第4章 第1節

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世界経済の見通しと主なリスク

世界経済は、アメリカ経済の回復、ユーロ圏経済の緩やかな回復が続くことなどにより、緩やかな回復が続くと期待される。

国際機関の見通しでは、世界経済の実質経済成長率は15年通年ではおおむね3%程度、16年にはおおむね3%台半ばの成長になるとみられている。15年には中国経済の減速の影響を受けて成長率の低下した新興国経済についても16年には持ち直すことが見込まれている(第4-1-1表)。

第4-1-1表 国際機関による見通し
第4-1-1表 国際機関による見通し 世界経済の実質経済成長率 前年比 IMF(市場レートベース) 13年(実績) 2.4% 14年(実績) 2.7% 15年実績見込み 2.5% 16年見通し15年11月時点 3.0% IMF(購買力平価ベース) 13年(実績) 3.3% 14年(実績) 3.4% 15年実績見込み 3.1% 16年見通し15年11月時点 3.6% OECD(購買力平価ベース) 13年(実績) 3.2% 14年(実績) 3.3% 15年実績見込み 2.9% 16年見通し15年11月時点 3.3% 欧州委員会(購買力平価ベース) 13年(実績) 3.2% 14年(実績) 3.3% 15年実績見込み 3.1% 16年見通し15年11月時点 3.5% 前年比 15年(市場レートベース) IMF 15年4月 2.9% 15年7月 2.6% 15年10月 2.5% OECD 15年6月 - 15年9月 - 15年11月 - 欧州委員会 15年1月 - 15年5月 - 15年11月 15年(購買力平価ベース) IMF 15年4月 3.5% 15年7月 3.3% 15年10月 3.1% OECD 15年6月 3.1% 15年9月 3.0% 15年11月 2.9% 欧州委員会 15年1月 3.6% 15年5月 3.5% 15年11月 3.1% 16年(市場レートベース) IMF 15年4月 3.2% 15年7月 3.2% 15年10月 3.0% OECD 15年6月 - 15年9月 - 15年11月 - 欧州委員会 15年1月 - 15年5月 - 15年11月 - 16年(購買力平価ベース) IMF 15年4月 3.8% 15年7月 3.8% 15年10月 3.6% OECD 15年6月 3.8% 15年9月 3.6% 15年11月 3.3% 欧州委員会 15年1月 4.0% 15年5月 3.9% 15年11月 3.5% 個別国の実質経済成長率(3機関平均) 前年比 アメリカ 13年(実績) 1.5% 14年(実績) 2.4% 15年見通し 2.5% 16年見通し 2.7% アジア 韓国 13年(実績) 2.9% 14年(実績) 3.3% 15年見通し 2.6% 16年見通し 3.1% 中国 13年(実績) 7.8% 14年(実績) 7.3% 15年見通し 6.8% 16年見通し 6.4% ASEAN5(備考2、3) 13年(実績) 5.1% 14年(実績) 4.6% 15年見通し 4.6% 16年見通し 4.9% ヨーロッパ ヨーロッパ4(備考2、3) 13年(実績) 0.5% 14年(実績) 1.2% 15年見通し 1.6% 16年見通し 1.8% ユーロ圏 13年(実績) ▲0.3% 14年(実績) 0.9% 15年見通し 1.5% 16年見通し 1.7% (参考)日本 13年(実績) 1.6% 14年(実績) ▲0.1% 15年見通し 0.6% 16年見通し 1.0% (備考)1.国際機関は、IMF、OECD、欧州委員会。 2.「ASEAN5」は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム。 「ヨーロッパ4」は、ドイツ、フランス、イタリア、英国。 3.日本を除く個別国の実績、見通しは国際機関(3機関)の単純平均値による。ただし「ASEAN5」はIMFのみ。日本の実績は内閣府公表値(15年5月)。

一方、前述のメインシナリオに対しては、いくつかのリスク要因が存在する。

1.アメリカの金融政策正常化の新興国等への影響

アメリカのFRBは15年9、10月には利上げを見送ったものの、近い将来の利上げが適切という見方を保持している。

アメリカの金融政策正常化は、アメリカ経済と新興国経済に大きな影響を及ぼすおそれがある。

アメリカ国内への影響としては、金利上昇や内外金利格差拡大からドルが増価すれば、アメリカ国内の企業活動が抑制されることが懸念される。また、想定以上に金利が上昇する場合には企業や住宅市場がマイナスの影響を受ける可能性もある。アメリカ経済は15年11月現在世界の景気のけん引役を担っており、アメリカの景気の減速はそのまま世界経済の減速にもつながる可能性がある。

また、利上げ実施に伴い、新興国経済から資金が流出し、実体経済に影響をもたらすおそれがある。これまでのアメリカのゼロ金利政策下で、投資家はより高金利を求めて新興国へ資金を配分していたが、その資金の流れが逆向きとなり、こうした動きが新興国の実体経済にも影響する可能性がある。IMFや世界銀行は、新興国における13年5月のバーナンキショックに起因する資金流出を踏まえ、新興国に対して再三注意喚起を行っている。新興国の中には、政治リスクや地政学的リスク等の各国固有のリスクを抱えているところもあり、経済のファンダメンタルズ以外の要素についても注視する必要がある。

2.中国経済を含む新興国経済の先行き

中国経済の緩やかな減速は、中国への輸出に依存する新興国等の経済の減速にもつながっている。中国経済が安定的な成長軌道に乗ることができずに一段と減速した場合には、これらの国や地域を中心に経済へのマイナスの影響が更に大きくなることが予想され、世界経済への下押し圧力が一層強まるおそれがある。

また、中国の減速により原油を始めとする商品市況が弱含んだ状態が続いた場合、中東諸国等一次産品の輸出に依存する経済へのマイナスの影響が続くことになる。

3.地政学的リスク

地政学的リスクは原油価格下落の影響と相まって、世界経済に影響を与えるおそれがある。

まず、中東においては、シリア内戦やイスラム過激派組織ISILの動き等をめぐるリスクが指摘できる。後者に関しては、11月13日にはフランス・パリで同時多発テロ事件が発生し、欧米諸国に対する更なる攻撃の可能性も指摘されるなど、緊張が高まっている。中東諸国では、原油価格の下落によって歳入が厳しい中、軍事費を削減できない状況にあり、財政収支が悪化する見込みとなっている。これらの国はドルペッグ制度を採っているが、切下げ圧力が高まっていることから、外貨準備が減少している国もある。フランス国内では厳戒態勢が敷かれており、これが長引けば経済面への影響が拡大するおそれがある。

また、イランの核開発問題をめぐる欧米諸国の経済制裁は、15年10月18日にP5+1(国連安全保障理事会常任理事国+ドイツ)の核開発に関する合意文書が正式に発効したため、制裁解除に向けた動きが開始されている。イランの原油が国際市場に復帰することが確実な情勢になる中、12月のOPEC総会においてOPECの生産目標は合意に達せず過剰供給が継続する見込みとなっている。

一方、ウクライナ情勢に端を発するロシアに対する欧米の経済制裁は、6月の欧州連合外相理事会で16年1月末まで延長することが決定された。紛争の影響が長引く中、ロシア及びウクライナでは景気が著しく悪化している。

15年11月時点では、これらの地政学的リスクが主材料となって原油価格やVIX指数に影響を与えている状況ではないものの、リスクが顕在化する要素は常に存在することから、今後もこれらのリスクの動向には注視が必要である。

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