まえがき

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「世界経済の潮流」は、内閣府が公表している世界経済の動向に関する報告書です。

2022年前半の世界経済を取り巻く状況に目を向けると、社会経済活動の正常化が進む一方、ウクライナ情勢の緊迫化や中国での厳格な防疫措置など、経済に影響を与える新たな事象も見られました。この下で、不確実性の高まりと、世界的な物価上昇に直面しています。「世界経済の潮流2022年I」では、こうした世界経済の動向と主なリスクを整理・検証するほか、持続的な経済成長と労働市場に関する分析を行っています。また、アメリカ、中国、ヨーロッパの3地域それぞれの経済動向についてもまとめています。

第1章では、2022年前半を中心に、世界の景気動向を整理しています。世界経済が全体として持ち直し、需給が引き締まる中、ウクライナ情勢によるエネルギーや食料の供給懸念が相まって、物価上昇が一段と進行しました。この下で、新興国に続いて先進国でも、22年以降、金融引締めが進展しています。また、中国では、感染再拡大を受けた厳格な防疫措置が講じられ、中国国内のみならず貿易等でつながりの深い各国の生産や貿易の鈍化がみられました。こうした動向を受けて、金融市場などでは先行き不確実性の高まりがみられています。2022年後半以降の世界経済は、持ち直しが続くことが期待されますが、下方リスクとして、物価上昇やエネルギー・食料の供給不足、金融引締め等による需要抑制や新興国経済への影響などに今後も引き続き注視が必要です。

第2章では、デジタル化など新たな技術と労働市場の関係や、労働生産性及び賃金の動向に関して分析しています。新技術導入などで生じるいわゆる技能不足は、労働者の技能と職位が求める技能の差として捉えられますが、これに対しては、教育・訓練プログラムへの参加実績の多い国では、中堅の年齢層で縮小する例がみられています。欧州諸国では、技能不足度合いと労働生産性の間に負の関係があり、労働者への人的投資の重要性が示唆されています。また、北欧やアメリカでは転職を通じた賃金上昇がみられ、労働市場の流動性の重要性も確認できます。経済全体の生産性と賃金の伸びの関係をみると、人への投資や労働移動の度合いの違いを背景に、生産性と賃金の伸びがともに高い国や、どちらも低い国といった国毎の特徴がみられます。団体交渉の中での人への投資の動きがあるスウェーデン等の北欧諸国では、経済全体の生産性、賃金の高い伸びを実現しています。

このほか本報告書では、中国における技術革新と持続的な成長に向けた動向、ウクライナ情勢を受けた欧州のエネルギー政策の方向性など、2022年前半の世界経済及び各地域の主なトピックについてもまとめています。

本報告書の分析が、世界経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考えるうえでの一助になれば幸いです。

令和4年7月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

村山 裕

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