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第1章 歴史的転換期にある世界経済:「全球一体化」と新興国のプレゼンス拡大

第2節 世界の資本市場

3.増大するリスクに対応した経済政策

  これまでみてきたように、2000年代以降のこの10年の間で、世界の直接投資・証券投資において新興国のプレゼンスが著しく高まってきており、また、先進国企業が世界規模で活躍し、新興国で売上げをあげるようになっている中で、情報技術、金融技術の革新もあいまって、世界の金融・資本市場は文字通り「全球一体化」が進展している。
  こうした大きな流れの中で、各国の貯蓄投資バランスの問題や新興国の為替調整の問題を背景に、グローバル・インバランスが再拡大している。グローバル・インバランスの再拡大は、それ自体が必ずしも問題とはいえないが、国際的な資金フローの急激な拡大、特に新興国の潤沢な資金がアメリカの財政赤字をファイナンスする構図は、(1)アメリカの財政規律の緩みや、(2)金融機関が過度に高リスク、高利回りを求めて新興国に資金が再流入することによる新興国のバブルの可能性といったリスク要因を内包する。また、(3)金融機関の寡占化、巨大化による金融システミック・リスク増大の可能性もある。
  過去を振り返ると、マクロ経済政策は、自国経済の安定を念頭に講じられてきた。しかし、「全球一体化」が進行する中、各国が自国にとって最適な政策を講じても、それが世界レベルでは最適な結果をもたらさない場合もある。各国は、自国の政策が他国に与える影響(波及効果)も考慮しなければならない。こうした考えに基づき、例えば、インバランスの是正に関してどのようなスピードで調整を進めていくかについての国際的な合意が必要との意見もある(24)。したがって、今後は国際社会全体としてこうしたリスクをいかに軽減するかという視点をもって政策協調を深めていくことが極めて重要である。
  一方、国際社会の主要プレイヤーの多数化・多様化により、すべての国が足並みをあわせて政策協調を進めることが難しく、実があがらない場面も多いと考えられる。我が国においては、政策当局が一体となって、内外のリスクを絶えずチェックし、先行きリスクの検出に努めるとともに、リスクの多い国際金融環境下にあっても安定的なマクロ経済環境を維持できるよう、慎重な経済政策運営、特に財政の持続可能性を確保し、リスクにさらされないようにすることが肝要である。


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