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まえがき

 「世界経済の潮流」は2002年春に創刊し、年2回公表しています。第3号にあたる本書は2部から構成され、政策トピックを取り上げた第I部ではデフレと産業再生について分析しました。第II部では2003年の見通しを中心に世界経済の展望を行いました。さらに、資料として国・地域別の経済見通しを掲載しています。本書のポイントは次のように要約できます。
 (1)デフレ:我が国では緩やかなデフレが続き、経済成長の阻害要因となっています。アジアでは、日本以外にも中国、香港、台湾、シンガポールにおいてデフレ傾向が生じています。このようなデフレがなぜ生じているのか、中国の影響にも留意しながらその要因を探りました。消費者物価上昇率について国際比較を行うと、ほとんどの国・地域において物価の動きは需給要因と貨幣要因によって基本的に説明することが可能です。したがって、デフレを引き起こす要因としては、供給超過やマネー面の問題が主因と考えられます。我が国のデフレの原因に関して中国の影響を強調する見方がありますが、本書での分析によると、中国製品の急増が物価引下げ圧力の一因となっている可能性は否定できませんが、日本のデフレに与える影響度は小さいことが分かりました。
 (2)産業再生:本年4月に我が国では産業再生機構が発足しました。海外における産業再生の事例としては北欧・アジア危機諸国の経験があり、本書ではこれをまとめました。これらの国々では、産業再生は金融危機への対応という側面もあっため、政府が強力な権限を行使することもみられました。我が国の産業再生機構は、民間の事業再生を支援することを目的としており、やや性格を異にしていますが、北欧・アジア危機諸国における産業再生成功の条件は参考となるものです。重要な教訓は、民間における事業再生の蓄積が充分でないときに、政府が関与することによってこれを促進し、不良債権問題を早期に克服できる可能性があるということです。
 (3)世界経済の展望:主要国の企業部門はITバブル崩壊による影響を引きずっています。そのため、2002年に家計消費が主導したアメリカの景気回復期においても、設備投資や雇用の回復が遅れていました。そうした中で起こった年後半からのイラク情勢の緊迫は、先行き不透明感を高め企業マインドの悪化をもたらした上に、失業率の上昇や原油価格の上昇を通じて消費者マインドを冷え込ませ、世界の景気回復力を弱めました。さらに、2003年に入るとアジアを中心に新型肺炎が流行し、先行き不透明感を高めています。イラク戦争は短期終結シナリオで推移しましたが、2003年前半の世界経済は弱い動きが続くものと考えられます。
 デフレや産業再生、さらには世界経済の展望について理解を深めていただく上で本書が一助となれば幸いです。

 平成15年4月

内閣府 政策統括官
(経済財政−景気判断・政策分析担当)
谷内 満

 

 

 


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