まえがき
「世界経済の潮流」(以下「潮流」という。)は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。今回で45回目となる潮流は「中国の構造問題と世界経済への影響」との副題を付しています。
第1章では、中国経済について分析しています。中国では、近年、人口が減少に転じ、少子高齢化の進行など人口構造が大きく変化する一方、2022年前後からの不動産市場の停滞により内需が伸び悩んでおり、1980年代の改革開放以降長期にわたって続いた高成長は曲がり角を迎えています。また、一部の財については、国内需要を上回って生産、輸出され、いわゆる「過剰供給」問題が指摘されています。こうした現下の中国経済の課題を掘り下げるため、中長期的な視点から中国経済の構造を整理、分析した上で、中国における住宅価格の下落に伴う負の資産効果や、中国国内で「過剰供給」された財が輸出されることによる世界経済への影響を試算しています。
第2章では、2024年後半の欧米経済の動向を分析しています。
アメリカでは、高い金利水準にもかかわらず、個人消費を中心とした景気拡大が続く一方、所得格差に起因する消費の二極化が生じています。こうした消費の現状の分析に加え、コロナ禍後住宅価格の急伸がみられた住宅市場の状況と構造問題について分析しています。また、財の輸出入構造を詳細に確認しながら、貿易動向の分析を行っています。さらに、アメリカ国内の州別の産業構造に着目し、高成長を遂げる人口の多いいわゆるサンベルトの州と、製造業従事者比率の高いいわゆるラストベルトの州を比較するなど、立地する産業の違いが各州の長期的な経済成長に与える影響について分析しています。
欧州では、物価上昇率が低下する中で、ユーロ圏では、景気は持ち直しの動きがみられますが、とりわけドイツでは雇用不安の高まりを受けた貯蓄志向の高まりから消費が伸び悩み、また、中国向け輸出の減少によって景気は足踏みとなっています。英国では、財輸出が低迷する一方、主にアメリカ向けのサービス輸出がけん引していることから景気は持ち直しています。
このように世界経済の成長の姿にはばらつきがみられるものの、全体としては持ち直しが続くことが見込まれます。ただし、通商政策などアメリカの政策動向や、アメリカ等の長期金利の上昇を始めとする市場の動向等には留意が必要と考えています。
今回お示しした分析が、世界経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考える上での一助になれば幸いです。
令和7年2月
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)
林 伴子