まえがき

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「世界経済の潮流」(以下「潮流」という。)は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。今回で43回目となる潮流は「中国のバランスシート調整・世界的なサービス貿易の発展」との副題を付しています。

世界の景気動向をみると、アメリカでは個人消費を中心に景気は回復基調にあります。その背景には、家計のバランスシートの改善があり、家計の総資産に対する負債の比率は過去20年間で最低水準となっています。一方で、中国では、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられており、その背景にある不動産市場の停滞は、一過性の景気要因ではなく構造問題です。不動産企業は資金繰りのひっ迫を受けて負債の圧縮を優先し、投資など前向きな経済活動を抑制する「バランスシート調整」を進めており、地方政府や金融機関、家計にも影響が及んでいます。2001年のWTO加盟以降高成長を続け、今や世界のGDPの約18%を占める中国が経済成長の構造的な下押しに直面していることは、世界経済にとっても転換点となる可能性があります。さらに、欧州では、物価上昇率は低下傾向にあるものの、金融引締め及びそれに伴う利払い負担増への懸念等から、消費者マインドが悪化し、景気は弱含みとなっています。このような世界経済の広範な見取図を今回の潮流は示しています。

また、経済構造については、世界の貿易・投資構造の変化を分析しています。財貿易については、2010年代以降、世界の財貿易量の伸びが経済成長率を下回る「スロー・トレード」が指摘されてきましたが、東アジア地域における生産の内製化の進展も背景の1つとなっています。一方、サービス貿易については、アメリカの知的財産権や金融サービス、英国の保険や金融サービス等、高付加価値のサービスは高い輸出競争力を持ち、世界経済の新たなけん引役となりつつあります。しかしながら、インドや中国等ではデジタルサービス貿易に対する規制が強化されており、サービス貿易の下押しとなることが懸念されます。また、直接投資については、世界の直接投資は安全保障関連の投資審査を導入・拡大する国が近年増加するとともに、半導体産業など戦略的分野の直接投資は地域的に分化がみられ、直接投資全体の伸び率の低下や地域間の偏りが続く懸念があります。我が国としても、こうした世界の貿易・投資構造の変化を踏まえ、戦略的な対応を講じていく必要があります。

今回お示しした分析が世界経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考える上での一助になれば幸いです。

令和6年2月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

林 伴子

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