まえがき

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「世界経済の潮流」は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。

2020年は、年初以降新型コロナウイルス感染症拡大に伴う経済活動の抑制により、世界経済は世界金融危機以来の大きな危機を経験しました。今回の報告書「世界経済の潮流2020年I」は、2020年前半から秋までを対象に、感染症拡大の経済活動への影響と各国の財政金融対応策をトピックとして取り上げています。

第1章では、感染症の拡大と、各国で採られた感染抑制策を概観するとともに、それらが世界経済に与えた影響を分析しています。この感染症はまず中国で拡大し、続いてアメリカ、ヨーロッパ、アジア各国で拡がりました。こうした事態に対して、各国政府は外出制限や必需品以外の小売店舗、飲食店等の閉鎖といった厳しい措置を採り、一時的に経済活動が大幅に抑制されるとともに金融市場にも大きな変動がみられました。しかしながら、経済活動の再開にともない、世界経済は比較的早期に回復に向かっています。背景には、過去の経済危機と違って、今回の経済の落ち込みは制限措置の導入による人為的なものであり、必ずしも経済の構造的要因や金融市場の機能不全を直接の要因としたものではないことがあるとみられます。ただし、秋以降感染再拡大がみられるなかで、先行きの不確実性が高まっており、今後も引き続き注視が必要です。

第2章では、感染症下の経済を支えるために採られた財政・金融政策をまとめています。こうした施策の特徴を踏まえると、おおむね3つに分けられます。すなわち、(1)経済活動抑制の影響を緩和するための政策、(2)経済活動再開を後押しするための政策、(3)危機後の経済社会の変革を促すための政策です。これらの政策は、感染症の状況とも連動しながら、経済の下支えと今後の成長を目指して、迅速かつ大規模に実施されてきました。これにより、主要国では企業倒産件数が低水準に抑えられ、欧州諸国などでは雇用支援策により失業率の急上昇が避けられたと考えられます。

第3章では、主要地域別に経済の現状と見通しを分析しています。アメリカ経済は10年以上の長期にわたり景気回復を続けてきましたが、経済活動の抑制を受け、春先に景気が急速に悪化しました。夏以降は各種政策の効果や経済活動の再開にともない、持ち直しの動きがみられます。中国経済は、年初に感染症拡大の影響を受けて急速に景気が悪化しましたが、他地域に先駆けてプラス成長となり、実質GDPは前年を既に上回っています。ユーロ圏経済や英国経済は、アメリカと同じようなタイミングで感染症が拡大し、主要国で都市封鎖などの厳しい措置が採られましたが、各種政策の効果や経済活動の再開にともない、夏以降は持ち直しの動きがみられます。ただし、欧米で感染者数が再度増加してきており、景気が下振れするリスクには引き続き注意が必要です。

感染症の拡大により、未曽有とも言えるほどの落ち込みを経験した世界経済は、政策による下支えもあっていち早く持ち直したものの、再拡大のリスクにより景気動向の行方に不透明感が増しています。本書の分析が、感染症が世界経済に与えている影響や、各国・地域の財政・金融政策を理解する上での一助となれば幸いです。

令和2年11月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

籠宮 信雄

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