まえがき

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「世界経済の潮流」は内閣府が年2回公表する世界経済の動向に関する報告書です。

今回の報告書「世界経済の潮流2017年II」は、欧米主要国における賃金の伸び悩みの要因を検証するとともに、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの3地域それぞれの経済動向の特徴を整理し、今後の展望や主なリスクを分析しています。

第1章では、主要先進国において、物価上昇率が各国・地域の物価目標等を下回っている背景の一つと考えられる賃金上昇率の伸びの低下について、その要因を整理・分析しています。労働需給の緩み(スラック)の存在、労働生産性上昇率の鈍化、労働賃金交渉力の低下、予想インフレ率の低下といった要因を取り上げ、アメリカ、ユーロ圏、ドイツ、フランス及び英国の状況を比較しています。欧米主要国では、失業率が近年低下する一方、賃金が伸び悩む状況は共通しているものの、各要因の影響の大きさについてはアメリカとヨーロッパで差異があることを指摘しています。

第2章では、主要地域別に経済の現状と見通しを分析しています。世界経済は緩やかな回復が続いており、17年には成長が加速し、世界各国において同時進行で景気が回復しています。アメリカについては、着実な回復を続けており、今回の回復局面は過去3番目の長さに達しているとみられます。17年は税制改革法案が成立するなど経済政策に一定の進展もみられましたが、依然として政策の先行きには不確実性があります。ユーロ圏については、全体として緩やかな回復が続く一方で、圏内主要国間では回復の程度に差もみられます。例えば、南欧の中でもスペインとイタリアでは、不良債権処理のスピードや、IT等の投資の差といった要因により、経済成長率に差があります。英国では、EU離脱交渉に伴う不透明感などから、回復が緩やかになっています。今後の交渉の行方やその経済への影響が注目されます。中国では、インフラ投資などの各種政策効果もあり、当面、景気は持ち直しの動きが続くと見込まれます。一方で、不動産価格や過剰債務問題の動向には留意が必要です。アジアの中でも、韓国及び台湾では、世界的な半導体の需要拡大を受け、輸出が増加し、生産も持ち直すなど、景気が回復しつつあります。

世界経済は、同時進行的に景気が回復する局面に入っていると考えられますが、今回取り上げた賃金の伸び悩みは各国・地域に共通した課題となっています。本書の分析が、日本及び世界経済の課題に対する今後の展望を考えるための一助となれば幸いです。

平成30年1月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

中村 昭裕

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