まえがき

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「世界経済の潮流」は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。

今回の報告書「世界経済の潮流2018年I」は、民間債務の増加がもたらす世界経済のリスクについて主要国を中心として点検するとともに、世界経済全体とアメリカ、ヨーロッパ、アジアの3地域それぞれの経済動向の特徴を整理し、今後の展望やリスクを分析しています。

第1章では、世界金融危機後、世界の主要中央銀行で大規模な金融緩和が行われたことを背景として、歴史的に高い水準にまで積み上がった民間部門の債務に着目し、そこから世界経済にリスクや脆弱性が蓄積されている可能性について検証しています。民間債務全体、家計部門の債務、企業部門の債務、国際的伝播に分けて、債務規模の大きい主要国を中心として分析を行っています。現在の民間債務の状況を総合的にみると、金融危機につながるようなリスクが高まっている状況ではないものの、企業部門の債務が急激に増加した中国や、世界金融危機後も住宅価格が大きく上昇し、家計部門の債務が増加傾向にあるカナダ等、一部の国の民間債務の状況には留意する必要があると指摘しています。

第2章では、主要地域別に経済の現状と見通しを分析しています。世界経済は緩やかに回復しており、2017年に続き18年も世界同時進行の回復が続いています。ただし、広がりを見せている貿易制限的措置の動向等留意すべきリスクも存在します。アメリカは、着実な回復を続けており、世界金融危機以降約9年にわたる景気回復が継続しています。18年には税制改革も実施され、当面は着実な回復が続くと見込まれますが、通商政策を含め政策の動向には不確実性が存在します。ユーロ圏については、緩やかな回復が続いています。18年1~3月期には、悪天候等の一時的要因もあり回復のスピードが鈍化しましたが、今後は緩やかな回復が続くと見込まれます。英国では、景気回復が緩やかになっています。EU離脱交渉の事実上の交渉期限が今年10月に迫る中、EU・英国間の通商関係を始めとして残された課題も多く、そうした不透明感が経済の重石となっています。中国では、景気は持ち直しの動きが続いています。ただし、不動産価格や過剰債務問題の動向、米中の貿易政策の動向には留意が必要です。

2018年上半期は、反グローバル化傾向の広がりや、主要国による貿易制限措置の発動等、世界経済のリスクが昨年よりも強く意識された半年間となりました。世界経済が大きな動きを見せる中で、本書の分析が世界経済の今後の展望を考える上での一助となれば幸いです。

平成30年7月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

中村 昭裕

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