まえがき
「世界経済の潮流」は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。
今回の報告書「世界経済の潮流2019年II」は、2019年後半から20年1月頃までを対象に、米中間の貿易摩擦の影響下で減速に至った世界経済、ならびに主要国における金融政策対応をトピックとして取り上げています。また、アメリカ、中国、ヨーロッパの3地域それぞれの経済動向と主なリスクについて分析しています。
第1章では、今般の世界経済の減速局面の特徴を過去との比較により明らかにするとともに、主要中央銀行が直面している課題について議論しています。今般の減速の背景には、19年後半の米中貿易摩擦を巡る緊張の増大がありますが、両国が実施した追加関税措置だけでなく、貿易協議の進展に関する不確実性により、財貿易の縮小や製造業を中心とした生産・投資活動の停滞が世界的にみられたことが特徴として挙げられます。19年後半はまた、世界経済の減速を受けて多くの中央銀行が金融緩和に転じた時期でもありました。金融政策の課題に目を転じてみると、アメリカやユーロ圏では、世界金融危機や欧州政府債務危機を経て金融政策の手段が変化する中で、低金利・低インフレ率が続くなど、経済構造の変化への対応が必要になっています。また、中国では、小規模・零細企業の資金調達環境の改善とともに、金融市場の発展に応じた政策枠組みの確立が求められています。
第2章では、主要地域別に経済の現状と見通しを分析しています。アメリカ経済は10年以上の長期にわたり景気回復を続け、今般の減速局面において世界経済を下支えする役割を果たしてきました。設備投資は、原油価格の下落や不確実性の高まりにより減少がみられましたが、良好な雇用・所得環境の下で消費が経済を牽引してきました。中国経済は、米中貿易摩擦の影響で、緩やかな減速が続いていましたが、政府・中銀の各種政策対応による景気の下支えが図られてきたところです。ユーロ圏経済は、英国のEU離脱問題や米中貿易摩擦、中国経済の減速に伴う外需の伸びの鈍化が重しとなり、19年末にかけて弱い回復となりました。英国では、EU離脱に係る不確実性の継続が投資の抑制につながったほか、生産や輸出入にも様々な影響がみられました。20年1月に英国のEU離脱が実現し、離脱そのものへの不確実性は解消されましたが、離脱後の英国・EU間の経済関係をめぐる不確実性は引き続き継続しています。
20年1月に米中間の貿易協議が第1段階の合意に至ったこと等から、世界経済の重しとなっていた不確実性が低下し、本年の世界経済は回復に向かうことが期待されていました。しかしながら、2月以降の新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済への新たな下方リスクとなっており、金融政策の役割も期待されるところです。本書の分析が、今後、さらなる下振れが見込まれる世界経済や、各国・地域の金融政策を理解する上での一助となれば幸いです。
令和2年2月
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)
増島 稔