まえがき

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「世界経済の潮流」は、内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。

今回の報告書「世界経済の潮流2018年II」では、2018年が世界経済のリスクとして通商問題が強く意識された1年であったことを踏まえ、米中貿易摩擦の経済への影響について検証するとともに、世界経済全体とアメリカ、アジア、ヨーロッパの3地域それぞれの経済動向と主なリスクを分析しています。

第1章では、米中貿易摩擦の背景やこれまでの経緯を整理した上で、そのアメリカ、中国及び世界経済への影響を検証し、貿易摩擦が米中両国の貿易や、世界の製造業の景況感にマイナスの影響を与えていることを示しています。さらに、米中貿易摩擦の一因になったともされる中国の輸出の高度化に着目し、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)の中でのアメリカや中国の位置付けの変化や、GVCを通じた米中貿易摩擦の影響の波及可能性について、付加価値貿易統計を用いて分析しています。こうした分析を通じて、2010年代には世界全体のGVCの停滞がみられる中で、中国の輸出が高付加価値化していることや、アメリカの輸出産業が中国からの輸入品への依存度を高めていることなどを明らかにしています。また、GVC上での中国とASEANの結びつきが強まっており、米中貿易摩擦による中国からの輸出の減少が、経済規模が比較的小さいASEAN等のアジア地域に大きな波及効果をもたらす可能性も指摘しています。

第2章では、主要地域別に経済の現状と見通しを分析しています。世界経済は全体としては緩やかに回復しています。ただし、アジアやヨーロッパの中で一部に弱い動きがみられるなど、世界各国・地域で同時進行の景気回復がみられた18年半ばまでと比較すると、成長のペースが緩やかになっています。その中でも、アメリカ経済は着実な回復を続けており、9年半を超える長期の景気回復が続いています。中国では、急拡大した企業の債務の削減に向けた取組に加え、米中貿易摩擦の影響もあり、景気は緩やかに減速しています。中国経済の減速は、アジア各国の中国向け輸出の低下につながるなど、中国以外のアジア経済にも波及している点にも留意が必要です。ユーロ圏では、ドイツやイタリアなど一部に弱さがみられるものの、緩やかな回復が続いています。また、英国経済は、EU離脱に伴う不透明感が重石となり、弱い回復となっています。

現在の世界経済は、米中貿易摩擦や英国のEU離脱問題など様々なリスクに直面しています。そのような中で、世界経済の状況を正確に把握する重要性は一層高まっており、本書の分析がその一助となれば幸いです。

平成31年3月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

増島 稔

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