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第2章 再び回復が加速する世界経済

第4節 ヨーロッパ経済

1.ヨーロッパ経済の現状

(1)ヨーロッパ経済の景気は二極化

  ヨーロッパ経済は、07年秋からの原油価格高騰を背景に、世界金融危機発生前から景気は悪化していたが、08年9月の世界金融危機発生による景気後退の深刻化により、実質経済成長率はマイナス幅が拡大し、09年1~3月期にユーロ圏全体では前期比年率▲9.6%を記録した。その後、09年7~9月期からユーロ圏全体の実質経済成長率はプラスに転じ、その後7四半期連続でプラスとなるなど、ヨーロッパ地域の景気は総じて持ち直している(第2-4-1図)。
  しかしながら、国ごとにみるとばらつきが大きく、二極化している。主要国についてみると、経済規模が大きいドイツ(1)では輸出主導で景気が回復し、ヨーロッパ経済全体をけん引しているほか、フランスでも内需を中心に緩やかに回復している。英国では10年夏頃いったん持ち直したものの、10年冬頃からは足踏み状態となっている。一方、南欧諸国についてみると、実質経済成長率が低い伸びないしマイナスとなっている(前掲第2-4-1図)。
  また、11年1~3月期の実質GDPの水準をみると、景気が回復しているドイツでは世界金融危機発生以前の08年1~3月期の水準まで回復した一方で、ユーロ圏全体では世界金融危機発生以前の08年1~3月期の水準まで依然として回復しておらず、英国ではピークの95.9%の水準にとどまっている。また、ギリシャでは91.4%と大きく落ち込んでいる(第2-4-2図)。
  さらに、実質GDPを需要項目別にみると、これまでのヨーロッパ経済の持ち直しは輸出の回復による外需主導であったが、雇用情勢に改善がみられ、全体としては、景気の持ち直しが外需から内需に波及しているものとみられる(再掲第2-4-2図)。特に、ドイツでは、輸出の伸びが雇用情勢、更には所得環境の改善に結びついており、失業率の低下や失業者数の減少が著しい。また、個人消費は、緩やかに増加している。
  先行きに関する企業及び消費者のマインドの動向についてみると、輸出の増加により生産が増加していることから、主要国であるドイツ、フランス、英国のいずれにおいても、企業マインドは改善している。一方、消費者マインドについてみると、いったんは改善したものの、消費者物価上昇率の上昇や厳しい財政緊縮策を背景に、10年秋以降おおむね横ばいとなっており、好調な企業マインドとは対照的な動きとなっている。また、水準でみても、企業マインドでは「良くなる」の回答数が「悪くなる」の回答数より多いが、消費者マインドでは「悪くなる」の回答数の方が多い(第2-4-3図)。

(2)雇用情勢は改善がみられるものの国ごとにばらつき

  ヨーロッパの雇用情勢は、08年9月の世界金融危機発生による景気後退の深刻化により、失業率が10%近傍で高止りするなど厳しい状況が続いてきた。とりわけスペインの失業率は、住宅バブル崩壊の影響が著しかったことから20%台で推移し、アイルランドやポルトガルでも失業率は10%以上の高水準で推移してきた。しかし、10年冬頃から全体としては、輸出や生産の増加が波及し、雇用に改善がみられる。失業者数をみると、ユーロ圏では5か月連続で減少している。国ごとに11年1~3月期の失業者数をみると、ドイツでは11万3千人減少、フランスでは3万人減少している。また、ユーロ圏の失業率をみると、10年後半頃から改善をみせ、11年3月には9.9%と失業率はわずかながら低下している。
  ただし、雇用情勢の改善状況は、国ごとにばらつきがみられる。ドイツでは11年4月の失業率及び失業者数が東西ドイツ統一後の最低水準を更新した一方、スペインやポルトガルといった南欧諸国等では、失業率は依然として高い水準で推移している(第2-4-4図)。
  年齢別にみると、若年層の失業率(25歳未満)は、11年3月には19.8%となっており、25歳以上の失業率である8.8%に比べると高い水準が続いている。しかし、10年以降の推移をみると、25歳以上の失業率が横ばいで推移している一方で、若年層の失業率は21.0%(10年4月)から19.8%(11年3月)へと改善が進んでいる。
  また、長期失業率(労働力人口のうち1年を超えて失業にあるものの割合)をみると、ドイツでは改善が進む一方、南欧諸国等では依然として厳しい状況が続いている。(第2-4-5図)。

(3)成長のけん引役である貿易構造の変化

(i)ドイツがけん引するEUの輸出
  ヨーロッパでは、99年の統一通貨ユーロ導入により経済統合が進展した。以下では、このような背景の下、2000年代のヨーロッパ経済の成長をけん引した貿易構造の変化についてみてみよう。EU加盟国の輸出は、2000年代に入り08年まで増加したが、世界金融危機により一時大きく落ち込んだ。その後、世界景気の回復やヨーロッパ地域の景気の持ち直しにより、輸出は増加し、EU域外向け輸出については世界金融危機前の水準を超えた。EU域内向け輸出についても、危機前後の水準まで回復した。EU域内向け輸出が占める割合をみると、08年までは68%前後で推移していたが、中国やロシア等新興国向け輸出が増加したため、09年以降低下し、10年に65%となっている(第2-4-6図)。
  EU主要国のドイツ、フランス、英国の2000年代の輸出をみると、ドイツでは一貫して力強く増加している一方、英国及びフランスではドイツと比べて増加幅が小さい。特に数量ベース(2)ではフランス及び英国はむしろ減少しており、輸出は振るわなかったといえる(第2-4-7図)。
  この間の三か国の輸出で増加の寄与が大きい周辺国向け輸出と新興国向け輸出について特徴をみていこう。周辺国向け輸出では、ドイツ・フランス間や中東欧諸国等の近隣諸国に向けた輸出の増加が顕著となっており、EU域内諸国間での生産ネットワークの発展がうかがわれる。また、新興国向け輸出についてみると、ドイツやフランスでは、中国をはじめとする東アジア向け輸出及びロシア向け輸出の増加が、経済発展に支えられた需要の増加を背景として、顕著である(第2-4-8図)。以下では、新興国と周辺諸国との貿易関係を財別統計を交えて詳しくみていこう(3)

(ii)ユーロ域内では、近隣諸国との生産ネットワークが形成
  まず、ドイツ、フランスについてみてみよう。
  ドイツの輸出をみると、特に、ポーランドやチェコ、スロバキアといった中東欧諸国や、フランス、ベルギー、ルクセンブルク向けといった国境を接する諸国向けの寄与が大きい(前掲第2-4-8図)。ドイツとこれら周辺国との貿易関係を財別にみると、主に3つの特徴が指摘できる(第2-4-9図)。第一に、ポーランドやチェコ、スロバキアといった中東欧諸国向けの輸出においては、最終財に比べ中間財が大きく伸びた。また、これらの国からの輸入においても最終財に比べ中間財の輸出の増加が著しく、ドイツ・中東欧諸国間で相互に中間財を取引する動きが活発化していることが分かる。背景には、中東欧諸国政府が実施している法人税減税等の企業誘致策や低い労働コストにより、ドイツ企業が部品工場等を建設したことや、貿易障壁の削減により、国境を越えた中間財の貿易を介して最終財が造られるという生産ネットワークが構築されてきていることが考えられる。実際に、ドイツの自動車部品メーカーがポーランドに工場を展開している。
  第二に、ドイツ・フランス間について、両国が単一通貨ユーロに参加して以降の2000年代の貿易をみると、中間財貿易が活発化しており、中東欧諸国と同様に生産ネットワークの構築がうかがわれる。ドイツ・フランス間の生産ネットワークの例としては、航空機製造が挙げられる。ドイツやフランス等の複数の国で部品が製造され、組み立てられるといったように、1か国内ではなく、複数国間で部品等を取引することで航空機の生産が行われている。
  第三に、ドイツからベルギー、ルクセンブルク向けの輸出については中間財よりも最終財の増加が大きい一方で、これらの国からのドイツ向け輸出については中間財の増加が大きい。中東欧諸国とは異なり、ベルギー、ルクセンブルクは、相互に部品等の中間財を輸出するというよりも、ドイツに中間財を供給する役割を担っている。
  フランスから周辺国への輸出をみると、ドイツ向けに加え、ベルギー、ルクセンブルク、イタリアや、ポーランド等の中東欧諸国向け輸出が増加した。2000年から08年までのフランスからの輸出を財別にみると、中東欧諸国向けについても最終財より中間財の増加が大きい(第2-4-10図)。中東欧諸国からの輸入についても最終財より中間財の増加の方が大きく、フランス・中東欧諸国間についてもドイツと同様、中間財を相互に取引する生産ネットワークの構築がうかがわれる。一方、ベルギー、ルクセンブルク向け輸出については、最終財が中間財を上回って増加したものの、これらの国からの輸入については中間財が最終財を上回って増加した。

(iii)素材輸出が増加する英国
  次に、英国の輸出をみると、ドイツやフランスといったユーロ圏諸国とは異なる発展をしている。2000年から08年にかけての輸出を国別にみると、中国やロシアといった新興国向けや、隣国であるアイルランド、ドイツ、オランダ向けに加え、アメリカ向け輸出が増加している(前掲第2-4-8図)。
  英国の財別輸出をみると、中間財や最終財のほかにドイツ等への素材輸出が増加している(4) (5)第2-4-11図)。

(iv)新興国需要による輸出の増加
  ドイツ、フランス、英国の3か国は新興国との貿易も増大している。ここでは寄与の大きい中国とロシアの貿易についてみてみよう。中国向け輸出では最終財輸出の増加が堅調であるが、内訳をみると、特にフランスでは航空機の増加による輸送用機器の増加が大きい(第2-4-12図)。また、中国における所得水準の上昇により、ドイツ及び英国の中国向け最終財輸出では、乗用車が目立って増加した。ドイツ及びフランスのロシア向け財別輸出をみると、乗用車等の輸送用機器や産業用機械類といった最終財が中間財を上回って増加した。
  なお、これら3か国の中国とロシアからの輸入をみると、中国からの輸入では産業用機械類や、衣服・靴や携帯電話等の準耐久消費財の輸入拡大により、最終財が著しく増加している。一方、資源国であるロシアからの輸入では、中国とは異なり、石油等の素材が著しく増加した。

  全体をまとめると、ドイツ及びフランスでは周辺国との中間財貿易が活発化しており、生産ネットワークの形成がうかがわれる。他方、英国の輸出は素材輸出が増加しており、ドイツやフランスとは異なった動きを示している。また、ドイツ、フランス、英国ともに、新興国の経済発展を背景に新興国向け輸出が増加した。


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