向となっていることに注意が必要です。2025年前半は、各国・地域で米国の関税引上げに伴う輸出入の変動がみられました。国際機関の見通しでは、2025年の世界経済は成長が鈍化すると予測されており、今後の米国の政策動向だけでなく、欧米各国の長期金利の高止まり、中国の不動産市場の停滞の影響等にも留意が必要です。

第2章では、米国の貿易・投資構造について分析しています。米国は、EUASEAN、メキシコ、カナダとの財貿易赤字が拡大しているため、財貿易赤字は拡大傾向にありますが、中国や日本とは縮小傾向にあります。なお、財貿易収支対GDP比はおおむね横ばいで推移しており、米国の経済成長を阻害する要因とはなっていません。第二次トランプ政権の通商政策により米国の実効関税率は上昇しており、日々の生活で使う消費財は輸入割合が高く、関税措置の影響を受けやすくなっています。一方、関税引上げにより増加したコストはマージンの圧縮により吸収され、米国の消費者物価を押し上げる効果は限定的となる可能性があると考えられます。また、米国への直接投資残高のうち業種別では製造業が40%を超え、国別では日本が最大となっており、伸び悩む新規の直接投資の流入を補完することが期待されます。

このほか本報告書では、米国の強みであるデジタル・知財サービスを中心としたサービス貿易や投資構造の特徴についても分析しています。

本報告書の分析が、世界経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考える上での一助になれば幸いです。

令和7年8月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

吉岡 秀弥

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