まえがき
「世界経済の潮流」は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。
今回の報告書「世界経済の潮流2019年I」では、昨年来続く米中貿易摩擦について、直近の動向も踏まえて、その影響を確認するとともに、世界経済全体とアメリカ、中国、ヨーロッパの3地域それぞれの経済動向と主なリスクを分析しています。
第1章では、2019年前半を中心に米中貿易摩擦の動向を整理した上で、それがアメリカ、中国・アジア及び世界経済に与える影響を検証しています。2018年から継続している米中貿易摩擦は、19年春の解決が期待されていましたが、5月にアメリカ政府が追加関税率の引上げを実施し、追加関税対象品目の拡大も示唆したことから、再び緊張が高まりました。6月末に米中首脳会談が実現し、協議の継続と追加関税対象品目の拡大の見送りが決まったことで、貿易摩擦の更なる高まりは回避されましたが、引き続き予断を許さない状況が続いています。本章では、これまでに実施された追加関税が主にアメリカの企業や消費者によって負担されていることを明らかにするとともに、今後仮に、追加関税対象品目が拡大されるような場合には、そうした影響がより大きなものになる可能性を指摘しています。また、米中貿易摩擦が中国周辺のアジア諸国・地域の輸出動向にも影響を与えていること、不確実性の高まりが、世界の貿易や景況感等を通じて世界経済全体の下押し要因となっていることを明らかにしています。さらに、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)の進展により、米中貿易摩擦の影響が、当事国間や第三国との間で増幅されて世界経済全体に拡大する可能性についても考察しています。
第2章では、主要地域別に経済の現状と見通しを分析しています。世界経済は、全体としては緩やかに回復しているものの、米中貿易摩擦や英国のEU離脱問題など様々な不確実性に直面しており、19年の成長ペースは18年から低下することが見込まれています。アメリカ経済は引き続き世界経済の牽引役として、約10年の長期にわたる景気回復を続けていますが、財政金融政策は転機を迎えつつあり、今後の動向が注目されます。中国経済は、米中貿易摩擦の影響を受ける中、政府が景気下支えを図っていますが、引き続き緩やかに減速しています。ユーロ圏経済は、緩やかに回復していますが、18年後半からの自動車産業における一時的な押下げの影響が徐々に弱まる一方で、米中貿易摩擦等による外需の伸びの鈍化が新たな重しとなっています。英国経済では、当初のEU離脱期日であった3月末前後の経済指標に不規則な動きがみられましたが、期日が10月末に延期された後も、離脱問題の不確実性はむしろ高まっており、引き続き弱い回復となっています。
現在の世界経済の緩やかな回復は、米中貿易摩擦を始めとする様々な下方リスクに直面しています。世界各国・地域の経済はGVC等を通じて結びつきを強めており、一つの国・地域で発生した不確実性やリスク要因の影響は当事国・地域に留まりません。そのような中で、世界全体そして主要国・地域の経済を総合的に把握することが不可欠となっています。本書の分析がその一助となれば幸いです。
令和元年7月
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)
増島 稔