世界経済の潮流　2002年春

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第Ⅱ部のポイント

１．海外主要国は同時減速から回復へ

●2001年の海外経済はＩＴ不況によって同時に減速した。しかし、財政金融面からの景気刺激策の効果があり、さらにＩＴ部門の受注は底固く、在庫調整は速く進展した。
●2002年に入ってからは、アメリカやアジアを中心に生産が上向くなど景気回復の動きが進んでいる。アメリカの景気回復が世界経済を主導し、年後半には海外主要国がそろって回復するというシナリオが中心的な位置付けとなっている。

２．世界同時減速はアメリカのITバブル崩壊によるIT不況

●世界同時減速のきっかけは、アメリカのＩＴバブルの崩壊であった。需要予測が過大であったことから、バブル崩壊によって過剰な在庫や生産設備の調整が必要となった。そのため、ＩＴ関連企業は大幅な生産縮小、雇用調整を実施した。
●ＩＴ不況の結果、ＩＴ生産比率、輸出比率の高い国ほど成長率の低下が大きかった。他方、外需依存度が低く、内需が堅調であった国は影響が比較的軽微であった。
●世界におけるＩＴ関連部門の分業進展によって輸出入の連鎖が深化したため、ＩＴ不況は瞬時に世界主要経済に伝播した。特にアジアではＩＴ部門への依存度が高まっており、その影響がより増幅した。ＩＴ製品の比較優位をみると、地域別にはアジアの優位が高く、中国、韓国、台湾の優位が高まっている。海外への生産移転もあり、日本の比較優位指数は低下する結果となっている。

３．景気減速から早期に立ち直った要因

●2001年後半以降、ＩＴ製品の在庫調整が急速に進展したことが大きい。この理由としては、ＩＴ製品は製造委託の割合が高く、自社生産の場合に比べて発注メーカーの生産調整が容易になっていること、ＩＴ製品への需要が引き続き根強いことが挙げられる。
●原油価格の下落が企業収益を下支えするとともに、家計の実質購買力の維持につながった。
●財政面からは中期的な減税策とテロ後の緊急支援策が、景気下支えに効果を挙げた。また、金利が過去最低水準となるような積極的な金融緩和策が、とりわけ個人消費の増加に寄与した。

４．今後の景気には下方リスクもあるが、年後半には海外経済は回復へ

●今後の景気に明るい材料としては、アメリカにおける生産性上昇率が維持されていること、労働コスト低下で企業収益は改善する可能性などが挙げられる。
●下方リスクとしては、アメリカにおける企業の資金調達環境が厳しいこと、家計および企業のバランスシートの悪化などがあり、ダブルディップの不安がある。
●全体としては、アメリカの設備投資の増加が期待できる環境が整いつつあり、アメリカの気回復が世界に波及し、海外経済は緩やかながら回復へ向かう見込み。

第II部　世界経済の展望――景気回復への道筋

　海外経済（日本に関係の深い22か国/地域）は2000年に５％台半ばの成長を実現したが、2001年の成長率は１％台半ばにまで急速に減速した。これは、ＩＴ（情報通信技術）部門の不況を主因とする世界同時減速であった。とりわけ、９月の同時多発テロの発生によって、同時減速は同時不況に転ずるリスクが高まった。
　しかし、多くの経済では財政金融面からの景気刺激策の効果があり、さらに、アメリカを中心としてＩＴ部門の受注は底固く、秋以降は在庫調整が予想よりも速く進展した。その結果、アメリカやアジア経済において早くもＩＴ部門の生産が下げ止まるようになった。
　2002年に入ると、生産が上向くなど景気底入れの動きがみられるようになった。とりわけ、アメリカでは消費を中心に景気の回復傾向が明らかになっている。
　今後については、遅れて後退局面入りした欧州経済の調整が続いていることに加え、アメリカ経済中心に下方リスクも考えられるが、海外経済は後退局面をおおむね脱し、回復への動きをたどるシナリオが確かさを増している。
　以下では、まず2002年に関する経済見通しのポイントを整理する。次に、2001年の世界同時減速を過去の局面と比較しその特徴を分析した後、どのようなメカニズムで回復へ転じつつあるのかを検討する。最後に、海外経済の今後の動向に関するリスクを整理し、上述のようなシナリオが確実になりつつあると判断した理由を明らかにしたい。

第１章　2002年の経済見通し

　本章では、民間機関の経済見通し（４月10日までの公表分）を基に今後の経済動向のポイントを明らかにしておこう（第II-1-1表）。なお、国/地域別のより詳しい動向は別添の資料を参照されたい。

１．アメリカ
　2002年に景気は回復し2.5％程度の成長となる。在庫積み増しの動きから成長率は年前半に急回復し、年後半にかけて３％台後半の成長を実現する。昨秋同時多発テロ後に公表された見通しに比べて上方修正（１％強）されている。

●在庫積み増しを足がかりに内需主導の成長へ
　年初には生産や雇用が回復に転じており、景気は回復の動きがみられる。予想よりも早く回復局面に入っている要因としては、財政面からの景気刺激策（減税、政府支出の増加等）や金融緩和策が大きな効果を与えたことに加え、消費マインドが堅調で消費の持ち直しが早かったことが大きい。
　１～３月期には在庫調整がほぼ終了し、前向きの在庫積み増しが成長を先導するとみられる。そのため、年前半に成長率が急回復し、その後年央ごろには設備投資が持ち直すことによって、年後半は３％台後半の成長率で推移するものと見込まれる。

●景気がダブルディップに向かう下方リスク
　今後の見通しにとって明るい材料としては、アメリカの景気回復が世界経済の回復を牽引し、アメリカ経済にも輸出の増加という好ましい効果が跳ね返ってくる可能性が考えられる。
　しかしながら、いくつかの下方リスクが考えられる。①年前半の在庫積み増しが急速すぎて、最終需要の増加が伴わない場合には、年後半にその反動減から生産が伸び悩むおそれがある。②さらに、企業収益の回復が遅れる場合には、設備投資の回復に悪影響が及び、ダブルディップ（二番底）に向かう可能性が懸念される。③家計や企業のバランスシートが悪化していること、金融緩和にもかかわらず企業の資金調達は厳しい環境にあることなどの問題もある。④また、景気回復によって経常収支赤字が大きな額に達し、ドルの減価材料となるおそれも考えられる。

２．アジア
（１）ＮＩＥｓ、ＡＳＥＡＮ４
（ＮＩＥｓ：韓国、台湾、香港、シンガポール）
（ＡＳＥＡＮ４：インドネシア、タイ、マレイシア、フィリピン）
　2002年に景気は回復し、ＮＩＥｓ、ＡＳＥＡＮ４ともに成長率は3.3％程度になる。2001年後半からＩＴ部門の輸出が景気回復を先導してきており、2002年には個人消費や設備投資も増加する。昨秋の見通しに比べて上方修正（ＮＩＥｓでは0.4％、ＡＳＥＡＮ４では0.8％）されている。

●ＩＴ分野を中心とした輸出主導の成長
　韓国が先頭を切って景気回復しており、堅調な消費に加え、建設投資も増加している。アメリカの景気回復の動きから、台湾、香港、シンガポールではＩＴ部門が回復している。タイでは個人消費、建設投資が堅調に推移している。ＩＴ不況の影響があまりみられなかったインドネシア、フィリピンでは内需が拡大を続けている。
　こうしたことから、今後もアメリカ経済の回復が製造業を中心とした生産回復を牽引していくものと考えられる。輸出が景気回復を主導するなかで、設備投資も緩やかに増加していくものとみられる。さらに、景気後退を緩やかなものにした金融緩和策に加え、減税や政府支出追加による財政面からの措置も景気回復を支えると見込まれる。

●アメリカ経済の行方が大きな影響を与える
　アジア経済では、域内貿易連関が深化しており、ＩＴ生産の拡大が域内連関を通じてアジア経済の景気拡大につながるという好循環が起こりうるのは、明るい材料である。
　他方、見通しの下方リスクとしては、生産の回復が急速であるため、アメリカ景気がダブルディップに向かうと在庫が急増するおそれがある。また、設備投資に過剰感が残っているために、設備投資の回復が予想よりも遅れる可能性も考えられる。

（２）中国
　2002年は輸出の回復が生産増加につながり、7.2％程度の成長となる。消費、投資は堅調に推移すると期待されるが、年間を通じてデフレ圧力の強い状況が続くと考えられる。昨秋の見通しに比べてわずかに下方修正（0.2％）されている。

●消費、投資が内需を主導
　輸出のウエイトが相対的には低くＩＴ不況の影響はそれほど強くはなかったが、2002年に入って輸出の回復が始まっている。それが、生産の持ち直しをもたらしている。また、ＷＴＯ加盟が実現し外国資本の流入が一層増加している。
　こうした動きの中で、設備投資は増加するものと期待され、公共事業の追加も投資拡大をもたらす。2001年に行われた公務員給与の引上げから消費も増加すると考えられ、内需が堅調に推移すると見込まれる。しかし、供給が過剰になっているためデフレ圧力が働き続ける。また、輸入自由化によって輸入は増加し、貿易収支黒字は縮小するとみられる。

●過剰な供給構造が下方リスク
　明るい材料として、世界経済の回復のなかで外国資本の投資ブームが一層強まり、成長促進要因となる可能性がある。
　他方、下方リスクとしては、都市部失業率が上昇しており、消費への影響が懸念される。また、最大の輸出先はアメリカであり、アメリカ経済にダブルディップが生ずる場合は輸出の減少をもたらし、供給過剰を強める可能性がある。さらに、ＷＴＯ加盟に関連しては、とりわけ安い農産物輸入が農業部門に与える影響を注視する必要がある。

３．欧州主要４か国
（ヨーロッパ４：ドイツ、フランス、イタリア、イギリス）
　2002年は徐々に回復の動きが強まり、1.3％程度の成長となる。年前半は厳しい状況が続くが、輸出の伸びが回復を先導することによって年央には景気回復が明らかになる。昨秋の見通しに比べて下方修正（0.4％）されている。

●輸出の回復をきっかけに緩やかな回復
　年初以降、対米輸出が増加し、生産が下げ止まりつつある。こうした動きを先取りして、昨年末に持ち直した企業景況感は改善を続けている。さらに、財政の自動安定化機能が働き、財政は景気を下支えしている。
　このように、アメリカ経済の回復に応じて輸出が景気回復のきっかけになると考えられる。伸びが鈍化した消費は、減税の効果もあり、年央以降は再び伸びを高めるものと考えられる。さらに、設備投資は年前半に減少するものの、年末までには持ち直すと期待される。

●景気回復と物価動向のバランスが今後の鍵
　明るい材料としては、ヨーロッパ域内の貿易連関を通じて回復の動きが好循環を強める可能性がある。
　他方、下方リスクとしては、失業率が増加傾向で推移し、消費の回復が緩やかになる可能性が考えられる。また、成長率が潜在成長率を下回っているなかで緩やかな物価上昇が続いていることから、景気減速を緩やかにする上で役割を果たした金融緩和策の転換時期が重要な鍵を握っている。

４．海外経済の概観
　以上の地域別の動向を総合すると、日本にとって関係の深い海外経済全体としては、2002年に3.0％程度の成長に回復する見込みである（第II-1-2図）。また、消費者物価上昇率は2.2％程度になると見込まれる。また、過去10年のトレンド成長率と比較すると成長達成度（2002年の成長率/過去10年の平均成長率）は押しなべて１を下回り、需給面から物価には下押し圧力が働く状況が続くと見込まれる（第II-1-3図）。
　2002年３月以降は、中東情勢の不透明感が強まるなかで原油価格が大幅に上昇している。この価格動向は、世界経済に大きな影響を与えるものであり、今後の推移に十分注意していくことが必要である。

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