まえがき

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「世界経済の潮流」は内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。

今回の報告書「世界経済の潮流2016I」は副題が「世界経済の直面するリスクと課題」で、世界金融危機後の世界経済の成長鈍化の要因について検証するとともに、世界経済成長の重石となりえるリスクを整理し、世界経済が回復を取り戻していくための課題や方策について、具体的に議論しています。

第1章では、世界金融危機後の世界経済の成長鈍化の背景を、中国、中国以外の新興国、先進国それぞれについて分析しています。中国では、いわゆる4兆元の景気対策からの調整が続き、投資や輸入が弱い動きとなっている状況を分析しています。また、中国経済の減速や、資源価格の下落の影響により成長率が低下している新興国経済の動向も検討しています。先進国では、いわゆる「長期停滞論」が唱えられる中、設備投資の回復の遅れとその背景や少子高齢化の経済成長への影響等を分析しています。その上で、世界経済の持続的な成長に必要な政策について議論を行っています。

第2章では、世界経済の主要なリスクとして中国経済の構造調整と先行きに対する懸念、原油価格の変動、英国のEU離脱問題を取り上げ分析しています。中国経済では過剰設備や過剰債務の調整の遅れ、原油価格の急速な下落が国際金融市場の変動を通じて景気を下押しするリスクを指摘しています。さらに、新たなリスクとして英国のEU離脱問題を取り上げ、不確実性の高まりにより英国を中心に景気が下押しされる可能性に加え、自由な貿易・投資の流れが弱まることの影響や、英国に集積する金融業への負の影響等について論点整理を行っています。

第3章ではどのような働き方や制度が少子高齢化社会の活力維持という観点で有効か、論じています。女性や高齢者の労働参加率の動向は働き方の柔軟度や社会保障制度、人材育成のあり方と結びついていることから、長時間労働の是正や働き方の多様化が、女性の労働参加促進の基盤となっている事例を紹介しています。また、IT化の進展に伴い、先進諸国では労働者のスキルが二極化し、中レベルのスキルの労働者数が減少傾向にあることを指摘しています。こうした技術革新に対応していくには、ITを使いこなせる人材育成が必要です。本章では併せて、高度なスキルを持つ人材を海外から自国の労働市場に惹きつけるための環境整備も重要であることを指摘しています。

「世界経済の潮流2016I」で焦点を当てたテーマの一つが、我が国で急速に進む少子高齢化への対応です。多くの先進国で少子高齢化は共通かつ深刻な課題であり、こうした課題への取組みにみられる海外の経験は、我が国の今後の政策を考える上での示唆に富んでいます。本報告書が我が国の経済財政政策運営を考えていく上での一助になれば幸いです。

平成28年8月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

井野 靖久

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