まえがき
「世界経済の潮流」は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。
2023年前半の世界経済をみると、主要先進国の景気は総じてみれば底堅く、物価上昇抑制のため金融引締めが進み、金融資本市場の変動もみられました。一方、中国経済の回復テンポは緩やかなものにとどまっています。「世界経済の潮流2023年Ⅰ」では、このような世界経済の動向と先行き、主なリスクを整理するほか、インドの発展の特徴と課題に関する分析を行っています。
第1章では、2023年前半を中心に、世界の主要国・地域の景気動向を整理しています。欧州の景気は足踏み状態となっているものの、アメリカは自律的に回復しています。また、欧米の消費者物価は、いずれもエネルギー価格の下落を受けて上昇テンポに一服感がみられていますが、労働コストが上昇していることから、欧米中銀は引締めを継続しています。こうした中、アメリカでは、地方の中堅銀行の経営破綻も生じました。地方銀行の経営には市場からの厳しい評価が続く下で、貸出態度の厳格化もみられ、銀行貸出は伸び悩んでいます。他方、中国では、不動産市場の低迷や世界的な半導体不況の影響等から、景気の回復テンポは緩やかであり、若年失業率は過去最高水準で推移しています。こうしたこともあり、2023年の世界経済の成長率は前年を下回ると見込まれています。今後、注視すべきリスク要因としては、欧米では金融引締めに伴う金融資本市場や景気全体への影響、また、中国では不動産市場低迷による金融機関や地方政府への影響、若年失業率の上昇、米中貿易摩擦による影響等が挙げられます。
第2章では、人口動態と貿易構造からみたインドの経済成長の特徴と政策動向を整理しています。インドは2023年までに人口が世界最多となり、市場規模・成長性への期待から、日系企業の関心も高まっています。若年人口比率が高いことからも今後の発展が期待されますが、農業部門の就業者が未だ4割を超えるなど、生産性の面から課題もみられます。また、インドは貿易収支が赤字であり、サービス収支は黒字です。財輸出は一次産品比率が高く、財輸入は機械製品など資本集約財を中国から輸入する比率が高まっています。他方、ITの強みを活かしたサービス輸出が増加しており、国内においても先進的なシステムを活用して、キャッシュレス化や税制改革が進展しています。2014年のモディ政権発足以降、インドへの直接投資にも加速がみられます。こうした状況を踏まえ、更なる成長に向けた取組を考察しています。
このほか本報告書では、世界経済の先行きをみる上で重要な各地域及び国際金融におけるトピックについてもまとめています。
本報告書の分析が、世界経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考えるうえでの一助になれば幸いです。
令和5年8月
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)
林 伴子