まえがき
「世界経済の潮流」(以下「潮流」という。)は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。今回で47回目となる潮流は「米国の通商政策の振り返りと現在地」との副題を付しています。
第1章では、第二次トランプ政権発足後の通商政策の動向を整理するとともに通商政策が米国経済及び世界経済に及ぼした影響について分析しています。第二次トランプ政権は過去に類をみない広範かつ高税率の追加関税措置を実施し、実効関税率はGATT成立による貿易自由化進展前の水準まで後戻りしました。その結果、米国の関税収入は増加しましたが、目的とされていた貿易赤字の縮小には現在まで大きな変化がみられず、米国内の製造業の雇用者数も減少傾向となっています。また、関税引上げに伴う米国の消費者物価の上昇が予想されていましたが、企業による価格転嫁が進んでおらず、これまでのところ消費者物価の上昇は小幅にとどまっています。各国・地域の輸出動向をみると、貿易の対米依存度の高い国や高関税を課された国では大きく下押しされたものの、AI関連需要の恩恵を受けている国では増加基調が維持されています。今回の潮流では、こうした米国の関税措置による影響について、マクロ経済モデルによる試算結果との比較も行いながら、企業の関税コスト吸収努力やAI関連需要の拡大が関税の景気下押し効果を抑制していることを明らかにしています。
第2章では、2025年後半の米国、中国、欧州の経済動向と主なリスクについて整理しています。米国では景気の拡大が続いている一方、通商政策をめぐる不透明感を背景に消費者の景況感は悪化し、関税引上げによる今後の物価上昇リスクも引き続き懸念されます。中国では、消費財買換え支援等の政策効果がはく落する中で内需が伸び悩み、景気は緩やかに減速しています。ユーロ圏では、米国の関税措置による影響を受けつつも、個人消費等の内需が成長を下支えし、景気はこのところ持ち直しがみられます。英国では、物価上昇率の鈍化により消費は持ち直しているものの、輸出に弱さがみられ、景気の持ち直しが緩やかになっています。
現時点では、米国の関税引上げに伴う影響は想定されていたよりも小幅にとどまっていますが、通商政策の動向は引き続き予断を許さない状況が続いています。さらに、景気の先行きを見通す上では、米国の厳格な移民政策や安全保障等の政策転換、各国の経済安全保障政策や金融資本市場の動向、中国経済の減速リスク等が世界経済に及ぼし得る影響についても留意が必要です。
本報告書の分析が、世界経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考える上での一助になれば幸いです。
令和8年2月
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)
吉岡 秀弥