まえがき
「世界経済の潮流」は、内閣府が年に2回公表する世界経済に関する報告書です。
本報告書の第1章では、14年6月末から15年1月末にかけて原油価格が50%以上下落したことを踏まえ、原油価格下落の背景を探るとともに、原油価格下落の世界経済に与える影響を概観しております。原油価格の下落は実質所得の増加、企業の生産コスト低下等を通じて世界経済全体の成長率を押し上げることにつながりますが、産油国での企業収益や設備投資の下押し圧力といったデメリットも現れています。本報告書では、先進国、アジア新興国、産油国、国際金融への影響と今後のリスクを総合的に分析しております。
第2章では「各国編」として、アメリカ、ヨーロッパ、中国についてそれぞれ分析を行い、最後に世界経済の見通しとリスクを概観しています。
アメリカ経済については、金融政策正常化に向けて歩みを進めつつある中、焦点となっている雇用及び賃金の動向として小売等における賃上げの動き等について分析しています。また、構造的な課題として中間層を取り上げ、雇用の二極化が進む中で、労働者のスキルを向上させるためには教育や職業訓練が一層重要になっていると分析しています。
ヨーロッパ経済については、個人消費を中心に持ち直しているものの投資が依然として低調な状況や欧州投資プラン等を通じた持続可能な成長を実現するための取組等を分析しています。また、15年3月から欧州中央銀行は国債購入を含む量的緩和を開始しましたが、これによりユーロ安による輸出拡大や企業向けの貸出が増加傾向にあるなどの効果がみられると分析しています。
中国経済については、景気の拡大テンポは一段と緩やかになっていますが、この背景の一つとして、中国政府がこれまでの高成長の負の遺産ともいえる過剰設備や過剰信用の解消といった構造改革を推進し、成長の質を重視した政策運営を実施していることを挙げています。また、こうした中国経済の減速がアジア主要国の輸出の減少といった影響を及ぼしていると分析しています。
我が国の経済財政政策を適切に運営するためには、その前提となる世界経済の現状や先行きのリスク等についての的確な把握が極めて重要です。本報告書がその理解を深める一助となれば幸いです。
平成27年6月
内閣府 政策統括官(経済財政分析担当)
田和 宏