まえがき
「世界経済の潮流」は、内閣府が公表している世界経済の動向に関する報告書です。
2020年初以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動の抑制により、世界経済は、世界金融危機以来の大きな落ち込みを経験しました。その後、各国経済は持ち直していますが、感染症の影響は引き続き大きな下押し要因となっています。今回の報告書「世界経済の潮流2021年I」は、20年秋から21年夏までを中心に、世界経済の動向及び欧米主要国の政策対応を整理するとともに、ポストコロナに向けたデジタル化をトピックとして取り上げています。
第1章では、感染症持続下の世界経済の動向を概観するとともに、欧米主要国において実施された経済を支えるための支援策について整理しています。20年春、各国では経済活動の抑制措置が実施され、経済は大きく落ち込みました。その後の回復は、感染再拡大などもあり、国・地域により様々ですが、21年4~6月期には、アメリカ、中国、欧州のいずれの国・地域においてもはっきりとしたプラス成長となりました。このような各国経済の持ち直しの背景には、経済を支えるための支援策の実施があります。雇用支援策については、欧州では、一時休業中の従業員手当の一部を事業者に対して補てんする施策が拡充・新設され、ロックダウンが実施された中でも失業の増加が抑制されました。これは、レイオフによる失業者数の急増を失業保険給付の拡充でカバーしたアメリカとは対照的です。企業向け給付・融資は、欧米各国で実施され、企業の倒産件数は感染症拡大前よりも低水準で推移しています。個人向け給付は、アメリカでは高所得者を除き広く一律に実施され、給付の一部は貯蓄増加につながっています。本章では、こうした支援策の内容と効果についてまとめています。
第2章では、「ポストコロナに向けたデジタル化」をテーマとしています。本章では、欧米及び中国における近年のデジタル経済の動向を概観したうえで、デジタル化と経済成長の関係をみています。国レベル・企業レベルの双方のデータを用いた分析から、研究開発投資が経済成長にとって重要な役割を果たしていることが示唆されました。各国では、将来を見据え、研究開発投資などによる成長の後押しに取り組んでおり、本報告書では、欧州の復興・レジリエンス基金やHorizon Europe(研究・イノベーションプログラム)の取組等についても紹介しています。こうした欧州の取組は、ICT関連など成長が早い分野の研究開発投資の伸び悩みなど、類似した課題に直面する日本にとっても参考になると考えられます。
感染の拡大により、未曽有とも言えるほどの落ち込みを経験した世界経済は、政策による下支えもあって持ち直しへと転じました。各国では、ポストコロナを見据え、デジタル化推進も含め経済社会の変革を促すための政策が強力に推進されています。本書の分析が、感染症が世界経済に与えている影響やその先行き、コロナ下で実施されてきた各国・地域の政策を理解する上での一助となれば幸いです。
令和3年8月
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)
籠宮 信雄